524 彼氏って
確かこの辺りだったはず。
しかし暗すぎてわからない。
ただ単に第十一部隊長さんが出した火の光が反射しただけなのかもしれない。
ふと視線を上げると、目の前に薄ぼんやりと扉が見えた。
ああ、もしかしたら扉の取っ手が光ったのかもしれない。
そう思い、激怒であろう魔王様をどうなだめようかと考えていると扉がカチャリと開く音が聞こえた。
「は?」
私は何もしていないけど?
凄く嫌な予感がして、重力の聖痕を使って距離をとろうとするも、何かに引っ張られるように内側に開いた扉の中に引き込まれてしまった。
「お姉ちゃん。ぼーっとしてどうしたの?」
私の目の前には、脱色しすぎて髪がいたんだ前世の妹の姿があった。
下を見ると踏みしめる地面は黒いアスファルトで、妹の背後には私が家族と過ごしていた家が見える。
「何故にまた妹もどきになっている。獅子王」
「ここがそう言う仕様だからかな?」
首を傾げながら言う妹もどきにイラッとした。しかし、何か用があって連れ込んだのだろう。
「それで用は何?魔王様が激怒だと思うので、そのうち殴り込みにくるよ」
勝手な行動をしたことに自覚はある。なのでルディを怒らせている自覚もある。
たぶん、直ぐに扉を叩き壊す勢いで入ってくると思う。
「あ!お姉ちゃんの彼氏?」
「違う!……ん?婚約者って彼氏じゃないよね?」
「さぁ?お姉ちゃんの彼氏は扉の外で、扉を開けようと頑張っているね」
「だから違うって。それで何の用?」
彼氏の定義が何かは横に置いておこう。それよりもここに連れ込んだ理由を聞きたい。
あと王族であるルディが扉を開けられないということは、あの扉は獅子王の意思で開閉が可能だということか。
「そうだね。確認したかったんだよね」
「何を?」
「それ」
妹もどきは私の左目を指した。
正確には中に隠している太陽の聖痕だろう。
「同じ力は別れても一つになれる。といううことかな?」
私が魂だけの聖王の力を取り込んだことを言っているのだ。
そう言えば、消える前に聖王が何かをいっていた。『俺の仮説は合っていたようだな。俺の望みは……』最後まで聞き取れなかった。
あれは聖痕のことを言いたかったのだろうか。
でも、聖王と獅子王の望みは違ったはずだ。
「へー。それはそんなに嬉しいこと?」
妹もどきは、笑っている。それも前世の妹が浮かべないような悪どい笑みだ。
「そうだね。とても喜ばしいことだね」
本当にイライラする。前世の妹の姿を使わないで欲しい。目の前にいればぶん殴ってやったのに。
そう、これは幻影。私の記憶を覗き込んで、私に見せつけているだけにすぎない。
「色々、考えているみたいだけど、一つ忠告しておくよ。お姉ちゃん」
「今の私に妹はいないよ」
「まぁそう言わずに聞いて、大事なことだよ。順番を間違ったら駄目だよ」
順番?もしかして常闇を全部閉じてから、この大穴を閉じろと言っている?
そこまで時間はかけてられない。
「順番を間違うとどうなる?」
「ひっくり返ったままかな?」
え?何がひっくり返っているわけ?
「まずは、元に戻さないとね。そこから始めないと」
「何がひっくり……ぃい!」
突然背後から引っ張られて、声が引きつってしまった。
いったい今度は何!
「アンジュ……」
「うぐっ」
どうやら私は魔王様に捕獲され背後から締め上げられているらしい。
気がつけば、視界に扉が映っている。
「ぐるじい」
私は締め上げている本体の腕をバシバシ叩いてみるも、何も反応が返ってこない。
誰か助けて欲しいと視線を巡らすと……
「アマテラス。誰と話していたんだ?こっちの声は聞こえなかったのか?」
扉の側には疲れた様子の酒吞がいた。え?何があったの?
戦っていてもこんな疲れた様子は一度も見たことなかったよ。
あ、少し力が緩んだ。
「獅子王と?で、酒吞はとても疲れている感じに見えるのだけどどうしたの?」
「ツクヨミの旦那から人1人分通れる隙間を開けろって言われたんだが、これ全然開かねぇの。アマテラスどうやって開けたんだ?」
酒吞は扉をノックするように拳で叩きながら教えてくれた。
ああ、どうしても開かないから、一番力がある酒吞に開けるように言ったのか。それで、隙間ができたところで、私はルディに引っ張り出されたと。
「招き入れられたという感じかな?」
強制的に呼び込まれたという感じだけどね。それで私はいつまで、魔王様に背後から捕獲されて、両足をプラプラさせている状態でいなければならないのだろう。
しかし普通に言っても下ろしてもらえない。
「ルディ。手を繋いで歩こうか」




