523 混じり物の火
「ああ、地下は聖痕の力が使えるから来てもらった」
ファルが答えてくれたけど、第十一部隊長さんにはお願いして来てもらったらしい。
そんなわざわざお願いして来てもらうなんて、どういう聖痕の能力なのだろう?
「それに今は魔道具も不安定で使えないらしい」
魔力を使った魔術や魔道具が使えないので、聖痕の力で代用するということなんだね。
ということは……
「光か火?どっち?」
私は第十一部隊長さんに向かって尋ねた。
暗闇を照らす要員であるなら、光か火のどちらかだろう。
因みに酒吞も火は扱えるけど、細かい技は苦手だそうで、明り取りの火は出せないのだ。
すると、第十一部隊長さんは私の視線を避けるように横を向いてしまった。
何故に?
答えなくないということなのだろうか?
まぁ、ダンジョンの入口のところに行けばわかることだから、答えなくても別にいいよ。
「火のほうだ」
代わりにルディが答えた。
本人が避けているのに、答えなくてもいいんじゃない?
でも火なら別に答え難いとかないと思うのだけど。
その理由が、一番下にたどり着いてわかった。朧が下にたどり着いた瞬間に、朧が持っていた明り取りの魔道具が点滅しだしたのだ。
そして突如として消えた。
ダンジョンに入っていないにも関わらず、入口と同じ層にたどり着いたところで、影響を受けてしまっている。
まだ、各自が持っているランタン型の魔道具があるため、現時点では問題ないけど、全員が下りたところで、暗闇に満たされてしまうことだろうね。
「レクトフェール。頼む」
ルディが第十一部隊長に声をかけると、空中にいくつもの炎が浮かび上がった。
その色に私は首を傾げる。
何度も見ている酒吞の炎の色と違うと。
酒吞の炎の色は赤い。
燎原の火と言っていいほど、勢いよく燃える炎という言葉がぴったりだ。
だけど、目の前にある火の色はくすんでいる。
なんというか、科学実験で見た赤っぽい紫と言っていい火だ。
「混じっている火なのかぁ」
たぶん。何かの要因で色が変質しているのだろう。
私が一人納得していると、下のほうからジャリという石を踏む音が聞こえてきた。
すると私が持っているランタン型の魔道具の光も消えた。
本当に使えないとは、ダンジョンの影響と言うには大き過ぎる。
「青嵐。月影。形が整っている石がどの辺りにあるか探して教えてくれる?」
「「御意」」
恐らく勾玉の形のまま残っているところは、固まっているはずだ。扉の近くだと私は予想するけれど。
「あの。聖女様」
何故か第十一部隊長さんまで私のことを聖女呼びをしてきた。それも敬称つきでだ。
「混じっている火とはどういうことでしょうか?」
「聖女はシェーンのほうなので、私はただの将校です」
第十一部隊長さんに注意する。
人前で聖女と呼ばないで欲しい。
「火は温度によって色が変わるって話を……第十一部隊長さんにはしていないか」
「聖騎士クヮルティーモーガンの火の話だな」
ルディが答えてくれたけど、一から説明するのは面倒だよね。
「まぁ、混じっているというのは、温度による影響じゃなくて、他の要因で色が変色しているのかなっていう話。茨木が出す鬼火がそうだよね?」
一度茨木が出してくれた青白い火。
あれは見た目どおり温度がない火なのだろう。
「そうですね。酒吞の炎とは違いますね」
何が違うのか言ってくれないのは、種明かしはしないということなのだろう。
無理に聞き出すことはないので、それ以上は触れないでおく。
「色で言えば、赤い火に青い火が混じった色だよね。ということは二種類の火が使えるのかな?」
「え?」
「違った?まぁ、そんな感じで火と何かが混じっているのだろうなという予想だね」
人に言えないのはきっと何かあるのだろう。それを深く詮索しようとは思わない。
誰だって話したくないことはあるだろうから。
話が終わったところでヘビ共が戻ってきた。
「「主様。あちらです」」
指された方向は暗くてよくわからなかった。
まぁ、一度麒麟を探し出してきたのだ。間違いはないだろう。
朧がヘビ共が指した方に足を進めた。
ちらりと第十一部隊長さんのほうに視線を向けると、なんだか難しい顔をしている。
何故そんな顔をしてるのだろう?
普通の火の聖痕ではないことはわかっていただろうに、私が適当なことを言ってしまったので、困惑してしまっている?
はぁ、この国の聖女信仰はどうにかするべきだよね。
私が言ったことが正しいとは限らないなのに。
ここを出たら謝っておこう。
ん?横目で何かが光ったような気がする。
朧が進んでいく方向とは別の方向だ。
気になって重力の聖痕でふわりと浮き上がって、光った方に起点をおいて飛んでいく。
「アンジュ!」
「後で、戻る」
暗闇の中、私はそう言って、石が敷き詰められた地面に降り立ったのだった。




