魅惑のスキル
「あぁっもおっ!マジでふざけんな!なんで僕までこんなことしなきゃなんないんだっ!」
大惨事をなんとか解決し、店側に咎められそうになったエリカを、亜蘭のスキルでどうにか保護し、今は店の片付けを手伝わされている。
箒を振り回してキレている朧の言うことは最もである。
「だからお金払うって言ってるじゃないか〜頼むよ朧くん〜」
「別に金なんか普段貰ってっから要らないよ!」
そう。我々サイメンバーは、こなした任務に応じて一応は給金が出ているのだ。
そのため、お金に困っているエスパーはいない。
「やっぱ僕帰る!早く玲二先輩に会いたいし!」
「あっ!じゃあさ、こうしよう朧くん!
今回のお詫びも兼ねて、今度の僕が声優を務めてる映画の前試写会のチケット2枚あげるよ!玲二くんと映画デート!いいだろ〜?」
「えっ……。や、その手には乗らないよ。
別に亜蘭くんの声なんて聞きたくないし、そもそも映画デートって画面見つめてるだけでお喋りもなにもできないし意味無い」
「じゃあそれにプラスして、スカイツリー最上階の高級鉄板焼屋さんのディナーも玲二くんと2名で御馳走する!これでど」
「わかった」
間髪入れずに了承し、作業にとりかかっている朧は、なんだかんだ言って実は本当に単純な性格なのだろう……
と光は思った。
「あ、ごめん、光くんにももちろんお礼するからさ!プレゼントのお礼も!何がいいかな?」
「いやいや、俺は別にいいです。
そもそもプレゼントって言ったって勝手に俺が作ったアイマスクなんかだし、お返しを頂くようなものじゃ」
「ややや何言ってるんだい、あんなに感激したプレゼントなんてなかなか無いよ」
「えっ…そ、そんなに?」
「あぁ!だからなんでも言ってほしいな!本当になんでもいいよ!そうだなぁ……君の雰囲気だとなんだか……うん、BVLGARIなんかいいんじゃないかと思うね!」
亜蘭のような人間がそんなに喜んでくれることに若干の疑問を感じつつも、ブランド物には全く興味が無いため、「じゃあ……」と口を開く。
「亜蘭さんのスキル、習得させてください」
「え?」
「まだ亜蘭さんとの訓練、してないので。
教えてもらえる時間を作ってください」
まさかそんな希望を言われるとは思ってもみなかったので、亜蘭は目を丸くする。
「うん。わかった。いいよ」
ニッコリと笑って返事をし、さていつなら調整がつくかと思案する。
正直、実生活の仕事に任務というスケジュールをこなしていると、昼も夜も多忙ゆえにいつもあまり寝ている暇がないほど忙しい。
しかし、光の頼みとあっては何がなんでも遂行せねば。
「他人を魅惑するスキルって……どんな感じなんですかね……」
光が濡れたテーブルを拭きながらポツリと呟いた。
「それってなんか……想像つかないです。
皆自分を好いてほしくていろいろ努力したり悩んだりするのに、逆に悩むほど誰彼好かれちゃうって……どんな感じなんだろうって」
目を見開いて沈黙している亜蘭に気付き、光は慌てて手を振った。
「あ、違うんです!今のは嫌味とかじゃなくてっ!その……単純に俺、誰かに好かれるのって、ちょっと怖いから」
「どうして?」
「……その人にいつか嫌われるんじゃないかとか、期待を裏切るんじゃないかとか、いつか……いなくなるんじゃないかとか……」
光は、真奈美や美乃里のことを思い出し、顔を歪めた。
そして、親や親友、周りの仲間たちのことも。
「1度自分を好いていた人が自分から離れた時の……自分の感情が……怖いんです」
亜蘭は、ふ……と笑って視線を落とした。
「……そっか。確かに君の言うように、好かれるっていうのは、いいことばかりじゃない。」
「そう……ですよね……」
「でも……」
亜蘭はテーブル上のシャンパンが溜まった水面に映る自分を見た。
きっと僕はいつもあのころ……
こんな顔をしていたんだろうな……。




