あいつがいる世界を
颯が未来で朱星を見つけた時、朱星はハタチだった。
なんと朱星は、どうにか社会に紛れて生活していた。
「すみません……朱星さんですよね?」
「……は?違いますね。人違いでは?」
こうなることを想定していなかった颯は先程から彼女をチラチラと目で追いながらずっと悩んでいる。
まだ密かに追われている身として、名前と存在を隠しているのは当然だと頭が回らなかった。
ともかく、この人が朱星で間違いはないのだ。
どうやって朱星だと確信したかと言うと、光からスキルによって脳に直接記憶を伝達されたためだ。
そのおかげで、どのあたりにどのようなオーラを持ったどういう容姿の人物がいるはずなのかということを事前に頭が把握していた。
光が彼女に出会ったときとは年齢が違うが、朱星の容姿はハタチになっても充分その面影があったため、見てすぐにわかった。
ハタチの朱星は、現代でも古くからある伸さんの焼肉店で働いていたのだ。
光が前回1度ここへ来てから、もしかしたら少しだけ未来の状況が変わったのかもしれない。
相変わらずアーテルという組織が国を仕切っているにしても、そこまで表立って内乱が勃発しているようにも見えない。
しかし、変わらずこの世界はエスパーとしての実力主義国家だった。
強さイコール人権という世界だ。
「どうしよう……焼肉屋に入ったはいいものの、めちゃくちゃ警戒されてるし……
けど、どう近づけばいいのかわかんねーよ……」
とりあえず店員の朱星に注文を聞かれ、オススメで…などとテキトーに答え、しばらくすると、
「厚切り生ハラミ定食です」
と言われ、目の前にそれはそれは美味しそうな肉と米が置かれた。
「わぁ……ありがとうございま……」
って俺何やってんだよ!
飯食いに来たわけじゃないのに!!
「あの、すみません、俺は敵ではなくて……
茂さんや光に頼まれてきて……」
ガッシャーン!
朱星が目を丸くして持っていた食器を落としてしまった。
「しっ、失礼しましたぁ!!」
朱星はそう叫ぶと、急いでエスパーの力で魔法のように一瞬で片付けた。
「お怪我は無いですか?お客様」
コソッと耳打ちされ、颯は慌てて頷く。
「あら、でもお洋服が汚れていますね、弁償します。
私6時に上がるので、この場所で待ち合わせましょう」
早口でそう言うと、スっと手を重ねられた。
その一瞬で、朱星が言った待ち合わせの" 場所 " というものが勝手に颯の脳にインプットされた。
「では、ごゆっくり」
全てが一瞬のことで、声を出す間もなかった。
ただ単純に……
「未来のエスパーすげーー……」
それだけ呟き、ひたすら肉を焼いた。
約束の時間、その場所に朱星は現れた。
正直、颯は驚いていた。
光によく似ているからだ。
とくに目や雰囲気なんかがそっくりなので、ひょっとすると自分はなんの情報無しに探しにきても見つけ出せたのでは?などと思ってしまったくらいだった。
「そっか。光の親友なんだ。
光に会ったのはもう何年も前だけど、よく覚えてるよ」
「光も茂さんも、ちょっと今忙しくて。
だから変わりに俺が……えっと、朱星さんの無事を確認して、守るために来たんです。
とにかくよかったですよ、お元気そうで。」
「うん、私はなんとか元気だよ。
追われている身ではあるけれど、ここ数年は落ち着いてきてるの。もしかしたらもうほとんどSPI捜索は諦められてるのかもしれない……」
颯はホッとしていた。
光の前ではあんなに強気で振舞ってはいたが、内心この世界が本気でヤバいことになっていたらどうしようと、むしろ死ぬ気の覚悟できていた。
「……どうしてだろうな。
何かに命かけるなんてこと、いつもテキトー人間の俺には考えらんないことなのに……」
気がつくと、独り言のように呟いていた。
「多分俺、アイツのこと大好きだから、アイツがいない日常なんて考えられなくて……
だから本当は平和がどうとかじゃなくて、ただ単純に、アイツがいる世界を守りたくて……」
いきなり意味深なことを呟いている自分に気が付き、ハッとして朱星に視線を移すと、朱星は目を丸くしてこちらを見ていた。
「すっ、すいません、何言ってんだろ俺!意味わかんないですよね、えっと…」
「羨ましいなぁ」
「え?」
「私には、そんなふうに思い合える友達なんて、いないから……」
颯が何と言葉をかければ良いか思案していると、朱星はケロッとした笑顔で言った。
「てことだから、とにかく私は今のところ安全なの!だからパパや光に無事を伝えてね!お疲れ様!」
「えぇっ、ちょっと待ってください!」
「ん?なに?」
「や……えっと……」
自分が任された任務は、朱星が無事に光を妊娠し、茂さんのところに送り届けるまでだ。
できることならきちんと出産するところまで見届けたい。
ともかく、ただこうして顔を見ただけでとっとと帰るなんてことはできない。
「もうしばらくは、一緒にいていいですか?」
「え……?」
「だっていつ何が起きるか分からないじゃないですか!」
「だけど……颯くん、このへんに住処はあるの?」
「あ……えと……」
そーじゃん!俺この世界の住人じゃないじゃん!
光たち、俺の寝床についてはなんにも言ってくれなかったけどどうするつもりで……!
「なんだ、やっぱりないのね。
家に泊めてあげたいけど、あいにく部屋は空いてないし……それに、店長がこっそり手配してくれたアパートだから……うーん……」
「うわぁ……なんて計画性がないんだ、俺も光も……かんっぜんに失念してた……あ〜〜っ」
完全に路頭に迷っている颯を見て朱星は考えた。
「とりあえず、店長に掛け合ってみようよ。
すごく良い人だから、きっとなんとかしてくれるよ!」




