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約100年後の世界


茂範が生まれた時代……

この地は権力主義国家。


強いエスパーの家系に生まれた者だけが人権を与えられている世の中。


年々上がり続けるスキルのレベル……

それに追いつけないエスパーたちは皆排除されていく。


弱い者は人権を剥奪され、淘汰されていっていた。


それが当たり前の世の中であり、誰も疑問を抱かない。


人権を剥奪されるということは、家畜や奴隷と同じ。

どんな扱いをしても良い、つまりは、スキルで抹消しても良いということになっていた。


高度なスキルが当たり前ということは、もちろんノーマルの人間は皆無。

公共交通機関もなければ、日常生活で使う家事道具もない。

なぜなら大半の人間がなんでもできるハイエスパーだからである。


ハイエスパー以外は生きてさえいけない世の中……


もちろんノーマルの人間は存在しないので影憑も存在しない。天災も発生しない。




それが、

今から約100年後の世界である。





茂範は幸いにも、ハイエスパーの家系に生まれた。


幼い頃から常日頃、街中で見つかってしまいその場で保安官に抹消されるレベルの低いエスパーたちを何度も目撃して生きていたが、なにも感じたことがなかった。



この時代で皆が必ず持ち歩かなくてはならない身分証明書は、エスパー認定証とも言われている。


これは、定期的に行われるエスパー認定検査テストに合格しなくては所持できない。

剥奪されればもちろん人権も剥奪される。


そのテストは、年々レベルが上がっていっていた。

高レベルのエスパーのみが生き残れる社会なため、生まれる子供のレベルも自然と上がっているからだ。


こうして全体の国力はどんどんと底上げされていき、本当に強いエスパーのみ存在する凄い国家が出来上がっていっていた。



周りが少しずつ消えていく中で、茂範は歳を重ねても問題なく合格していき、何不自由なく成長していく。


そして年頃になれば当然、恋愛もする。

しかし、恋人になった女性はいつもどこかのタイミングでテストを落とし、目の前から消えていった。


これが当たり前な世の中なため、幾度となく目の前で恋人が抹消されようと、どんなに縋られようと、仕方の無いことだと自分に言い聞かせて生きていた。


しかし、人間としての感情はもちろんある。


何度もこんなに悲しい想いをするなら、絶対に消されることのない強いエスパーと恋愛をすればいい。

だがそんな保証はどこにもない。

どんなに熱烈な恋をしても愛し合っても、ある日突然目の前からいなくなるなら……

もう、恋愛なんかしなければいい。

そうすれば、失うものなど何もないのだから。



そう思うようになり、極力人に干渉しなくなっていった。


気がつけば、誰とも付き合わないまま教師という職に就いていた。

この時代の教師という仕事は、優秀なエスパーを育てるための重要な仕事。

茂範は無意識に、自分と将来同じ想いをする者が減るようにと一生懸命に、仕事一筋のエスパーになっていた。



そんな時に知り合ったエスパー、

名前は七星(ななせ)


茂範が働いている学校に赴任してきた教師の一人だった。


彼女は自分と同い年で、自分と同じように幾度となくテストをクリアしているハイエスパーだった。


美しい顔も美しい声も、その優秀さも……

茂範が彼女のことを好きになる要素はたくさんあった。


だからこそ、彼女のことを遠ざけるようになっていた。



「なぜ、私を避けるんです?」



ある日突然、彼女はそう聞いてきた。



「鷲谷先生、私のこと避けてますよね?」



彼女の見上げてくる、その吸い込まれそうな瞳から急いで目をそらす。



「避けてるつもりなど……ありませんが」



「嘘つき。閉心術から学び直したらいかがですか」



茂範は、不機嫌な顔をした七星をチラと横目で見たあと、小さくため息を吐いた。



「自分に失望したくないんですよ」



「……はい?」



「また自分にはどうすることもできなかったって……見殺しにするしかなかったと自分に言い聞かせるような人間に、これ以上失望したくない。

もうこれ以上……自分を嫌いになりたくないんです」



それだけ言ってその場を去ろうと歩き出すと、バッと腕を掴まれた。



「ならばなぜ、自分を変えようとは思わないんですか?」



「…っ、簡単に言わないでください!私が変わったところで何が変わるって言うんです!」



そうだ。自分が何かを変えれるわけなんてない。

ましてやこんな世界の仕組みが変わるわけなんて到底……。


ほら……

またこうやって、自分に言い聞かせている。




「何かを手に入れなければ、何かを失うこともない。だから私はずっと……これでいいんだ。このままで……」



欲しいと思ったものは手に入れない。

失うのが怖いから。



「失うのが怖かったら、失わない方法を作ればいいんですよ。」



目を見開いて七星を見ると、彼女は真剣な目でこちらを真っ直ぐと見ていた。



「そんなこと……できるわけ」



「できる」



「っ!」



「できます、あなたなら。いえ……正確に言えば、変えるのはあなたじゃない。あなたは一番最初の歯車を回す人です。」



その言葉の本当の意味は、未だによく分からない。

しかし茂範は後に、七星と共にいろいろなことを調べ始めた。


この世の歴史において改竄された部分は多々あるはずであり、誰が何をどのようにしてコンニチに至るのか、分からないことだらけだった。

いや、初めから自分たちは、きっと何も知らずにただ誰かが作ったこの世で生かされているだけ……。

なんの疑問も抱かないのをいいことに……

まるで家畜のようだとは、誰もが気がつかないから。


弱肉強食。

強者だけに価値があり、弱者は無価値で消えるべき存在。


人間は常に、元々作られた概念に知らぬ間に当てはまってしまっている生き物だ。


そして誰もがそれを「常識」と呼び、以後数十年はそうそう覆されることは無い。


これが普通なのだからと。

これは仕方のないことなのだと言い聞かせて。


誰かが異議を唱えれば、四方八方から攻撃されるからだ。

時には消されることだってある。


それが、人間社会の恐ろしさの一つだ。



調べるにつれ分かったことはそこまで多くはなかったが、その昔、SPI(サイ)という組織があったことを知る。

しかしその組織はアダマスという国組織に潰され、今現在のこの国が成り立っているのだということを突き止めた。



茂範と七星は、まずは抹消されたエスパーの遺族や、今後その可能性のあるエスパーたちを集めた組織を秘密裏に結成した。


その名は「SPI(サイ)


組織は徐々に大きくなり、強い結束力が生まれた。

サイのメンバーはスパイのように様々な機関に散らばっていくようになり、そこで抹消されそうになったエスパーを密かに救い、サイに入れるなどして勢力を拡大していった。


ある程度のエスパー数が集まれば、国に対抗できるのでは、というレベルまでの組織ができあがっていた。


この世の実権が国に握られている限り、悲惨な現状は変わらない。

問答無用に当たり前のようにエスパーたちは消されていく。


そんな中、七星が口癖のように言っていたことがある。



「この世に敵も味方もいない。

いるのは、自分と少し違う人間だけよ」




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