対戦勝負!
今日の強化訓練は、
それぞれがそれぞれのパーティーを組むことになり、それはアミダで決まったのだが……
「なんっで俺がお前なんかと同じパーティーなんだよクソプー野郎!」
「知るかボケェ!オイラだってテメェなんかと行動したくねぇよクソつんつん頭!」
光のグループには、顔を合わせる度くだらない言い合いをしている爽斗とクマがいる。
「おい…まだ来てねぇが俺、梓美と一緒だぞ…」
「良かったじゃないすか瑠真さん」
「バカ言うな奏!アイツと一緒だと俺は任務どころじゃなくなる!」
ヤクザの若頭・鳳瑠真は、
レディース総長・桜小路梓美と一緒になってしまったことに顔を赤くして大量に汗をかき始めた。
もう鼻血が出そうなのか鼻を抑えている。
「梓美さんすげ〜色っぽくていいじゃないっすか」
「そこが問題なんだよ!くそっ…昔はあんなんじゃなかったのにっ……大人になってからますますあいつとの距離感が掴めん……」
「俺だってコイツと一緒すよ?
色気のかけらもねぇし」
ミカエルズギタリストの奏は、
奏と一緒になれたことを密かに喜んでいる光を横目に見た。
「えっ。俺と一緒そんなに嫌ですか!」
「……嫌っつーか、お前が俺を見る目が変態なんだよ」
「なっ?!変態って酷いですよ!俺がミカエルズのファン何年やってきたと思ってるんですか!そりゃ憧れの人が目の前にいたら見ちゃいますよめっちゃ!」
「やめてくれよキモイから
そもそもファンサとか苦手なんだよ俺」
光は正直まだ奏の存在に慣れていなかった。
近くにいるだけでついソワソワしてしまう。
「あ、そういえば!新作のアルバムこないだ聴きました!めちゃくちゃ良かったですっ!」
「お、おう…そうか。まぁ自信作だし?」
相変わらず褒められることに弱い奏は、また照れたように鼻を鳴らしている。
「で、あの奏さん。
ちょっと1つ、提案いいですか?」
「あ?提案?」
光の目がキラキラとしている。
まるで懐いた子犬のように見てくるため、奏は嫌な予感がする。
「今回のこれ、俺と勝負してくれませんか?
で、もしも俺が勝ったら……」
「…な、なに……」
「ミカエルズの皆さんのサイン!このアルバムにくださいっ!!」
「え…」と思わず呆気に取られてしまった。
「やっぱダメ…ですか……?」
「いや……つぅか……」
そんなことでいいの?
と言おうと思ったのだが、面白いからやはり乗ってやろうと思った。
「ま、仕方ねぇな。なにで勝負すんだ?」
「やっっっったーーーー!!!!
えーと、じゃあ対人格闘とかどうです?」
「いーけど。お前できんのそれ」
「熙さんにがっっつり仕込まれたんで、自信はあります!」
「げっ…!マジかよ熙さんに?!」
やば。死んだわ俺。
と奏は白目を剥いた。
つうかそもそも、考えてみりゃこいつってもう結構なレベルじゃなかったか?そうだよな?最近見てねぇけど皆そう言ってるし………
やべえ。一気に不安なってきたわ。
コイツに負けるとか、なんか俺のプライドが……
「ほんなら全員で勝ち抜け戦でもしよぉじゃねえか」
そう提案してきたのはなんと、同グループのクマだった。
スキルも使い放題のルール無しで、相手がギブアップするまで続けるというものだ。
「おもしろそー!やろー!」
「めんどくさいけど。」
同じく同グループの町野姉妹はいつものように正反対のリアクションをしている。
「おっしゃ!今度こそお前を泣かせるチャンスだクソクマ野郎!」
「はっ!てめぇがオイラを泣かすだぁ?笑わせんな!クソ勘違いナルシストが!」
「あぁん?!俺ナルシストじゃねぇんだけど?!」
「もういい加減喧嘩はやめましょうよ。
ていうか……今回俺らのパーティ、ガゼルメンバーだけ集まっちゃいましたね」
光のパーティは、
奏、クマ、爽人、町野姉妹というメンバーだった。
他のグループはもうとっくに各々のエリアに影憑払いへ行ってしまった。
「とりあえずさぁ、全員まずは光と対戦しよーよ。最近覚醒したんでしょー?私たち興味あるもん」
朝凪の言葉に皆が賛成してしまい、光は少々狼狽える。
「えっ、俺休憩無し?!」
「おーおー、ヒヨっ子の頃はよく俺に泣かされてたよな〜
あれからどんだけ強くなったか、お手並み拝見といこうじゃねぇか。」
ニヤリと白い歯を見せる爽人は、とても余裕そうに見える。
しかし内心はかなり緊張していた。
(光の奴……相当強くなって最強間近的な話聞いてるし……最近こいつと手合わせしてねーから普通に超こぇえんだけど……)
というのは表向きの偉そうなイケメンフェイスで誤魔化す。
「手加減は無しでお願いします爽人さん!」
光の真剣な目がぎらついている。
クマがピー!と笛を吹き、戦闘が開始された瞬間、なんと光は一瞬で消え、爽人の後ろにいた。
「!!」
シュッー!となんとか間一髪で光を避けた爽人は、大きく飛び上がり、回転蹴りを仕掛ける。
しかし、
「くそっ!またかよっ」
また一瞬で消えた光が今度は横に来たと悟った爽人は、光のものすごい威力のパンチを避け、蹴りを入れた。
しかし、その蹴りは瞬時にスキルで跳ね返され、爽人はかなり遠くへ飛ばされていってしまった。
「しゅーりょー!勝者は光!!」
ピピーッとクマの笛が鳴る。
そして次は双子の町野姉妹。
実はこれは彼女たちとの3度目の手合わせだ。
最初の頃、彼女たちのスキルが特殊すぎてついていけなかったことを思い出した。
「ひっさびさにテンション上がる〜!」
「朝凪、集中して」
朝凪と夕凪は、顔は瓜二つでも性格が正反対だ。
しかしパワーやタイミングのコンビネーションがパーフェクトなため、誰もがこの双子との手合わせには手を焼く。
そうして勝負がスタートしたそばから、やはり2人は一瞬で4人になり、6人になり、光の周りをグルグルと走り回って錯乱しだした。
「くっ……目が回るっ」
落ち着け俺……
自分にそう言い聞かせながら、目を瞑り、集中力を滾らせる。
錯乱されている時に使えるスキル……
光は目を見開くと、
両手を地面に置いた。
「「うわぁっ?!」」
グラグラっと空間が歪み、町野姉妹の錯乱は解け、2人きりにまとまった。
その隙を狙って光は更に強風を起こし、2人は叫び声を上げながら風に吹かれて飛んでいってしまった。
またしても光が勝利し、次はついに、おそらくこの中で最強であろうクマとの対戦になった。
「オイラのことを倒せたら、特別にオイラの肉球ぷにぷにをやらせてやろう!」
「いやいいよ別に……」
いつも通りふてぶてしい態度のクマだが、
ブワッと毛並みを逆立て始めたその姿が元の可愛いテディベアではなくなったため、周りも生唾を飲み込み、行く末を見守る。
「クマ野郎があんな姿になんの初めて見たんだけどっ」
「おそらくクマが光に対して本気出さなきゃ的になったんだろうな」
「やっぱすごいんだ光」
戦闘が開始され、クマのその小さくてすばしっこい動きに早くも光は驚いていた。
「みっ見えない……っ!」
あまりの速さに、目が全く追いつかない光は、いつの間にか四方八方からボコボコと殴る蹴るといった攻撃を受けまくっていた。
「うっ……わっ……あっ……」
「おらおらどーしたそんなもんかァ!」
ボカスカやられまくりの光はさすがに反撃に出た。
なんとかスキルを発動し、地面に潜り込み炎を発動する。
ドッカーン!
「うおっ」
地面から炎と共に出てきた光に、クマは瞬時に距離をとった。
「あぶねー。危うく丸焦げクマになるとこだったぜぇ」
クマは負けじと水を出し、すぐに消火した。
すると光が今度は太陽光を集めてビームを放ってきたため、なんとクマは近くの木を薙ぎ倒して避けた。
光とクマの止まない対戦を見ながら、他の者たちは呆然としていた。
「この2人……やばくね」
「これガチ……?」
「トドメだー!」と言って、クマが薙ぎ倒した木を鋭く頑丈な槍のようなものに変え、その数えきれない槍が光の元へと凄まじい勢いで飛んで行った。
「っ!」
なんとか間一髪のところで避け、クマに手をかざす。
「え…おいおいおいおい」
みるみるクマは光の手に吸い寄せられ、そのまま体を掴まれたかと思えば、スキルと共に思い切り投げつけられてしまった。
「「「おぉ〜……」」」
またしても勝利した光に、皆は開いた口が塞がらなかった。
「よし……ここからは本気出しますよ奏さん」
「っ?!おまっ……今まで本気じゃなかったのかよ」
光のその言葉は、奏以外のボロボロになった皆も含め、背筋を凍らせるものがあった。
「ちょっ、えっ?ちょっと待て光!」
突然ボワッッと強すぎるオーラを滾らせはじめた光に、一気に焦り出す奏。
皆がジリジリと遠のいていき、
大きな訓練場に、ポツンと取り残された状態になった。
「じゃー、いきますよ奏さんっ!
手加減無しでお願いします!」
ドッカーン!
「うおぉわっ!」
あっっっぶねー!何だあれ!
今一瞬でも遅れてたら俺死んでたじゃん!
やっぱ、何十人ものスキルを持ってるだけあるんだな……
並のエスパーとは、そりゃあワケが違うよな。
「……いいぜ…なら俺も……」
奏はフゥ〜っと深く深呼吸をし、目を開いた。
「久々に、本気出す」
その瞬間、奏のオーラもブワワッと変わった。
「奏くん本気出したとこって見たことないかも」
「そもそも普段あんましガゼルに来ないしな」
爽人たちも喋っているどころではなかった。
音を扱う奏のスキルによって、耳鳴りがしてきたのだ。
三半規管がおかしくなり、めまいと吐き気がして立っていられなくなった。
「うぅ〜くそっ!
オイラ耳がいいからこりゃキツイ」
クマはビュンッと遠くに逃げていってしまった。
「あっ!おまっ!クソクマずりぃぞ!」
「うっ…!夕凪!うちらも行こ!」
完全に2人だけの世界に入っている光と奏。
光は耳鳴りに顔を顰めながら空中を混ぜ始めた。
それは朧のスキルだ。
これによって、音も混ざり合い、かき消されていく。
「チッ。だがな、こんなのは想定済みなんだよこっちは!」
奏はなんと、音を手に掴み、そのまま一瞬で光の背後に回ったかと思えば光の頭に直接に当てがった。
「うあああああっ」
「ふははははは!!」
それによってダイレクトに脳に響きまくる音に、脳を侵されていく。
「おいなんか……光の奴叫んでねぇか?」
「まさか奏のヤロー、前にオイラには負けたくせにアイツにゃ勝てんのか?どーゆーこっちゃ」
遠くの方でドリンクタイムをしている爽人たちは、異様なその光景に目を見張る。
光はまるで、頭の中に虫が駆け巡っているかのような不快感と煩さに苛まれていた。
既に思考回路が停止し始めてきている。
「ははっ!どーだ!本気出せば俺だってお前ごとき楽勝よ!」
奏は既に勝ち誇った顔で笑っている。
" 人が1番力を発揮するのはどんなときか、知っているかい? "
光は叫びながら、頭の中で熙の言っていたことが反芻されていた。
" 憎悪だよ。その力は、この世で最も強いトリガーなのだ "
……そうだ……思い出せ……
目を背けてはいけない感情を……!!
「……ん?」
光の叫び声が突然止まったため、奏は疑問符を浮べる。
何が起きた……?
俺はまだ変わらず光の頭にスキルを流してる……
まさか……
「ちょいやりすぎた?
……大丈夫か光、うわぁあっっ!!」
突然光から放たれた凄まじいボワッッと弾かれ、奏は目を見開く。
「!!!」
そこには、見たことのないくらいの殺気を放っている光の眼光がこちらを見ていた。
まるで別人ではないかと錯覚してしまうような光景にゾクリと鳥肌がたつ。
「くっ、マジかよ光お前……リミッター解除、できるようになってんのかよ……!」
奏はギリと歯を食いしばりながらガゼルエンブレムのネックレスを握り、そこに音を纏わせた。
そのままエンブレムが鋭い武器に変わり、タッタッタッと光の元へ掛けていく。
「弾き飛ばしてやるぜそんなのっ!!」
スッ…と光が片手を翳すと、カチンっと刃物が当たる。
「なっ?!通らない?!」
まるでそれは、岩のようなスキルだった。
ジリジリと力比べになる。
しかし……
グッと光が拳を握るように手を動かすと、刃物はバリンと割れ、ビュンッと思い切り奏は吹っ飛ばされてしまった。
「まじかよ……おい……」
その凄まじい威力と技に、見ていた爽人たちは口を半開きにして固まっていた。
光はまた、リミッターを解除することができていたのだ。




