表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第五章 挑戦者
98/185

092 習ったけど忘れた

*** フェイト=キャスカ ***


 アンキスロライト・・・序列戦 2 位の精霊は思った通り強敵だった。

 でもこの先を目指すには倒さないといけない。


 現状では勝てそうにないことを素直に受け入れて、私は舞台を後にして暗闇の城に戻った。

 王の間にはソルとルナークが復活していたけれど、それはまぁそんなものかなという感じだったのであまり気にしない。

 二人の強さはどれくらいだろう。私の感覚としては、単純に一人で立ち向かうなら序列戦の前半のどこかだと思う。


 舞台で用意された部屋には最低限の美味しいとも美味しくないとも言えない食べ物が用意されていたから、拠点はあそこでいいと思う。

 むしろ序列戦に集中してくれとでも言わんばかりで、ますます違和感が募るけれど。


「常闇」

「はい、ここに」

 常闇を召喚し、アンキスロライト攻略の方策を相談する。

 彼はいかに影をあの舞台で生み出すかが重要と考えているようで、それは自分自身を戦闘で活かして欲しいという思いもあってのことだと思う。

 私は常闇の案も考慮しつつ、けれど根本的なところで私に足りていないものを補う必要があるんじゃないかと感じている。


 それは簡単に言えば力の大きさ。あるいは密度。

 常闇の力は非常に強力だけど、元々闇属性の魔法は私が得意としていたものではない。むしろ一番馴染んでいるのは雷属性で、その後に火、水、闇の順番だった。

 純粋な瞬間最大火力は雷魔法が今も一番強いと思う。反対に常闇は私の基礎的な力を大きく底上げしていて、どちらかと言えば持久戦かつ近中距離戦向き。

 そう考えると雷魔法をどうにかするのが手っ取り早いように思える。実際アンキスロライトの水魔法も雷で少しは抑えられるから。


 雷、闇、影。

 雷、電気、電磁力、磁場。うーん、違うか?


 雷といえば私のお気に入りのマンガにも電気を操るキャラクターがいた。自然現象である雷を操ってみせ、科学の結晶の一つ、レールガンを武器として愛用していた。

 レールガン。

 なんとも甘美な響きのそれを私も再現できたらいいんだけど、悲しいことに原理を知らない。というか、正しくは学校で基礎に相当することを習ったはずだけど、よく覚えていない。


 でも考え方の方向性としては悪くない気がする。私自身の力をどう増幅させるか、どう収束させるかという意味で。

 レールガンは多分電磁的なエネルギーが打ち出す物の運動エネルギーに変換されている。

 ならその再現は無理だとしても、代替案としては物とエネルギーの素がうまく設定できればいいわけだ。


「常闇は影なのよね」

「えぇ、そういう性質もありますね」

「影は光で強まるわよね」

「相対的なというよりは、隷属的な関係であることに対して少し寂しく思いますが」

「光以外だと、そもそも暗闇の中だと強まる、と」

「その解釈で間違いないかと」

 ・・・常闇の強化はちょっと難しいかもしれない。

 常闇にも考えておいてもらおう。彼は私が召喚していない間、一応思考できる程度に意識を残して近くにいるらしいから。


 やっぱり雷かな?

 魔法はこれまでずっとただのイメージで使ってきた。今の私のイメージの範囲で強化できる限界が今の威力なら、それは私の魔法適性側で制限がかかっていることを意味するかもしれない。

 逆に考えれば、イメージの方向性とか工夫次第で威力も高められるかもしれない。

 より詳細に原理から考えるか、それとも表出される魔法の形それ自体を考えるか。程度問題だけど、原理側がイマイチだから後者を頑張ることにしよう。


 目指す完成形はレールガンということにする。けれど打ち出す物の用意がないから、雷それ自体がエネルギー兼威力媒体になる。

 これまでと変えるのは攻撃の形を、武器として完成された何かに集約するということ。

 一本の綺麗な道筋ができればそれらしい形になると思う。


 雷が線になるって、どういう状態で、どうやったらいいんだろう?それって電線だよね、と思えてくる。電線のように周りを覆うようなこともできないし。

 うーん・・・。

 うーん?影で覆って・・・いや速度が・・・。

 うーん・・・。


 だめだ、無理そうだ。

 とりあえず城の魔物相手に色々試しつつ考えよう。

 私は多分、体を動かしつつ閃きに任せた方がうまく結論に辿り着けるタイプだから。




*** オヴァリ=エンダ ***



 僕たちが警備に当たっていたその日、太陽が西の空を赤く染め始めた頃。

 ふと気付くと一つの人影が遺跡の中、居宅のように整えられた区画にあった。

 一人でいることの不自然さと立ち姿の無防備さから、どこかのパーティの構成員とは考えにくい。


「待て」

 僕が彼の方に歩き出そうとすると、ナユタさんが僕の手を掴んで止めた。

 振り返りナユタさんの顔を見ると、見たことがないほどの緊張を浮かべている。

「あれはヤバい。迂闊に動くな」


 僕の手を離し、刀に手をかけるナユタさん。それにならって僕もグレイモアさんも臨戦態勢に移る。

 その人物は虚空を見つめて立っているだけで、動く気配はない。

 僕たちとは少なからず距離があるけれど、こっちが気付いたのだから向こうも気付いているとは思う。



「この道はお前たちのものか?」

 不意に聞こえたその言葉が、僕たちに向けられたものだと数瞬分からなかった。

「この道は・・・いや、お前たちではないのか。後回しだ」


「お前は誰だ」

 グレイモアさんが問う。

 彼は答えず、スッと空間に溶け込むように姿を消し、後にはいつもの静寂が遺跡に残されていた。



「・・・いなくなったみたいだな」

 僕だけでなく、みんながグレイモアさんの呟きを無言で肯定する。


 もしかして新しい入口があるのではないか?

 そう考えて彼の立っていたあたりを見て回ると、案の定、地下へと向かう広い階段が見つかった。こんなに大きい構造が今まで閉ざされていたのが不思議なくらい、それはぽっかりと開いていた。

 そして僕たちが入口を見つけたのとほとんど同じタイミングで、階段から巨大なワイバーンが飛び出してきたのだった。


 グギャギャギャア!っと叫んで飛び上がるワイバーン。

 洞窟状に埋もれた遺跡の天井付近まで飛翔し、明らかに僕たちを敵視して見下ろしている。

「レイネ」

「えぇ」

 ナユタさんが声をかけるとレイネさんが魔法を発動し、ワイバーンを地に落とした。


「ノトとグレイモアさんは見張りをお願い」

「分かった」

 階段を任せて、僕とナユタさんがワイバーンを目指して駆け出す。

(サンダーボルト!)

 完全に近づいてしまう前に一発、中規模魔法を放ち、うまい具合に片方の翼に攻撃が当たった。


 僕が前に立ってワイバーンの攻撃を集め、ナユタさんが完全に飛翔能力を奪うべく翼を狙う。

 翼で僕たちを攻撃していたワイバーは、ググッと喉を鳴らしたかと思うとまるでブレスのように雷を吐き出してきた。

「おわっ!」

 大剣で真正面から攻撃を受けてしまったけれど、剣に施していた雷魔法がそれを相殺した。

 さっきから妙に攻撃が通りにくかったのはそのせい、ワイバーンが雷属性だったせいなのか・・・。


 雷系統の魔法と分かれば、気を付ける点も絞られる。

 ダンジョンなら暗闇の城手前にいそうな強さのそのワイバーンを、僕たちはおよそ数分の戦闘で倒し切った。



「これはかなりまずいですね」

 僕はみんなに同意を求める。

「あぁ、そのようだ」

 グレイモアさんが答える。


 こんなに強い、しかも飛翔能力のある魔物が地上に出てくるなんて明らかに異常事態だ。表層の魔物が弱いという定説が完全に崩れている。

 完全に入口を押さえてしまわないと、いずれ町が蹂躙されるだろうことが容易に想像できる。

「僕が報告してきます。ここは任せても?」

 もちろん、と返事をもらい、僕はギルドへ報告に向かった。



 ギルドの対応は早く、新たに見つかった入口の危険度を優先し、潜っているパーティの中でも実力の高い幾つかのパーティに戻り次第地上組に回ってもらうことが決まった。

 ただ実際には、あのワイバーンレベルの魔物に対応できるのはおそらく再来とドラゴンロアだけだと予想されることもあって、他のパーティは文字通り見張りの意味合いが強い。

 迷宮にこちらから潜ってしまえばいいのでは、とも思ったけれど、内部構造が知れていない現状、僕たちとすれ違いに魔物が溢れてくる可能性が否定できないので、当分は守りを固める方針になるようだ。



 あの人物は何者だったのか。

 彼はどこに消えたのか。


 入口を開けたのはおそらく彼なんだろう。

 彼に関することはとても気になったけれど、僕たちはその後毎日のように昼夜を問わず現れる魔物の撃退に追われることになり、彼の行方を追うような余裕は持てなかった。




*** フェンディ=フレディ ***



 ダクスパーナの件以後も、相変わらず私はテミスで働いている。

 ただ、働いている場所はテミスなんだけど、仕事内容はほとんどテミスとは関係なく、本部からと銘打たれた多様な案件に対応している。


 商業地区の拡大を止める方法。

 失踪した貴族の行方。

 散発的に生じる異常個体と呼ばれる魔物の出現予測。

 ダンジョン活性化の方法。

 魔素についての研究。


 ギルド関係無いじゃない・・・。そもそもどこからこんな依頼が舞い込んでくるというのか、不思議でならない。

 そう思いつつも、依頼に伴って相当量の煩雑な情報がもたらされるので、結局諦めて私なりの回答を用意する。


 買収に回っている金融側と、新規参入を画策しているノトルノス商会もしくはマルシ商会への優遇の 2 面展開で対応してください。

 失踪ではなく、病に倒れたり死亡したことを跡継ぎが隠しているのではないでしょうか。民衆からの跡継ぎへのマイナス評価が不当と判断できる点が多く、それを本人が真に受けた結果、今回の件につながった可能性があります。

 魔物を使役できる、あるいは育てられる人物がいるのでしょう。インドール平原を中心に不審な人物を探すのが手っ取り早いかと。

 前回の活性化はザ・デスの影響と暫定的に把握されています。ダンジョンそれ自体の活性化とは言えないでしょう。ザ・デスが軍隊を組めるほどにダンジョン内で冒険者が死んできたという事実が明るみになっただけです。・・・一箇所で人の死が集約されることの悪影響を考慮すれば、年々拡大しつつある集合墓地の分散を検討すべきかもしれません。強力なアンデッドが生まれる可能性は低いですが、最初に対応することになるのは武の心得のない周囲の住人です。

 トーキーオの魔術大学から派生した魔素動態研究会という組織が、広い人脈でもって魔素の研究をしているようです。彼らへの接触、助力はいかがでしょうか。


 回答を用意してはいるけれど、結局どうなったかは知らされないものの方が多い。

 一応仕事はずっと回ってきているので、私の能力自体は認められていると思っていいんだろう。


 今一番時間を割いているのは、今後起きうる未曾有の事態とその対処法、というとても漠然とした内容の依頼で、資料として沢山の歴史書や、明らかに国家機密らしき国の成り立ちとか制度に関わる文書なんかも渡されている。

 私、そのうち誰かに殺されるんじゃないかな・・・。口止めとかで。

 そんなことをつい考えてしまう。

 一応私を見張っているらしい存在は私を守ってくれてもいるようだから、ひとまずはギルドを信頼して仕事をしているけれど。



 さて。未曾有の事態、ね。

 現況で一番注目すべきなのは、これは誰でも気になると思うけど、ザザの守護者が壊されたこととライナの迷宮が再び動き出したこと。

 あんまり気にされていないだろうけどここに関わっているかもしれないという意味で重要なことは、アポロア記における天使と悪魔の記述が史実だろうということ。

 これらを起点に考えを進めれば間違いの少ない結論に至れそうに思う。

 一応その他に私が個人的に気になっていることとして、デイブレイクというパーティがここ最近ずっとダンジョンに潜ったままだということがある。


 天使も悪魔もそれぞれ英雄アポロアと戦って負けたことになっている。

 天使と悪魔の目的は何だったのか。どこで戦ったのか。その後何をしていたのか。

 戦った場所は重要で、私としてはダンジョン付近ではないかと、伝記や文献から当たりをつけている。

 記述にみる山の存在、平原、気候。見つかっている遺跡群からの距離。一見それは今のダクスパーナのようにも思えるけれど、現ダンジョンが当時まだ存在していなかった前提を設けるなら話が変わってくる。


 天使と悪魔はアポロアの何らかの動きを止めようとした?

 今ダンジョンのあるインドール平原に、アポロア記の時代には何があった?

 というか・・・ダンジョンはアポロアの手によるもので、それを天使と悪魔が嫌った・・・?

 ダンジョンという超巨大な構造物が到底人の手で興せるとは思えない。魔法でそこまでのことができるとは思えない。

 でも世界の理すら超えたら?

 ・・・異世界人?

 ナユタやレイネという、異世界からの来訪者を自称する存在のことは知っている。

 この世界とは異なる秩序体系を無理やりこの世界にねじ込んでいる可能性。・・・無いとは言えない。


 うーん・・・話が大きくなってきた。

 けれど、これでも私は自分の思索には自信を持っている。

 ギルドが何を想定しているのかは置いておいて、未曾有の事態とやらにあたりをつけるための方向性は間違っていないはず。

 とりあえず進められるだけ進めて、回答の形にはしよう。判断するのは私じゃないし、私は私の仕事をちゃんとこなしているわけだから。



「ねぇ、またフェンディがボーッとしてるよ」

 窓際で頬杖をついている私を見つけて、リリカが言う。もちろん聞こえている。

「そっとしといてやろう。最近は山積みになった資料の塊が前より増えてるみたいだし、お疲れなんだよ」

 ニッコはそう言うけれど、この体勢は単に私にとって物事を考えやすいだけだったりする。

「いや、それどころか目を開けて寝ているかもしれん」

 パンマン、あなたって人は・・・。


 でもみんな相変わらず元気そうで、ただそれだけのことが妙に私を元気付けてくれる。

 うん。今日ももうひと頑張りできそう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ