アルビノ少女
「ふぁ〜あ…。じゃーもう俺行くな。もおいいよな?」
「もう行くのか?」
「行くよそりゃ。もう終わったろ。じゃ。」
「おいっ」
愁磨が止めるのも聞かず、奏は欠伸をしながら屋根を飛び降り
「うーん。やっぱこの母親がどっかの病院退院して、社会復帰できるまでは割れねぇか」
そう言って歩きながら石をしまおうとした時だった。
石は一瞬で手からスっと抜け出ていった。
奏は瞬時に振り返り、目を見開く。
「もーらい☆」
「てめぇ……」
ベェと舌を出してウインクしている10歳くらいのアルビノ美少女、寧々がいた。
「またてめぇかよ。それを返せ。」
奏は険しい顔で手で攻撃を向けた。
すると、寧々の中からスっと出てきたのは、瑚々。
そして寧々のもう片側から出てきたのは、弥々
瑚々はアルビノ美少年、弥々は性別不詳のアルビノだ。
白い肌、白い髪、白い睫毛、白い眉毛、ほんのり赤い唇に、赤茶色の瞳。
3人が揃うと、そのあまりの美しさに、大抵の者は目が離せず微動だにできなくなる。
しかし奏はもう慣れておりその影響は受けない。
そして、単純に子供が嫌いだ。
「てめーら、俺と会うのは3回目だよな?
そんなに俺のことが好きか?
だがファンのストーカー行為は禁止だ」
寧々瑚々弥々は分離したり合体したりする特異スキルがある。
「そもそも石ころばっか集めてどーするつもりだ」
「「終わらせる……」」
「あぁ?」
「「この世界を、終わらせる……」」
3人同時にそう喋ったかと思えば、
今度は瑚々の体に寧々と弥々が合体した。
直感でマズイと判断した奏は手を構え、音を繰り出そうとする。
が……
一瞬にして辺り一面が真っ白になった。
「……なんだ……これ……あいつの技か?」
なにもない。本当にただの白。
人間は、無の場所に一定時間閉じ込められると、確実に精神が崩壊すると言われている。
「…くそっ…落ち着け俺っ。
クソガキのイタズラだ…焦るな…!」
奏は、前回の攻撃と違うため混乱していた。
だが同時に、なるほど…と理解もする。
3人のうち、誰を本体に置くかによって、それぞれスキルが違うというわけだ。
前回は寧々。
放ったスキルを倍にして跳ね返す能力だった。
その前は弥々。
身体を固定し動かなくさせる能力だった。
そして今回の瑚々……
苦しい……ここから出してくれ……
これ以上ここにいたらホントに耐えられねぇ……
それに……
石を取り返さねぇと!!!
こないだもその前も奪われたんだぞ!!
これ以上やられてたら俺は俺に呆れすぎて死にたくなる……!
そもそも2度もこんなガキにやられて、すでにプライドズタボロなんだぞ!!
「ちくちょう……なんの音も聞こえねぇ……」
音が聞こえないと音を集める事が出来ない。
ゆえに、スキルすら発動できない。
いやそれ以前に、なんにも見えねぇっ…!
まだあんな小せぇガキのくせして、
なんってややこしいスキル持ちなんだ。
SSか……?
「くそっ!頭がおかしくなりそうだ……」
「「10秒以内に、自殺する」」
頭の中に、突如流れてきた瑚々たちの声に、奏は目を見開いて固まる。
そして、震える手でゆっくりとギターのピックを取りだした。
そのピックにはSPIのシンボル、サイの特殊なマークが描かれている。
奏の手の中で、それが小刀に変わった。
このようなSPI特性のサイシンボルの物は、全員が持っており、持ち主の念によって武器に変わる仕組みとなっている。
ナイフを心臓に近付ける。
そう、瑚々のスキルは 「洗脳」だった。
「そうだ……死のう。どうせ俺はあの時、死ぬはずだったんだ」
今の奏には、もう死ぬことしか考えられなくなっていた。
たったひとつ、いつも蓋をしていた記憶が鮮明に脳に蘇る。
" 奏! "
大好きだった、あいつの笑顔。
いつも俺の名を呼ぶその声。
" 奏は絶対に音楽の道に進むべきよ!
せっかく素敵な才能あるんだから! "
授業をサボって屋上で
自分が作った曲をただひたすら弾いていたあのころ。
" バンド作ったなんてすごいっ!
デビューしたら、私が1番のファンね!"
俺は曲を、書いて、書いて、書きまくった。
ひたすらに、お前のことだけを考えて。
お前の存在は、俺の創作の源だった。
いや、
俺という男の原点だった。
それなのに……
気がつけば、彼女の惨い死体を前に、
立ち尽くしている自分がいた。
「やめてくれっ……そんなもの見せるなっ…!」
本当は、音楽なんてどうでもよかった。
ただ、お前の笑顔が見たかっただけなんだ。
ただ俺は……
お前のことが………
なぜ、たった一言
そう言ってあげられなかったんだろう。
「ホントはあのときっ……俺がっ……」
ナイフを突き立てようと振りかざした瞬間……
「おい」
誰かにポンと肩に手を置かれた。
それと同時にパッと情景が一掃され、意識が元に戻る。
奏は自分の心臓に刃を当てている自分の手を見て、驚きとともに手を離す。
カチンッとナイフが落ちる音。
慌てて振り返ると、寧々瑚々弥々と同い年くらいの少年が鋭い目付きで突っ立っていた。
「っ!だっ、誰だよおまっ」
少年は奏を無視して前に出た。
睨むように視線を送っているその先に、瑚々の姿がある。
瑚々はまた分裂し、寧々瑚々弥々の3人になった。
「よぉ。まだ生きてたんだな、セブン」
「……その言葉、そのまま返すよ。ファイブ。」
しばらく睨み合ったあと、少年が1歩2歩と近づきながら口を開いた。
「石、返せよ」
「あぁ…これ〜?」
真ん中に立つ寧々が手のひらに乗せた石を見せて薄ら笑う。
「だめ……必要なの」
「……それで何するんだ?」
「ふふっ……」
「お前ら……あれからどこで何してた?
今は誰に飼われてるんだ?」
寧々瑚々弥々は、コソコソと3人で会話を始めた。
寧々「何さ今の?聞いた?」
弥々「えぇ、相変らず失礼ね」
瑚々「傷ついたな。悪魔め」
寧々「超ムカつくんだけどっ」
弥々「どうしつけましょう」
瑚々「いや殺しちゃおう」
少年が身構えた瞬間、弥々だけの姿になった弥々のスキルによって突然体が動かなくなった。
「うっ……くそ、弥寧瑚……」
しかし少年はそのまま技を繰り出す。
体が動かせないのなら……
「ぷッー……!!!」
「なっっ!!!」
なんと、唾を飛ばしたのだ。
しかし少年のスキルによって、その唾は多数の鋭い刃物になっていた。
しかし、咄嗟に寧々に変身し、寧々の倍返しのスキルによって、その刃は倍の大きさになって返ってきた。
それと同時に弥々の固定のスキルが溶け、少年は避けながら砂を掴んで飛ばした。
その砂は小さな爆弾になり、
一瞬のことで避けられなかった寧々は、咳をしながら煙の中から出てきた。
「コホッ…コホッ…あんた、あの頃とは比べ物にならないくらいしぶとくなったわね…。あの頃は、影でしょっちゅうピーピー泣いてたくせに」
「黙れ!!!!」
少年が声を張り上げて構えると、
今度はスッと瑚々の姿に変化した。
少年の額に汗が流れる。
「おのれ……邪魔をするなら殺す」
マズイ……いや、大丈夫だ。落ち着け。
あのころのことを思い出せ。
確か1人……こいつとよく実験させられてた奴がいたはずだ。
そいつは………
「……なに……?なぜだ……?」
ゆっくり顔を上げて真剣な表情をしている少年に、洗脳が効いてないと気付く瑚々。
その隙に、少年は足元の石を思い切り蹴飛ばした。
それが鋭い刃物に変形し、瑚々の顔のスレスレで止まった。
「石を返せば当てない」
近くで見ていた奏は目を見開く。
「あのガキ……一体なにもんだ?」
すげぇ強え……
その時……
「あれっ?志門くん?!なんでこんな所に?」
光と愁磨が戻ってきた。
当然、今の状況を全く分かっていない。
「チッ……」
瑚々は舌打ちをしたかと思えば、石を志門に投げて去っていった。
奏は今しがたあったことを説明した。
「そうだったのか……ごめん、遅くなって。
藍那さんと、お母さんの今後について話してたんだ」
「んなことより、こいつは誰なわけ?
知り合いなのか?」
「あ、うん。この子は中條志門くん。
で……なんでここに居るのかは俺も謎なんだけど……」
あれから結局、茂範の部屋で眠っている志門が最後で、ずっと会っていなかったし、状況も知らなかった。
「俺も今日からガゼルなんだよ」
「「「え!!!」」」
仏頂面で答えた志門に、3人の声は重なった。




