ずっといるよ
「ハァ…ハァ……ハァ……ハ……ァハァッ……」
梓美の鮮血を見て、まるでアレルギーのように呼吸がつまり、立っていられなくなって膝を落とした。
「る、ま…くんっ…見ないで…」
梓美が俺の頭を包んだ。
体が弱々しく震えている。
それでも最期まで、俺の事を気にかけている。
「大丈夫……っ……私がいるから…っ…ずっといるよ……っ…瑠真くんの隣…」
懐かしいその言葉とその温もりに、俺は気が付いた。
俺はずっと、こいつに生かされてきたんだと。
立て……!!!
親父の声が聞こえた気がし、反射的に立ち上がり、日本刀を構えた。
シュッー…!
バシッー
飛んできた矢を切り払い、その方向を見ると、弓矢を持っている男が立っていた。
「私の矢を払えるとはなかなかですね」
スキルを溜めた強力な弓矢。
当たるまで追いかけ続けるという矢だ。
それが当たる寸前で、瑠真はそのまま手で弓を掴んだ。
「はっ?!」
今度はくるりとアダマスエスパーの方に向け、一瞬で放つ。
思いもよらぬ展開に慌てたエスパーはそれを避けつつもまた矢を連続して何本も放つ。
それは瑠真の足や服に掠り、みるみる引き裂いていった。
それでも今の瑠真には痛覚すらなかった。
「……借りるぜ、梓美」
瑠真は片手に自分の剣、もう片手に梓美のバッドを持ち、同時に駆使して四方八方からの矢を壊していく。
「…チッ……なんって奴だ……」
瑠真は息をしていないのでは無いかと言うくらい、口を閉じたままカッと目を見開き、目で追えないほど攻撃をひたすら瞬殺している。
「クソっ……」
アダマスエスパーは屋根の上に飛んだ。
しかし、瑠真が瞬時に追いついてきたため、近接戦となった。
カキンカキンッと武器同士が鳴る。
刀とバッドという二刀流の瑠真と、スキルで強化した弓と矢で二刀流のアダマスエスパー。
両者とも目視できないほどのスピード勝負だ。
1度でも傷がついたら死の世界。
アダマスエスパーはニタニタと笑いはじめた。
「そろそろお遊びもここまでとしよう」
ズババババババババー!!!!
落ちていた弓たちが動き出し、一斉に瑠真へと向かってきた。
ハッと瑠真が目を見開き、アダマスエスパーが笑いながら宙に飛び立った。
「終わりだ!!!」
しかし……
その大量の弓たちは空中でピタリと止まった。
「!!!!」
なんと、アダマスエスパーの心臓にサイのシンボルマークの付いた小刀が刺さっていたのだ。
うっ…と血を吐くアダマスエスパー。
その一瞬の出来事に、瑠真は目を見張る。
「まさか……梓美…?!」
急いで梓美に視線を移すと、仰向けだったはずの梓美がうつ伏せになっていた。
最後の力を振り絞って、梓美がサイの御守りを使ったのだと悟り、瑠真は梓美の元へ走った。
「梓美っ!梓美ぃい!!」
梓美は薄らと笑みを浮かべていた。
「やっと……少しは役に……」
あの時、瑠真の役に立てなかった自分を悔やんでいた梓美は、満足したようにそう言った。
「死ぬな!!なぁ頼むよ梓美……俺、お前がいないとっ……」
涙がぽたぽたと梓美の頬に落ちる。
梓美はもう、声が発せられなくなっていた。
呼吸もできていない。
瑠真くん…泣くの…2度目だなぁ…
あの時と全く同じ顔……
今度は私のために、涙を流してくれてるのかな……
願わくば本当は……あの時から1度も見せてくれなくなった笑顔を、もう一度見たかったな……
「おい……嘘だろ梓美!なぁあ!!」
梓美は満足そうな顔で目を閉じた。
「なんでっ…お前がっ……」
瑠真は梓美の亡骸をギュッと抱き締めた。
「俺と……結婚するんじゃなかったのかよ…
ずっと俺の隣にいてくれるんじゃ、なかったのかよ!」
抱き締められたあの時とは逆だ。
本当はこうして、自分が彼女を抱きしめたかった。
しかし、こんな形になってしまった。
「お前がいなくなっちまったらもう……俺には…何も残らないじゃねぇか……」
大量の涙が溢れて止まらない。
泣きじゃくる自分がまるで、自分じゃないみたいだ。
俺はお前のこととなると、こんなに泣けたんだな……
「どうして俺の周りは皆、いなくなってくんだろうな……」
涙が枯れ果て、月明かりがぼんやりと出てきた。
ほんの少し落ち着いてから、梓美の血のついた手のひらをボーッと眺めた。
血……赤……
それを見ても、もう何も感じなくなっていた。
「梓美……先行って待っててくれよ。」
その手をグッと握りしめ、覚悟を決めたように立ち上がった。




