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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第五章 挑戦者
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088 特異点、降臨点

*** ゲオス=4=ケルオス ***


 途中でお面を外したファーラたちに連れられて移動すること一週間、グロームという国に着いた。

 国に入ると彼らは真っ直ぐに一番大きい建物を目指し、躊躇うことなくそこに入って行く。どう見ても王宮という雰囲気である。

 王宮内にも何人か彼らの仲間と思しき顔があり、俺は流れに身を任せて進んでいくと会議室に着いた。

 遅れてやって来た国王らしき初老間近の男に、ファーラは国境付近の魔物がどうとか隣国のギルドの様子がどうとか報告すると、すぐ王宮を後にした。

 国境に魔物などいたか?適当かもしれんな。

 チラチラと国王が俺のことを見ていたが、俺については特に説明なし。


 次に向かったのはギルドで、どうもそこの職員にも仲間が多いような雰囲気であった。


 流石に俺は察した。

 この国はこいつらに掌握されているのだろう、と。


 なんだ、国を持っているなら尚更、物の動きを把握するのも人の動きを読むのも容易いだろう。

 俺は俺のために、しかしそれはお前達悪魔のためにもなると説明し、小箱の件をファーラたちにとりあえず依頼した。見た目幼い俺が、しかも今のこの世界のことを何も知らない俺が小さな宝を探すなど到底無理な話だと、流石に俺も分かっている。

「小箱ですか。まぁ良いでしょう。手配しましょう」

 ファーラは嫌そうな顔一つせず請け負ってくれるようだ。ザザにいた二人の悪魔はともかく、こいつはこいつで何がしたいんだか。


「それで、私たちに付いて来た理由は?」

 そんなもん決まってんだろ、と思うが・・・。

「今だにほぼボロ切れみたいな服なんだ、察してくれ。ダンジョンに行くにも、格好とか装備ってもんが必要だろ」

「あぁ、そうでしたね」

 そんなこと分かってましたよとでも言わんばかりの相槌になんとなく苛立つ。


 しかしこいつも悪魔の末席に連なる者。しかも少なからざる配下を束ねる立場。

 単純に現状の実力差という意味だけでなく、国を持っているなら尚更下手に刺激しすぎて身動きが取れなくなるのは困るので、俺も大人しくしているつもりだ。

 いつ何時、唐突に俺が邪魔になるか分からないからな。


 そして用意された品々。

 ・・・誰の趣味か知らないが、俺としては不満だらけだ。

 何が悲しくてこんな、どこぞの貴族令嬢がお遊びで武装するような物を身につけなきゃならんのだ?

 妙に俺の今の体に合っているのが、これまた腹が立つ。

「お似合いですね」

 などとダブルホーンのメンバーたちには言われる始末。どうでもいいが彼らはダブルホーンと呼ばれる集団らしい。


 まぁとりあえずの物は揃ったわけで、俺は早速ダンジョンを目指すことにした。



 路銀も十分に渡され、大体は馬車で乗り継いで行けそうだ。

 それからファーラには、俺の戦闘能力は相当高いから、夜盗が何人来ようが話にならないだろうと聞いた。

 こんな弱い体でその評価とは・・・。

 ともかくそういうわけで戦闘面もあまり不安ではない。それにいざとなれば内なる迷宮に取り込んでしまえば良いのだ。


 むしろ道中、俺が困らされたのは俺を必要以上に心配する人族共の存在だった。

「あら可愛い冒険者ね」

「遠くにお使いかい?」

「俺らが護衛してやろうか」

 ・・・余計なお世話だ。なんならお前らよりも強いわ。

 こんな煩わしいことこの上ないお節介が、ずっと続くのだ。


 正直、こういう面倒は想定していなかった。ダンジョンがどこにあるか俺は知らないわけだから、近くまで馬車で行くのは徒歩で迷っても困るので仕方がない。

 ただそうなると、一人くらいお供代わりを連れて来てもよかったかもしれないと後悔した。

 まぁ子守のような役割を積極的にしたがる悪魔がいたかどうかは不明だが。


 そんなことを考えつつハラルタという国で乗り換えのため滞在している間、俺は一人の少年と出会った。


「ねぇ、君も冒険者なの?」

「あ?何だ?」

「僕も冒険者なんだ」

 見れば、俺と同じ背丈の少年が確かに冒険にでも行きそうな格好で立っている。


「だから?」

「僕はアポロア様みたいに、ダンジョンを攻略するんだ!」


「チッ・・・」

 こいつ人の話を聞かないな。それにアポロアだと?一番聞きたくない名前を挙げたな・・・。


 少年は次の馬車の出発までやることのない俺に話し続けていた。

 こいつの親は何をやっているんだ?

 下手に騒ぎを起こしてどこぞに捕まって、力を取り戻すのが想定外に遅れるのは気に入らない。だから俺が大人しくしているうちにどっかに行け・・・。

 そう思っていたが、少年は馬車にまで一緒に乗ってしまった。


 仕方がないので次の国までと思い我慢して、話を聞いて過ごすこと一日。大して面白い情報が少年ガオランの口から語られることはなかったが、俺はガオランが少し変わっていることに気付いた。

 性格の話ではない。性質の話だ。


 ガオランは精霊に殆ど全くと言えるほど愛されていなかった。



 ガオランはハラルタで育ったが、そもそもの生まれは知らないと言う。

 物心ついた時にはハラルタの孤児院におり、自分が人よりも身体機能が著しく高いことに気付いてからは、孤児院の手伝いだけでなくギルドの依頼にも手をつけ、周りのお節介な冒険者たちに指導されながら探索の技術を身につけたのだとか。

 身についているかどうかは、本人がそう思っているだけかもしれないが、身体能力が高いのは本当だろう。何せ体を循環している魔素の密度が尋常ではない。


 ガオランは孤児院の子供たちに半分唆された形で、しかし本人は至って本気で、ダンジョン攻略のため国を出ることにしたようだ。

 不自然に興奮して見えるのもそのためだろうか。そして丁度出発地点で俺を見つけたようだ。


 俺は適当に相槌を打ちながらガオランの話を聞き、ふっと一つのアイディアが浮かんだ。

 俺の身代わりとか、そういう立ち位置にこいつを置いたら良いんじゃないか?というものだ。

 小さい頃から自分より歳上に囲まれて、それでもうまくやってこれたのなら社交性もあるだろう。

 それにいくら探索能力を身につけたと本人が言おうが、本当にそうでなければ孤児院やギルドのお節介冒険者が止めるだろう。逆に言えば本当にこいつには冒険に必要なスキルが備わっているのかもしれない。それなら食事とか物の手入れだとか、面倒ごとをこいつにやらせるのも手だ。


 ・・・俺はだんだんこの考えがとても良いもののように思えて、レイドレの隣国ウィンガスに着くとガオランに提案した。

「おい、お前の冒険とやらを俺も手伝ってやろうか?」

 ガオランは目を丸くして輝かせ、大して考えた様子も無くすぐに返事を返した。

「えっ!本当に?!」

 そんなに気軽に返事して、大丈夫か?

 こいつ、見た目通り騙されやすいのかもしれん。

「君みたいな可愛い子とダンジョン探索ができるなんて、願ってもないよ!口は悪いけど!」

 ・・・なんだ、俗っぽい答えだな。


 それに。

「俺が戦力になると本気で信じてるのか?」

「え?だって君も一人でダンジョンに向かってるんでしょ?」

「そうだが」

「それに僕、勘も運も良いんだ。君なら大丈夫って分かるよ」

 そうか。

 誘っておいてなんだが、やっぱり早計だった気がしてきたな・・・。


 まぁいい、どうせお遊びだ。不都合があればどうとでもするさ。


 そんな感じで、俺は少年ガオランとパーティを組むことにした。

 ガオランの提案により自称のパーティ名がサンシャインと勝手に決められたが、俺にはどう考えたって不釣り合いな名前だな。




*** 悪魔 カティアナ=ファル ***



 ゲオス=ケルオスの復活はひとまず成功させた。あとはケルオスがいい感じで暴れてくれれば・・・そう思っていたのに、予想外のことで先延ばしになった。

 まさかケルオスがダンジョンコアに取り込まれてしまうとは。取り込まれたのか一体化したのかはよく分からないが。


 元々気長な計画だから、ケルオスが力を取り戻すのを待つのは苦じゃあない。どうせあいつはあいつの持つ “混沌” の象徴に引きずられるだろう。

 それに人族から “魔王” として千年にも渡って恐れられ続けてきたケルオスが、そこらでくたばるはずもない。


 ただちょっと面倒なことになったのは、人族領へのアクセスが悪くなったことだ。

 地上に降りられる場所は古くから存在する特異点だけだが、その一つが使いにくくなった。

 ラーナ・・・現ライナの遺跡の一角は人があまり寄り付かなかったのに、あたしたちがコアを盗み出したことで迷宮が停止し、中の魔物が地上に出てくるようになってしまい、結果として冒険者たちが遺跡付近をチマチマと見廻ることになった。


 別に見られてもいい・・・そう思わなくもないが、人族が特異点を無理矢理あるいは偶然に変質させてしまうかもしれない。それはよろしくない。

 もしここを潰されてしまうと、人族領だと熱帯の特異点しか残らなくなる。地上に降りる機会が減ったせいで悪魔の、それから多分天使側も、特異点を少しずつ失ってきたのだ。



「でもよー、あいつほっといて大丈夫かねぇ?」

「私はそう思いますわ。実質的に離脱していたとは言っても、性質はそう簡単に変えられないでしょう」

「時代が変わっても、か?」

「本質はそういったモノに左右されないからこそ、本質足り得ると思いませんか?」


 レデルカが言うことも一理ある。

 ただあたしは、この千年で人の間にあまりにも多くの交流が生まれるようになり、そしてあたしたちが計画を始めた理由でもある魔素の停滞の原因が人族領にあることが、どうにも気になって仕方ない。

「まぁ、次案も進めていくか」

「えぇ、そうしましょう」




*** 天使 カルファ=イア ***



 定期的な監視のため訪れた迷宮は様変わりしていて、しかも都合の悪いことに降臨点が人目に晒されるようになってしまった。


 迷宮の方はというと、私たちが危惧する世界の異分子とこの世界の融合・・・つまり迷宮の漏出がまさに始まろうとしている。

 ただこれは人が対処しているようで、迷宮の構造を思えば当分の間は人だけで押し留められると思う。二つのダンジョンのようにバランスが取れた状態で落ち着けばいいが、迷宮はこれまで完全に内部で完結していただけに注意が必要だ。


 原因は悪魔たちだろうか?

 悪魔たちはいつも物事を面倒な方へ傾ける。いくら魔素の停滞が起こっていると言っても、冥界も天界同様、どうせ実質的な問題を生じるほどの影響が出てるわけではないんだろう。

 悪魔は面白いことを優先するきらいがある。


 降臨点の件はどうしよう。一応神国を使うことはできるけれど、人族に一々事情を説明するのは何か違う気がする。

 仮にも天使が、「ちょっと別のルートで帰れなくなったからこっち使うね」なんて、恥ずかしくて言えない。


 ・・・仕方ない。熱帯を目指すか。道中が少し面倒だけれど。

 本当なら今の連邦や王国にも降臨点はあったのに、人が増えたせいで使わなくなるとそのうちにそれらは消えてしまった。

 いっそ新しく開拓しようかな?いい機会だし、と思わなくもないが、ずっと後回しにされているのにも理由がある。

 相当の時間を要するのだ。新しいポイントを見つけるのも、定着させるのも、それから天界側からの印付けをするのも。


 そういうことはエックがやってくれればいいと大体みんな思っているけれど、当のエックはいつも「寝るのに忙しい」と言って何もしようとしない。

 あんたどんだけ寝てたら気が済むんだ、と何度言っても答えは変わらない。


 定着はともかく、一番面倒なポイントの発見だけでも気を付けながら行くことにしよう。

 それに私は人族に紛れ込むのは嫌いじゃない。なんてったって、時代ごとに料理が美味しくなっていくから。

 昔から代わり映えのしない神国の供物には正直飽きているから、たまには自分で開拓しないといけないと思っている今日この頃である。


「さて・・・人に抑えられなくなったら、クルーズ様の出番もあるかもしれない、か・・・」

 優しく照りつける日差しにフードをかぶりつつ、誰にともなく呟いてみる。

 背に鞄と弓を携えた旅行者の格好。うん、まぁそんなにおかしくない、かな?問題があれば途中で変えよう。

 せいぜい半年歩くだけだ。

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