バーでの出会い
「えっ!じゃあ俺のリミッターを外す練習だったんですか?」
境内に腰掛け2人で水を飲みながら一息ついていた。
「あぁ。基本的にはエスパーにとって、リミッターが外れてハイの状態に入るということはすなわち通常の1.5倍から2倍ほどの力が出せるということなんだ。」
知らなかった……。
が、確かにあの時リミッターが外れ、自分はハイになっていて、なんだかなんでもできるような気さえした。
どうにかして熙が止めてくれなかったら正気を失っていたかもしれない。
「厳密に言えば、リミッター解除は鍛錬を積んでコツを掴めば自分でやることもできる。
君のことだからきっと、もう感覚を掴めたんじゃない?」
「あ……どう、でしょう?
何回かこなしてみないことには確信的なことは言えないかも……」
「ふむ。そうだよな、すまん。
私も含め、きっと皆、光くんに期待しすぎなんだろう」
「いえ!そんなことありません!」
つい少し大きめの声を出してしまった。
「すみませんっ…なんていうか俺、
もともと根が弱いし流されやすいから…
だから今日熙さんにたくさん罵倒されて叩き直されて、感謝しています」
" 君はまだ、他人を傷つけることを躊躇してるんだ "
それは、自覚はあってもずっと認めないようにしていたことだった。
" 君のその甘ったれた性根が、どうしても他人に心を持ってかれてしまう。
だがそれは本当の意味で自己中というやつだ "
「どうにも、君は優しすぎるんだろうな。
私もよくそんなふうに言われてきたからわかるよ。
自分のことよりも他人のことばかり考えてしまうんだ。」
眉を下げて笑う熙に光は頷いた。
「熙さんもそうですけど、カイトさんも…
根は本当に優しいのに、仕事や敵においては状況判断に長けてていつも冷静で、仲間にもちゃんと厳しい。
俺、すごく尊敬してます。
まぁカイトさん、たまにかなり怖いですけど」
「はははっ、カイトはあぁ見えて、かなりナイーブなんだ。
それを隠すために、あんなふうな振る舞いをしちゃってるところもある、可愛いやつなんだよ」
熙はなんだか恋人というよりも、面倒見のいい保護者のような言い方でそう言うと、何かを思い出しているようにクスクスと笑った。
「お2人は…えっと、サイで出会ったんですか?」
「いや、それが違うんだよ。
実はフツーによくありがちな、バーでの出会いだ。かなりロマンチックだろう!」
熙は随分の前のその時のことを思い出していた。
その時は東京にいた。
当然数年前からサイへの勧誘がしつこかったわけだが、私は実家の神社を継ぐか迷っていた時期だったため、保留としていたのだ。
迷っていた、というよりも……
迷われていた、と言った方が正しい。
幼少期に母親が自殺した。
母はいつも、「あなたはあの人に似ているわ」「きっとあの人が迎えに来てくれる」
そればかりを口にしている精神を病んだ女性だった。
私は幼いながらにも分かっていた。
父は迎えになど来ないと。
母が首を吊って死んだとき、私がその手で母を下ろした。
不思議と、なんの感情も湧かなかったのを覚えている。
むしろ、清々しい気分だった。
決して迎えに来ないと分かっている父の面影を常に私に重ねる母に、私はウンザリしていたのかもしれない。
先天性エスパーであった私はすぐにSKJに連れていかれ、いろいろいじられた挙句SSとなった。
そして茂さんに助けられてから突然、父親だと名乗る者が現れた。
母を捨てた父がどんな人間なのか、興味があった。
復讐しようなんて思っていないし憎悪もない。
母が死んだのは、母が自分の価値を他人に委ね、弱くて脆かった母自身のせい。父のせいではない。
母があんなに会いたがっていた父は、皮肉にも母が死んでから現れた。
なんと父は、神職だったのだ。
ただ後継者がほしかっただけの父は、私に素質があると判断すると、私を引き取り、ありとあらゆることを叩き込んだ。
しかし……
「穢らわしい!信じられん!
自分の息子がまさか……あぁ……最悪だ」
ある程度の年齢になってから、私が同性愛者だと気付いた父は、私に絶望した。
この世で私を必要とする者が、
誰もいなくなった気がした。
そんなある夜、時たま来るバーで飲みながら寂しさを紛らわしていると、隣にとてもタイプな小柄な青年が来た。
片耳にピアス……ということは……
ふと目が合った瞬間、
お互いに目を見開いた。
「お前も……なかなか大変だったんだな。
お疲れさん」
そう言ってカチンとグラスをぶつけられた。
第一声に他人からそんなことを言われるなんて……
他人の記憶を読むカイト……
彼は他の人間たちとは違って、同情や憐れみに満ちた目ではなく、しっかりと私の目を見て対等に接してくれる初めての人間だった。
「バーで、隣の席に座ってたとかですか?」
「あぁ…まぁそうだね。
バーってのはあらゆる人の念が溜まる場所でね。その後そこの店長も影憑になっちゃったりしてまぁいろいろあったのを覚えているよ。
とにかくカイトとはそこで出会って一目惚れさ。
これが運命の出会いってやつかぁと思ったのを今でも覚えているよ。」
「へぇ!そういうのって本当にあるんですね!
あれ…ていうことは、熙さんはカイトさんがいるからサイに入ったんですか?」
「うん、その通り。
はじめは私もガゼルだったんだがね、見事に離されてしまったよー。」
「大阪と東京じゃあ結構遠距離ですもんね…」
「あいつは極度のヤキモチ妬きだから大変なんだ。おまけに束縛も結構激しめで」
「えっ!カイトさんがですか?
めちゃくちゃ意外……まぁでもさっきも俺を見る目凄かったしなぁ」
「だが私だってカイトのことをいつも心配している!あんなに魅力的だったら、男も女も何しでかすか分からない!そうだろう?!」
「えあっ」
「教えてくれないか?!普段の彼の様子を!!最近なにか、変なのはついてないか?!」
突然、うるうるの目で激しく肩を揺すられ、光は苦笑いする。
確かに2人とも物凄く容姿は良いが、
2人の間にはどんな者でも入り込む隙はないと誰がどう見ても分かる。
お揃いのピアスまでしてるくらいだ。
「ははは、変なのなんてついてませんよ。
どちらかというと、誰にでも愛想が良い熙さんの方がどうなんですか?」
どう考えても、常に態度も口も悪いクールなカイトより、誰にでも常にニコニコと愛想が良くて面倒見の良い熙の方が、恐ろしくモテるはずだ。
「私が浮気?!
するわけないだろうっ!」
「いや浮気とは言ってませんけど…」
「私は生涯かけてカイトを愛し続ける!」
「あ、はい……」
声たかだかにこんな神社の境内で宣言されても……と思っていたら突然……
ブォンブォンブォン!!!
と凄まじい音が聞こえてきたかと思えば、それはどんどんこちらに近づいてきた。
そして集まってくる派手なバイク、派手な人たちに、光も熙も目を見開いた。
「まさか……」
光が呟くのと同時に、
「「「お疲れ様です!!!」」」
ズババババババと一際すごいスピードで目の前にスライドストップしたのは……
「……桜小路」
「梓美さん……」
特攻服に身を包んだレディースたちが頭を下げる中、一際派手で際どい姿の総長・桜小路梓美が可憐に?登場した。
いつものようにバットを持っている。
こうして本物の暴走族を前にすると、ものすごい迫力だ。
とくに梓美なんかは……
「ん……?」
梓美がこちらに気づき、鋭い眼光を突き刺してきた。
光はゴクリと生唾を飲み込み、今後の展開を想像し不安を滾らせた。




