宣戦布告
光は颯と共に何度も敵襲を対処しながらも、なんとか茂範の元へと向かった。
すると茂範の周りには、もう既に幾人かのSPIメンバーが集まっていた。
そして目の前にはアダマスメンバーがズラリと並んでいる。
2つの組織が今まさに異様な空気の中で対峙していた。
誰の息遣いも聞こえない物々しい雰囲気。
アダマスの面々は仮面を取っていて、
その中にはパウリナや瞳子といった、光が一度会ったことのある顔もある。
中央には、千鶴環がこちらを妖しい笑みで見据えている。
こちら側に颯がいることを元々想定していたような笑みで目が合った。
そして……
「っ…!?」
ゆっくりと歩いてきてそこに加わった人物に驚愕しすぎて光は息を飲んだ。
それは……
「れ……いじ……さん……?」
そして隣には、見たことのある子がいた。
「あの子は……」
そうだ。あの時すれ違った、
八朔くんだ……
恐る恐る、爽斗と柚を見る。
ハッとする。
どう見ても、柚は泣きながら爽斗に支えられていて、爽斗は怒りと悔しさを込めたような表情で玲二を見ていた。
そのそばに居る朧は、絶望的な顔で目を伏せている。
3人とも、光が今まで見たことの無い表情と雰囲気だ。
「八朔っ!!!」
志門が叫んだ。
そこで確信してしまった。
あれは間違いなく瀬渡玲二で、
あれはやはり小鳥遊柚の弟なのだと。
玲二も八朔も、アダマスのマントを着ていて無表情だ。
「どうして……」
もう一つ気がついた。
スパイは雀さんだったんじゃない。
本当のスパイは……
玲二さんだったんだ……!
玲二さんが手引きしたから、こいつらは今日ここに入ってこれた……
一番信じられないような人が、
スパイだった。
その真実は誰もの心を大きく抉った。
誰もが憧れていた人。
どうしてなのかと疑問しか湧かない。
だってこちらには、恋人であるはずの柚だっているのに……
光は目を見開いたまま呼吸すらも苦しくなってきていた。
一体、何がどうなってる……!
「亜蘭さんっ!ダメですっ!」
突然の遥の声に皆がその方向を見る。
そこには、血を流しながら腹を押えている亜蘭と、それを支えるようにして眉をひそめている遥だった。
亜蘭のその様子に、サイメンバーは目を見開く。
「っ!お前はっ……!」
亜蘭は千鶴環の姿を発見すると凄い形相になり、
血を流しているにも関わらず凄まじいオーラを滾らせながら向かってきた。
「お前を……今度こそ殺す」
「ほう……」と千鶴が笑い、
亜蘭に負けないくらいのオーラをブワッと滾らせた。
誘惑の目を持つ男と忘却の目を持つ男が
今まさに対峙していた。
ビリビリと音がしそうなくらいの空気感。
今にも2人のスキルがぶつかり合う寸前だった、その時……
シュワッ
「今はやめておけ環」
突然の低い声。
その人物が現れた瞬間、全員の目が見開かれ、ゾクゾクっと今までに無いくらいの悪寒が身体中を震わせた。
中央に現れたのは、
アダマストップ、天艸亜斗里だった。
「本日を持って、我々アダマスは革命を始動する」
気味の悪いくらい落ち着いた声色で、ゆっくりとそう宣言した。
「そこで、お前たちに今、特別に選択肢を与える。
今日はそのために来た」
光は亜斗里と目が合い、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
どうにもこの人物と目を合わせると、異様な感覚に包まれる。
「アダマスの民として我々と真の平和を目指したい者は、今すぐ前へ出ろ」
その言葉に、誰もが息を飲んだ。
「一応お前たちSPIも優秀なエスパー集団だ。簡単に消してしまうのは惜しいし、私も心が痛む」
一秒……二秒……と沈黙が長く感じるほどに、誰もが微動だにしない。
光の頭の中で、この男が言っていた言葉が反芻していた。
"常に自分さえ良ければと傲慢になり、どこかの誰かが平和を叶えると信じて人任せにし、自分は好き勝手に日々を送るわりに平和がどうと謳いだす偽善者……それが大半の人間だ。誰も本気で平和なんて目指しちゃいないんだよ。"
「お前はどうだ、月詠光」
光の体がピクっと反応する。
" 真の平和というものは、たった一つの概念のみにまとめあげることにある。
つまり、徹底的なまでの他概念の排除、思想、理念の排除、外野の排除、偽善の排除。
同じ思想、同じ力、同じレベルの強き者のみで構成される世の中にして初めて真の平和が完成する。
これは世界に変革を起こさないと成しえない "
また亜斗里の話が脳裏に甦る。
光は眉を吊り上げ、グッと拳を握った。
そして思い切って口を開いた。
「優秀なエスパー以外は皆殺しにする……
そんなことが平和に繋がるとは、俺は到底思えない。
そんなの……ただ虐殺の歴史を作り、世界を混沌に貶めるだけだ!またいつか必ずどこかで争いを生む!」
どうしてそんなことも分からないんだというように強い眼光で真っ直ぐ見据えてくる光に、亜斗里は真剣な眼差しで見つめる。
そして光の周りを見ると、皆同じような表情をしていることに気付き、目を細めた。
全員が揺るがぬ意志を持っているように感じ、ハァとため息を吐く。
「お前のように利口な者はいないな。玲二」
「………。」
玲二はこくりと頷き、先程から無言の無表情を貫いている。
何を考えているのか全く分からない不気味さだ。
「我々の邪魔をする偽善者は徹底して排除する。
だからまぁせいぜい足掻いてみるといい。
幕は既に上がっているよ」
そう言いながらモヤがかかったように消える亜斗里。
他のアダマスたちも次々と消えていく。
そして玲二も、爽斗たちを無表情で見たあと消えていった。




