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何を犠牲にしても


新宿の街では、奏と朧がゴーグルの男と戦っていた。


亜蘭は瞳子と1人で戦うと言って離れていってしまった。



「朧、大丈夫かっ?」


「まぁね…血くらいすぐ止まるよ」


先程当たってしまったスキルのせいでふくらはぎから血が出ているが、朧は止血もせず放置していた。



「奏先輩こそ……結構パックリいっちゃってない?」


奏と朧はゴーグルエスパーの目を(くら)ませた隙に薬局だった場所に入り、急いで消毒液と包帯等で適当に治療した。


「ははは…いつもは僕ら、治癒エスパーにやってもらってるからさ、こんなノーマルみたいなことするの久々だね」


「そうだな……皆は怪我してないといいな…」


「……うん。きっとまた、全員に会えるよ」



それを聞いて、奏はほんのり笑って頷いた。



朧は奏を包帯で巻きながら、「あのさ……」とまた小さく声を出す。



「あのゴーグルの奴、アダマスの幹部とかって言ってたし…多分俺らが普通にやって適う相手じゃないと思うんだ。

このままじゃ、確実に死んで、生きてみんなに会うことは出来ないよね」



奏はその言葉に下唇を噛んだ。


そんなことは、実はずっと気がついていた。

だからどうするべきかを考えていた。


恐らく、このまま自分が足止めをしている間に朧に逃げてもらい、どこかで仲間の応援を連れてきてもらうか、

たとえその間に自分が殺られても、情報だけでも持っていってくれれば今後の皆の役に立つだろうと思っていた。



「なぁ、朧、」


「僕が足止めするから、奏先輩逃げてよ」


奏は耳を疑った。


「は……?」


「僕は風を操れるし、本気出せばワンチャンここらへん吹き飛ばすくらいはできるかも」


ニッと白い歯を見せて笑う朧に、奏は険しい顔をする。


「何言ってんだお前っ!お前はまだたった15のガキなんだぞ!そんなガキを囮に使うような真似っ」


「囮じゃないよ、僕はちゃんと考えた上で言ってるんだよ。

だって僕は今足怪我してるから、きっと奏先輩より速く逃げれない。

それに奏先輩ってさ、有名人なんだから、それ以上身体傷つけちゃダメだよ」


ウインクをする美男子に、奏はそれでも納得がいかなかった。

自分のプライド云々ではなく、単純に朧に危険すぎるリスクを背負わせたくない。


「……やっぱり承諾できかねる。

そもそも、お前みたいな子供の人生ってのは、なにを犠牲にしても守らなきゃならねぇほど価値があるんだぜ?」


「ははっ、何オジサンみたいなこと言ってんのさ。

だいたい僕は、死ぬなんて一言も言ってない。

全力で戦うって覚悟決めて言ってるんだよ。」


少し生意気にニヤリと笑っているその顔に、奏は眉を寄せる。


「信じてよ奏先輩。じゃー行くね」


「おい……朧……」


朧の後ろ姿に、奏は強い眼差しで言った。


「負けるなよ。必ず生きてまた皆に会うと誓え」


「ふ……誓うよ」


余裕そうにそう返事をして歩き始めた。





「お…?いたいた。

なるほど、包帯なんか巻いて治療してたのー?

まぁあんま意味ないと思うけどね」


屋根の上でゴーグルをし直しながら、ヤレヤレといった様子で朧を見下ろすアダマスエスパー、冴木。


「……ん?」


そよそよとした優しげな風が、朧の周りでホコリを巻きとっているのが見える。

するとそれは、ますます強くなっていき…


ごおぉぉおおおおおおーーーー!!!!


ついにはものすごい勢いで竜巻のようにこちらに向かってきた。


「すごいと思うけど、んー、そんなんでオレのことは殺せないよ?」


冴木はクスクスと笑いながら手から炎を出した。

その炎を風が巻き取り、さらに大きくなって朧を襲っていく。


「ふふっ、……え?」


ボワっ

ボワっ

ボワっ


それは瞬く間に数個に分かれ、それぞれ建物たちに点火し燃やし始めた。

瞬く間にそこらじゅうが火の海になっていく。



「へえ!面白い!

全部燃やし尽くしちゃうなんて予想外だったよ!

SPIってそーゆーのすごぉく嫌がりそうな組織だからね!

いいよいいよ!オレも協力するよ!

炎には耐性があるからね!」



楽しそうにボンボンとそこら中に点火をしていく冴木の背後にはもう遠くに離れていっている奏がいた。


それを確認した瞬間、朧は一気にスキルオーラを滾らせた。

周囲の燃え盛る炎のように大きく、冴木は目を見開いた。


バキバキバキ

ドカドカドカッ


燃え朽ちた建物の柱や屋根や壁などといったものたちが、朧の突風によってどんどんこちらに飛んでくる。



「うぉ…っ…」


冴木は急いで炎を出すが、次々と来るためキリがない。


「…たく…めんどくさ」


小さくそう呟いて、ググッと拳を握る動作をする。

すると、拳から放たれた火の玉のようなものが大量に朧を囲みだした。


「っ、く……」


朧の突風と炎の力比べのようになっている。



「おおっ、すごいことになってるぞ!?

お前の風のおかげで、そこらじゅう火の海だ!!」


建物は風によってどんどん燃え移り、ますます強い炎となっていく。

完全に火に囲まれている状態となった。


「ケホッ、ケホッ…」


「大丈夫ー?酸素不足で死んじゃうよ?」


「ケホッ……お前がな!!」


朧が鋭く睨んだ瞬間、ほぼ全ての建物が崩れ始め、炎を交えて冴木に飛んで行った。


「なっ…?!」


それと同時に朧も建物と炎で見えなくなっていく。

最後に一瞬見えた朧の顔は不適に笑っていた。


「あいつ…っ、まさかっ……」


初めから自らの命を賭けて……



朧も冴木も、ゴォゴォと炎の舞い散る中で押し潰された。




"お前みたいな子供の人生ってのは、なにを犠牲にしても守らなきゃならねぇほど価値があるんだぜ?"



ねぇ……ホントにそうかな、奏先輩。





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