本当に価値あるもの
" あぁ幼く美しいその美貌、最高だよ "
" そのままずっと成長しないでね"
僕の価値は、確かに高いみたいだ。
僕に大金を出す連中は掃いて捨てるほどいた。
数百万でも数千万でも買いたいと言う変態たちが後を絶たなかった。
僕にはそのくらいの価値があるんだって。
そのくせ成長するなと、子供のままでいろと言う。
若さに価値を置いてるんじゃない。
存在に価値を置いてるんじゃない。
自分の欲望に刺さる容姿に価値を置いてるだけだ。
美しく可愛く従順な、人形のように扱えるものに価値を置いているだけだ。
だから僕は、自分の価値を守るために、極力食事をしなかった。
成長するのが怖かったからだ。
必要とされなくなるのが、ガッカリされるのが、捨てられるのが、僕にとってはとてつもなく恐ろしいことだったんだ。
僕が育った孤児院の院長がそもそもの事の発端だ。
他の子供たちよりも何倍も僕をさぞかし可愛がってくれた。
他の大人たちもそうだった。
天使ちゃんなんてあだ名をつけてね。
そこで僕は気付いたんだ。
見た目の良い従順な子供はこの世で1番の武器なんだと。
だから僕はいつも誰かに飼われていた。
お金が欲しかったんじゃない。
愛が欲しかったんじゃない。
自分の価値を確かめれば確かめるほど、自分がこの世で一番強いと錯覚していたんだ。
だけどある日、僕は警察に補導された。
僕を買っていたそこそこ社会的地位のある奴が未成年売春で捕まったからだ。
ひたすら黙秘を貫く僕に、警察が辟易していた頃、僕の迎えが来た。
当然、施設の人間だと思った。
しかしそれは違った。
その見たことないほど一際すごいオーラに、僕は鳥肌が立った。
車に乗り込むと、なぜか施設にあるはずの僕の荷物が全部積まれていた。
今思えば茂さんは、あらゆる部分に根回しや融通がきく人物なのだろう。
そして車の中にはもう1人。
「やぁこんにちは!」
整った美しい顔で笑顔を見せるその人は、玲二先輩だった。
聞けば、玲二先輩はずっと前から僕に目をつけ、尾行していたらしい。
「先に警察に取られると思ってなくて。本当にごめんね」
「……なんなんですかアンタたち。どこ連れてくつもり?」
「大丈夫。一番キミに相応しい場所だから」
あぁ……なるほどと僕は思った。
きっと娼館に違いないと。
それか今度はこいつらに飼われるか……
このお兄ちゃんもだいぶ綺麗な顔してるし、きっとこのオジサンに飼われてるんだろうなぁ。
しかしそこは、今まで僕が見てきた世界と180度違った世界。
気がつけば僕は、ありえない人たちに囲まれてエスパーになっていて……
僕の教育係みたいな立ち位置だったのが玲二先輩だった。
優しくてかっこいい玲二先輩にはすぐに惚れた。
「ねぇ……玲二先輩は、僕のことどう思う?」
「え?いきなりどうしたのさ?普通に可愛い後輩だよ」
「普通に可愛い……?じゃあ僕と付き合ってよ」
僕は妖艶な表情を作って玲二先輩に触れた。
「はじめはお試しでもいいよ……
僕ね……結構うまいって評判だったんだ……」
玲二先輩に唇を寄せた瞬間、すぐに体を離された。
「朧くん。君は自分の価値を全くわかってないな」
「はぁ?!わかってるから言ってんだけど?!」
「わかってないからそういうことばかりしてしまうんだ。」
玲二先輩の目は真剣だ。
なんだよ、それ……
そんな目で僕を見たやつなんかいないぞ。
皆すぐに理性無くしたような目になって、僕に夢中になるのに。
「じゃっ、じゃあなんで僕をここへ連れてきたんだよ!エスパーに価値があるからだろ?!
結局は僕を買ったんだから一緒じゃんか!
玲二先輩だってそうでしょ!その能力を買われたからここにいる!」
突然すごい剣幕に言う僕に、玲二先輩は困惑している。
「僕がエスパーじゃなかったら?美しくなかったら?
この世で誰が僕を必要とするんだよ!
ただ若いってだけで価値があるなんて大間違いなんだよ!」
「お前は、若さをなんだと思ってる?」
突然のその声に、玲二先輩も僕も目を丸くして顔を上げる。
いつの間にか、なんの気配もなしに茂さんが見下ろしていた。
「若さに価値があるのではない。
能力や美しさに価値があるのではない。」
そして茂さんは言った。
「可能性に価値があるのだ。」
聞いたことのないその言葉に、僕は時が止まったようになった。
「若いということはすなわち、
より多くの可能性を持っているということだ。
この先お前たちは何だってできる。何にだってなれる。」
なぜかその時僕は、今までに感じたことのない感情に包まれた。
自分の価値観が一掃されていく。
「その可能性というものは、世界中の冨を持ってしても釣り合わない。
だから、自分を安売りしてはならないんだ。」
僕はその可能性とやらを、最大限に利用できた人生だっただろうか。
いつも皆に慕われて、強くて賢くて優しい僕の憧れの玲二先輩は、僕の知らないところで思いもよらない方向に可能性をかけていた。
対して僕は……?
今この瞬間から……
僕の可能性、僕の価値は潰えるけど……
僕はきっと、誰かの役に立つことで自分の価値を見出したかっただけなんだと思う。
" 頑張ったじゃないか朧! "
玲二先輩がよく言ってくれていたその言葉を、ただ聞きたかっただけで。




