エスパー仲間入り②
広くて空気の澄んだこの訓練場で
皆でアイスを食べる。
個性豊かすぎて騒がしいけれど、
こんなノンビリした時間も光は大好きだった。
「どう?光くん。
そろそろ溶け込んできたんじゃないかな」
「あっ…はい。
この苺の部分が丁度よく溶け込んできてて、下のジェラートによく合うし、」
「はは、違うよ。アイスじゃなくて、スキルの方だよ。すごいな、食レポの才能もあるの?」
「あっ、すみませんっ!」
「いつもすごい頑張ってるからさ。最近どうなのかな〜って」
「あぁ……」
美しいイケメンスマイルで優しく問いかけてくる玲二。
その隣で、同じような優しい笑みで返事を待っている柚。
本当に、この2人はお似合いだと思う。
性格良くて強くて美男美女なんて……理不尽!!
「……光くん?」
「っあ!えっと………
もう1ヶ月も経つのに、実はまだ全然習得できてないんです…。力のコントロールも曖昧で、調整がつかないし……」
自分の中に、どんな人のどんな特性や才能が入っているのかは分からない。
だけど、少なくともものすごい数のスキルが眠っているはずだった。
だから、"最強になるはずだ" とここに連れてきたときに茂範が公言してしまったし、実際皆もそれを信じている。
もちろん自分だってそのつもりで意気込んできた。
しかしどんなに毎日頑張っても、自分の中にあるはずのスキルはなかなか開花しない。
まだ、光伝播や高回転飛びなど洸輔や爽斗から習得しやすい種類のものを少しずつこなせてきているくらいで、あとはエスパーなら誰でも自然につく非常人的身体能力の実感はあるが、他に自分が胸を張って公言できるような大した成果は今のところない。
きっと鍛錬が足りないんだろうと光は思っている。
そりゃあ元々ノーマルだった自分が、ある日突然簡単に皆のようになれるわけはない。
もっと血反吐を吐くほどの努力をしなきゃダメなんだ。
でも……何を?どうやって?
それが分からないからキツイ。
この世で1番辛いことは、結果が分からないことを死に物狂いでやることだ。
「うーん、そうだなぁ……
君は確か、元々はノーマルなんだよね?
何のスキルを持ってるの?」
「あ、そうです……
元々は裁縫のスキルです。
ま、まぁ才能ってほどじゃないかもですけど」
この人たちからすれば雑魚すぎて笑える話だろうと思って、恥ずかしそうに2人を見ると、玲二も柚も、まるで子供のように目を輝かせていた。
「え」
「超〜〜素敵!!今度何か作ってくれる?」
「僕も見たい!裁縫なんてもの見たことないよ!」
まさに、え……と狼狽えることしかできないが、その純粋な目が、懐かしくてしょうがない。
もう二度と会うことの叶わないあの子たちについ重ねてしまった。
そして同時に気づく。
そうだ……この人達ってそもそも……
「あの……玲二さんも柚さんも、こういう組織にいる人たちは皆……その……」
口篭る光に、優しい2人は言いたいことを察したようだった。
「うん、そうだよ。君が思っている通り、ここにいる僕らは正式な※SPI組織だからね。みんなSもしくはTS。」
SPI(通常サイ) エンパワメント計画① 参照
<エスパー……生まれた瞬間から先天的に希少才能がある者、通称S
トランスエスパー……先天的な希少才能はないが実験改造をされた人間、通称TS>
「ちなみにこのガゼルにいる皆は大半がS。TSは夕凪朝凪姉妹に、あとここにいる柚くらいかなぁ」
きっと良い思い出なわけはないはずなのに、
柚は玲二の隣で変わらずいつもの優しい笑みを浮かべている。
柚さんも茂さんに助けられて来たのだろうか?
「……そうなんですか。でもTSの人たちって……」
「…うん、基本的に寿命が短いとか、いつ死ぬかも分からないなんて言われてるけどね、茂さんがSPIに計らって、現状身体に問題の無い者は、各地の養成所に入って任務を受けたり、自由に選べる選択肢を与えられるようにしたんだ。
まぁ結局、僕らだって誰だって、いつ死ぬかなんて分からないんだから、同じだろ」
なるほど……と頷く。
変わらず体が動くのなら、予想もつかない死を待つだけよりは、人のために生きたい。ここにいるのはそう思える人たちなんだ。
「だから、光くんみたいなさ、ノーマルで突然のスキル譲渡で覚醒!みたいなエスパーは初めてだよね!
あ、でもそう考えると…光くんもTSの部類になるのかな……?」
そう言って首を傾げる柚と、
確かに……と考え出す玲二を横目に、光は思い切って1番疑問に思っていたことをぶつけた。
「……あの、じゃあSSの人はここにはいないんですか?」
<スーパーエスパー……先天的な希少才能を持つ者かつさらに実験改造をされた人間、通称SS>
「SSなら、今は横浜のホーネットと、大阪のサラマンダーという養成所に集められているよ。半年前にはここにも2人いたんだけど、最近一気に治安が悪くなってね……SSが駆り出されて特殊な技能を求められることが多くなったから、業務の効率化や強化のためもあるのさ。」
「なるほど……SSの人たちって、やっぱり皆強いんですね……」
「うん。皆だいぶクセがあるけどね。
あ、ちなみに君もご存知のKトリオは、あんなに強いけどSだよ。」
「えっ、知らなかったです!」
カオル、カミラ、カイトに関しては、初めに茂範の家で面識を持って以来、たまに個人指導をつけてもらっていた。
もちろん茂範に頼まれたからだろう。
この3人は、どういうわけか茂範をとても崇拝しており、彼の言うことならなんでも聞く。
確かに各々凄いスキルがあるとは思っていたが、Sだとは知らなかった。
「それに……アレだよね。
ここ最近って、実は新しい危険組織ができあがってきてるらしいし……」
「え?何ですかそれ?」
光が身を乗り出すと、柚は複雑そうに口ごもった。
代わりに玲二が説明をする。
「SSやTS……つまりSKJ(エスパー開発改造実験機関)で育ち、恨みを持っている人間たちがね、独自の思想組織を作って少しづつ勢力を上げてきてるんだ」
「そっ、それって!報復組ってことですか?」
「詳しくは…僕らにも分からないけどね……まぁ端的に言えばそうなんだろうね。その気持ちは……柚みたいにSKJを経験した人間には痛いほど分かると思うよ」
そう言って柚の肩を抱く玲二。
柚は俯いていて表情が見えない。
「そっか。君はまだこのことを茂さんや他の誰からも聞いてなかったんだね。」
「はい……。なにしろ俺、任務にすらまだ1度も行けてないので。一応もう、影の影響はないんですけどね」
カイトと何度も練習していたあの地獄のような吐き気はもう収まった。
影の気配や音などの認識はもう、自分でコントロールできるようになっている。
「そう。ならもうそろそろ出向いてもいいんじゃないかな。今度僕と一緒に行こうか?実践なら、より的確な指導をつけてあげられるし」
「ダメっすよ玲二先輩!」
横から不機嫌な顔を出したのは風間 朧(15)
無邪気でどこか憎めない性格をしている小動物系の美少年。
彼もまた、誰もが振り返るレベルの美しいイケメンだ。
彼のスキルは、風や空気を自在に操ることにあり、特殊な目の色をしている。
そもそもエスパーは皆、特殊な目の持ち主ばかりだ。
常人には見えないものを見たり操ったりできるからかもしれない。
それにしてもここは、美男美女しかいないのかと言いたくなる。
「玲二先輩はいつだって俺とコンビなんす!」
朧はなぜか、玲二に絶対的な信頼、崇拝的な憧れと尊敬を抱いている。
ちょうど今、任務から帰ってきたところらしく、いつものようにさっそく玲二に絡んでいる。
「もぉ〜っ、今日は玲二先輩いなかったから頑張ったんすよォ〜」
褒めてくださいと顔に書いてあるくらい仔犬のような瞳で、いつもこんなふうに玲二に甘えているのだ。
「ははは、よしよし。
朧にもあとでアイス買ってあげるから」
「マジっすか♡わぁあ〜い!
玲二先輩大好き〜!」
ムッとしたような表情で2人のやり取りを見ている柚に、苦笑いしてしまう光。
玲二さんは男女問わずモテモテでいいなぁ〜
まぁ確かにこんな人なら頷ける。
外見も考え方も強さも、本当にいつもカッコイイもんなぁ。
俺もいつか、こんなふうに周りに憧れられる人になりたい。
「そんなことよりさ!光くん!今度私たちにお揃いのもの作ってくれる?!」
「あ、はい。それはもちろん!何がいいです?」
「えっ?なになにお揃いのもんて!!俺も玲二先輩とお揃いのもん作って!つか作れよ!」
「なっ、なんで朧くんと玲二のお揃い?!おかしいでしょ!」
「別にいいじゃないっすか!玲二先輩は柚先輩だけのもんじゃないっしょー?!」
「何言ってるの!?私だけのものに決まってるでしょ?!」
また騒がしいやりとりが始まってしまい、あたふたとしていると、後ろから肩を叩かれた。




