志門との再会
ひとまず3人でガゼルに帰る。
光は初めて、石が集まる保管ルームに足を踏み入れた。
真ん中に大きな瓶があり、
志門から石を受け取った奏がそこに放り投げた。
瓶の中には既に数百個ほどの石が入っている。
そしてその瓶の周りには、封印の類の術式が施されていた。
「ところで、この石はどうして狙われてたんだろう」
光が疑問を呟くと、うーんと唸りながら愁磨が口を開いた。
「おそらく…近頃話題になってきている組織の連中だろうな。」
「話題……?……あっ。」
光は昼間に玲二が言っていた言葉を思い出した。
" SKJ(エスパー開発改造実験機関)で育ち、恨みを持っている人間たちがね、独自の思想組織を作って少しづつ勢力を上げてきてるんだ "
「あぁ、そういや……世界を終わらせるとかなんとか言ってたな」
奏が気だるそうに答えた。
そして、眉を寄せて志門の方を見る。
「なぁ、そんで、お前はなんなんだ?
あいつらと知り合いっぽかったけどよ?」
志門は複雑そうな表情でため息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「あいつらは昔、俺と同じSKJにいたんだ。」
その言葉に、3人は目を見開く。
「TS65……それが俺らがいた棟の名前。SKJは基本、そうやって数字でグループを分けてる。65ってのはTSの中の65グループ目ってこと。
で、それぞれに番号も付けられてる。あいつはセブン。
俺はファイブだった。名前はあっても、基本はそこでは数字で呼ばれる。」
ひどい……。そう光は呟いてしまった。
愁磨も奏も、眉をひそめている。
「でもセブンは……弥寧瑚は……途中からいなくなった。別の棟に移動したんだ。
かなり特殊だったからな……」
「確かに特殊だよな……あいつら、いや、あいつってなんなんだ?増えたり減ったり気味わりぃ」
「1人で3人の人格になれるんだ。それぞれ、弥々、寧々、瑚々。3人まとまってるときは弥寧瑚……そう呼ばれてた。」
志門の説明に、愁磨は「そんなスキルがあるなんて聞いたこと無かったな……」と考え込むように呟いた。
「……弥寧瑚は別の棟に移動して、個々の人格のスキルを鍛え上げられたんだと思う。弥々は体の固定、寧々は跳ね返し、瑚々は洗脳。噂で聞いてた通りだ。」
「すごい……聞いただけで身の毛がよだつ…」
「あぁ、もはや無敵じゃないか」
「こんなの序の口だ!弥寧瑚が移動したZには、まだまだヤベエのが全然いた!」
突然声を大きくし、冷や汗をかいている志門。
「なぁ……Zとはなんだ?」
愁磨の質問には、志門はただ顔色悪くするだけで答えなかった。
「……2年前、こんな噂を聞いた。
俺は保護されてルミエール病院にいたときだ。
看護師たちが話してた……
SKJから、数名が脱走したって。」
驚く3人を後目に、志門は目を逸らしたまま続けた。
「今年に入ってから、SKJ本部の一部が、何者かに破壊されたって話も聞いた…。そのまままた数人が消えたとも…。
それはPSIや茂さんたちの仕業じゃない…」
「「「…………。」」」
まさか……脱出したエスパーたちの仕業?
全員の考えてることは、口には出さずとも明白だった。
光の中でまた、玲二との会話がリフレインする。
" 報復組ってことですか?"
" 詳しくは…僕らにも分からないけどね……まぁ端的に言えばそうなんだろうね。その気持ちは……柚みたいにSKJを経験した人間には痛いほど分かると思うよ "
玲二や志門の話からすると、その組織は確実に勢力を増しつつあるということだろう。
しかも、志門は口を閉ざしてしまったが、「Z」にいた者たちによって構成されているとしたら……?
考えただけで鳥肌が立つ。
そしてこれは紛れもなく、放っておける案件ではない。
まさしく一大事だろう。
「世界を終わらせるって……言ってたんですよね?
それで、石を集めてる……
じゃあ目的は……」
石を使って勢力を上げるための何かをしていることは明白だ。
そして、世界を終わらせるとは本当に文字通りそういうことかもしれない。
その後、夜になると、光は志門の部屋を訪ねた。
「なんだよ……」といつもの仏頂面で対応されるかと思いきや、志門は意外にも、少しだけ嬉しそうな顔をした。
2人きりで話すのが、久々だからかもしれない。
「お菓子持ってきたんだ!」
「は……バカかよ。寝る前に菓子なんて」
「志門くんは相変わらず子供らしさが無いなー
普通は喜んで飛び跳ねるよ?」
その相変わらずの感じに光は安心した。
そして、照れ隠しなのか、そっぽ向いてお菓子を食べ始める志門に目を細める。
「……ずっと、お礼言いたかったんだ」
そう言うと、一瞬だけ、バリバリという咀嚼音が止んだ。
「志門くん……ありがとう。あの時、勇気出して、ちゃんとすぐ茂さん呼んできてくれて。」
光はあのとき、正直途中からあまり記憶が無い。
だけど志門のおかげで自分は助かったようなものだ。
「志門くんのおかげで、」
「やめろよ」
突然振り返った志門に、光は目を見開いた。
志門の大きな目から、涙が溢れていたのだ。
「美乃里は死んだんだぞ!
他の奴らもみんな死んだ!看護師も!皆だ!」
今にも涙は零れ落ちそうだ。
「結局俺はっ……なんにもできなかったっ!」
その雫の中に、光の顔が映っているのが分かるほどに。
「俺だけが……
俺だけが生き残っちまったんだ……!」
その叫びに、光は胸が張り裂けそうなほどの痛みを覚えて、何も言えなくなってしまった。
「いつもそうだ……なんで俺だけが……」
SKJにいた時もそうだ。
俺以外の奴らはどんどん死んで行った。
" ファイブ、お前は強いね "
なんて胸糞悪いことをよく医師たちに言われた。
ルミエールに移ってからもそうだ。
" なんで俺が生きれずお前が生き伸びんだよ!"
" 俺の方がお前より凄いのに!!俺の方がお前より価値あんのに!"
" なんでお前じゃなくて俺が死ぬんだ!"
もう力が出なくなった元親友の、か弱いボールが自分に向けられて投げられた。
でもそれは力なく下に落ちて、鈍い音を鳴らして転がっていった。
何故かそのとき俺は、やけに冷静だったんだ。
ただ冷静に頭の中で、あぁ、このボールは俺みたいだな…なんて考えてたんだ。
投げてくれる人がいないと、受け取ってくれる人がいないと、ただ転がり落ちてくだけなんだ。
「なんでだよっ…どうして俺はいつも生かされるっ……
俺はっ……」
死ぬのも怖いのに生きるのも怖くて
死ぬことも生きることもできないのか…?
「志門くん、生きててくれて、ありがとう」
聞いたこともないその言葉に、志門の鼓動が跳ねる。
そんなこと、未だかつて誰にも言われたことは無い。
「俺は嬉しいんだ本当に。ただ嬉しいんだ。
志門くんが生きててくれて。」
志門の目から、ようやく涙が零れ落ちた。
「俺さ、あの病院の皆に出会う前までは、死についてなんて考えたこと無かったんだ。まるで、自分も他人もそこにいるのが当たり前で、永遠に生き続けていくみたいに…。」
光は今まで自分の周りにいた家族やペットや友人、病院の皆のこと、関わってきたいろんな存在を思い浮かべた。
「だから、馬鹿な話だけどさ……俺、真奈美ちゃんが死んで、初めて気付いたんだ。
この世に永遠なんてもの1つも存在しないんだって。」
なのになぜか人間は皆、生きている間はなにもかもが永遠のものとして捉えてしまっている。
だから、大切にできない。
「俺らが持ってるもの、見てるもの、過ごしてる時間、自分の命も、他人の命も何もかも全部、必ずいつかは失うものなんだ。」
光はベッドに置いてあるテディベアを見つめた。
それを作った時のことも、あげた相手のことも、今は思い出せてもいつかは消えるだろう。
「だからこそ、ちゃんと生きなきゃいけない。
生かされてるなら生きなきゃいけない。
それには絶対に意味があるんだ。」
光は自分に言い聞かせるように、拳を握った。
最期の美乃里の力強い表情を思い浮かべて。
「俺のこと、茂さんから聞いただろ?」
俯いたまま、こくりと頷く志門。
「命って、きっと繋がってくものなんだよ。
自分がいつか死ぬ時も、生きてる誰かに繋げるんだ。」
光は腕を伸ばしてテディベアをとる。
少し薄汚れてしまっているそれを、ゆっくりと撫でた。
「いつか消えてなくなる……物も自分も他人も。
それを知ってることって、凄いことだと思わないか?」
テディベアを志門に渡して微笑んだ。
「志門くん、俺だって同じだ。
生きてくことって、死ぬことと同じくらい怖い。」
志門はテディベアを抱き締めて下唇を噛んだ。
「それでも、生かされてる間は生きなきゃいけない。
自分を必要としてる人が必ずいるってことだから。」
死ぬまで生きる。
生命は永遠ではない。
でも俺の命は重い。
何人もの人が繋いでくれて、託してくれた希望がのしかかってて、その重圧に押しつぶされそうなくらい。
だから、俺が死ぬ時は絶対に、なにがなんでも、死んでも皆の希望を全部叶えるんだ。
1つ残らず。
それまで俺は、
何があっても絶対死なない最強になる。




