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始まる戦い


ガゼルでは皆が今、バタバタと各々の支度をしていた。

これから始まる戦争の準備だ。


皆神妙な面持ちをして眉間に眉を寄せ、

武器や武装、スキルの再確認をしている。


爽斗、柚、朧は、まだ玲二のことで煮え切らない、複雑で悲しげな表情だ。


亜蘭の刺された傷は、治癒スキルも多少会得していた光が辛うじて直した。



「まさかアイツが影憑石を横流ししていたとはな……」


カイトがこれまでに無いほど顔を顰めてそう呟く。

アイツとは紛れもなく玲二のことだと誰もが理解していた。


今日ここで暴れていたたくさんの影は、

スパイである玲二がアダマスに流していたものだったらしい。

アダマスはそれを利用して、たくさんの影憑を兵器として生み出していたということだ。


彼らが戦争の予兆と称して放ったそれらは今日ここに居る皆でなんとか祓ったつもりだが……今後まだまだ放たれる可能性がある。


これから都内を中心に、

全国が攻撃対象となるだろう。


それを止めるのが、自分たちの任務だ。




「よいか。この先、もう二度と顔を見れない者がいるだろう。」



茂範のその言葉に、誰もが手を止めビクッと顔を上げた。一気に緊張感が高まる。



「脅かして悪いが、これは戦争だ。

これから間違いなく、仲間が、人間が、自分の周りから消えていく。

この先何が起きてもおかしくない。その時になって自分を見失うことのないよう、強固な精神を持て。そのために、今、なにもかもを想定しておけ。」



耳を塞ぎたくなるような残酷な台詞が

強い言葉と共に誰もの頭に響いた。


誰もが周りの仲間たちに視線を走らせている。


共に歩んできた仲間が、友達が、死ぬかもしれない。


今この時間が最後かもしれない。



各々が覚悟を決めたように握手をし始めた。

光にも、次々と仲間が来て、手を差し伸べてくる。


「お前なら大丈夫だ月詠。

もう俺より強いだろ?」


そう言って笑ったのは愁磨だった。

思い返せば彼は、一番最初に任務へ連れ出したくさんのことを教えてくれたエスパーだった。


光はグッと握手に力を込める。


「ありがとうございますっ……

必ずまた会いましょう」



「光くん」



次に手を差し出してきたのは亜蘭だった。



「俺の治癒……まだそこまで完璧じゃないかもしれないんで、油断しないでください」



「ありがとう。

これで今度こそ、アイツを殺れる。

必ず姫を取り戻す。」



今まで見た事のないくらい強い眼光でそう言う亜蘭の手を光は握り返す。



「君のくれたアイマスク……

本当に嬉しかったよ。

大切なことを思い出させてくれてありがとう」


最後にそう言って小さく笑った。




「光くん、私に何かあったら、カイトのことを頼む」


「えっ?!そんなっ!熙さんは絶対に死にません!」


熙は珍しく切なげな笑みを浮かべていた。



「光、生きてたら、また飲みに付き合ってあげてもいいよ」


どこか悲しげだが相変わらず美しい顔でそう言ってくれたのは朧だった。


「……うん!また亜蘭さんの店で!絶対ね!」




「光くん……」


両手で光の手を包み込んできたのは文殊遥。

今まで月詠さん呼びだったのに、いつの間にか変わっている。



「ありがとう。あの時……嬉しかったです」


「遥さん……あの時……?」


「誰よりも女の子らしい女の子って言ってくれて……」



遥はその可愛らしい眼差しで眉を下げて笑った。



「またどこかで会えたら……

言ってくれますか?可愛いって……」



まるでこれが最後かのように聞こえるその声色とその切なげな表情に、光は真剣な表情で両手で握り返した。



「何度でも言いますよ!

だって遥さんはっ……本当に可愛いから!」



性別が男だとか、

そんなこと関係ない。


光にとっては遥は本当に

どこからどう見ても可愛すぎる女の子だ。



「だからっ……遥さん!

絶対にまた会いましょう!」



うん!と笑顔になる遥の顔を目に焼きつける。




ほかのガゼルメンバー、カオル、カミラ、カイトのKトリオ3人とも、

椛、夏樹、遥、エメ子、モトキ、熙の大阪サラマンダー、

札幌ホーネットの時季、薬膳、

静岡ウリアルの龍太郎、マモ、

沖縄レイヴンの朝比奈、賢吾、


全員と握手を交わし、

最後にクマを抱えた志門が来た。


下唇を噛み、眉を寄せ、不安そうな顔をしている。

その様子を横目で見たクマがあからさまにため息を吐いた。


「んな辛気臭ぇツラしてんじゃねぇよガキ!」



クマの一喝に、志門はグッと奥歯を噛み締めて顔を上げる。



「……光に……生きててくれてありがとうって言われて……俺は……生きようと思えた」



光の目が見開かれる。

志門は覚悟を決めた目でしっかりと光を見上げている。



「俺は……絶対に負けない。

八朔を……取り戻すまで。」



志門の差し出した手を、コクッと強く頷いて握り返す。



「クマ……志門くんのこと、よろしくね」


「……フンっ!上等だ!」




ここからはそれぞれ単独行動だ。


誰もがそれぞれ、抱擁を交わしたり握手を交わしたりして各々の言葉を交わす。


全員の顔、声、そして想い出を、余すことなく覚えていられるように……。


これが最後なんてこと、

絶対にないことを祈りながら……。




「これより我々SPIは、全勢力を持って革命を阻止する。

人を守り、敵は容赦なく殺せ。よいな?」



「「「はい!」」」



それぞれが、事前に取り決めたエリアへと散っていく。


そんな中、茂範は光を呼び止めた。


光だけはまだ、茂範に持ち場を知らされていないのだ。


茂範は今までにないほど真剣な表情で、

光にある物を握らせた。



「コレって……」



それは以前見せてくれた、時空を越えられる時計だった。



「お前は今すぐ未来へ行け」



「えぇっ?!」



未来へ……?

今すぐ?!




「いいか?これは1人一往復しかできない。

光はワシが連れてきたが、これを手に持ったもののみカウントされるから、お前はまだ0カウントだ」



「そっか……だから茂さんは……」


未来にもう一度戻り、奥さんや娘さんたちとの平和な未来を期待しているから……

だからまだ戻れない、これが使えないんだ。


なぜなら……

ここの現代軸は未だ平和じゃないからだ。



「でも……未来で俺、何をしたら……」



「自分の母親を助けだせ」



目を見開く光の握っている時計に視線を落とす。



「おそらくアイツらは、これを使って未来へ行き、お前の母親を消そうとするだろう」



「なっ!どうしてっ」



「光、未来の変革者であるお前を産まれなくするためだ。」



「っ!!」



驚愕している光を

茂範は突然抱きしめた。



「すまない光……っ

無力な私を許してくれ」



「何言ってっ……茂さんは無力なんかじゃない!だって茂さんがこっちの世界に俺を連れてきてくれなかったら……何も始まらなかった!」



全てはこの1人の男からはじまった。


世界を救うために世界線をも越えてきた、

この鷲谷茂範という男だ。



「茂さんは充分変革を興したよ」



だから……



「だから今度は俺が、変革者になる番だ」





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