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光をもたらすもの


心地よい風が、頬に当たる。


フワッと覚めたその目覚めが、なんだか今までにないくらいに心地よかった。


目が覚めた瞬間に視界に入ってきたのは真っ白い世界。



え……天国……?

俺は……まさか……死んだのか?



「っは……!」



よく見ると、それは小さな白い花。

辺り一面に咲く、サンカヨウだった。




「……起きた?」



「っっ!!朱星ちゃんっ」



朱星が隣に立っていた。

前を向き、風に揺れているたくさんのサンカヨウを見つめている。




「サンカヨウの花言葉はね……

自由…幸せ……。」




光はようやく、ハッと気が付いた。



今まで、何度も見てきた夢だ。


この光景も、この子も……

いつもの俺の夢のまんまだ。


今は夢の中じゃなくて、

現実のはずだ。




「その指輪……綺麗だね…」



「えっ?……あぁ、これ……」



光は首にかけている指輪をギュッと握った。



「お守りなんだ。

俺が赤ん坊の頃から持ってる……」



本当は、あなたが俺に持たせたものですけどね。

と、心の中で言う。



「でもこの字、読めないんだ」


指輪に書かれている文字を見つめながらそう言うと、


「見せて」


と言って朱星が覗き込んできた。



「পোহৰ কঢ়িয়াই অনা」



「え……?」



「"光をもたらす者" って意味だよ」



「どっ、どうして読めるの?」


ハッ!まさか……この時代ではもう言語が変わって……



「分からない」



「え?」



「全然知らないし見たこともない文字なのに…なぜだか読める」



呆気に取られてしまった。

そんなことってあるんだろうか……?



「……光くんのお父さんとお母さんは、ちゃんと無事?」


「あっ、うん…多分……」


恐らく、ちゃんと避難できたはずだ。

実家近辺の情報は、あのあとすぐ調べた。

もし危険な状況だったら、もちろん真っ先に優先するつもりだった。

血は繋がってなくても、自分を大切に育ててくれた両親だ。


ただ、今後どうなってしまうのか……

このままだと、命の保障はどこにも無い。


親だけでなく、全員の。



「多分って何よ!?何かあってからじゃ遅いんだよ?!早く確認に行きなよ!」



朱星の言葉に、なんだか突然不安が押し寄せてきた。


今、向こうはどうなっているのか……


アダマスは只者じゃない。

恐らく向こうの現代で最強のエスパー集団だ。


そんな人たちと戦っている皆を俺は……

置いてきてしまった……



「………。」


顔がどんどん青ざめていく。

鼓動が早くなっていき、胸が苦しくなってきた。


嫌な想像ばかりしてしまう……



「茂さんも…志門くんも…遥さんも柚さんも…エメ子ちゃんや亜蘭さん、カイトさんや熙さん…クマも…みんな……みんな……」



今頃もしかしたら……

大変なことになっているかも……



「光、大切な人がたくさんいるんだね。

じゃあ、早く捜しに行った方がいいよ!

私のことはもういいから!」



「でもっ」



「大丈夫!私、そんなに弱くないでしょ?」



弱くないどころか、強すぎてかなり驚いたくらいだ。

しかも朱星は、人を殺すことに何の躊躇もなかった。



「ありがとね、光。

私は大丈夫なのに、きっと心配性のパパの命令でしょ?世話かけてごめんね」



その微笑みに、朱星の強さを思い知った。

光は自分だったらと考えただけで吐きそうなほどの不安に襲われる。


まだ10代前半そこそこで、たった1人で逃げ隠れししているのだ。

なのになぜこの子はこんなに強くてしっかりしていて、しかも他人の心配までできるのだろう。


そして、自分がこんなすごい人から生まれたのだと思うと、とても勇気づけられた。




「……朱星…ちゃん……

最後に1つ、いいかな」



光は朱星の目を真っ直ぐ真剣に見つめた。



「これから先、朱星ちゃんはきっともっと強くて綺麗な大人に成長する。

そして、朱星ちゃんのことをとても大切にしてくれる人に出会うと思うんだ。

もしかしたら子供ができて、お母さんになるかもしれない。

そのとき世界がどんな状況でも、決して諦めないで。

……未来には絶対に、光があるから。

どんな暗闇の中にも必ず!

光は……どんな闇をも凌駕するから。」




驚いたように丸くしているその目を見つめていると、なんだか涙が込み上げてきてしまった。



「…っ……会えてよかったよ」



母さん……


もう、二度と会わないかもしれないから……


最後にその顔を、

しっかりと脳裏に焼き付ける。




「さようなら……」


「光」



ギュッと抱き締められた。

その感覚が、その温もりが、香りが、体温が、あまりにも懐かしくて、あまりにも心地よくて、

なぜだか自然と涙がこぼれた。



「光って、いい名前だね……」



「っ!」



「また、会おうね」



「っっ……ぅんっ……」



涙を零しながら、何度も頷いた。





「さようなら……光をもたらす者……」


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