12話 「ロイシュタイン・グレイヴァス」
馬車に乗ってから数分が経った。
──すると前には大きな屋敷が見えてきた。
(まさか、ここじゃねぇだろうな…)
外は日が沈み、灯りをつけなければ周りが見えないぐらいになっていた。そして、屋敷の門の前でゆっくりと馬車が止まった。
(やっぱり、ここだったか…)
俺らは馬車から降りた。
「それでは案内いたします」
俺らは執事について歩き始める。…にしてもでかい屋敷だ。東京ドームが屋敷だけで1個分ぐらいはありそうだ。敷地も入れたら4個分ぐらいになるかもしれん。
ここに、ギルドのトップ──ロイシュタイン・グレイヴァスがいるのか。
(…一体どんなやつなんだ?)
門から続く道の先には屋敷の巨大な扉がある。そこには重厚な鎧を身に纏った衛兵が二人扉の前に立っている。剣を地面に突き立てて、両手を添えている。衛兵は執事を見るなり敬礼をし、巨大な扉を重々しい音を立てながら、ゆっくりと開けた。
──ギィィィィィィ………。
巨大な扉の向こうに広がっていたのは、家というよりも王や貴族が暮らす城のような豪華な空間だった。
「す、すげぇ」
思わず声に出てしまった。
「本日はもう日が沈んでおります。よろしければ、今夜は当屋敷にご宿泊ください。」
「え?いいんですか?」
今日はまだ宿を取ってないし、こんな豪華なところに泊まれるなら泊まりたい。
「はい。グレイヴァス様が泊めていけとおっしゃっていましたから」
「それなら、仕方がない。ギルドのトップの人には逆らえません」
「それでは、今日はグレイヴァス邸で御ゆっくりお過ごし下さい」
(よっしゃぁぁぁ!一度は豪邸に住みたいと思ってたんだよ)
「おい、ユウキ別に住むわけじゃないからな」
「わ、分かっとるわ」
(グムはいつも心を読まれているみたいだ…)
「それでは、こちらに」
「どこに行くんですか?」
「ご夕食を用意しております」
俺たちは驚いた。
「え?そこまでしてもらっていいんですか?」
「はい。グレイヴァス様のご意向です」
「ありがとうございます」
(グレイヴァス様って、案外いいやつなのか?)
俺らは執事の後を歩いて行った。だんだんといい匂いが漂ってきた。少し、いやめっちゃ楽しみになってきた。大東森では携帯食料で全然美味しくなかったから、ご馳走に久しぶりにありつける。自然とよだれが出てくる。
「ユウキ、よだれ出てるわよ。全くだらしないわね」
「仕方ないだろ?俺らは最近美味しいものを食べてないんだから」
「そうだけど…」
それにしても広い。逆に不便だろ。なんで、お偉いさんはバカでかい家に住みたがるんだか…。
しばらく歩いていると、執事が扉の前で歩くのをやめた。
「こちらが食事処です。」
扉が開かれた。途端に料理のいい匂いが漂ってきた。
真ん中には縦に長いテーブルがある。個人的に貴族とかが使ってそうなテーブルランキング第一位のテーブルだ。ま、それぐらいよく見るってことだ。明らかにグレイヴァス様が座りそうなでかい椅子が縦長のテーブルの先端にある。そして、テーブルの上には豪華な料理が並べてある。
「お好きな席にどうぞ」
ここで俺はあえてグレイヴァス様の席に座る…はずはなく、その席から一番近い席に腰を下ろした。俺の隣にはミアが座り、正面にはレオンが座った。レオンの隣にはカイルが席についた。…一方でデュラは席には付かず、下で竜の餌皿が出された。グムはというと、デュラと同じでリス用の餌皿が出されてた。
「おい!俺は知…」
俺は急いでグムの口を手で塞いだ。
「すいません、うちのペットのリスが。たまに人間語を喋る時があるんですよ」
「そ、そうですか。そんなリスもいるんですね」
「そうなんですよぉ」
グムの餌をくれたお姉さんはどこかに行ってしまった。
──ガブッ。
「いってぇな。何すんだこのクソリス!」
「俺はただのリスじゃない!」
「はいはい」
「ふざけんな!」
あー、やめろよな。これでグレイヴァス様とかいう奴が機嫌損ねたらどうすんだよ。
すると、
──バンッ。という音と共に屈強な男が現れた。
一斉に執事は頭を下げ、近衛兵がビシッと敬礼をした。
こいつがロイシュタイン・グレイヴァスか。
見た目は見上げるほどの巨躯だった。
古びた鎧をまとい、その上から深緑のマントを羽織っている。歳月を感じさせる白銀の髪。深く刻まれた皺。そして頬には、一目で只者ではないとわかる古い傷跡が残っていた。
だが、何よりも目を引いたのは、その瞳だった。
人間離れした黄金の瞳が、静かにこちらを見据えている。
──ヒトじゃない。
それだけは、直感でわかった。
グレイヴァスが席に着いた。威厳がすごい。この場にいるだけで緊張が走る。
(…こんな中じゃ、ご飯を美味しくたべられねぇよ)
すると、グレイヴァスが口を開いた。
「ユウキ・イザワたちよ。よくぞここまできてくれた」
見た目からも予想できるような重低音な声だ。
「改めて自己紹介をしよう」
「お、お願いします」
できるだけ機嫌を損ねないように慎重に対応する必要がある。
「私の名はロイシュタイン・グレイヴァス」
「はい、存じ上げております」
「現ギルド長であり、現街長だ。あと、一応六代英雄でもある」
(このおっさんすげぇ)
二つもトップやってんのかよ。てか、六代英雄ってなんだ?
俺はミアに小声で聞いた。
「六代英雄ってなんだ?」
「昔、すごいことをした六人の英雄たちのことよ」
「すごいこと?」
昔ってことはなんか戦争みたいなのがあったのか?
「それではそちらも自己紹介をしてくれ」
「わかりました。では、うちのパーティーのリーダーであるレオンにやってもらいましょう」
「え?私?」
グレイヴァスはレオンの方を見る。
レオンは息を整えてから口を開いた。
「私はこのパーティーのリーダー、レオン・グラディスです。職業は剣士です」
「なるほどな。じゃあ次は…隣のやつ」
グレイヴァスにカイルが指名された。
「俺はカイル・ヴァルド。戦士だ」
「そうか」
「じゃあ、次は私がやります」
「それじゃあ、頼むよ」
「はい、私はミア・フェルナ。補助的魔術士で主に回復担当をしてます」
流石にミアはここでは敬語を使うのか。次は俺かな。
「次は…そこのリスを頼む」
次はグムか。なんで俺より先にこいつなんだよ。
「あ?俺か?俺はな…」
ペチンッ。俺はグムにデコピンをした。
「敬語を使えバカリス」
「いってぇ。分かったよ使えばいいんだろ?」
「分かったなら早くしろ」
なんか、グレイヴァスがこっちを睨んでいるようにも感じる。
「えーと、俺は知的型魔物のグムです。パーティーでは主に情報伝達役です」
「じゃあ、次はそこのデュゴンの幼体だ」
デュラはこっちを向く。一言「キュルッ?」っと言った。
「あ、こいつは喋れないんで俺が代わりに言います」
「そうか、では頼んだ」
「名前はデュラ。パーティーでは主に火力を補ってもらってます」
「どこで、このデュゴンを手に入れたんだ?」
なんでそんなこと聞くんだ?まさか、デュラって危ないやつなのか?
「デュラはユウキがパーティーに入る前に私たちが森に落ちていたデュラの卵を拾ったんです」
「どこの森だ」
「南魔森です」
グレイヴァスは深刻な顔をした。
「デュレウス樹海ではないのか」
(デュレウス樹海ってなんだ?)
名前からして、森なのはわかる。
「それって、どんな森なんですか?」
「かなり危険な森だ。デュゴンの住処だ」
デュゴンの住処ってことは、デュラよりも強い竜がたくさんいるってことか。かなり、危ないな。
「南魔森で見つけたということは、誰かが落としたかあるいは"わざと"落としたかだな」
わざとって、誰がそんなことをするんだよ。第一、やる目的はなんだよ。
「"わざと"?ってどういうことですか?」
「誰かが意図的に卵を落として誰かに拾わせる、もしくは自然に孵化させるかだ」
「でも、なんでそんなことをする必要が?」
「わからん。ただ、いいことではない」
ギルドのトップでもわからんのか。謎は深まるばかりだ。
「まあ、今考えても仕方ない。最後は頼んだ」
「はい、えーと私は…」
「そんな堅くなるな」
「はい、すいません。では、いつも通りでいきます」
俺は息を大きく吸い込んだ。
「俺の名はユウキ・イザワ!世界、最高最強のウルトラハイパーイケメンだっ!」
…………………。
(ヤッベェ。いつものでやったらみんなとの温度差がっ!)
「お、おうよろしくな、世界最高最強ウルトラハイパーイケメンのユウキよ」
(人に言われると恥ずかしいいいいいいいいいいい)
ミアが小声で言った。
「あんた、ばかね」
これには反論できん。
「それでは、食事が冷めないうちに頂こう」
「そうですね」
ミアとデュラ以外は手を合わせてご飯を食べ始めた。レオンは宗教的なこともあり、神に祈りを捧げる感じで食べ始めた。他の人は昔の時みたいに手を合わせて食べ始めた。
「美味しいですね!」
「そうだろ、ここの料理人は俺の厳選した者しかいないからな」
このオッサン意外といいやつかもしれん。俺はグレイヴァスに聞きたいことがあった、
「グレイヴァス…様、聞きたいことが…」
「様呼びはやめろ」
「す、すいません。では、グレイヴァスさん、質問があるんですけどぉ」
「食事の後にしよう」
「わかりました」
俺らは久しぶりのご馳走に手が止まらなくなり、みんなガツガツと食べた。
数分で全ての料理がなくなった。
「美味しかったか?」
「はい!とても美味しかったです」
「それは良かった。皆は部屋でくつろいでくれ。明日、詳しいことを話す」
「わかりました」
どんな部屋なんだろうなぁ。楽しみだ。俺は案内された自分の部屋に向かおうとすると、グレイヴァスが近づいてきた。
「話がある。後で俺の部屋に来い」
「は、部屋ですか?どこにあるんですか?」
「ミハルに案内をさせる」
ミハルとはあの女執事らしい。
「わ、わかりました」
さっき、俺が質問しようとしたからか?それとも別の理由が?まさか、グムの失礼な態度のこととかか?
その場合あのリスをソフトボール投げの勢いで投げてやる。
──「では、こちらへ」
俺はミハルの後についていった。食堂を出てすぐの階段を登った。5階まできた。昔なら息が苦しかったが今はへっちゃらだ。5階が最上階らしい。階段から右に行った。廊下にはたくさんの絵画や壁画、石像などが並んでいた。
(何かしらの戦争か?)
絵画や壁画には、一人に対して大勢で戦っている姿が描かれていた。
廊下の一番奥の扉の前で止まった。
「ここです」
「案内ありがとうございます」
「私はこれで。道はわかりましたね?」
「はい。大丈夫です」
「それでは」
ミハルは颯爽といなくなった。俺は一呼吸置いてから扉を開けた。
「待っていたぞ、伊澤祐樹よ」
「は、はい」
なんで、ユウキ・イザワじゃないんだ?
「俺に用ってなんですか?」
「私に質問があるんだろう?」
「はい」
「それと…私も君に質問がある」
なんだか嫌な予感がする。
「私から良いかな?」
「は、はい」
「それでは聞こう。伊澤祐樹、君は──"転生者"か?」




