これが最後だなんて
「おい光!!転校ってどういうことだよお前っ!」
「……ごめんな颯。突然。」
「突然すぎんだろっ!!説明しろよ!!」
家に押しかけてきた颯は、いつも以上に髪が乱れている。
驚きとショックと苛立ちのようなすごい表情で光の肩に手を置いている。
ー 突然ですが、月詠光さんは一身上の御都合によって転校することになりました。ー
そんな定型文を教師から聞いただけで、俺はお前から何も聞いてない!
1年の時から毎日一緒にいた親友だったつもりの友達が、俺に何も言わずに勝手にそんなことになるなんて信じられない!
「おいなんとか言えよ!!」
「ごめん颯っ。説明のしようがないんだ」
こうしている時にも、光には今まで見えなかったはずのものが見えすぎていてめまいを引き起こしそうだった。
興奮している目の前の友人のオーラが眩しすぎる。
心の中の声や、周りの声も………
" ある程度のパワーがある者は、他人のオーラやエネルギーが見える。
つまり、この世の物質的なこと、事件や事故、そして人の死にまつわる物事が、人間のどのようなエネルギーによって巻き起こるのかが目視できるのだ。"
茂範のその説明のとおり、あのあと一歩外に出ただけで吐き気を催してしまったくらいだ。
訓練だと言われ、茂範の家を出たときのことを思い出す。
「いいか?ここから先はもう以前のお前が見てきた世界じゃねぇ。」
そうカイトに言われて腕を引っ張られた。
「俺がお前に触れている間は大丈夫だ。だが手を離せば、お前は目が回ってまた気を失うかもしれねぇ」
「えっ?なっ、なにそれ困るよ!」
「いちいち騒ぐな。俺が四六時中てめぇにくっついて歩いてろってのか?」
「そうじゃないけど……(いちいち怖いな)」
「これに慣れなきゃてめぇは生きてさえいけねぇだろ。慣れろ。男だろうが」
そう言ってバッと手を離された瞬間、目の前にたくさんの……
まさにこの世のものではないものがたくさん見え、聞こえ、感じ、頭と体がその情報処理に追いつかなくなった。
体が重すぎて立つこともままならず膝を崩した光に、カイトが何かを叫んでいるのがわかるが、ただ全く聞こえない。
そのくらい、周りはうるさくて、視界にいろんなものが入ってきていた。
カイトに再度腕を掴まれた瞬間、
「うっ……おえぇぇー……」
「チッ、てめ、きったねぇな」
突然世界を戻されたからか、もう限界だった。
「お前が聞いたり見たりするようになったもんは、人が生み出す負の感情が形になったバケモンみてぇなもんだ。そして感情から生み出される声や叫び。それを俺らは影憑と呼ぶ。」
カイトにため息をつかれながら水を渡された。
「あ……けほっ……ありが……」
あれ……?この人の目……
見上げた時にチラと見えた、カイトのいつも髪で隠れている方の目に違和感を覚えた。
色が……ちがう……??
「ほら、立て。いつまでも蹲ってちゃ、何も進まねぇだろ。」
そこからはもう地獄だった。
いろんな場所に連れ回され、何度もこんなことを繰り返し、ようやく微かに見えたり聞こえたりするこのくらいのレベルにまでコントロールすることができるようになった。
と言うのは嘘で、あまりにダメダメな光に痺れを切らして、なんだかんだで優しいカイトが「仕方ねぇ。これ持っとけ」と言って渡してきた小さなお守りのおかげがほとんどだ。
「カイトは影祓いの天才だかんな!
それに大阪にいるカイトの恋人が神社の家系で、そういう特別なお守り作ってんだ!」
「てめ余計なこと言ってんじゃねーよ!いつもいつもてめぇも祓われてぇのかそうかそうしてやる!」
カミラがまた頭をグリグリとやられ始め、また騒ぎが起こり始めたわけだが、
誰かに頼らないと外にすら出られないなんて本当に何も始まらない。
というか、生きてすらいけない。
あれから1人で練習し始めて3日たった。
この3日間は転校と準備を理由に学校を休んでいた。
このお守りを肌身離さずもってなかったらきっと、初めの頃よりはマシにしても、まだまだ生きていけないレベルだろう。
「あ?!なんだよそれっ!
俺にまで言えねぇ事情ってなんだよ!」
颯は相当怒っている。
でもそれも無理ないだろう。
逆の立場だったらと考えたら相当動揺するし、親友だったらショックなのは尚更だ。
「体育祭も……結局出られなくてごめ……っ!」
よく見ると、目の前の颯の目に涙が滲んでいた。
「颯っ、」
「もう知らねぇっお前なんてっ!」
遠ざかっていく颯の後ろ姿。
そしてそこから滾り出す……影。
俺はお前から影を生み出してしまった。
これが、これが最後だなんて……
今までたくさんの想い出を一緒に作ってきた親友との……最後だなんて……。
いつもの瞬速じゃなく、普通の歩調で離れていくのに、
それを追いかけて、追いつこうとしない俺を、
きっとお前はもう本気で見限るだろう。




