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兄弟喧嘩


「それって……どんなマントですか?」



光の問いかけにマモは思い出すように唸った。



「んー、あれはなんか……黒地に赤でAとDが混じった感じの記号が書かれてて……こーゆー……」



焼肉のタレで皿に書いたマークを見て、皆が眉を顰める。



「つぅかイノシシってなんだよ、こえーなー。アダマスにもお前らみたいな猛獣使いや動物使いがいるってのか?」



薬膳亮太が酒の入った赤らんだ顔でそう言うと、

隣に座っている時季誠が眼鏡を取りながらため息混じりに口を開いた。



「まぁそうなんでしょうね……そもそもアダマスが政府を乗っ取ったのならSKJは完全アダマス管轄ということ。

僕たち全員のスキルと同じエスパーくらいは確実にいると見た方がいいでしょう」



全員の表情が険しくなり、沈黙が流れた。



「あの……対してアクシアはどうなのかしら?敵か味方か謎すぎますよね。雫ちゃんだって今向こうにいるようだし……」



朝比奈が言うと、



「少なくともアダマスにとってはアクシアも我々も敵なのだろう。

アダマスとアクシア、双方のトップの兄弟喧嘩に巻き込まれている形なのかもしれない」



熙が真剣な表情でそう返した。



「だとしたらこの世で1番迷惑な喧嘩だな。うかうかしてると世界がひっくり返るかもしれねぇ」



「兄弟喧嘩か……」



薬膳に続いて、瑠真が神妙な面持ちで呟いた。



「兄弟喧嘩ってのは侮れないぜ……

ダチの喧嘩とはわけが違う。

当事者同士にしか分からねぇ感情が死ぬほど渦巻いてる分、陰湿で厄介なんだ」



瑠真のその言葉に、全員少し気まずそうに押し黙った。



「瑠真くん……」


険しい顔をしている瑠真に、また縋り付くように腕を絡ませる梓美。



「お取り込み中失礼!

絶品じゃがいもナムルと特製梅冷麺、生ビール2つおまたせ!」



伸さんが満面の笑みでド真ん中に現れたため、空気は一変した。



「あぁっ!マモたんズルい!

アタイも冷麺!伸さん!」


ひたすら白米をかきこんでいたカミラが声を上げた。

カミラだけはいつも、全員がいくら真剣な話をしていても箸は止めないため、なんとなく存在を忘れられがちだ。



「あ〜俺もそろそろシメいきたいから冷麺食おっかな」


「じゃあ僕もお願いします」


「てかそのじゃがいもナムルってなんだ?」


「おい知らねぇのかよココの名物じゃんか!」


「すっごく美味しいんだよぉ〜」


そんなこんなでしばらくは楽しい雰囲気で飲み会が終了し、会計は金持ちな医者の薬膳が全額支払っていた。



「いつもありがとね皆さん。

2号店も末長くよろしくね」


伸さんがいつもの笑顔でそう言ったかと思えば、突然声のトーンを下げた。



「ところで皆……今のうちに一応言っておきたいことがあるんだけど」



「「「???」」」



案内されたのは、店の隅の階段下。

床に置いてある酒瓶などを退かし、更にひいてあるカーペットを退かした。

するとそこに、ひとつの扉が現れた。



「ここさ…なにか緊急事態が起きたら、使っていいよ」



その言葉に、皆が目を見開く。



「おい、いいのか?」



「もちろん。ただの地下室だけど、君たちのために作ったんだ。

詳しいことは知らないけどさ、でも…君たちのやってることはきっと何かイイコトで、きっと大変なことなんだろうって思ってたから…」



彼はエスパーではない。

ただ、美味しい食事を作るという才能があるだけのノーマルだ。

だから当然、我々サイのことやこの世の問題については知らないだろう。

しかし、彼の店に皆しょっちゅう入り浸り、今日のように各々いろんな話をしているため、当然会話など耳には入っているだろう。

意味は分からなくても、彼なりに応援してくれていたようだ。



「もしも何かあった時は、避難所としてウチ使っていいからね。君たちにだけ教えとく。こないだみたいに何かあっちゃ大変だなと思って、こっちの新店のほうは頑丈に作ったし、これも作っといたんだ」



「……ありがとう伸さん。」



「いや、僕が協力できることなんて美味いもん作ることくらいしかないだろうから、せめてこのくらいはね。ま、出番ないことを祈るけどね?なんかいろいろと頑張ってよ」



ニコニコと笑っている伸さんには、料理以外の才能があるのではないかと光は思った。

どうにもこの人は、人に安心感とパワーを与える気がする。

だからエスパーは皆、彼の店に集まるのでは、と。




帰りは、光はなんと御子柴マモの狼に乗っていくことになってしまった。


マモが指笛を吹くと、どこからともなく大きな狼が街中をかけてきた。

もちろんノーマルには見えない。


そばには、嫌がる瑠真を無理やり自分のバイクに乗せようとしている梓美がいる。




光は目の前の、大きく鋭い目つきの白銀に輝く狼に僅かに胸をときめかせる。

怖いのにどうにもワクワクしてしまう。



「い、いいんですか?

俺が乗っちゃってっ……

馬にすら乗ったことないのに…」



「光ならいいよってウルフが言ってるよォ」


廿楽椛はウルフを撫でながら会話をしているようだ。



「ってことだからじゃあアタシの後ろに光、光の後ろに椛な。あ、いや……椛ちいせぇから真ん中のがいっかな…」



「おぉい御子柴っ!交換してくれよ!お前梓美とこっち乗ってけよたまにはっ!」


なんとか梓美のバイクから降りた瑠真が、必死に声を上げた。


「えぇっ?なんでアタシがっ

梓美のバイクの後ろはアンタの特等席だろ?」



なにやら言い合いを始めてしまった。

他の者たちは2軒目に行くとか言ってとっとと消えてしまったし、街中で見るからにヤンキー同士の喧嘩になっていて人々の視線が痛い。


光はあたふたしながら思い切って2人に割って入った。



「あのっ!俺が梓美さんのバイク乗りますよ。」


「えっ。いいの?」


「はい、まぁ、バイクの後ろってのも乗ったことないんで多少興味ありますし……マモさんのウルフくんには是非また次回乗らせてください」



なんだか昨日からずっと、自分より何個も年上なはずの人たちの面倒を見ている気がする……

そんなふうに思いながら光は苦笑いした。



「後輩に気ぃ遣わせて大人げないなぁアンタ」


「そりゃお前だろ?!たまには狼から降りろよ!」



「あらっ♡光くんかわい〜っ!私のバイクそんなに乗りたかったんだァ!いいよいいよっ♡さっ!しっかり私の腰に捕まってね♡」


「あっ……」


ギュッと半ば無理やり彼女の腰を持たされ、初めて女性の体に触れてしまった光はドキドキと鼓動がうるさくなる。



「おらぁっ!じゃっ行くぜっ!」


あ……もう人が変わってる……

なんかこういう白バイのアニメキャラいたなぁ、なんだっけ……


などと思ったのも束の間……



ビュンッー……!!

と勢いよく走り出し、危うく転げ落ちそうになった。


「ちょっ!待ってくださっ!

これっ明らかにスピード違反ですよね?!」


しかも暴走族のバイクなので音もかなりうるさい。

真面目に白バイやパトカーに追いかけられるのではないかとひやひやしすぎて気が気じゃなかった。


「おし着いたよ!ちょっとだけ寄り道させてなっ」


結局怖すぎてあまり初バイクを楽しめなかった光がクラクラしながらバイクから降ろされ初めて気がついた。


「えっ……!?」



なんとそこは……

夜の墓場だった。



「う……え?え、ちょっと梓美さんっ」



バイクを脇に止めて振り返った梓美はもう元に戻っていた。


「あ、ごめんね脅かしちゃって。

最近来れてなかったから今のうちに。

ちょっとだけ付き合ってくれる?」


申し訳なさそうにそう言って歩いていく梓美に、光は緊張感を滾らせながらついて行く。

街灯に照らされた薄暗い墓地は、こんなに気味の悪いものなのだと初めて知った。

なんだかエスパーになってから、いつも初めてのことだらけだ。



ピタリと梓美が止まった墓を見て、光は目を見開く。



「ここって……」


その一際大きく立派な墓には、

" 鳳 " と書かれているのがハッキリと見える。



「そう。ここはね、瑠真くんちのお墓。」



彼の家のものだとしたら、

つまりそれはヤクザ一家のものということだ。



「先週、瑠真くんのお父様と弟さんの、命日だったのよ」


「えっ?」


「ある日突然、2人とも殺されちゃったの」



衝撃の事実に困惑した。



" 兄弟喧嘩ってのは侮れないぜ……

ダチの喧嘩とはわけが違う。

当事者同士にしか分からねぇ感情が死ぬほど渦巻いてる分、陰湿で厄介なんだ "



そう言っていた時の不思議な空気を思い出す。

なにか関係があるのだろうか。



「私と瑠真くんね、幼馴染なんだ。」



「そっそうだったんですか?」



梓美は線香に火をつけ、半分を光に渡した。




「瑠真くんち、知っての通り、ヤクザでしょ。私の父親の会社と昔から繋がりがあってね。だから小さい頃からしょっちゅう遊んでたんだ」



大きな会社はだいたいそういった組織と繋がりがあると聞くが、梓美は大会社のお嬢様…ということだろうか?

そう思案しながら光は線香を受け取った。



「瑠真くんと弟の瑠夏くんはね、小さい頃はいつも3人で遊んでて仲良かったんだけど……大きくなるにつれ、鳳組の跡目争いで一気に仲が悪くなっちゃってね……」



「な、なるほど……」


それは映画などでよく聞く話だ。

実際やはりそういったことはあるのかと驚いた。



「組内でも、瑠真くん派の派閥と瑠夏くん派の派閥ができて……時たま内部争いなんかも起こったりして、大変だったの」



梓美の手から、ライターの炎がボワっと灯り、悲しそうな表情が見えた。


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