雫と唯央里
翌日も、雫は唯央里に様々な場所や人を案内された。
一緒に遊んだり、お喋りしたり、ご飯を食べたりした。
障害がある人も、病気の人も、老若男女すべての人が、ここでは幸せそうに笑っている。
「「「唯央里様〜!」」」
こちらに走って向かってきた何人かの子供たち。
その中に、真っ白い子供が3人いた。
他の小さな子供たちに飛びつかれたり、おんぶしたりしている。
「綺麗……」
雫は思わずそう呟いてしまった。
「彼らはアルビノです。とある地域では、アルビノの人たちの骨や身体の一部を切断し食べれば富がもたらされるなどといった迷信があり、現在でもアルビノ狩りが行われています。
そこで助け出した子です。」
惨い世界はあらゆる所に蔓延っている。
自分だってそうだった……
雫はアルビノに関しては詳しくなかったため、知らなかった事実に心を痛くした。
しかし、外の世界では差別の対象となるここにいる人間たちは皆、まるで初めからこの世界しか知らなかったように見えるくらいに、幸せそうに笑っているのだ。
「ここは本当に……1つの国みたいですね」
「私は、才能などに脅かされることなく、弱者でも自由に幸せを享受できる世界を作りたいのです」
唯央里はそう言うと、足元の小さな白い花を雫に渡した。
「花言葉は、自由な幸せ。」
雫は花を受け取ると、「二輪目です」と言った。
「さっき、小さな男の子にプレゼントされちゃったので」
そう笑うと、唯央里はくすくすと笑った。
「先を越されてましたか。残念です。
……いつかあなたに何かを差し上げたいです。この世に一つしかない、何かを……」
雫は一瞬目を丸くしたかと思えば、薄らと笑う。
「じゃあ……目に見えないものとか」
「目に見えないもの……?」
「例えば……笑顔とか、感動とか、平和……とか」
唯央里はハッとしたように息を飲み、「いいですね」そう言って面の中で自然と笑顔になった。
唯央里と雫は庭園の真ん中にある椅子についた。
すると、気がついた子供たちがそれぞれ花を積んできてはテーブルに置いていく。
なんとも可愛らしくて、雫も自然と笑顔になっていた。
「さっき私はあんなこと言いましたけど……私も、生まれて来なければ良かったとずっと思って生きていた時期があります。」
開放的な気分になったからなのか……
不思議と、ここにいるとなぜか、誰にも話したことのない自分の話をしたくなってしまった。
「私は、とある国の、とある街で、戦う為だけに育てられました。」
互いの子供や奴隷を戦わせて賞金を稼ぐ、喧嘩賭博というやつだ。
私はどんなに傷を負っても再生するから、いつも大金がかけられていた。
食べていくために戦った。
人を傷つければ傷つけるほど褒められた。
だから私は……
人を傷つけて、傷つけて、傷つけて、傷つけた。
傷つければ傷つけるほど、私に価値がついたからだ。
私は、私に価値をつけてあげるために戦っていた。
ただ、生きてていいんだと思えるために。
でも……
どうしてだろう……
人を傷つければ傷つけるほど、自分が傷ついた。
いくら身体の傷は治っても、心の傷は少しも治らない。
傷つきすぎて……
私なんて、生まれて来なければ良かった……
そう思った。
私の才能は、人の傷を治すためにあるものじゃないの?
人を……癒すためにあるんじゃないの?
誰かが言っていた。
才能は、選ばれし者が天から授かった神の一部なのだと。
「神様は……人を傷つけるために私に才能を与えたんだと、あの頃は信じ込もうとしていた。だから、誰かを癒すなんてことは、罪なのだと思うようにしていたんです。ある人に出会うまでは……」
" 人を傷つけて自分が傷つくのは、人は自分の一部だからだよ。君の才能は、自分のことも人のことも癒すことにある。"
「その人は私に、正しい才能の使い方を教えてくれました。そして、私が生きている意味も。」
" 君はこれから、傷つけた人間の数より多くを救える。だから君は、誰よりも生きる価値があるんだ。誰よりも長生きすべきなんだよ "
唯央里は、そんな雫の話をただ静かに聞いていた。
そして、かつてあの人が言っていた言葉を思い出す。
" 人を傷つけるために、神様が才能を授けるわけない。
そもそも人は、人同士が支え合うためにたくさん存在しているんだ。"




