13話 「目的」
「それでは聞こう。伊澤祐樹、君は──"転生者"か?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、心臓が飛び出るかと思うほどびっくりした。
ユウキの額に冷や汗が流れる。
「な、なんのことですか?」
「とぼけても意味はないぞ。お前のことは調べていたからな」
(くそ、どうすれば…)
「転生者ってなんですか?」
「知っているだろ」
「私は元からこの世界にいました」
「確かにそうだな。私の調べではお前の故郷はニーヨクーユだったな」
ニーヨクーユ?どこだそこ。俺は本当は日本出身だぞ。このおっさん何いってんだ?
「そして、名前はエレボス・アポトスだったな」
(いや、誰やねぇぇぇん!)
普通に人違いだろ。このボケ老人が。
「私はユウキ・イザワです。エレボス・アポトスとは誰ですか?」
「知っている。そしてエレボスはお前の本当の名前だろ?」
(はい、ざんねぇん。本当にユウキ・イザワでーす)
「面白いことを言いますねグレイヴァスさん」
「俺はふざけてなどいない。それに、お前さっき『元からこの世界にいた』と言っていたな」
「は、はい」
(だからってなんだよ)
「この世界の者であれば転生と聞いても何もわからないはずだが、他の世界を知っているような言い方だったな」
(な、なに!?)
俺の気づかないボロに気づきやがった。
「安心しろ。お前が転生者だとしても、誰にも言わないし、俺は味方だ」
(本当に信じていいのか?)
ユウキは迷った。今、ここで自白するべきか言い逃れを続けるのか。ユウキは意を決した。
「ほ、本当なんですね?」
「あぁ。約束しよう。俺はそう簡単に約束は破らない」
ユウキは一呼吸置いてから話し始めた。
「はい。グレイヴァスさんの言う通り俺は異世界からきました」
グレイヴァスはじっとこっちを見つめてくる。その視線に俺は押されていた。
「やはり、そうか。お前も転生者だったか」
「お前"も"ですか?他に誰かいるんですか?」
グレイヴァスは動揺するような素振りは全く見せなかった。
「そうだ」
「誰ですか?」
やっぱり俺と仲間の奴がいたのか。これは嬉しい…のか?
「──俺だ」
「あぁ、グレイヴァスさんでしたか…」
って、あれ?このおっさんが俺と同じ転生者?うそだろ?
「しかし、俺とお前は転生のタイプが違うようだ」
「タイプですか?」
「そうだ。私は知的型魔物として人生が一から始まったが、お前は最初からその見た目なのだろ?」
「はい」
転生ではないってことは転移か。てことは、もちろん顔は変わってないわけだ。くそが。
「転移ですか?」
「俺もはじめはそう思った。しかし、転移は死んだ体ごと、こっちの世界に来るはずだ。だが、お前は…明らかに日本人ではない」
うん?どういうことだ?転生でも転移でもないって…じゃあ俺はなんなんだよ。それに顔が日本人ではないだと?日本の時はザ・日本人って顔だったのに…
「そこで、俺はお前のことが気になり調べた。すると、1ヶ月前に行方不明になっていたエレボス・アポトスという一人の青年とお前の顔が全く同じだった」
「え?でも、俺はそいつのことなんも知りませんよ?」
「もしかしたら、お前はエレボスに憑依したのかもしれん」
てことは、俺は別の人の体に入り込んでしまったってこと?まじかよ。今の体は俺のではなくてエレボスっていうやつの体なのか…。
「俺も限界まで調べたが、エレボスの出身地しかわからなかった」
「そうですか」
「これのことは秘密にしろよ」
「もちろんです。あ、そういえばグレイヴァスさんの本名はなんですか?」
ま、どうせ知らんと思うけど一応聞いといたろ。
「俺は河西雄郎だ」
うん?なんか、どっかで聞いたことがあるような…。
まさか、
「河西雄郎ってあの、河西グループの創設者ですか?」
「まあ、そうだ。河西グループはデカくなったのか?」
「はい、今では大企業ですよ。それに、僕の父がそこで働いてるんです」
「おおそうなのか!」
その後、俺と河西さんは日本の話で盛り上がった。
──30分後。
ユウキはフラフラになりながらグレイヴァスの部屋を出た。
(盛り上がった勢いで酒をめっちゃ飲まされた…気持ち悪い…)
ユウキは自分の部屋に戻るために階段を降りて2階に来た。ユウキは朧げながら覚えている部屋の場所まできた。
(確か、ここだったよな…)
俺は思いっきりドアをバンッと開けた。すると、中にいた女性と目が合う。酒で酔っていてよく、見えない。
(やべ、誰かの部屋に入っちまった…)
──キャァ!変態!
身覚えるのある声と共に何度も食らったことがあるような平手打ちが飛んできた。
俺はすぐ、高校生活や父を見て習った高速土下座をした。
「すいません!自分の部屋と間違えました!」
?「なに?酔ってんの?」
「はい、少しお酒を嗜んできました」
?「てか、早くドアを閉めてよ、こんな姿あんたに見られただけで恥ずかしいのに、他の人に見られたらどうすんのよ」
「はい、失礼しました」
ユウキは部屋から出て行こうとした。
?「ちょっと、待って。あんたは部屋に入って」
「え?いいんですか?」
?「今、着替えるから後ろ向いてて、振り向いたらどうなるかわかってんのよね?」
「はい、わかりました!」
?「本当かしら」
──もう、振り向いてもいいよ、ユウキ。
ユウキは振り向いた。
あれ?なんで俺の名前を知ってんだ?
すると、だんだんぼやけていた視界が戻ってきた。そこにいたのは──ミアだった。そう、ユウキが間違えて入った部屋はミアの部屋だったのだ。
そして、ミアは寝巻き姿になっていた。
(まてよ、さっき言ってた恥ずかしい格好っていうのは…)
やばい、色んな想像ができる。てか、パジャマ姿も可愛いな。
「な、なによ?そんな見つめて」
「いや、ミアだったのかと思って」
「今まで、私ってこと気づいてなかったの?」
「うん」
ミアは少し寂しそうな顔をした。
「そ、そう」
あれ?怒らないのか?珍しいな。逆に怖い。ミアが嬉しがることをしなきゃ、機嫌がもっと悪くなるかもしれん。
「もう、帰っていいよ」
(考えろ俺。これは帰って欲しいのか本当は帰って欲しくないのかを。間違えれば死だ)
……分からん。正直、全然分からん。でもここで帰ったら絶対後悔する気がする。しかも、いつものミアなら本当に帰って欲しい時はもっと高圧的に言ってくるはずだ。ってことは、これは、本当は帰って欲しくないということか?
賭けに出るしかない。もちろん、言葉選びも大切だ。
「もう少し、ここにいてもいいか?」
「なんでよ」
ミスったか?しかし、もう後戻りはできない。なんとか、繋ぐしかない。
「いや、なんかミアといると落ち着くからさ」
「そ、そう?じゃあ少しならいいよ」
「ありがとう」
(耐えたああああああああ)
ふぅ。ま、こんなもんよ。
ミアはユウキには聞こえないぐらいの小声で言った。
「別に少しじゃなくてもいいけどね…」
──
「今、なんか言ったか?」
「い、いやなんでもない。ここじゃなんだし中に来てもいいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
(うひょぉぉぉ、女の子の部屋に入れる日が来るとは…。昔なら絶対そんなことはできなかっただろう)
俺とミアはベッドに腰掛けた。
「さっき、グレイヴァスさんと何を話してたの?」
俺は少し真剣な顔をした。
「昔の話だよ」
「昔っていつよ」
「昔は昔だ」
「何よそれ」
流石に、グレイヴァスと話したことはミアには言えない。
「まあ、いいや」
俺はミアを見ているとスライムと戦う前にミアが言おうとしていたことをふと思い出した。
「そういえば、スライムに襲われる前になんて言おうとしてたんだ?」
ミアは顔が赤くなった。少し、動揺したような素振りをした。
「えっとね、あの時は…やっぱなんでもないや」
「いや、気になるだろ早くいえよ」
「そ、そんなに知りたい?」
「当たり前だろ。スライムの時もよくわからなかったし」
ミアは髪を触りながら、何かを決意したような顔をした。
「あのね、私ね…」
「zzzz…」
「え?寝てんの?お、起きてよぉ。なんでいつも──」
ユウキは全く起きることはなかった。
──翌日。
(う、頭いてぇ。昨日はグレイヴァスと飲み過ぎた。あと、なんかその後になにかしてしまったような…)
「やっと、起きたのか。起きなさすぎて死んだかと思ったわ」
「朝からうるせぇぞ、クソリス」
「そういえば、昨日ミアとなんかあったのか?」
「え?俺、なんかしたのか?」
「いや、お前昨日の夜にミアとレオンがお前を運んでこの部屋に来てくれたんだ」
「運ばれた?」
俺はどこで寝たんだ?
「お前、昨日のことなんも覚えてないのか?」
「う、うん」
「おい、それミアに言ったら殺されるところだったぞ」
「なんで殺されねぇといけないんだよ」
「だって、お前昨日はミアのベッドで寝落ちしてたらしいじゃねえか。本当に覚えてないのか?」
俺が?ミアのベッドで?
俺は冷や汗が止まらなかった。
(やばい、酔った勢いでミアに何かしてたらどうしよう…)
何かやってしまったなら俺の第二の人生、ジ・エンドだ。よし、今すぐに謝りに行こう。やってしまってたらもう言い逃れはできない。今は謝りに行くのが最善の手だ。
「グム、ミアがどこにいるかわかるか?」
「多分、もうすぐ朝食の時間だから食堂にいると思うぞ」
「わかった」
俺は爆速で着替え、爆速で身支度をし、爆速で食堂に向かって行った。
食堂に入ると俺とグムとデュラ以外は揃っていた。
グムを肩から下ろし、デュラに席に着くように促した。
なんだか、ミアがこちらを睨んでいるようにも感じる。
(やっぱり、俺は何かしてしまったのかぁ?)
俺は意を決してミアの席に近づいた。
まだ、ここの当主であるグレイヴァスは来ていない。
「ミア、昨夜のことなんだが」
「別に、いいよ。大したことはなかったし」
少し、怒っているようにも感じる。でも、俺は特に大したことはしてないようだった。俺はほっと胸を撫で下ろした。
「でも、今度私のを見た分、何かしてもらうからね?」
え?私のってなんだ?俺はやっぱり何かしていたのか?まずい、大したことないって言ったのはこの場だったからか?わからん。まじでわからん。
「ねえ、いいよね?」
「あ、あぁ。もちろんだ」
すると、
──ガチャ。
グレイヴァスが入ってきたようだ。俺はグレイヴァスの方を見た。すると、なんだか体調が悪そうに見えた。これは明らかに昨日飲みすぎて二日酔いになってやがる。
(いや、英雄でも二日酔いするんかああああああああい)
そのあと、グレイヴァスは気持ち悪そうにしながらも朝食を食べた。予定していた俺らパーティーとグレイヴァスとの話し合いは少し時間が遅くなった。
グレイヴァスの目的はなんなんだろうか──。




