表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/141

亜蘭の過去①



僕は生まれた時から綺麗な顔をしていたらしい。

色白で艶やかな髪、長いまつ毛に神秘的な目の色。


僕を見た誰もが、僕に魅了された。



僕の母親は、僕を妊娠したときから独りだった。

詳しくは聞いてないけど、きっと男に捨てられたんだと思う。


母はとても美人だった。


僕がお腹にいた状態でも、僕が生まれてからも、ずっと夜の仕事をしていた。

男に酒をつぎ、煽て、自分がどんなに楽しくなくても笑顔を作り、客のガス抜きをする仕事だ。


だから僕はよく、母の兄に預けられていた。

兄も美形な顔立ちだったのだが、それがまぁ……ヤクザ紛いの商売をしたり、女のヒモみたいなことをしたり、テキトーに生きているようなどうしようもない男だった。



「ったく俺はなぁ、麗華がお前を産むのに猛反対したんだぜぇ?女手一つで無理だってな!俺らにも親いねぇし、経済的に余裕もねぇし。でもあいつはお前を産むっつって聞かなかったんだよ!」


よく酔っ払うとそんなことを言っていたが、僕の面倒はテキトーながらもとりあえずはいつも見てくれていた。

だから僕はどちらかというと、母よりも、その辰巳(たつみ)おじさんに育てられたと言ってもいいだろう。



辰巳おじさんはとても強いエスパーだった。

僕もおじさんも母さんも、耳の裏にアザがある、先天的なエスパーだ。

僕が生まれた時、当然国から莫大な金とともに打診があったらしい。

しかし母は、断固としてそれを拒否した。

母の母も、そのまた母も、絶対に我が子を国に譲るようなことはしなかった。



それには理由がある。



僕の家系のスキルは、特殊すぎるからだ。


特殊だからこそ、先祖代々、これを国に渡さずに守り続けていた。


この能力が国に都合の良いように使われてしまっては、危ういことになるのが目に見えているから。



わかった上で国は、僕らの家系を追っていた。


バレれば国の組織へ連行されてしまう。


だからこの家系に生まれればずっと、スキルを隠して生きなければならない運命だった。



ただ生きているだけなのに、狙われていた。




しかも僕に関しては、もっと特別だった。




「うわぁぁあ〜〜ん!!」



ボコッ!ドゴッ!


「ひぃぃぃっ!もうやめてくれっ!」



「うわぁぁあ〜〜ん!」



物心ついた頃だ。


泣き喚く僕の目の前で、辰巳おじさんは煙草を咥えながら男を叩きのめしている。



「ふぅ〜っと……ったく!また世話かけんじゃねぇよ!お前はいつもいつもっ!おら、もういい加減泣きやめ!」



辰巳おじさんはもう数え切れないほど僕を変な奴から救っているから、さすがにウンザリしている。



「ったく!変態ホイホイかてめぇは!」



そう。僕は、誰かれ人を魅了してしまうのだ。

僕と目が合うと、誰もが僕の虜になってしまう。


その頃の僕はまだ、スキルの抑制ができていなかった。

だからというのもあるが、僕のそのスキルはあまりにも強かったのだ。


僕の家系は、人を誘惑するスキルがある。

しかし僕とは違って、自分に心を開いてくれた者にのみ有効であり、初対面には効力を示さない。


だから僕の、目を見た者なら100%誰にでも効力があるなどという突然変異的な特殊スキルは、日常生活では毎日苦労した。


人と目を合わせるのが怖くて、学校では当然、根暗で嫌な奴というレッテルを貼られて虐められた。


そんな子供時代、こんな僕に唯一優しくしてくれる女の子のことを好きになった。


目を合わせたい。

でももちろん合わせられない。

だからいつも盗み見ては目を逸らしていた。


その子は裁縫のスキルがあって、休み時間にはよく何かを作っていた。



「亜蘭くん、これあげる!

サイズとかわからなくて、上手くできたかちょっと不安なんだけどね!」



ある日突然、目の前に差し出されたアイマスク。

可愛らしいクマ柄の布で、しかも良い香りがした。



「ありがとう……」



僕は頬を染めながら、目を合わせずにオドオドとそれを受け取った。



「亜蘭くんてお勉強よくできるし、きっと毎日目が疲れちゃってるんだよね!だから少しでも良くなるかなって」



彼女は僕の目を心配してくれていた。


違う。そうじゃない……

疲れてるなんてとんでもない。

僕だって本当は皆みたいに普通に目を使いたい。

今だって、君の目をちゃんと見てお礼を言いたい。


僕のことを考えて、僕のためにそれを作ってくれた彼女に対し、申し訳なさが募った。



「瞳子ちゃん…ごめん、そうじゃないんだ…

ただ……目を合わせちゃダメなんだよ…」



好きな子を魅了できるなら、誰もがそうしたいと思うだろう。

でも、本気で好きな子を目の前にした時、やっぱりそんなことはできないものだ。

そんなことで彼女が自分のことを好きになっても、心の底からは満たされない。



「とくに瞳子ちゃん……君とは目を合わせられないっ……」



言ってしまってからハッとした。

自分は今、なんてことを言ってしまったんだろう。

いくらなんでもそんな勘違いしかしないような言い方はないだろう。

絶対傷つけたに違いない。


急いで謝ろうとすると、彼女からはいつもの優しい声が聞こえた。



「無理に人と目合わせる必要なんかないよ。ただ亜蘭くんには、もっと自信を持ってほしいかなー」



「え……」



「ふふふっ、亜蘭くんね〜、私が好きな絵本の王子様にそっくりなんだ〜」



驚いて彼女の口元だけ見つめると、白い歯を出して笑っていた。



「あのねっ、その王子様はねっ!いっつも自信満々でカッコよくて、みんなが王子様のこと好きになっちゃうの!1度見たら、誰もが王子様のこと忘れられないの」



自信満々?…じゃあ僕とは逆じゃないか……

そう思った。



「ある日王子様はね、疲れちゃったの。あんまりみんなが好きになるもんだから。

だから王子様は、自信満々に振る舞うのをやめたの。

自信がなくて、人と目を合わせず、臆病な自分として生きるって。

そしたらね、本当にそうなっちゃったのよ。

その先もずっと、人と関わることが怖くなっちゃったの」



僕は目を見開いたまま、アイマスクに目を落として固まっていた。

アイマスクにプリントされている、誰もが好きなテディベアを見つめていた。



「だから亜蘭くん。みんなに好かれることを、恐れちゃダメだよ?

王子様はずっと、王子様らしくいなくちゃ。」



それから僕はまるで、生まれ変わったように人が変わった。


スキルの制御を学び、髪をブロンドに染め、目立つ身なりをした。

辰巳叔父さんに、目立つなと言ってるだろ!と散々罵倒されようと、やめなかった。


そしてちゃんと人の目を見られるようになってから、気がついたことがあった。

瞳子ちゃんの瞳の奥には、よく見ると小さな天使の輪っかのようなものがあり、それがとても美しいということに。



小学校を上がる頃には完全に、瞳子ちゃんが見せてくれた絵本の王子様が出来上がっていた。

スキルなんか使わなくても男女問わずモテていて、一部の男子からは嫉妬されていた。


でも……


それでも彼女は僕に惚れてはくれなかった。



「瞳子ちゃん、僕、そろそろ完璧に瞳子ちゃんの好きな王子様だろ?だから付き合ってほしいんだけど」



「だから何度も言うように、

二度と忘れられないほどインパクトのある王子様じゃないとダメなの!」



「もうっ!だからこれ以上どうすればいいのさっ」



笑うだけで、教えてくれなかった。

僕に何が足りないのか。

王子様になるためには、あと何が必要なのか。


だから僕は毎日努力していた。

たった1人に好かれるために

自分を磨いて、磨いて、磨いた。


それでも……



「まだダメ〜

忘れられないほどのインパクトがないと」



100万人に好かれるよりも、心から想うたった1人に好かれる方が、遥かに難しかった。

それでも僕は、意地でもスキルは使いたくなかった。



そんなこんなで気がつけば、中学を卒業しそうになっていた。

そしてついに僕は、国に見つかってしまった。


叔父さんは、僕が学校に行っている間に母だけを海外に飛ばし、僕を車に乗せ、ある場所に連れていった。


それが、SPI本部。

そこには知らない人が数人立っていて、僕はわけも分からず体が震えた。



「おい、連れてきたぞ。こいつが亜蘭。」



叔父はポンと僕の背中を押した。



「今日からお前はここで生きろ」


「……は?何言ってるの叔父さん……」



男は怯える僕を見たあと、叔父さんに視線を移した。



「辰巳、お前はなぜそう頑なにうちに来ない?」


「あ?俺は正義なんてもんに人生捧げるほどつまんねぇ人間にゃなりたくねぇんだよ」


「甥は売るのにか」


男は分厚い封筒を叔父に渡しながら、僕の肩を引き寄せた。


「えっ……ちょっと何っ?

何の話をしてるの、ねぇ辰巳おじさっ」


「お前の城はここだよ亜蘭。好きだろ?正義の象徴みてぇな王子様とやらが」


「まっ待ってよ辰巳叔父さん!!

なんで僕を売るんだよ!最低だよ!

母さんはどこなの!叔父さん!」



追いかけようとしたが、男に阻まれる。

その人が後々知ることになる、茂さんだった。



「大丈夫だ。ここが君にとって1番安全なんだ。」


「叔父さんの……ばかぁぁぁあああ!!!」



そこから僕はサイメンバー。

母にも叔父にも、瞳子ちゃんにも会えなくなった。

瞳子ちゃん、どこで何してるかなぁなんていつも考えていた。

好きな人とか、できてなきゃいいなぁなんて。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ