本当の裏切り者
はぁはぁと息を切らしている爽斗、柚の前には今、ようやく対処しきれたたくさんの影の残穢が残っている。
「なぁそれより玲二は?あいつどこいんだよ?お前と一緒じゃなかったのかよ柚!」
「そんな四六時中一緒にいるわけじゃないんだからわかんないよっ!さっきから電話も繋がらないしっ」
柚はスマホの呼び出し画面の玲二の笑顔を見ながら嫌な予感が止まらなかった。
「やっぱり何かに巻き込まれてっ……今動けない状態とか……どこかから出られないとかっ……け、怪我してっ、気失ってるとかっ……ど、どうしようっ……」
真っ青な顔をして涙目になる柚に、爽斗の顔は焦りつつも険しくなる。
「バカ!妙なこと言うなよ!あいつがそんなことなるわけねーだろ!」
「じゃあどうしてどこにもいないのよ?!なんで電話も繋がらないの?!」
シュッー!!
会話に気を取られていて2人にあたる寸前だった影の攻撃を突風で祓ったのは、突然出てきた風間朧だった。
「喧嘩してる場合じゃないですよ先輩たち!」
「朧くんっ!!!」
「朧っ!玲二に会わなかったか?!」
「なんだ2人も知らないのか……。実は僕、さっきまでアダマスの連中とやり合ってて、遥が傀儡たちと対応するからって僕を他に行かせてくれたんだ。
玲二先輩はてっきり二人と一緒だと思って捜して来たんだけど……」
でも玲二だけ居ない。
この2人も玲二を捜しているなんて……
電話も繋がらないし、嫌なことしか想像できない。
どこかで致命傷を負ってしまっているなら一刻も早く捜し出さないと……!
「とっ、とにかくほかの援護をしながら手分けして捜すぞ!」
爽斗の一声で3人とも散らばろうとした瞬間……
シュッー!!
「「「?!?!」」」
3人の頭上から音がしたかと思えば、現れたのは……
「玲二!!!」
「玲二先輩!」
「おっまえどこいたんだよ!」
しかし、トンっと着地した玲二は神妙な面持ちで別の方向に目線がある。
「……どういうつもりだ瀬渡玲二」
目の前の見知らぬ少年と見つめあっていた。
まだ幼いが、アダマスのマントを羽織り、目つきの威厳さは全く子供らしさを感じさせない。
玲二はこの少年が3人を頭上から潰そうと放ったスキルを弾いたようだ。
「……3人まとめてここで殺るのは得策ではないかと。」
玲二のその言葉に、3人は意味が全くわからず言葉が出ない。
「まさかそいつらに情を移したのではあるまいな」
「……まさか。他の特殊なエスパーたちも残っているし、それに……まだ鷲谷茂範もいる。」
「お……い……玲二?
さっきから一体何の話をしてんだよ?
つかこいつ誰だよ?」
爽斗の問いかけに玲二は無表情のまま黙っている。
その傍で、柚だけは目の前の少年を見て目を見開いていた。
「……は…っさく……」
「……柚?」
柚の声も身体も震えている。
「……八朔……っ……」
その名がかろうじて聞こえた爽斗も朧も、目を見開いて目の前の少年に視線を移す。
「おいまさか……柚……こいつが……」
「……柚先輩の……弟……?」
目の前の少年は先程から全く表情を変えることなく、冷静沈着な態度で佇んでいる。
「でも、柚先輩の弟って……っ」
SKJ潜入の際、助けられずに死んだはずじゃ……?
そこで気がついた。
それを言っていたのは、あくまで玲二だけだと。
玲二の話だけをただ皆、聞いたままの通りに信じていただけだと。
「っ……八朔っ……生きてたんだね!
私のことっ、分かる?!八朔っっ!」
「待て柚!闇雲に近寄るのは危険だ!」
駆け出そうとする柚の腕を、爽斗が急いで掴んだ。
「どいつもこいつも煩いな。
まぁせいぜい騒げるだけ騒いでおけ。
消えるのも時間の問題だ。行くぞ、玲二。」
八朔はマントを翻し、スっと一瞬で消えてしまった。
何が何だか分からず、3人は恐る恐る玲二を見る。
「玲二……先輩……?」
玲二は3人とは目を合わせず、ゆっくりと歩き出した。
「ま、待ってよ……玲二っ……」
柚は思うように声が発せられない自分に気がついた。
そのくらい、衝撃を受けている。
どんどんと離れていく後ろ姿。
ずっとずっと……いつも見てきた変わらない背中なはずなのに……
「な……んで……どうして……嘘だよね……?
ねぇっ……玲二……っ……」
何がどうなってるの……?
こんなこと……絶対絶対認めない……!
だって玲二は私の……皆の……憧れで……いつだってパーフェクトで、いつだって自分のことより周りのことを考えて……いつだって皆のことを思って行動してた……
そんな玲二が……アダマスだったなんて……
私は信じない……
「お願い玲二待ってっ……
なにか……なにか事情があるんでしょ?
私たちに言えない事情がっ……!」
「おい柚待て!!」
止めようとする爽斗を振り払って、柚は一目散に駆け出す。
その後ろ姿に必死に手を伸ばして。
そうだ……私はいつも……
こうやって必死で彼の背中を追いかけてきた。
こうしていつか、置いていかれちゃうことを……なによりも恐れていたから……




