マトモなエスパーがいない
「あっ!梓美先輩っ!!」
柚が嬉しそうに呼ぶ方向を見る。
桜小路 梓美がバイクごとこちらに向かってきた。
ブォンブォンブォン!と物凄い音を立ててズババッと止まった。
若い女性がバイクに乗っているこんな身のこなしは、一見すると誰もが2度見してしまうほど惚れ惚れするものだろう。
しかし週一でしかガゼルに来ない梓美の謎すぎる面を知ってからというもの、光はどうにもこの人物から逃げたくなってしまう。
「また1週間ぶりですねっ!」
「おうよ。元気だったか柚〜」
ヘルメットを取りパラパラとシルバーの長髪を靡かせる梓美は、ハーフのような整った顔立ちにナイスバディの、いわゆる男ウケ抜群な容姿をしている20歳の女性だ。
しかも極めつけは、はみ出そうな乳……
「おう、光っ。あれからどうだ、鍛え上げてるかー?」
「あっ、はい、まぁぼちぼち……」
「なんだお前辛気臭い顔して!
なんかあったなら聞いてやるぞー?
ほら、言ってみ?」
バイクに跨ったまま、グイと顔を近づけられたが、光は苦笑いをしながら後退る。
実は、バイクに乗っているこの状態の時の彼女が光は少し苦手だ。
決して悪い人では無い、どころか本当に良い人なのだが、バイクに乗っていると姉御肌が強くなりすぎているし……そもそもその体型でその……その服装!!というのがもうなんというか……
いや、本題はそこじゃない。
「と、とりあえず梓美さん……バイクから降りませんか」
光は改めてそのバイクをチラチラと見る。
真っ黒いHONDAのなんとかって立派なバイク……らしい。
に、その!ピンクの!ロゴ!!
誰もが2度見どころか数度見てしまうであろうソレ。
そう、彼女はなんと……
あの有名なレディース暴走族「美威凪珠」
総長、桜小路梓美なのだ。
というわけで、今着ているピンク色の特攻服も、バイクに堂々と描かれたチームのロゴも、特攻服に刺繍されている「三代目総長」という文字も、全て、この桜小路梓美という女を説明するには切っても切り離せない。
「梓美さん……まさか今日も喧嘩帰りとかじゃないですよね?」
「あ?……よっこらせっと」
梓美がバイクを降りた。
次の瞬間……
「んもう、やだ、そんな……喧嘩だなんて物騒なことしないわよ、光くんったらもう相変わらず冗談おもしろいんだから……♡ちょぉっと女子会していただけよ?」
「……集会のことですよね?」
そう……。
桜小路梓美は二重人格かというくらいに、バイクを触っている時とそうでない普段とで人格が違すぎるのだ。
スキルは、いつも持ち歩いているその物騒なバッド。
暴走族のトレードマークとも言えよう。
それと、そのギャップ……とでも言っておこう。
とにかく光は、何度目か顔を合わせた今でさえ、まだその情報量の多さについていけてない。
「……あ、そうだ梓美さん、紹介しますね。
こちら新しいガゼルメンバーの中條志門くんです」
志門は当然、まるでオバケでも見るかのような顔をしている。
子供にはやはり刺激が強すぎるようだ。
「あら……まぁ、かわいい新入りちゃんですこと。よろしくね♡私は桜小路梓美って言います。ふふ♡」
長い睫毛が触れそうになるくらいに顔を近づけられた志門の頬は、ポッと赤く染まった。
ズババッと後退りして言葉を失う志門。
ここまでは完全に初対面のときの光と同じ反応だ。
「よぉ、梓美」
広場のベンチに腰掛け、ギターのチューニングをしていた奏に嬉しそうに振り返る梓美。
「あっ、奏くぅーん!
来てたのね♡もういるならいるって言ってよ!」
「そりゃ今日は月1定例会の日だから来なきゃマズイだろ。普段滅多に顔出さない俺らみたいなメンバーは特にな。」
そう。今日は月に一度のガゼル報告会の日なのだ。
光にとっては初めての会議の日である。
「ところで今日は、瑠真くん来ないのかしら?」
「お、噂をすればだ」
目の前に、明らかに怪しげな高級車が止まった。
運転席から強面なスーツの男が降り、後部座席を丁寧に開けた。
そこから降りてきたのは、鋭い目付きに咥えタバコ、綺麗にセットされた黒髪に小綺麗なスーツ姿、只者では無いオーラを存分に醸し出しているその男は……
「行ってらっしゃいませ、ワカ!」
どこからどう見ても只者ではないこの男は、
鳳組 若頭・鳳 瑠真(26)
ヤクザの息子である。
「るーまーくーーーんっ!♡」
ダダダダダダッと凄い勢いで走ってきて思い切り飛びついてきた梓美に、真っ赤な顔になって鼻血を出す瑠真。
ナイスバディな上に、特攻服の下は乳房がはみ出そうなサラシ1枚。そんな姿でいつもギュウギュウと抱き締められるため、異性慣れしていない意外にも真面目な瑠真は毎回鼻血を出してしまう。
「る、瑠真さん、これどうぞ……」
「あ、あぁ……サンキューな」
光からティッシュを受け取り、鼻に突っ込むその間も、梓美は瑠真にくっついて何やら喋っている。
なぜか梓美は瑠真にだけはこのようなデレデレ態度なのだが、これは恋なのだろうか……?
「HEY, everybody! ご機嫌いかがかな?」
またどこかの高級車が止まり、窓から顔を覗かせるサングラスの怪しい男。
「あー、そいや忘れてたな、あいつの存在」
奏が呟くのと同時に若い運転手が後部座席を開け、
ベルサイユから出てきたのかというような巻き髪ブロンドヘアーに白スーツの明らかにキザ風サングラス男が現れた。
スラッと背が高く、眩しいくらいの白い歯。
一見王子様を意識しているような佇まいだ。
「お前!遅かったじゃないか亜蘭」
「はは、嫌だな、愁磨。1周まわって常に僕が1番早いんだよ。時間でさえ僕より前に行くことはできないのさ。」
「………?」
亜蘭フェルナンド(23)
表社会ではホストとして有名である。
彼のスキルは、相手を自分に惚れさせるというものだ。
彼と接したノーマルの者は皆、彼のことが頭から離れなくなる。
なんとも末恐ろしいスキルである。
「んん〜っ……ここは相変わらず、僕が来ると空気が美味しくなるね♡」
「……別にお前のおかげじゃねぇよ。ノーマルがいない場所は影憑も何もいないから空気が澄んでるし、安全性を考慮して標高の高い場所に作られてんだから」
奏が呆れ声でそう言い捨てると、亜蘭は懐から赤い薔薇を取り出した。
「ふふ、僕を呼び寄せるにはそりゃあ高い位置じゃないとだもんねぇ。ところでそろそろ、僕色に染まる準備はできたー?奏。」
奏は目の前に差し出された薔薇をバッと振り払った。
「相変わらずおめでたい頭だなお前はっ!何度言われても断る!んで俺がお前とメディアタイアップしなきゃなんねーんだ!」
「つれないこと言うなよ♡僕も君も、フィールドは違えど、頂点を極めつつある同類だろ?だから一緒にもっと」
「ざけんなっっ!てめぇと同類にされてたまるかっ!」
「……そりゃあ、一緒に並べばどうしても僕の方が輝いて目立ってしまうから、同類には見られないかもだけど、でも」
「プッチーン……! てんめぇコノヤロ!!」
謎の追いかけっこを始める2人を目だけで追いながら、先程からただ呆然と突っ立っている志門が、ようやく口を開いた。
「ここ……マトモな奴いないのか」
「……うん。皆クセ強いよね……」
ガゼルだけでなく、PSIにはこのように実生活とうまく並行して生活している者たちもいるのだ。
会議や緊急招集以外はあまりここには顔を出さないが、与えられた任務はきっちりこなすことが絶対条件となっている。




