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間違った正義



まるで覚醒したように凄まじいパワーを放出する爽斗と、それに負けないくらいの威力で応戦する玲二がぶつかり合う。



「おやおや〜っ!

黙って見てたけど突然喧嘩始めちゃったよ!

兄貴〜僕らどーするぅー?」



「あいつは玲二に任せて、八朔様の姉貴じゃない方の女と志門、とっとと片付けて帰ろうぜ。つか時間食いすぎてぜってー怒られんぞ俺ら」



「そーなんだよねぇ、ヤバイヤバイ」



一気に片付けようとこちらに向かってくる海月と海星に、雫は急いで柚を引き寄せ、顔を青くする。


ヤバいっ……間に合わない……!



シュパッ!!!


間一髪で志門がそれを邪魔した。



「カッチーン。いつまでもウザすぎなんだよ泣き虫志門!!」



「……雫さん、柚さん連れて逃げて」



「えっ?!」



「俺一人でなんとかするから」



「そんなの無茶だよ!」



そうは言ったものの、

気絶している柚を庇いながら戦うのは不可能に近い。


どうしよう……



シュシュシュシュシュ!!


飛んできた毒針に、雫が柚を庇うようにして抱きしめた。


その瞬間、



ザシュッー……!



「…………。」



静まり返る異様な雰囲気を感じ、雫は恐る恐る目を開けた。



「雫さん」



その声に、雫は無意識に目頭が熱くなった。



「大丈夫ですか」



目の前には優しげな伊央里がいて、海月と海星は死んでいた。



「伊央里さん……っ」


あんなに長時間苦戦し振り回されていたのに……

いとも簡単に一瞬で……!


さすがアクシアの伊央里だと言わざるを得ない。






雫が急いで柚に治癒スキルを施すと、柚はゆっくりと目を開いた。


そして、かけてあるアダマスのマントを見て目を見開いた。



「あのね柚……これは……」



「玲二?……ねぇ、玲二なの?

どこ!玲二はっ」



「柚落ち着いて!あっ!ダメ待って!!」



柚は一目散に、玲二と爽斗の方へと行ってしまった。





「玲二っ!!」



本気でやりあって傷だらけになっている玲二と爽斗が驚いたようにこちらを向いた。



「やめてよ……どうして私たちが戦わなきゃならないの……」



「来るな、柚。

お前が止めようと、俺はこいつを殺す」



爽斗の冷酷な声が響く。



「どうして……親友なのになんで」



「親友だからだよ!!」



爽斗は真剣に玲二を睨んでいる。



「もうこれ以上、親友を悪に染めたくない」



「悪なんかじゃない。僕からすればもはや、君たちの方が悪だ。その間違った正義がこの世を穢してる」



「その言葉……」



爽斗がグッと拳を震わせた。


なんでだよ……

なんでそうなるんだよ玲二


ただ普通に生きてるだけの人間を殺すことを肯定する何かが、この世にあるってのか……?



「…そっくりそのままお前に返すよ玲二!!」




全てが一瞬だった。



爽斗の放ったスキルは、割って入ってきた柚に当たっていた。



「ゆっ、柚ーーーっ!!!」



雫の叫び声がする。



「私は…大丈夫っ……」


よろよろとよろけながら、柚は苦しそうに笑った。


「柚……君は……っ」


「玲二……ごめん……ずっとっ、玲二のそばに居たのに……何も気付いてあげられなくて……でも私はずっと……玲二の味方でいたいよ……」



そのとき、ハッと伊央里がなにかに気付く。

そして瞬時に雫を庇った。



バシュー

バシュー



柚が倒れ、爽斗も倒れた。



全てが一瞬で、何が起きたか全く分からなかった玲二は固まる。




「全く。どいつもこいつも玲二玲二うるさいね、お疲れ様、玲二。遅いから迎えに来たよ」



「た…まき……様……」




いつのまにか、千鶴環がいた。

彼のスキルによって、柚も爽斗も倒れている。



「ゆ、柚っ……爽斗っ……や、いや……いやぁぁあああ!!!」



「雫さん近寄ったらダメだ!」



腰が抜けて思うように立てず、這って2人の元へ行こうとする雫を、伊央里が止めた。



「あ?てか……なんで貴様がいるんだ甘艸伊央里」



環と伊央里が睨み合う。



「ま、アンタをやんのは俺じゃない。

さぁ行くぞ、玲二。時間かけすぎだ。

……おい、玲二?マントはどうした」



玲二は感情の入っていない無機質な表情のまま呆然と落ちているマントを拾い上げ、キャミソール1枚の柚にかけた。


「柚……ダメだよ……そんな姿…他の男の前に晒しちゃ……」


蚊の鳴くような掠れた声でそう呟くと、先に消えていった伊央里を追うようにして去っていった。



柚と爽斗のもとに、志門と雫が一目散に駆けつける。


「雫さんが今治癒すればっ、まだっ、間に合うかもしれないっ!」


「もう……無理……手遅れ……私にはもう、どうにもできない…」


その言葉に、志門は絶望したように脱力し、涙を滲ませた。



" 私は志門くんのお姉ちゃんなんだから!"


そう言って何度も守ってくれた柚の顔が浮かぶ。



" 志門!なんかあったらなんでも俺に言えよ?柚がお姉ちゃんなら俺はお兄ちゃんだ!"


いつも明るく前向きなパワーをくれた爽斗のことも。



「雫ちゃん!志門くん!」


突然の声にハッとする。


なんと現れたのは、カオルだった。



「カオルさん?!」



「良かった!無事だったんだね!」



雫がアクシアの伊央里の元へ行って以来なのでかなり久しぶりに再会した。


カオルはやはり伊央里に気付いて険しい顔をした。

しかしまずは、柚と爽斗を見て状況判断をする。


「……お前がやったんだな」


冷酷に目を見開いて伊央里にそう言うカオル。

雫は急いで首を振る。


「違いますカオルさん!これはっ、アダマスの」


「雫ちゃんおいで。コイツから離れて」


「えっ」


「さらわれた時すぐ助けに行けなくて、本当にごめんね」



カオルは雫を背後に隠し、上目遣いで伊央里を睨んだ。



「アンタが甘艸伊央里だな。お前が雫ちゃんを洗脳してるのは分かってる。今すぐ解かないと命はないと思え。」



そう言ってカオルはメガネを取った。

雫はハッとする。

カオルがメガネをとる時はかなりキレていて本気の時に限る。



「待って、カオルさん!私、洗脳なんてされてません!」



「雫ちゃん、大丈夫。コイツ殺して、ちゃんと元に戻すからね」


いつもの優しい笑みを向けられ、雫は焦る。



「ほら、どうした。僕に殺されたいのか?」



「……すみませんが……私に洗脳のスキルはありません」



ザシュッーッー!


カオルが放った斬撃を伊央里が避けた。

伊央里の背後にある建物に当たり、なんとその建物は真っ二つに割れたため、雫も志門も目を見張る。



「僕にそんな誤魔化しは通用しない。

バカにしているのか?」



「真実です。……が、分からないなら教えて差し上げます……」



ザシュッー!

バシュッー!

バリンッー!



「やっ、やめてください2人とも!」



伊央里とカオルの戦闘は、並のエスパーの比ではない。


音もすごくて、自分の声が自分でも聞こえないくらいだ。


志門もどうしていいのか分からず、斬撃の余波を避けるために柚と爽斗を引きずりはじめた。




「お願いだから……やめてっ……」



なんで……

どうしてこうなるの……

私は……洗脳……されてるの……?


いや、そんなのどっちだっていい。


きっとこのままだと、2人とも死んじゃう!!


私が原因なら、私が止めなきゃ!!


私はこの2人に命を救われたんだから!!!




「?!雫さっ?雫さん!!雫さん!!」


突然雫が2人の方向へ全速力で駆けだした。

志門は必死で呼び止める。



しかし……



バシュッー……!!!




不思議と、全てがスローモーションに見えた。



伊央里とカオルの本気のぶつかり合いの中、その双方の光で雫が消えた。

気がついたように双方が止むと、雫は当然のように倒れていた。


呆然とする伊央里とカオル。

口を開けたまま時が止まったように固まる志門。


何が起きたのか、理解の範疇を遥かに超えていた。



「……しず、く、さん?」


「うぁぁあああ!雫ちゃん!!」



カオルが叫びながら雫を抱き上げる。


伊央里は傍で膝を落とした。



「そん…な……なぜ……」



" 伊央里さん、新しい仮面、作ってもらいました!どうですか?まぁ本当は……顔なんて隠す必要ないんですけどね。"


そう言って、彼女はアクシアの金属を扱えるエスパーに自分の片仮面を作らせ、プレゼントしてくれた。



その仮面が今、先程の衝撃でパリッと割れてしまった。

僅かに開けた雫の目と目が合う。

どちらの目からも涙がこぼれ落ちた。



「最後の私のお願い…聞いてくれませんか……」


「……なんですか……雫さん……っ」



その後に言った雫の願いを、伊央里は聞き入れた。



「雫ちゃん!逝っちゃダメだ!雫ちゃんが前に僕に言った願いはっ……君が生きててくれないと叶えてあげられないじゃないか!」


なんでこんな馬鹿なことしたんだよ!

と、カオルはただ嘆いていた。



" カオルさん、私もう、あの頃の弱い子供じゃないですよ。子供扱いしないでください "


雫はよくそう言ってきた。


" じゃあ私が大人になったって思ったら、デート、してくださいね!"



「子供扱いなんて……っ、してないよ……出会った時から……」



涙がぽたぽたと雫の顔に落ちていく。



「カオルさん……ごめ…なさい……

あの時…助けてもらった恩……返せなくて……」



雫が目を閉じる寸前に、伊央里が手を翳した。


雫の体からフワッと不思議な光が吸い取られていくように伊央里の手に入る。

そして伊央里は、志門の前に横たわっている柚と爽斗にそれを翳した。


死んでいたはずの2人は、薄らと目を開けはじめた。



「……これでわかりましたか……

私の本当のスキル……

雫さんが…命を賭して証明してくれた……」



カオルは涙を流しながらグッと拳を握った。


伊央里のスキルは、洗脳ではなかった。

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