まさかのクマ誕生
遥と光は、椛と犬たちを見送った後にガゼルへと戻った。
「そういえば月詠さんは、裁縫がお上手なんだとか」
「あ、まぁ、はい多分。遥さんが持ってるテディベアみたいなのも、作ったことありますよ。今は志門くんが持ってますけど」
「まあ!そうなのですか?ではせっかくならそれを傀儡にしましょうよ!」
そういうわけで練習も兼ねて、クマを実験台にすることになった。
もちろん志門には許可をとった。が……
「失敗してぶっ壊したりしたらマジで殺すからな!」
そう言われ、真横でガン見されている。
もちろん自分が作ったものとはいえ、真奈美の宝物だったクマちゃんをおかしなことにはしたくない。
「き、緊張する……」
心の声がつい漏れてしまった。
「では月詠さん、まずは私に手を重ねてください」
クマに手を置いている遥の手に恐る恐る手を重ねた。
「分かりますか?このスキルの流れ方」
「あ……はい……」
「ホントかよ光?分かんねぇなら正直に言った方がいいぜ?」
「ちょとっ!黙っててくれよ志門くん」
全く……相変わらず生意気だなと思いながらも意識をこちらに集中させる。
今までに感じたことの無い絶妙な流れ方のスキルだ。
まるで、命を吹き込んでいくような……。
10分……20分……
志門はとっくに飽きてしまったようで、ベンチに腰掛けゲームに熱中している帆影夏樹の所へ行ってしまった。
遠くの方では、鍛錬している町野姉妹とエメ子の声が聞こえる。
遥と二人きりのこの作業に、なんとなく光は緊張してきてしまい、恐る恐る遥を見る。
ミルクティーのようなベージュの巻き髪に、フリフリのカチューシャ。
クルンと上を向いたまつ毛に桃色のアイシャドウ。
プルンと光る赤いぷっくりリップ。
柔らかそう……
ふわっふわなパステルカラーで、レースいっぱいのロリータドレスにたくさんのアクセサリーもとてもマッチしていて、なんだかまるで絵に描いたようなお姫様に見える。
フと顔を上げた遥と目がパチッと合ってしまった。
その真っ青なカラコンをしているお人形さんのような目に捕らえられたように目を逸らせなくなった。
「……?どうかしました光さん?」
「えっ!あっ、いや、その……
遥さんて……服とかメイクとかセンス良いな〜なんて思って!はは……」
パニクって咄嗟にそう言うと、遥は一気にパァっと明るい表情になった。
「ホントですか?!ありがとうございます!嬉しい!」
さらに眩しくなった遥に目を奪われつつ、光は先日の亜蘭との訓練を思い出していた。
" 女性は容姿を褒められることに一番高揚するんだ!だから落としたいお姫様がいたら、まずは褒めること!"
「あ……なんていうかその……
髪も服装も似合ってて……えっと……
とにかくお人形さんみたいで……
か、可愛いです……」
「かわ……いい?」
「はいっ!す、すごく可愛いですよっ!
性格だってとても優しいし、おしとやかで女の子らしくて……」
思っていることをつい正直に吐露してしまった。
遥は目を丸くしている。
「あ……っ、とにかく誰よりも女の子な女の子って感じです!とっても素敵な……」
しばらく驚いたように沈黙していた遥は、少しだけ微笑んで視線を落とした。
それがどこか、切なげに見える。
……あれ?
俺今なにか失礼なこと言っちゃったかな……
いや、いきなりキモイ奴って思われたんだ!
絶対そうだ!俺みたいのが顔赤くして人のことジロジロ見て妙なこと言ってんなよ!
亜蘭さんじゃないんだから!!
わぁぁああ!こーゆーときどうすればいいのか教えてもらってないよ助けてよ亜蘭さん!!
「月詠さん、ダメですよ、意識逸らさないでください」
「っっ!はい!す、すみません!」
パニクってバクバクになっている心臓を、頑張って落ち着かせた。
遥はその見た目とは違い、案外厳しいししっかり者だし真面目だと思った。
しかしもう30分は経っている。
ものすごく緻密な作業を永遠とやらされているこの感覚にずっと集中するなど至難の業。
え、これってこんなに時間のかかるものなのか?
完全に舐めていた……
とすると、遥さんはストックを何体も持ってると言ってたし、え、この作業を何十時間も……?!
「へぇ……やはり月詠さんてすごいんですね」
「っ、はい?!」
「だってもう感覚掴めてる。実は私、自分のスキルを流していたのは最初の10分程度で、今はもうとっくに光さんだけの作業ですよ」
「えぇ?!」
ニコッと笑う可愛すぎる遥。
いやいやいやいや、てことは、何?
今こうして手を重ね合ってるのって……ただ触れてるだけってこと……?!
「……っ」
そう自覚したら突然手の感触が生々しく感じられ、顔が熱くなってきてしまった。
やばい……
それでそんなふうに笑いかけられたら……俺、遥さんのこと好きになっちゃうかもしれないじゃん……
17歳ドーテーにとってこれは……
あっ、あまりにも!刺激が強すぎる……!!
「〜〜〜っ!!!」
沸騰しそうになる頭を必死に冷却しようとするも、逆におかしなエネルギーが湧いてきてしまい、パニックになっていた。
そのせいか、一気にスキルが流し込まれたように、みるみるクマが光っていく。
「〜〜〜〜〜っ」
「わ……」
遥は驚きが隠せず目を見開いて言葉を失っている。
「〜〜〜〜〜っ」
「つ…月詠さん?だいじょ」
ポンッ!!!
そしてついに、クマは傀儡として覚醒した。
まだ目を白黒させてパニクっている光の手を、遥が急いでクマから引き剥がす。
「月詠さん!……月詠さんてばっ!」
「っは!!はははははいっっ」
我に返って黒目が戻った光が目の前のクマを見る。
なんとクマは……二本足で突っ立っていた。
「おーおーおー、なんだオイラよーやく動けるよーになってる!」
「「「しゃ喋ったあぁ?!?!」」」
なんと、光のドーテー最強スキルによってか、クマはまるで人間のように普通に喋り表情を作る傀儡になってしまった。
「え!え!遥さん!これ!えっ!?
喋るパターンとかあるんですか?!」
「ないですっ!き、聞いたこともないですっ!」
「ったく、うるせぇなぁ、なんだよ起きて早々騒がしい。」
しかし口が悪すぎて、その愛らしい姿とはマッチングしていない。
「すっ、凄いですね、さすが月詠さん……
やはり最強になる素質があるんですね」
「いやいやいや……こんなん俺だって予想外すぎますよ?」
驚愕し騒いでいたからか、気がつけば傍には志門や夏樹、町野姉妹や浩輔など、広場にいた皆が寄ってきていた。
「おぉーっ!かっわいーっ!」
「喋ってる……クマ……」
町野姉妹はそれぞれの違った反応だがどちらも興奮している。
「ガチィ〜?!むっっちゃかわえぇやん!」
エメ子に撫で回されはじめるクマは、
「触んじゃねぇ!」と悪態をついている。
「……どゆことです光さん?これって志門くんのクマですよね。初めからなにか特別なスキルが?もしや中身は人間……?」
浩輔は独自の思考を回しながら凝視している。
「へぇ。つかこのクマはゲームとかできっかな?」
相変わらずゲームのことしか考えてない夏樹。
「…………。」
言葉を失って1番驚愕しているのは志門だった。
「お、真奈美の次のオイラの持ち主、中條志門だな」
「「「!!!!」」」
なんとクマは、真奈美が持ち主だった頃の記憶まであった。
「く……くま……」
「お?どーしたオイラを作った月詠光」
「俺の名前まで知ってんの?
えっとー……君の名前……とりあえずクマだけどいいよね?」
「オイラはクマだ!真奈美が名付けたんだから当然クマに決まってるだろが!」
こうして、声も姿も愛くるしいのに口調はどうにもヤカラのようなクマが誕生したのである。
「あっ!そうだ、玲二さん!柚さん!」
光は今のうちにと急いで2人を呼び止めた。
そして懐からあるものを取り出す。
「何度も渡そうとしてたんですけど、なかなかタイミング掴めなくて……遅くなってすみません!」
「え……これって……」
以前、お揃いのものを作ってと言われていたことを光は忘れてはいなかった。
「2人をイメージして作ったんですけど……そんな大したものじゃなくてすみません」
2人に作ったお揃いのマスコットストラップ。
ハートの片割れそれぞれに2人のイニシャルRとYを施し、サイのシンボルマークも刺繍して仕上げたものだった。
「わあっ……超素敵……感激……!!」
「ホントに凄いな……ありがとう光くん」
2人は何度も礼を言い、それぞれのイニシャルを交換してスマホケースに付けていた。
憧れの2人にそんなに感激され感謝されてしまうなら、こんなのいくらだって作る。
同じような優しい笑みで幸せそうに笑う二人を見ていると、つくづくお似合いだなと思う。
「いいなぁ……」
つい呟いてしまった。
俺にもいつか……お揃いのものが似合うような彼女が……
なぜか遥が頭に浮かんでしまい、急いで妄想を取り払った。




