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そのためにこの世界に来た

光はここまでの話を聞いて、これもまだ夢の一部かなにかではと思っていた。

あまりにも現実とはかけ離れている話の内容に、半ば信じられないでいた。

茂範のことを信じられないのではなく、この話を聞いた自分が脳の情報処理能力に障害を起こしているのではと。



「じゃ、じゃあ茂さんも俺も……っ……えっ……み、未来から来たってこと?しかも……100年後の……」



茂範は黙って頷いた。


茂範はこの過去の世界線で17年近く生きていることになる。

しかしこれで、カミラの言っていた話にも繋がった。

あの時抱いていた赤子というのは、きっと俺のことだ。



「まぁ、信じられんのも無理は無い。」



まさか……茂さんだけでなく、自分も実は現代の人間ではなくて、未来人だったなんて……



「いや、信じるよ……信じるけど……

でもそしたら俺は……俺は茂さんの……孫?」



「……血は繋がっとらんよ。でも……そうだな。孫みたいに思ってきた。」



そう思うと、なんだか不思議な気分になった。

いつもそばにいてくれていた茂範は、偶然ではなかった。

いつも、自分のことを見ていてくれたんだ。どんな思いで……



「……あれ……てことは俺は……先天的なエスパーってこと?でも耳にアザは無いはず……」



「未来では、アザはもうほぼ誰も無い。誰もが漏れなくSの世の中になっているからだ。」



だとしても……

俺には裁縫のスキルしか無かったはず……

そう光は考え込んでしまった。


俺は美乃里ちゃんから100人かそれ以上の才能を譲渡されてエスパーになったはずだ。

やはりまだまだ思考が追いつかない。



それを見越したかのように茂範が口を開いた。



「光、お前の本来の才能は裁縫ではない」



「え?!?!」



「実生活で生きやすいように、わしが抹消したんだ。だがまさか……美乃里によってまたエスパーに戻るとは思わなかった」



まさに開いた口が塞がらない。

あんなに得意なのに、裁縫は自分の才能というわけではなかった?!



「じゃ、じゃあ俺は……」



「あぁ。未来人と同じように、元々はエスパーの万能的なスキルを持っていた。

朱星の息子……七星の孫なんだから……」



「茂さんの孫でもあるよ……」



そう言うと、茂範は少し驚いたように目を見開いたあと、薄らと微笑んだ。


つまりは自分は、美乃里から才能を受け継がなくても元々は消されていただけで、万能のエスパースキルがあったということだ。



「でも……まだ聞きたいことはあるよ。

俺の幼少期の記憶が無いのは偶然?」



「ここへ連れてきた時は、お前はまだ1歳だった。その後、お前をきちんと育ててくれそうな夫婦を探すまで、わしが育てていたんだが……」



茂範は少し言いにくそうに一瞬口を噤んだ。



「わしが光の記憶を消したんだ。まぁ……消さなくてもそんな幼少期の記憶など覚えてなかったかもしれんが……念の為な。」



「っ、なんで?消す必要なんてっ」



「……幸せになってほしかったからだ。未来のことやわしのことなど忘れて。お前は元々この世界線にいて、普通の家族に、普通の学校生活、普通の幸せを普通に送ってほしかった。」



茂さんの言い分も分からないでもないけど……

でもそんなの勝手だよ……

もしかしたら少しは覚えてたかもしれない茂さんとの思い出……全部消すなんて。




「……俺の両親は?このこと全部知ってるの?」



「まさか。こんなにわかには信じ難いこと、他の誰にも言ってない。光、これはお前しか知らん話だ。

そしてお前が高校を卒業する頃には迎えに行くつもりでいた。お前の両親とはそれまでの契約だった。」



茂範は、自身の勘で、光を預けるのに最善だと判断した夫婦を選んだのだった。

ハイエスパーは、勘がずば抜けて鋭い場合が多い。

もちろん心配は尽きないから、自らも隣に住み、光がそれなりに成長するまで見守っていたのだ。


18になったら迎えに行き、一緒に未来に帰る予定でいた。

その頃にはなんとか現状を変え、良い未来になる確信が持てているはずだったからだ。

しかし茂範の中でそこの計画は大幅にズレた。

現状はあまりにも問題が多く、思うように事が進まなかったからだ。


そんな中、美乃里の事件によって光は覚醒した。

だから、今になってようやく気付いたことがある。


きっとこの子が……この世を変革する者なのかもしれない。


あのとき七星が言っていたのは、この子のことだったのかもしれないと。




「ところで茂さん……

その、未来で権力を握ってた組織は、アダマスだったの?それともアクシア?」



それが分かれば事前になにか出来る。

だからそこはもしかしたら最も重要なことだと思い、光は生唾を飲みこんで答えを待った。


しかし……



「いや、そのどちらでもなかった」



「え?」



「探したが、今この時代には存在していない組織だった……。名は……アーテル」



「アーテル……?」



聞いたことが一度もない名だ。

いつ誰が創った組織だろうか。



「確認したいことなど山ほどあるが……

私は……未来には戻れない。

時計を回せるのは、1人1回の往復だけなんだ。」



「えっ、てことは戻れるじゃないか!」



「私が戻ったら、それはすなわちもう、こちらには二度と来られないということだ」



光は言葉を失った。


……そっか。茂さんは……現代のこの現状をどうにか解決し、安心できるまでは戻ることを自分に許してないんだ。

俺たちに全てを任せて、俺たちを……置いていくことに。


ここで、任せて!と胸を張って茂さんを送り出せないことが悔しい。



「じゃあ……アダマスもアクシアも潰して……アーテルなんて組織も出てこないようにすれば……そんな酷くて悲惨な未来にはならないよね?」



「……おそらくな……」



「だったら……俺がやるよ。」



「光……」



「茂さんありがとう。俺を過去に連れてきてくれて」



光は胸元の指輪を強く握りしめ、覚悟を決めた。

その眼光に、茂範は七星と朱星を重ねた。



「俺は最強の変革者になるって、決めてたんだから。」



俺はきっと、そのためにこの世界に来たんだ。


未来の全てを変えるために。



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