舞踏会
ネフェリアーナ目線続きます
アティリオ様から贈られた真紅のドレスは見たこともないような高級素材で織られたもので、まるで陶器のように艷やかな光沢を放っていた。光の角度によって妖艶にも輝く真紅は私の肌を美しく包み込むと優雅に煌めき、胸元から足元まで施された金色の薔薇の刺繍は華やかさと上品さを惜しみなく漂わせていた。
ーーごめんなさい、馬子にも衣装。
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「ネフェリアーナ様、とてもお綺麗です。」
迎えの馬車の中でダミアン様が褒めてくれた。
「ありがとうございます…恐れ多いことです。」
「殿下がさぞかしお喜びでしょう。」
「ありがとうございます。………はあー」
「どうされました?」
「いえ、あの、緊張してしまって…。我が家の舞踏会にすらきちんと出席したことがありませんのに。いきなり…こんな…私は大勢の方と接することなく育ったもので。見られるのが苦手と申しますか…」
「ふふっ、大丈夫ですよ。皆、ネフェリアーナ様と仲良くなりたいだけです。」
「私と?」
「はい。ネフェリアーナ様がどんな方か知りたいと思っているだけです。目が合ったらニコッとしてやればいいのですよ。」
そう言われて私はふっと思った。
そういえば誰も私に何かしたわけではない。私の方が勝手に人々との間に壁を作っていたのかもしれない。
気負いすぎていたのかしら。そう思うとなんだか急に気持ちがラクになった。
「さて、会場までご案内させて頂きます」
王宮に到着し馬車を降りるとダミアン様が腕を差し出してくれた。
私は彼の腕に掴まり足を踏み出した。
いつも訪れている王城とは違い、同じ敷地ではあるがここは舞踏会用に建てられた城だった。
夜の庭園は甘い花の香りが際立つ。
会場から漏れてくる音楽と光に照らされた花々。なんとも幻想的な雰囲気に私は夢の中にいるような心地になった。
会場の扉を抜けると…その場の話し声が消えた…ように感じた。そこにいる全ての人々の目がダミアン様と私に向いたように思えた。
ーー大丈夫、私大丈夫、ニコッ、ニコッ、ニコッ。
私は呪文のように繰り返し、微笑んだ…上手く笑えているか自信はなかったけれど。
「ふぅー」
ダミアン様が息を吐いた。
「どうかされました?」
「ネフェリアーナ様、先程私はニコッと笑うだけでいいと言いましたが…訂正いたします。」
「はい?」
「私はこれだけの人々に注目されたのは初めてです。……なんだか気分が悪くなってきました。」
「???………ぶっ!」
私は思わず声を上げて笑いだしてしまい、急いで手で口元を隠した。
「天使は今日も一段とお美しい」
ラミエル様に声をかけられた。
「なんだダミアン、顔が青いな。気分が悪いならいつでも代わるぞ」
「私が賭けに勝ったのです。私がエスコートします、ご心配なく。敗者は指を咥えておとなしくしていてください」
会話の内容はいまいちわからないが、2人のやりとりを聞いているのはとても楽しかった。いつの間にか人目など気にならなくなっていた。
「なんと真紅のドレスがお美しい!お名前をお教え頂けませんか、ご令嬢?」
後ろから声がした。
「アティリオ様!」
もちろんすぐにわかった。振り向くと優しく微笑む彼がすぐ後ろにいた。
いつもは自然なままの黒髪を今日はきっちりと整え、真紅の布地に金色の薔薇の刺繍が施された上着…ん?
私は気づいた。誰がどう見てもアティリオ様の正装衣と私のドレスはペアだ。
これは…私でも知っている…「この人は私のもの。私はこの人のもの」という意味が込められているのだ。
しかもこのような場で王太子である彼がしたとなると…それはもう……私は恥ずかしさと嬉しさに顔の温度が急上昇した。
そしてもう一つ、私は今になってようやく気づいた。
真紅は我が国の色であり、我が王族家を表す色。
もはや彼の術中にはまり逃げ場などない。けれど私は怒るどころか、それを心から嬉しく幸せに思った。
「一曲踊って頂けますか?」
そう言うと彼は私の手を取り、ホールの真ん中へと誘った。
ゆっくりと流れるような音楽。
手に手を取り互いの腰に手を回し身体と身体を密着させる。
私達はダンスをするというより互いを見つめ互いを一人占めしているその時間を味わっていた。
「やはり君には真紅が似合うね。想像以上だ」
「…ハメられました」
「?!…アハハハ、バレたか」
アティリオ様はよく笑う方だ。
私は彼の笑顔が大好きだ。
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この時、少し離れた場所で怒りに狂い始めている人間がいるとは誰が想像できただろう。




