月詠光は世界を制する?
頭の中がぐちゃぐちゃで、正直かなり混乱していた。
とてもじゃないが、まだ10数年しか生きてない世間知らずの小さな頭では、思考の整理がつかない。
「颯っ!起きたか、よかったー……」
ひとまずは帰らせてもらうため、颯が寝ていた部屋に戻った時だ。
ベッドから起き上がっている颯に安堵する光。
しかし、光を見る颯の様子がおかしい。
「……?……誰?」
「…っ、え、は、颯?」
不安な面持ちでパウリナを見ると、彼女は気まずそうに口を開いた。
「どうやら颯さんは少し……記憶が混濁しているようです」
光の鼓動が乱れ始めた。
なんとも絶望的な気持ちになる。
「そんなっ……!せっかく影憑を祓えたのに!俺の……俺のせい……?」
頭に包帯が巻かれている颯は、困ったように光とパウリナを見ている。
「……あの、光さん。よかったら、颯さんを私に任せてはいただけませんか?」
「え?!ここに置いてけってことですか?!」
できるわけがない。そんなこと。
何を言ってる?!
「大丈夫です。妙なことはしません。記憶が混濁したままの状態は危険です。私が責任もって」
「わ、悪いけど信用できるわけないっ!連れて帰ります!」
「連れ帰ってどうするんです?」
「どうするって……サイの人たちと、なんとか治す手立てを…っ」
「無理です。あの組織にそんなスキルのあるエスパーはいません。」
パウリナはきっぱりとそう言い、光の手を取った。
「今日あなたがここを見た通り、アダマスでは優秀なエスパーが次々と生み出されています。だから必ず、颯さんの助けになれます。」
パウリナのその声とその瞳は、なぜだか不思議な安心感を与えてくる。
彼女に言われると、何もかもが本当に彼女の言う通りな気がしてしまうのだ。
「……でも……」
それでも光は渋り、颯の方を見る。
「あ、そうね。ご本人に聞かなくてはですね。
颯さん、あなたはどうしたいですか?」
「え……あ……俺は……」
颯は言いにくそうにチラと光を見た。
そして、パウリナを一瞥してから視線を下げた。
「ここに……いたいかな。目が覚めた時にそばにいたのはこの人だったし……俺いま何もかも分かんねぇのに、またここじゃないどこかに行くなんて……嫌、かな……」
「えっ、颯っ……」
「悪ぃ……俺、ホントにお前のこと知らねぇんだ……なんかまだ頭も痛いし気持ち悪いし……」
光は目を瞬 見開いたまま冷や汗をかく。
本人がそう言うのならこちらは何も言えないし、従う他ない。
「学校のことなども、お任せ下さい。
全て、問題ありませんよ」
ニッコリと微笑むパウリナに、光は「はい……」とだけ返事をしてしまっていた。
「じゃあ光くん、出口まで送るよ。」
いつの間にか隣には千鶴環がいて、光は不安な面持ちを隠せないまま帰る他なくなった。
最後に振り返ると、同じような表情をした颯と目が合った。
まだ、わだかまりも解けてないのに……
結局また何の解決もできずに離れ離れか……?
光が帰ってから、瞳子とパウリナが険しい顔をして考え込んでいた。
「あの子……光くん……
私の洗脳スキルが効かなかった」
「パウリナさん、私もです。
光くんの未来を見ようとしたけど、途中で遮断されました。」
「おそらくあの子は……」
スッー……と千鶴がその場に現れた。
「あぁそうだよ。アイツは思った通り、かなりの数のスキルを所持している。ほぼオートマで自己防衛スキルまであるんだろう。俺の忘却スキルも効かなかった。」
そう言って、チラとベッドに寝ている颯に視線を落とし、フッと笑う。
「まぁ……お友達には効いたけどな。」
「……環様、どうしましょう?あの光という少年は。少しだけなら、見えました」
神妙な面持ちで瞳子がそう言った。
「……あの子はいずれ……世界を征する可能性があります。」
その言葉に、2人の瞼がピクリと動く。
「月詠光は、最強の変革者になる」




