18話 「古代遺跡 ユイヒヒ」
なんだか、この世界の建造物とは少し違う、どこか懐かしさを感じる造りだった。
(やっぱり、転生者とかが作ったのか……?)
しばらく廊下を歩いていると、いくつもの部屋が並んでいた。
俺はそのうちの一つを覗いてみる。
「ここはなんの部屋だ?」
中にはベッドや机などが置かれていた。
(個人部屋か?)
俺たちは部屋を後にし、再び廊下を歩き始めた。
やがて、三つに道が分かれた十字路へとたどり着く。
「どうします?」
レオンが最初に口を開いた。
「三チームに分かれて調査しましょう」
「うん、それがいいと思う!」
エレミアも賛成する。
「では、組み合わせを決めましょう」
レオンは少し考えたあと、皆を見回した。
「土地勘のあるエレミアさんには案内役をお願いしたいところですが、一人しかいません。ですので、一番戦闘力の高いユウキさんと組んでもらいましょう」
「俺?」
「万が一、変異体と遭遇しても、その組み合わせなら十分対応できます」
「確かに、それが一番安心だね!」
エレミアは元気よく頷いた。
「じゃあ、私はユウキと行くね!」
「了解」
「では、私はミアさんと正面を。カイルは左をお願いします」
「はいよ」
こうして、俺とエレミア、レオンとミア、そしてカイルの三組に分かれて調査を始めた。グムとデュラは俺と一緒だ。
俺たちは右の通路を歩き始める。
(二人きりになったら気まずいかと思ったけど……)
そんな心配は、歩き始めて数秒で消えた。
「私ね、遺跡が大好きなの!」
「いきなりだな」
「だって面白いんだもん! 遺跡って全部違うんだよ!」
エレミアは楽しそうに辺りを見回した。
「壁の模様も違うし、造りも違うし、同じ遺跡なんて一つもないの!」
(始まった……)
「じゃあ、この遺跡は何がそんなにすごいんだ?」
そう聞いた瞬間、エレミアの目がぱっと輝いた。
「待ってました!」
勢いよく壁へ駆け寄る。
「まず、この壁!」
そう言って壁を軽く叩いた。
コンコン――。
石とは少し違う、澄んだ音が遺跡に響く。
「普通の遺跡は石とか木で造られてることが多いんだけど、この遺跡は何かの鉱石でできてるって言われてるの!」
「へぇ……石じゃねぇのか」
「しかもね!」
まだ終わらない。
「誰が造ったのかも、何のために造ったのかも、今でも全然分かってないんだよ!」
「お前、ここ初めて来たんだよな?」
「うん!」
「……なんでそんな詳しいんだ?」
エレミアは胸を張って笑った。
「そりゃあ、私、遺跡オタクだもん!」
その一言に迷いはなかった。
「このユイヒヒ遺跡は有名だから、調査記録も本も全部読んだし、昔の研究資料も集めたんだ!」
「本当はもっと早く来たかったんだけど、危険だから入れなくてさ……」
少しだけ寂しそうに笑う。
だが、すぐに満面の笑みに戻った。
「だから今、すっごく楽しい!」
(……目まで輝いてるじゃねぇか。)
ここまで嬉しそうな顔をされると、なんだかこっちまで笑えてくる。
「本当に遺跡が好きなんだな」
「うん!大好き!」
そんな話をしていると、一つの部屋の扉が目に入った。
「ここ、入ってみるか?」
「うん!」
扉を開けると、広い部屋に長机と椅子が規則正しく並んでいた。
壁際には食器棚らしきものがあり、床には皿やコップが散乱している。
「食堂……かな」
俺は床に転がる皿を拾い上げた。
「昔はここでみんな食事してたんだろうな」
エレミアは静かに部屋を見渡す。
「こんなに立派な施設だったのに、今は誰もいないなんて……」
静まり返った食堂には、俺たちの足音だけが響いていた。
一通り見回したが、手掛かりになりそうなものは見当たらない。
「何もなさそうだな」
「うん。次に行こっか」
俺たちは食堂を後にし、再び廊下を歩き始めた。
「生活してた跡ばっかりだな」
「うーん。昔は居住施設だった可能性は高いと思うよ」
「だよな」
(……にしても、昔の人はなんでこんな高度な施設を造れたんだよ)
しばらく歩いていると、廊下の突き当たりまで来た。
「こっちはここまでみたいだね」
「そうだな。じゃあ、一旦さっきの十字路まで戻るか」
「うん!」
俺たちは来た道を引き返した。
その途中──
突然、グムが俺の肩から飛び降りた。
「お、おい?」
グムは何も答えず、何もない壁の前で立ち止まる。
「……なるほど。そうか」
小さく呟くと、壁へゆっくり近づき、表面を隅々まで観察し始めた。
「おい、グム。どうした? 早く戻るぞ」
俺が声をかけても返事はない。
まるで何かを確かめるように、壁を見つめ続けている。
「なんかあるの?」
エレミアが不思議そうに尋ねる。
すると、グムはようやく口を開いた。
「エレミア」
「ん?」
「ペンダントを持ってないか?」
「え?ペンダント?」
エレミアは首を傾げた。
「あるにはあるけど……それがどうしたの?」
「貸してくれ」
短く言うグム。
「べ、別にいいけど……」
エレミアは首に掛けていたペンダントを外し、グムへ手渡した。
グムはそれを受け取ると、壁と見比べるように眺める。
「……これがここか」
誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
そして、壁に向かって何かをし始める。
「何してるんだろうね」
エレミアが小声で呟く。
「さあな」
俺は肩をすくめた。
「あいつ、たまに急にわけ分かんねぇこと始めるんだよ」
それでもグムは俺たちには目もくれず、壁へと意識を向け続けていた。
その時──突然、壁が眩い光を放ち始めた。
「うわっ、眩しい!」
思わず目を覆う。
「なんだ!?何が起こった!?」
「な、何も見えないよ!ユウキ!」
エレミアの慌てた声が聞こえる。光はさらに強くなり、辺り一面を真っ白に染め上げた。
しばらくして、ようやく光が収まった。
「……なんだ?」
あまりの眩しさに、まだ視界はぼやけている。
(あのリス、何しやがった……)
何度か瞬きをすると、少しずつ視界が戻ってきた。
「ユウキ!見てよ!これは大発見だよ!」
エレミアの興奮した声が響く。
「大発見?何だそれ」
さらに視界がはっきりしてくる。そして完全に見えるようになった瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
「……マジかよ」
さっきまで壁だった場所には、奥へと続く通路が現れていた。
「なんだ……ここ」
「よし、やっぱりここに隠し扉があったか」
「すごい!隠し扉自体は珍しくないけど、私のペンダントが鍵になってたなんて!」
通路の奥は真っ暗で、何があるのかまったく分からない。
(……嫌な予感しかしない。)
ここだけ、他の部屋とは空気が違う気がした。
「ユウキ!行こう!」
「う、うん」
(なんでそんなに迷いなく行けるんだよ……)
俺はグムを肩に乗せ直し、エレミアの後を追って隠し通路へ足を踏み入れた。
「この先には何があるかな?財宝かな?それとも、この遺跡の重要な資料が眠ってたりして!」
(本当に遺跡が好きなんだな……。それに比べて俺は、この雰囲気がどうにも苦手だ。まるでお化け屋敷に入ってるみたいじゃねぇか。)
ポチャッ……ポチャッ……
静まり返った通路に、水滴の音だけが響く。
「水漏れしてるね」
「他の部屋じゃ、こんな音しなかったのにな……」
しばらく進むと、暗闇の奥に一枚の扉がぼんやりと姿を現した。
「部屋だね!入ろう!」
「ちょっと待てよ。中に魔物がいるかもしれないだろ?」
俺は入りたくなさすぎて、なんとか時間を稼ごうとする。
「大丈夫だよ!ここは隠し部屋だし!」
(その『大丈夫だよ!』が一番信用できねぇんだよ……)
「ほら、行くよ!」
エレミアは俺の腕を掴むと、そのまま扉を開けた。
「お、おい!」
俺は半ば引きずられるように部屋の中へ入る。
部屋の中は薄暗く、松明の明かりが届く範囲しか見えない。壁どころか、部屋の広さすら分からなかった。
「慎重に進んだ方がいいな……」
「うん。何があるか分からないもんね」
俺たちは慎重に部屋の中を調べ始めた。
部屋の中央まで進むと、大きな机が置かれていた。机の上には資料らしき紙や、見たことのない器具が並べられている。
(研究室みたいだな……)
思っていた以上に部屋は広かった。
「ユウキ、これなんだろ?」
エレミアに呼ばれ、俺は振り返る。
「どれのことだ?暗くて見えづらい」
「この台!」
エレミアが指差した先を見ると、部屋の奥には同じ形の台が何台も並んでいた。その上には照明のような物や、机の上にあったものと似た器具が置かれている。
すると、それまで黙っていたグムが口を開いた。
「……ここは手術室みたいだな」
俺も同じことを考えていた。
だが、エレミアだけは首を傾げた。
「手術室?それって何?」
「怪我をした人や病気の人を治療する場所だ」
「へぇ!そうなんだ!勉強になった!」
エレミアは興味津々に部屋の中を見回し始めた。
だが、俺はどうにも落ち着かなかった。
治療をする場所なら、こんなにも嫌な空気が漂っているのはおかしい。
(……なんだ。この嫌な感じ)
胸騒ぎがして、俺はゆっくりと松明を壁へ向けた。
──その瞬間だった。
壁一面には、治療だけでは到底説明のつかないほどの血がべっとりとこびりついていた。
「おい、グム、これ見ろよ」
俺は震えた声で言った。
「……何だ?」
グムは俺が見つめる先へ目を向けた。
「こ、これって……血か?」
「たぶんな」
「こんな量の血が、何でこんなところに……」
すると、エレミアがこちらへ戻ってきた。
「どうしたの?」
エレミアも俺たちの視線を追うように壁へ目を向けた。
「え……ち、血?しかも、こんなに……」
さっきまでの明るい表情は消え、その声は小さく震えていた。
嫌な予感しかしない。
ここはすぐにレオンたちと合流した方がいい。
「おい、エレミア、グム。一旦戻るぞ!」
「え?なんで?」
「俺も戻った方がいいと思う」
珍しくグムも賛成した。
「……う、うん」
「持てそうな資料だけ持っていこう。後で調べられるかもしれない」
「わかった!」
俺たちは急いで机の上にあった資料をかき集め、部屋を出ようとした。
その時──
「……何かが、こっちに来る」
グムが小さく呟いた。




