解けた呪縛
ラミエル目線です
「かわいい、ネフィが可愛いすぎる」
「わかりました、仕事を」
「いやだ、仕事などしたくない。ネフィを愛でたい」
「今後のネフェリアーナ様との会食は2週間に一度に減らします」
「お前は…ネフィの可愛さをわかっていない」
「可愛さをわかる準備はいつでもできています」
「不敬」
「仕事を」
「ラミエル。俺は初めて…本当に初めて魔力の話を当たり前のように話せる相手と出会った。彼女といると、魔力も含めてありのままの自分でいられるのだ。」
アティリオが天使に求婚してから数ヶ月。お前がここまで腑抜けになるなど…友として私がどれだけ喜んでいると思っているのだ。もちろん決して言ってはやらないが。
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アティリオと私は気づけばずっと一緒にいた。兄弟かと思うほど幼い頃から一緒にいる記憶しかない。
幼い頃の私達はありとあらゆるイタズラをした。
王宮はイタズラの宝庫だ。毎日イタズラをしても飽き足らない。そしてよく2人で怒られた。
彼が王子であること、王位継承者であること、そして魔力があることなど私にはどうでも良かった。それよりアティリオという友人が誰よりも大切だった。
彼は魔力の話をしたがらなかった。私も特に聞いたことはなかったように思う。
時々出会う子ども達の中には不躾にそのことを尋ねる者もいたが、そういうときの彼はその場は軽く笑ってかわし、その後とても機嫌が悪くなった。
しかし、後にも先にも一度だけ彼の魔力を見たことがある。
イタズラが過ぎて、私が陛下の象徴とされている青薔薇を手折ってしまったのだ。
子どもながらに私は血の気が引いた。
すると彼は黙って右手を花にかざした。見る見る間に花が元に戻った。
私は歓喜し「ありがとう!」と声をかけた。しかし振り向いた彼はそれまで見たこともないような辛い顔をしていた。
魔力を持っているということが彼にとっては後ろめたいことなのかもしれない。
当時そこまではっきりと自覚したかはわからないが、今思い起こすとそう感じたのだ。そして今、その思いは正しかったのだと思っている。
彼はよく笑う男だった。幼少時はもちろん共に学院に通うようになってからも彼は快活によく笑い楽しい男だった。その上、あの容姿だ。
当然令嬢達はこぞって彼と仲良くなりたがった。
今にして思えば、あの頃から彼は誰にでも分け隔てなく笑顔で接しているようで、誰とも一線を引いていた。舞踏会でのダンスも誘われればそれなりに応える。けれど私以外の者の前では彼はいつも『第二王子』だったのだ。
彼が笑わなくなったのは…あれは17才の時、初めて彼に婚約の話が出た時だ。
1つ年下の高位貴族令嬢だった。
親しくは知らないが、学院が同じだったし顔くらいは知っている令嬢だった。
大人しく可愛らしい印象だったように思う。
結局婚約は流れた。
彼が笑わなくなったと感じた時、婚約が流れたことにショックを受けているのかと思っていた。
そのうち元に戻るだろう程度に考えていた。
しかし彼はその頃からどんどん笑わなくなり、寡黙になり、人を寄せつけないかのようになっていった。
「俺もいつか結婚するのだろうか」
ある時彼が呟いた。
「当たり前だな」
「……考えるとゾッとする」
ーー男色だったのか!!
愚かすぎる私が、彼の苦悩の深さをわかるようになるにはそれから数年かかった。
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あの日のことを私は決して忘れない。
彼の笑い声を聞いた瞬間、私は全身が雷に打たれたように硬直した。我が耳を疑った。
庭園から聞こえてきたのは聞き間違うはずもない幼き頃から共に過ごし、なのにもう何年も聞くことが叶わなかった友の笑い声だ。
目を向けると彼と天使が大笑いしている。会話は聞こえないが天使が笑いながらも彼に何かを抗議している。恐らく天使がいつものド天然ぶりを発揮してアティリオを笑わせたのだろう。
天使が王子の呪縛を解いた。
天使とアティリオは今やすっかり打ち解けていた。アティリオも彼女の前ではただの男。私が知っているアイツでいられるようだった。
どこからどう見ても仲睦まじい2人だ。1年と待たず答えが出るであろう。私は側近として幼なじみとして、その日を心待ちにしている。
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あの日、バルドメオ公爵家からの帰り。
私は馬車の中で彼に尋ねた。
「で、答えは出たってことでいいのか?」
「ん?」
「例の血筋の」
「ああ、そうだな、出た。
正直、今朝、城を出る時はまだ多少の迷いはあった。しかしネフェリアーナや彼女の母上と話をして…心が決まった。」
「ほお。……で?答えは?」
「『どーでもいい』」
「…………は?」
「どうでもいいのだ、ラミエル」
「詳しく説明を求めてもよろしいでしょうか、第二王子殿下」
「ラミエル、魔力があったら何をする?」
「やりたい放題」
「フッ、そのとおりだな。良い答えだ。
魔力があれば望むものがおおよそ手にできるだろう。
自分が思う平穏を手にする為に魔力を使う人間は多い。
だが自分が思う平穏を手にする為に魔力を使わない人間などそうそういるもんじゃない。
ネフェリアーナは『必要がないから使ったことがない』と言った。
魔力に魅了されていないのだ。それがレオデオール家なのだ。
レオデオール家なら王族の血筋になったとしても問題はない、と思った。
何より、私が守るべきはセレスティノ家の血ではない。エドマンド王国だ。
エドマンド王国が守られ民が守られるなら、王族の血筋がセレスティノ家であろうがレオデオール家であろうが『どーでもいい』。」
「……………我が命のある限り殿下に忠誠を誓います」
「ふんっ、なんだ急に」
「言いたくなったのだ。」
「フッ…ならば私とネフェリアーナの会食を即刻設定してくれ。週に2回は頼むぞ」
アティリオは笑いながら窓の外に目をやった。この数日彼の顔に覆いかぶさっていた靄はすっかり晴れていた。
ーー魔力に魅了されていないのはお前も同じだ。




