誕生日そして旅立ち
誕生日当日、この日が俺がここにいる最後の日。
両親もプヌも、いつも通り、何事も無かったかのように祝ってくれた。
俺の好きなものをたくさん作ってくれて、ケーキを前にバースデーソングを歌ってくれて、俺は17歳になった。
「はい、光。改めて誕生日おめでとう」
そう言って渡されたプレゼントを「ありがとう」と礼を言って受け取る。
結局何もリクエストしなかったので、中身の想像が全くつかない。
「開けてみて。」
母にそう言われ、ゆっくりとプレゼントを開けていく。
「……指輪?」
鎖に通された指輪には、月のような色をした小さな石が埋め込まれており、読解不可能などこかの文字で何かが書いてあった。
পোহৰ কঢ়িয়াই অনা
「いつか光がここを発つ時に、あげようと決めていたものなの。」
「えっ………」
両親は今までずっと、俺がいなくなることを予想してたってのか……?
「あなたがここに来た時ね、その指輪を首からかけてたのよ。小さい頃は危ないから取っておいたのだけど、返すタイミングが分からなくて…。だからそれはプレゼントじゃないわね、もともと光の物なんだから。」
母がそう言うと、今度は父がどこからか箱を渡してきた。
「てわけだから本当のプレゼントはこっち!」
ドンッと置かれたそれは先程よりも全然大きな箱だ。
開けてみると、中からは立派なスニーカーが出てきた。
しかも俺の好きなメーカーの新作だ。
「わぁっ、すげぇ……ありがとう!
大事にするよ!!」
「父さん母さんが、光の無事を祈って、しっっかりと祈りも込めといたからな!」
にこやかにしてるけど、2人ともきっと辛いんだろう。
いつもの笑みじゃないことくらい、家族の俺には見抜けた。
そして翌日、迎えに来た茂さんは、俺にある物を渡した。
誕生日に渡したい物があると言われていたことを思い出す。
「これはSPIのシンボルだ。
必ず皆がどこかに身につけている。」
それは動物のサイを連想させるようなマークが施された、不思議なカメオだった。
「これを、自分の御守りとなるものにつけろ。」
光は迷わず、今履いているスニーカーにつけた。
昨夜、両親がくれたものだ。
不思議なことに、そのカメオは魔法のようにスニーカーに浸透し、初めからそこにあったもののように変わった。
「必要に迫られた時、それは役に立つ」
「ありがとう、茂さん」
首から指輪をかけ、茂さんと手分けして荷物を持った。
玄関で、両親と愛犬の前に真っ直ぐと立つ。
俺はこれから寮に入り、そこで鍛錬を積み重ね、最強になる。
今までと違う世界で、今までと違う人たちに囲まれ、今までと違うことを学び、今までと違うことを経験する。
両親にもう一度会えるという保証はどこにもない世界だ。
「父さん、母さん、プヌ……
今まで、ありがとうございました」
深く頭を下げる。
それと同時にようやく実感が湧いてきて、一気に目頭が熱くなった。
でも俺は、歯を食いしばって耐える。
新品のスニーカーに、涙なんか落ちないように。
ここで顔を上げて、何が見えるかなんて想像がつく。
もらい泣きなんてしちゃダメだ。
今までもらった溢れるほどの愛。
伝えきれないほどの感謝を、いつか伝えに来るよ。
それまで……
さようなら。
スニーカーからゆっくりと顔を上げる。
その光景にハッと目を見開いた。
父も母も、涙は1粒も流していなかった。
その代わり、意志の強い眼光でこちらをまっすぐ見つめていた。
まるで、「行きなさい」と言われているかのように。
光は強く頷き、2人のその姿を目に焼きつける。
そして勇気を振り絞って目を逸らした。
振り返って1歩、また1歩と踏み出す。
ここから先は、俺は二度と振り返らないだろう。
俺が最強の変革者になるまで。




