口づけ
ネフェリアーナ目線です
「ネフィ、待たせたね」
「アティリオ様!」
アティリオ様との時間はもう何度目になるだろう。
私は彼をアティリオ様と呼ぶようになり、彼は私をネフィと呼ぶ。
私は彼にネフィと呼ばれるのがとても好きだ。その優しい声や呼び方に心がキュッと、優しく温かい手で掴まれたような感覚になる。
今さらながらネフェリアーナと名付けてくれた両親に感謝したりしている。
アティリオ様との時間は思った以上に、驚くほど楽しい。私は特に魔力の話を聞くのが好きだ。自分の魔力がどうかはよくわからないが、その歴史を知ることや、敷いては王家の歴史など…なんと言っても生きる標本が隣にいるのだ。彼は何でも聞いていいと言ってくれたし、何でも答えてくれた。
一度だけ魔力の使い方を教えてくれた。
「一度だけだよ。一応我が国では禁止されているし。いつか君が僕の妃になっても君が魔力を持っていることを公表するつもりはない。万が一でも面倒に巻き込ませたくないからね。…いつか僕の妃になっても…ね」
彼はそう言うとニヤリと笑った。
「もう!そういうのはいいので教えて下さい!」
ーー顔が赤くなるからっ!!
私達はまだ花を咲かせていない薔薇の前に立った。
「利き手をかざして、頭の中で薔薇の花を思い浮かべてごらん」
私はまだ硬い蕾に右手をかざした。
すると5秒ほどで蕾がムクムクと動き出し…私が思い浮かべたそのままのピンクの薔薇が咲いた。
ーーキモっ!なにこれ?!情緒がないわ!
やっぱり花はふっと見た時に「あ!咲いてる!」なんて言いながら愛でるのが一番いいのだな、うんうん。
私達はよく王宮書庫で時間を過ごした。
一生かかっても読みきれないほどの本は圧巻だ。地震ダメ絶対、だ。
アティリオ様は書物に詳しく、色々な書物を薦めてくれた。どれもとても興味が惹かれるものだった。
ーーーーーーーーー
「殿下」
その日も2人で書物を見ているとラミエル様と護衛の方が入って来られた。
「殿下、ネフェリアーナ様、申し訳ございません。
殿下、火急の用件が…」
「何一つ聞こえない」
「殿下!」
「はあー」
アティリオ様は大袈裟にため息をつくと
「ネフィ、ちょっとごめんね」
と言ってラミエル様達の方へ向かった。
そしてそこで少し話をすると、また私の方へ戻られ
「はあー。ネフィ、ラミエルの意地悪で」
「心外です」
「少々出かける用が出来てしまった。今日はダミアンが君を送るからね。何かあれば彼に言うんだよ。」
「わかりました。ありがとうございます。でもアティリオ様、もう少しだけこれを読んでいてもよろしいですか?」
「もちろん。ただあまり遅くなってはいけないよ」
彼はそう言うとダミアン様に「任せたぞ」と言って書庫を出ていった。
私はひどく寂しく残念だなと思いながらも、再び書物に目を落とした。
「ネフィ!」
呼ばれて顔を上げるとアティリオ様がこちらへ早足でやって来た。
「アティリオ様?え?」
外を見るといつの間にかずいぶん陽が翳っている。
「あ!私、夢中になってしまって。申し訳ありません」
目の前まで来ていたアティリオ様を見ると、シャツの襟元2つ分くらいのボタンはかかっておらず、またシャツはズボンから出たままになっていた。
ーー色気っ!!
私の目線に気づいたアティリオ様が笑った。
「ハハ、すまない。着替えていたらまだ君がいると聞いて急いで来たのだ。」
見たこともない彼の着崩した姿に私は完全に見惚れてしまい意識がぶっ飛んだ。そしてなんとか取り戻した。
「はっ!あ!いえ、あの、その、あの、あっ、この書物、ほらアティリオ様、ここがものすごく興味深いのです、ここ!」
私は指でとりあえず開いていたページを指し示し、彼を見上げた。その時、
彼の口唇が私の口唇を塞いだ。
ーーうっ………わっ……
なんと柔らかく温かく優しい口づけなのだろう。驚きながらも目を閉じかけた時、彼が勢いよく私を離し
「すまない。君に許しも乞わず。申し訳ない。」
そう言って横を向いた彼は耳から首まで真っ赤だった。
彼に触れられた左頬と右肩が熱い。
「送ろう」
彼は背を向けて歩いていこうとした。
そのシャツの背中を私は思わず掴んだ。
「???」
振り向く彼の顔はもちろん見れない
「あの…だ、大丈夫です。許しは…乞うて頂かなくても…アティリオ様の…お好きな時に……あ!でも人前では……んっ!!」
今度は強く、でも優しく口唇を押しあてられた。
両頬を彼の両手でホールドされた私も夢中で彼の口唇を求めた。
長く短く何度も何度も角度を変えて彼は私に口づけをした。
口唇が重なるたび、彼の愛情を注ぎ込まれるようで私は幸福に酔いしれた。
彼は私の顔を胸に引き寄せると
「はぁぁぁーー。可愛い」
と呟いた。
その日から彼は馬車の中では私の隣に座るようになり、手に手を重ねてくれるようになった。
ーーーーーーーーー
「舞踏会?」
「ああ、我が王宮主催の舞踏会だ。」
「来週?」
「来週」
「僕にエスコートさせてもらえないかな?」
「…………………」
ーームリムリムリムリ!!
でも、母親にお菓子をねだる子どものような顔で覗き込んでくるアティリオ様の顔を見ると…
「そんなお顔をされると断われません」
「よしっ!決まりだ!
実はもう君のドレスも注文済なんだ。是非君に着てもらおうと思ってね」
そう言うと彼はイタズラっ子のような顔でニヤリ笑い、私の頬にキスをした。
計画犯罪だ。




