一生最強になれない
初日には、ランダムでそれぞれのペアになる順番を決め、各々ペア同士ならば自由に訓練や任務をして良いことになった。
ペアは時季誠がPCでランダムシャッフルをして決められたのだが……
一番最初の光のペアは、カイトの恋人である加瀬熙だった。
「やあ!キミに会えるの楽しみにしていたんだよ!宜しくな!」
熙はカイトとは本当に正反対で、笑顔が多く、ハキハキと明るい人物だったため、光は自然と緊張感が和らいだ。
なにより、変わり者の多いこの組織の中で、唯一マトモな大人にも見える。
「こちらこそ宜しくお願いします!」
一番最初にこの人でよかった〜!
と胸をなで下ろしていたのだが、なぜだか背中に妙な悪寒がし、恐る恐るその方向を見ると……
カイトが黒いオーラを纏いながらこちらを見ていた。
ヤバいっ……!!
絶対嫉妬されてるじゃないか!!
光が顔を青くしていることに気がついたのか、熙は「ん?」と言ってその視線に気がついたようだ。
「はははっ!カイト、そんなにヤキモチ妬くなんて本当に可愛いな♡」
「なっ!妬いてねえよ!うるせぇな!」
これがツンデレってやつだろうか……と光は苦笑いする。
とにかくこの2人も、玲二と柚のようにラブラブということだ。
「はぁ……皆いいなぁ……」
なんて無意識に呟いてしまった自分に気が付き、光は急いで頭を振った。
そんなことを言っている場合ではないのだ。
「おや、光くんキミ……
私の札を持っているようだね」
「あっ」
そういえばそうだ。
この世界に入るきっかけとなったあの日、まだ人間の放つオーラや音や影などの対応が身体に染み付いてなくて立っていることすらままならなかったどうしようもない自分に、カイトがくれた札……それを今も持っている。
有名な神社の家系であるカイトの恋人のものだとカミラが教えてくれたことも思い出した。
「そうか!カイトは相変わらず優しいな!」
「はい。そうなんです」
カイトはいつも口が悪いし顔も態度も怖いけれど、根は本当に優しい人だと思っている。
そして恋人であるこの人も見るからに優しそうな人なため納得してしまった。
熙の提案で、街中へ出ることになった。
彼のスキルは、より大きく強い対象に向いているらしい。
「私のスキルはね、基本的に札を使うんだ」
生まれが神社なため、なぜかそのハーフのような顔つきとは裏腹に、熙は御札を使ったスキルやまじないといった類のことを得意としている。
「たとえばこんな感じ」
熙は取り出した札3枚を、それぞれの方向へ飛ばした。
そこからそれは三角形を描くようにして繋がり、中に閉じ込めていた範囲の影はたちまち全部消滅した。
「えっ!」
光はその可憐で素早い行動にある種の感激を覚えた。
秒数にして3秒もかからずあっという間に範囲内にいたものは消滅させてしまった。
「すごいです…
でも俺は神社の特別な力とか御札とかないし……」
「そこでだね、実は私は合気道や空手といった武術もある程度のレベルまで会得していてね。
今回はそれを君に教えようと思う。
対人格闘…これは今後絶対に必要になる。」
光は一気に緊張感を滾らせた。
なぜならそういったスポーツは一切触れたことがない上に、目の前にいる熙の図体が愁磨並に大きく頑丈そうで、これからこの人に対人格闘術でしごかれると思うと不安しかわかない。
「なあに、そんなに気負わなくて大丈夫だよ。対人格闘と言っても、スキルを使いながらなら絶対キミ得意だろう?」
ひとまず街の古めな神社に到着した。
境内の前は広々としており、そこで2人は向き合った。
「さぁ!」とニコニコしながら構えられ、光も急いで距離をとって構える。
これが柔道なのか空手なのか合気道なのかなんなのかは正直分からないが、目の前でブワッとオーラを発動させる熙の変わりようにゾクリとなった。
「では……いざ!参る!」
「え?」
それって剣道とか剣術の時に言うセリフじゃ……と思ったのも束の間……
目にも止まらぬ早さでいつの間にか物凄い威力の蹴りが飛んできていた。
バシュンッー…!!
「うっ……!」
あまりの速さに避けきれず、光は勢いよく遠くに飛んでいってしまった。
なんとかバク転をして止まり、怪我をしないで済んだのだが。
「っ………」
え、こっっっわ!!!
あんなニコニコしときながら突然こんな威力とスピードって怖すぎる!!
まるで本気で殺そうとしてきたかのような気迫だった!!
「どうした?早く体勢を立て直して反撃をしないと、すぐ殺されてしまうよ」
「こんなふうに…」と言っている熙はもう自分の真横にいた。
「っっ!!」
間一髪でなんとかパンチを避ける。
そこからはもう、息すらしている暇がないほど攻撃の嵐だった。
避けるのに精一杯で反撃ができない。
バンッ!
「嘘だろう?君はそこまでの男だったのか?」
ドカッ!
「すみませっ…!でもっ!
熙さんすごくっ!はっ!速すぎてっ!」
バシッ!
「敵を前にしてそんな言い訳は通用するのか?」
バシバシバシバシ!!
ドドドドドドドド!!
このまま彼の好きにさせていたらこの神社は崩壊するのでは?と思ってしまうくらい、とにかく凄い。
しかし恐らくこれでも少しは手加減しているのかもしれないとも思った。
きっと本気を出されたら一溜りも……
「いや…っ、スキルを出せばっ…」
光はなんとか攻撃を避けつつスキルを滾らせた。
そして次の蹴りが飛んできた瞬間……
パッー…!
「?!?!」
突然消えた光に、熙は目を見開く。
その瞬間、気配はすぐ後ろからした。
「はっ!」
光の攻撃を、間一髪で避けた熙は汗をかきながらニヤリと笑う。
「そうだ!私を本気で殺すつもりでかかって来い!」
光はそのまままた消えたかと思えば、
今度は熙の頭上へ回り、炎を発動した。
炎のスキルは、一番最初の美乃里との出来事の日に自然と付与され使役できるようになっていたスキルだ。
これに当たればあの時の蓮砲のように灰になる。
しかし相手はSSである加瀬熙だ。
手加減などしていられない。
「ははっ!やはり凄いなキミの万能スキルは!」
ドドド!
バシッ!
ようやくこのスピードに順応してきた。
そしてようやく反撃ができるようにもなってきた。
気がつくと、かれこれ1時間以上たっている。
長時間集中力を切らさないための鍛錬も、このように生死を彷徨うような厳しさがないといけない。
光は息を切らしながらも、少し気を抜けば殺されてしまいそうなこの鍛錬にいつのまにか高揚感を得ていた。
ドゴンっ!
「っう!」
ついに熙に攻撃を当てることができた。
「ふっ…その調子だよ光くん!さぁっ!」
バシッ!
熙は更に威力とスピードを上げていく。
対する光の目は、先程の少し緊張感が混じったような弱々しさは微塵もなくなっており、鋭くぎらついていた。
「そういえば君は、エスパーになる前に大切な人をたくさん失ったそうだね?それはきちんと君の原動力となっているのかな」
その言葉に、光の心臓に僅かに痛みが走った。
あまり思い出したくないことを久しぶりに思い出してしまった。
ドガガガガっ!!
「いくら多くの才能を譲渡されたからって、全て使いこなせないなら先人の命が無駄になるね。」
バシュッ!!
「っ!わ、わかってるそんなこと…っ」
ドカッ!!
「最強になるのなら……光くん」
バコンッ!
心が乱れたせいか、避けたはずの蹴りが当たってしまいグラリと目眩がした。
「甘い考えは微塵も持たぬことだ。
今のようにね…」
「なっ?俺は今本気でやってます!」
放った拳をガシッと掴まれた。
「やってないんだよ。私にはわかる…」
そのまま拳を引き寄せられ、ずいっと近づく熙の顔に冷や汗を流す。
「君はまだ、他人を傷つけることを躊躇してるんだ。」
ドクッと鼓動を打たれた感覚がした。
目と鼻の先にある大きな目に、まるで全てを見透かされているような気分になる。
「私は先程、殺すつもりで来いと言ったよ。
だが君のその甘ったれた性根が、どうしても他人に心を持ってかれてしまう。
だがそれは本当の意味で自己中というやつだ。」
「っ!」
「君はね光くん…自分が変わってしまうことを一番に恐れているんだよ。」
核心をつかれた感覚になり、
ハッと目を見開いたまま言葉が出てこない。
「そもそもね、光くん……」
もうやめてくれ…
何も言わないでくれ…!
ジリジリと力比べになる。
熙の強さに押し負けそうだ。
「100人の才能が譲渡されたなら、100人分の威力を出せるはずなんだ。
なのに君はなんだ?並のエスパーせいぜい3.4人分と言ったところか。」
手が震え、体が震えてきた。
もうそれ以上言わないでくれと、本能が脳裏にこだましていた。
「それで自分は強くなっただなんて少しでも勘違いしていたなら君は一生最強になんかなれないぞ!!!」
次から次へと刃がズサズサと心に刺さった感覚。
痛いところばかりを一気に貫かれたような感覚。
「分かってますよそんなこと……」
下唇を噛み、ググッと拳に力を入れる。
なぜか溢れそうな涙を必死に耐えた。
「人を傷つけ殺せる俺になることは必須だってことくらい……」
熙は俯いて顔が見えない光に目を細めた。
少しづつ、光から先程とは違ったオーラが滾ってきていた。
「人が1番力を発揮するのはどんなときか、知っているかい?」
熙は口角を上げ、ゆっくりとした口調で言った。
「憎悪だよ……。
その力はこの世で最も強いトリガーなのだ」
" 光お兄ちゃん! "
かつて何度も聞いたその声が突然の頭に響いた。
まるで脳が記憶を強制的に手繰り寄せてきたかのように次々と他の子たちの声まで響く。
「う…っ…るさいっ……うるさい…!」
頭の中が、その声でいっぱいになる。
わかってる……
本当はわかってる…!
あの子たちの…そして俺に…未来に…力を託した皆のことを裏切ってるって……!
俺が本当はどうしようもなく根性無しで、臆病で、甘ったれた奴だってことくらい……!
「わかってた……!!」
その瞬間、ブワッ!とオーロラのようなオーラが光を纏い始めた。
熙は飛ばされるように急いで距離をとる。
「おぉ……」
目の前の光の威力に、熙はつい感嘆してしまった。
「これは凄い……こんなもの見たことがない…」




