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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第五章 挑戦者
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090 ハーレムかな?

*** ラド=ダクスパーナ ダクスパーナ首長 ***


 族長会議襲撃事件から一年と少し。

 お面たちは相変わらず王宮を含めた国内 3 地点に出入りしているが、その様相が最近少し変わった。

 先日報告に上がったザザの守護者の件がおそらく関係しているのだろう。


 ザザの守護者の破壊。

 それは私にはもちろんのこと、ダクスパーナ全ての民にとって衝撃的な事件である。

 あらゆる干渉を受け付けず遥か昔から佇み続けてきた騎士が壊された・・・これが意味するところは一つしかない。

 いにしえの災厄が何らかの形で解き放たれたのだ。

 そうとしか思えない。


 報告では遺跡には戦闘の跡と思しき草木の焼け焦げや、それから騎士には焼け焦げの他に剣で斬り付けられたような跡もあったという。

 火、あるいは雷魔法を使う剣士・・・。アポロア記の魔王ケルオスも魔法剣士だった。

 しかし実行犯の動向は掴めていない。数日続いた雷雨の間の出来事だったようだ。

 魔王ケルオスの力と仮定したならば、災厄本人を解き放った存在もいるはずだ。


 現状国内ではそれらしい動きを把握できていないものの、守護者を破壊するほどの実力が実行犯にあることは確かだ。

 仮にケルオスが現代に蘇ったとして、魔王が当時の力を取り戻せていないといった楽観視は決してすべきではないだろう。


 この件はギルドに早々に報告した。

 確証がない以上、人々の不安を無闇に煽るわけにはいかないと云うもっともな意見がギルドからは返ってきたが、支部のトップを中心に情報網は張っておくとも返答された。

 実際今できるのはそんなことなのだろう。最も脅威に近いだろう我々ですら、ではどうしたら良いのかと問われれば具体的な案を挙げられないのだから。


 これは有事などと言って終われる生易しい問題ではない。

 文字通り、人族の平和が終わりへと向かう混沌の始まりの可能性があるのだ。


 お面たちはと言うと拠点への出入りが少し減り、スクロールを持ち込むことが多くなった。

 おそらくセーン文字が付与されていると・・・魔法陣ではないと信じたいが、私には恐ろしくて聞くことができない。

 都市レベルの規模で人質を取られた形なのは、水源と下水の件を鑑みれば襲撃時と変わってなどいないのだ。


(民よ、神よ・・・臆病風に吹かれる私をどうか赦してはくれないだろうか)

 そんなふうに毎夜寝床で祈って過ごす、情けない日々である。



 エゲイラが報告のため執務室を訪れた。

「首長。例の件ですが、やはり足取りは掴めません」

「そうか・・・甘い相手でないことは分かっている、つもりだ」

「私たちも最善を尽くしているのですが」

「あぁ、それもよく理解している。むしろ今回の件、国家を超えた規模の問題に発展する可能性がある・・・そうギルド経由で各国に迅速に伝わったのも、一重に諜報部のおかげと考えているくらいだ」

「同時に我々の不甲斐なさも露呈してしまったわけですが」

 エゲイラは申し訳なさそうに言う。

「いや、そんなものを捨て置いても優先すべき事柄というのは確かにある。それが今まさにこの状況なのだ」


 連邦の中でも特に民族の多様性が際立つダクスパーナだからこそ、国を超えた活動を必要な時に躊躇しているわけにはいかない。何のために連合の経験を培ってきたのか、という話だ。

 それに連邦全体は時代を経て、緩やかながら概ね落ち着いた一つの大きなまとまりとして機能している。仮に求められるのが急峻な変化であったとしても、対応できない国は少ないだろう。


「ともかく私は国を預かる立場として、誰に後ろ指を刺されようとも最悪の事態を想定して意志を示すつもりだ」

 エゲイラは私の決意には直接答えず、

「えぇ。しかし相当にお疲れのようです。ご自愛くださることだけは忘れないで頂きたい。首長として」

 そう釘を刺されてしまった。

 有難い言葉ではある。


 私とてただ見えない影に怯えているばかりではない。少なくともお面の集団に対する包囲、監視網は密かに構築を進めているし、これまでの行動パターン等から、特に有力と思われる構成員も着実に把握しつつある。

 ここは私の国であり、私たちダクスパーナの民の国なのだ。

 お面の・・・ダブルホーンなどというぽっと出の集団のものでは断じてない。

 魔王復活という最悪中の最悪は別としても、明らかに実体のある彼らの件にはきっちりと決着をつけるつもりである。




*** ハル ***



 流石と言うべきか、私たちと出会った当初から精霊体として顕現していたアンキスロライトは格が違った。

 キャスカはその後 3 回ほど彼女に挑んだけれど、勝てないことが分かると、おそらく修行のためだろう、この裏舞台から引き返して行った。

 序列戦の 10 人はキャスカの参戦で一区切りついたと誰もが思ったようで、それぞれが自室で研究や訓練を始めるつもりらしい。


「そろそろお前から離れても、本格的に鍛えられそうだからな」

 ランガーがみんなの考えを代弁したとでも言いたげな態度で教えてくれた。

 教え子の一人立ちって、何だかしんみりするものなんだね。

 私は最後のアドバイスのような気分で、10 人に序列戦を再開するよう伝えた。


 とりあえずまだアンキスロライトとランガーが残っているけれど、序列が入れ替わればキャスカはログラムという挑戦者を迎え撃つ必要も出てくるだろう。

 それはそれで面白い。

 私の中にはキャスカに対して、彼女の魔法を間近で見たいとか魔族領での話を聞きたいという理由で早く攻略してくれないかな、という思いと、私の教え子たちに勝ってくれるな、という相反する思いがある。まぁ 8 : 2 くらいで前者優位だけど。

 ただいざ攻略されてしまった場合、序列戦でのやりとりだけでは彼女がその後どう動くか全く読めていない点を鑑みれば、私たちの今後を考える時間がもう少し欲しいとも思う。


 結局はなるようにしかならないので、私たちは私たちにできることをするだけなんだけど。

 それにそもそも序列戦もダンジョンも私のものじゃないし。


 思い返せば序列戦はデイブレイクのスキルアップのため、とても重要なポイントだった。こう言うと本人が調子に乗りそうだから言わないけれど、特にランガーの存在が大きい。


 私は魔素化の手法を一つ編み出し、影魔法を介した魔素体とでも言うべき存在になれるようになった。魔素化したことで感覚的な意味で取り込める魔素の量が増えたため、単純に魔素制御の規模が大きくなり、もっと取り込めそうな気がするので開発の余地もある。

 それから副次的なことではあるけれど、この体はなんと空を飛べる。

 いや、素晴らしいねホント。神にでもなった気分だよ!ってね。

 魔素の濃度や本体からの距離の関係か、今のところそこまで高くは飛べない。せいぜい 10 m くらい。うん、十分すぎる。

 ただ普段から使うかというと、連携の問題や目立つこともあって考えものだ。


 それから魔素体になったことで、より周囲の魔素に敏感になれた気がする。

 もしかしたらディモンの言う“隙間”のことも、そのうち気付けるようになるかもしれない。


 私の魔素化に伴って、ネフは顕現方法を手に入れた。

 自分で言うのはどうかと思うけれど、ネフが入った状態の私は小さな翼と尻尾を生やしていて言い様のない可愛さがある。

 顕現したことでネフがこれまでずっと影で黙々と取り組んでいた魔素制御の成果も分かりやすくなり、その緻密さは結構なところまで来ていると知れた。ペイネと同程度くらいかな?私の中でずっと私の魔素を感じていたおかげだと本人は言っている。

 しかもこの顕現にはネフのドラゴンゾンビとしての性質まで付随しているので、お得感満載である。


 フレアはまだ精霊体にこそ成れていないけれど、火と風の魔法、ゴーレム操作は確実に上達している。

 精霊体への鍵はログラムの言葉を借りれば『自身の存在を知る』ことにあるんだろう。

 フレアの形。フレアの由来。

 もしかしたら私の更なる魔素化にも通じるところがあるかもしれない。

 それからフレアはグッグに頼んで、ずっと依代にしていたナイトゴーレム、フレアの名前の元にもなったゴーレムを新調した。

 大柄な体からディモンと同じくらいの体躯になり、何よりデモンゴーレムたち同様豊かな表情が作れるようになっている。

 フレアは自覚される性格が女性型らしく、見た目も全体的にそう変わった。

 ・・・ディモンのハーレムみたいになってきたね。


 そのディモンはと言うと例の隙間から見出した空間魔法に苦戦している。

 今は自分の属性魔法を納めることをひたすら反復しているようで、自分が出した魔法以外の取り込みもたまにできるらしい。

 斥候でも、戦闘でも、それ以外でも、いくらでも応用の効きそうな魔法。それが空間魔法だ。

 空間魔法は将来性という意味で重要な立ち位置なので、是非とも習得して私たちにコツだとか色々と教えて欲しい。


 一番苦労しているのはペイネかもしれない。

 風魔法の系統を極めようとしているみたいなので、方向性ははっきりしている。今は私がかつて経験した停滞の時期・・・つまり、魔素の視覚深度と魔素制御の細かさがほんの少しずつしか上達しない期間なんだと思う。

 そもそもペイネは私やディモンと違って大学で学んでいた期間がある。ここまで一気に戦闘技術を高められたこと自体、ただただ凄いと私は思う。

 でも実際のところは私とディモンが新しい力を手に入れるのを隣で見て、引目を感じているんだろう。

 そんなこと、気にする必要なんてないのに。


 一応考えてみると、フレアの精霊体化以外では次のブレイクスルーはペイネか私に訪れると思う。

 キャスカをきっかけに。



 これはただの予感。

 だけど、私は半分ほど確信している。

 きっと彼女との出会いは私たちに新たな局面をもたらすだろうと。




*** オレグア=マルシ ***



 トリクラメさん改めトリクラメ会長の指導を得た私たち見守る会は、ボウェルさんの素晴らしさを広めるために、魔素制御という試みに着手しました。

 前回の定期会議ではトリクラメ会長から大まかな概要を主要なメンバーに説明していただき、各地でその考えを広めていった次第です。

 定期会議の開催頻度こそ相変わらずではありますが、せっかく立ち上げた研究会を蔑ろにするつもりはありません。成果や発見が少しでもあれば、商会の流通に乗せて情報が集まる手筈です。


 未知のことを手掛ける。なんとも楽しい日々です。

 人によって、種族によって、地域によって、少しずつ違った表現方法で情報が集まり、それらをまとめてトリクラメ会長に報告を上げ、本当に意味のあるものを抽出していくのです。

 もっとも、まだ実際的な意味での新発見はありませんが。



「いやぁ、思ったより鋭い意見が多いな」

「感性が関係あったりするのでしょうか?」

 今日は直接会長の店を訪れて意見交換中です。

「うーん、どうだろう」

「年齢や性別や地域性も関係あるのでしょうか?」

 ちなみに見守る会がそうであるため、研究会も会長以外は女ばかりです。

「ワタシとしては関係があって欲しくないな。普遍的なモノこそ真に研究のしがいがあると、そう考えているから」


 確かにトリクラメ会長の言うように、学問は普遍的なところへ辿り着くべきなのかもしれません。私がこれまで学んできた事の多くもそうでしたし、そして実際商会の中で、あるいは日々の生活の中で役立っていることも普遍的なものが多いです。

「そうかもしれませんね。でも私はたまには、そうじゃないものもあっていいと思ったりするんです」

「へぇ、何故?」

「魔素のことはともかく、魔法は既に私たちにとって、私自身と言っても差し支えないくらい特異的に根付いているからです」

 トリクラメ会長はうーん、と唸っています。


「なるほどな。確かに私にも、私が得意とする魔法のことは私そのもののように思うことがたまにある」

 そう言って会長はいくつかの魔法を掌に起こしてみせました。

「ただ、この魔法だって、魔素制御が底上げしてくれた」

 会長の魔法は私の魔法よりも、なんというか、綺麗です。

「えぇ、よろしくお願いしますね、会長」

 魔素動態研究会はまだまだ始まったばかりです。



 商会の方はと言うと、私は会長であるお父さんから支部を一つ任されることになりました。

 それもなんと、レイドレの支部です。

 さすがお父さん・・・私のことをよく分かっている。


 そう、レイドレこそ、見守る会の会員にとっては聖地にも等しい場所だからです。

 レイドレはデイブレイク御用達の武器屋、ララの店があり、そしてデイブレイクの皆さんが身の回りのものを揃えるのもレイドレです。

 先日マルシ商会のレイドレ支店経由でミスリル繊維製品を注文されたことからも、その重要性が分かるでしょう。


 ロッキンガム大祭を契機に拡張を進めていたマルシ商会ですが、最近は落ち着いています。

 王国ではゴライオス商会やグルーゲル商会の影響が相変わらず強く、王国内には連邦の特産品を中心に扱う出張所的立ち位置の店を数点新たに置くに留まりました。

 主に事業として広げたのは各地の宿泊関連で、人の流れそれ自体に価値を見出した形です。


 人の流れは多くを語ると会長であるお父さんは言います。

「オレグア。今は北東に近付かない方が良い」

「何故ですか?」

「人が集まっているように見えるが、ほとんどはギルド関係者だ」

「どうしてそうだと?」

「人数単位、その先で使ってる宿泊施設、出発地点と到着地点。見るべきところってのは、そんなに多くない。ともかくギルドがこれだけの規模で人を動かすのはよっぽどの時だ。争いの匂いがする」


 ダクスパーナの襲撃事件の影響が広がっていたりするのかもしれません。その後音沙汰はありませんが。

 とにかくお父さんが言うのならそうなのでしょう。そして本当なら、私もその匂いを察するべきなのでしょう。

 ・・・もしかしたら私は、予想される争いから遠ざけられたのかもしれません。

 早く隣に立って同じ目線で商会に関わりたいものです。

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