情けない自分を見たくない
私はとある貧しい国で、奴隷として売られていた。
そんなことはよくあること。
若くて多少器量がいいと、高値でセリにかけられるのだ。
だから別になんとも思っていなかった。
この先どんな人にどんな風に扱われるのか……どうでもいいそんなこと。
心を殺していれば、死んだも同然に生きれば、たいしてそんなに苦痛じゃない。
皆そうやって生きてるじゃないか。
「おぉっ!なんと50万ドルを出すとは!そこの若いご紳士!」
おぉ……と観客たちの声がするが、私はただ壁だけをボーッと見つめたまま。
私にそんな高い金を出す奴がいるなんて、人間というのはどこまでも貪欲だと思った。
「どなたかこれ以上をあげられるお方!……んんやはり出なさそうですね!…では!ありがとうございます!そちらのご紳士のお買い上げで!」
引き渡される時、私はこれから主となるその人物を初めて見た。
美しく整った顔、吸い込まれそうなほど綺麗な瞳。
想像していたものとはあまりにかけ離れていて、私は目を見開いたまま固まった。
「私は亜斗里。お前の名は?」
その声はなぜか、不思議と私の心を落ち着かせるような、聞いたことの無い声色だった。
「いやいや旦那、奴隷に名前などあるわけないじゃないですか」
引き渡した人間は、そう言いながら金の勘定をしていた。
「名前は自己を表す大切なものだ。
無いわけがないだろう。」
「……パウ…と、呼ばれていました」
私が初めて声を出すと、金を数えていた人間は手を止めて大笑いしだした。
「あっははははっ、はーっ、すいませんね旦那、でもっははは、そりゃ犬や猫って意味なもんでっくくくっ」
私を買った男は、少し不機嫌そうにその男を睨んだ。
「これからお前は、パウリナだ。よいな」
私は目を見開いた。
それは、美しさだけでなく皇女や高貴といった意味を持つ、貴族の中で人気が高い名前だからだ。
「えっ、ちょっ、旦那ぁいくらなんでも奴隷にそんな贅沢な名をつけるなんざ、」
「お前はもう赤の他人だろう。
私のモノに口出しする権利は無い」
そう言って私をこの国へと連れ出した。
「パウリナ、お前は選ばれし人間だ。
普通とは違う、この世を変えられる素晴らしい力を持っているんだ。つまりお前は、この世で最も価値がある」
誰が想像できるだろうか。
犬や猫と同価値いやそれ以下だった人間が、そんな言葉をかけられるなど。
「お前のような子を虐げる人間は皆、知能も力も低いのだ。それ故に、価値も低い。
そんな人間が蔓延るからこの世が穢れるといった仕組みだ。
ならば我々は、価値の低い人間を無へと導かなければならない」
数年後、私も競り場で、スキルオーラの見える一人の女児を競り落とした。
「名前は自己を表す大切なもの。
貴方はこれから、モニカです」
「おぉっ?こんな高値出して誰かと思いきやお前かパウ!はは〜ん、随分とべっぴんさんになって…さぞご主人様に可愛がってもらってんだろうなぁ?」
ザシュッ!
問答無用で私はその男を殺した。
「ま、ま、魔女だーーっ!!」
「魔女が出たぞーーっ!!」
「神父を呼べ!魔女だっ!!」
私は競り場1つを跡形もなく焼き尽くした。
この世は、人間の垢が溜まりすぎている。
欲望のためならどんなことでもする。
それが人間だ。
こんな世を平和へ導くのは、
亜斗里様の創造する世界だけだ。
亜斗里様の元へ……モニカの元へ……
「もど……戻ら、なくちゃ……」
必ず……生きて戻ると……
「約束したんだから!!」
ピカー……
「光!!!」
後ろから聞こえた朱星の声と同時に、パウリナの斬撃が凄まじく光る。
しかしそれが今、光にはスローモーションに見えていた。
これは、時季誠や佐々木武臣、そして茂範が使えるスキルだ。
「ごめん……パウリナさん……」
" 君はまだ、他人を傷つけることを躊躇してるんだ "
" 自分が変わってしまうことを一番に恐れているんだよ "
もう二度と……
そんな情けない自分を
見たくないんだ。
ズシャッー……
スローモーションで向かってきたパウリナを避け、そのまま上に回って首にスキルを落とした。
そのままパウリナが落ちた所までは見えたが、
光は呼吸に限界が来て、意識が途絶えた。




