親が親なら子も子?
光の作り出したクマに稽古をつけ始めて丸1日。
たった1日だというのに、そのあまりの強さに皆驚いていた。
バッコーン!
「うはっ!ってぇ……お前マジなんなんだよ!」
たった今、爽斗が吹っ飛ばされたところだ。
ビュンッ!
「っきゃあっ……!」
ドカッ!
「わっ……!」
バシッ!
「うぉっ……!」
ボカボカッ!
「いっ……!」
「あっ……!」
続いて、柚も浩輔も志門も町野姉妹も可憐に宙に舞った。
「はっ。大したことねぇ奴ばっかだな。お前らよくそんなンでエスパーなんてやってこれたな」
「くっそ……ホンットに可愛げのねぇクマ野郎だな!こうなったら玲二!イケェエ!!」
「えぇっ、僕?」
余裕さながらのふてぶてしい態度のクマに、全員が息を切らしながらピリついていた。
そんな中、爽斗に押し出された玲二はクリクリお目目と目が合ってしまう。
どう見ても愛らしいテディベアを前に苦笑いしかできない。
「い、いやぁなんだろう……こんなに可愛いクマちゃんとタイマン張るだなんて」
「バカ言ってんなよ玲二!そいつはクマちゃんなんかじゃねえ!ただの野獣だ!」
「なんだとてめぇ!このクソ茶髪野郎!オイラは世界一可愛いクマだぞ!!」
「あぁ?そんな口の利き方しといて世界一だあ?!笑わせんな詐欺プー野郎!てぃーでぃーえるで本物見てこい!」
「爽斗、君の口の利き方も大概だよ……」
意味のわからない喧嘩を始めるクマと爽斗は、何だかんだ似た者同士のぶつかり合いにも見える。
各々鍛錬をしていた大阪サラマンダーも札幌ホーネットも、そして沖縄レイヴンも静岡ウリアルも、いつのまにか皆が集結していた。
「オラいけー!玲二ー!!」
「玲二頑張れぇ〜♡」
「玲二先輩ファイト〜っ!!」
爽斗、柚、そして朧という玲二ファンに盛大に応援され、玲二は顔を引き攣らせる。
「えぇ……なんで僕が……もう…」
この様子に、光は生唾を飲み込む。
自分も玲二のファンの1人として応援したいのは山々だが、でも自分が作った傀儡に勝ってほしい気持ちもある。
しかも……みんなすっごい見てるし……
こんな緊張することなかなかないよ…?
玲二さん、なんだかんだ冷静で凄いな……
「おし。本気を出せよロン毛野郎。
オイラを前に、手加減は不要だ。」
「……全く。しょうがないな……」
玲二は1つため息を吐き、深呼吸したかと思えば、パッと顔を上げた。
そのカッと見開かれた真剣な眼光と、ブワッと突然滾らせるオーラに、光は背筋が凍るほどの妙な違和感を覚えた。
あれ……?
玲二さんて、こんなんだったっけ……
なにはともあれ凄いけど……
なんだかいつもと別人みたいだ……
「……あれ?来ないのかい?いつでもウェルカムだよ。僕は。」
優しくも冷酷に響いたその言葉とオーラに、クマはフンっと鼻を鳴らした。
そして……
ビュンッー!!
バコッ!ドカッ!
一瞬で迫っていったクマと瞬く間に近接戦が始まった。
双方共、目で負えないほどの速さで瞬き1つできず光は息を飲んで見守った。
す……凄い……
これが玲二さんの本気?
本気のところは初めて見たけど……やっぱりすごい……
シュッー……
ビュンッー……!
本来の玲二のスキルは吸引だ。
玲二はクマを吸引したり飛ばしたりしてはいるが、もちろんクマは負けていない。
なんとそれをうまいこと利用して戦っている。
バキッ……!
ドーンッ……!!
あまりの速さに、近くの木が刃物で切られたように倒された。
「かっこいーっ玲二先輩♡負けないで〜!」
朧は目がハートになっている。
しかし玲二の恋人、柚は心配そうに眉をひそめて手を組んでいる。
「オラオラどーしたロン毛!オイラまだ本気出してないんだぜぇ?」
「くっ……」
玲二の眉間にシワが寄り始めている。
「へぇ……玲二の奴をあんなにいたぶれるなんてなかなかすげーなぁ。お前が作った傀儡だろ?月詠。」
「あ、はい一応……たまたまかもですけど……」
「人形ってことは採血はできねぇか……うーん……」
ホーネットの薬膳亮太が興味深そうにクマを凝視している。
「光って、ほんまに万能エスパーなんやな。傀儡作りまでもはや遥を超えてるんやから」
感心したようにエメ子がそう言ったが、光はなんだか本当にたまたまな気がしていて複雑だ。
自分でもあの時は無意識で、というか、遥に興奮しておかしなスキルパワーを発動していたなんてこと、誰にも言えない。
そのとき……
パンッ!!!
「っあ……玲二っ!」
「玲二先輩っ!!」
玲二の上に、クマが乗っかっている。
「はー。やれやれまたオイラの勝ちかぁ。」
息すら切らしてない至極余裕そうなクマのぬいぐるみに、皆は驚愕して静まり返ってしまった。
玲二は「ははは……ごめんね皆。結構本気出したつもりだったんだけど」と呼吸を整えながら起き上がった。
「玲二っ!怪我は無い?!」
「玲二先輩ぃぃいーー!かっこよかったですぅぅ〜」
たちまち涙ながらの柚と朧に囲まれる玲二。
「まじかよ……玲二が負けた……?」
爽斗は驚きを隠せない様子で固まっている。
「ったく、どいつもこいつもだな。
まぁここにいる奴全員、見るからに大したことなさそうだが」
クマはそう言ってグルリと全員を見回した。
クマにはそれぞれのスキル数値が見えていた。
「だがまぁ……」
ピタリと光を見て止まるクマ。
「おめぇなら……オイラと互角かもな。」
その言葉に、「なるほど!」と金盛賢吾が声を上げた。
胸元から蛇のミケがニョロリと顔を出している。
「光さんが生み出したということはきっと、光さん同等の強さということなんですよ!」
全員の視線が光に集まる。
「つまり光さん!あなたはこのクマさんのように、もうすでに最強なんですね!」
「えっっ……や……ど、どうだろう……」
「そりゃそうでしょうね」
戸惑う光に、今度は珍しく時季誠が口を開いた。
パソコンを弄りながら、こちらには目もくれずに喋りだした。
「遺伝だってエスパーのデータ上はほぼ9割と言われてますからねー。親が親なら子も子ですよ。」
「いや誠さんソレ……悪口で使う時の言葉じゃねw」
相変わらずゲームをしながら夏樹が突っ込んだ。
が……なにはともあれ、そう……
いつのまにか光は、このクマほどの強さになっていたのだ。




