087 そんなタイプじゃない
*** ハル ***
フェイト=キャスカ。魔族領側のダンジョンからやってきた彼女の名前だ。
絶対に彼女が出てこなさそうなタイミングを見計らって舞台に行き、ゲーティから聞いた。
キャスカの魔法は事前の予想とは違ってどう見ても闇主体で、それ以外には雷、火、水の魔法を使っているところをみた。
闇魔法は鏡越しではあるけれど、闇と言いつつ身体強化に近い何かのようにも見える。
それからはっきり実体化しているところは見ていないけれど、彼女の闇魔法には精霊の輪郭が見え隠れしている。
序列戦 9 位。氷魔法のレイピア使いフッソは火魔法に押されて負けた。
序列戦 8 位。炎と光の魔法使いリリカは機動性重視の素体を活かしつつも、周囲を侵食した闇に囚われてそのまま剣に両断された。
リリカはキャスカの闇魔法の新たな一面を引き出したので、私の中でポイントが加算された。別に貯まっても何も無いけど。
序列戦 7 位。両手剣の土魔法剣士スカイラー。彼はいまいち伸びていなかった。開戦早々速攻で詰められ、土魔法を発動する間も無く切り裂かれてしまった。
それまでと違ってキャスカが初めから闇魔法を纏っていたのが瞬殺の要因かもしれないので、伸びていないと断言するのは早合点かもしれない。
序列戦 6 位。風と土の魔法剣士カーネースは、ペイネを模倣するような動きを見せた。身軽なゴーレムと、身軽な機動。散々前線で魔物を倒してきたペイネの動きを一朝一夕に真似るのは難しいはずだが、案外カーネースの戦闘はサマになっている。
まぁ生きている時間を考えれば彼らの方がよっぽど先輩な訳だから、きっかけ次第でふっと強くなれる素地があってもおかしくはない。
カーネースは侵食する闇をうまく躱しながら土魔法で生成した弾丸を放ち、初めてキャスカを一度は防戦一方に押し留めたものの、キャスカ本体が纏う闇魔法の密度が高まると、その威力について行けずに序列を譲ることになった。
序列は変わっていないままとはいえ、ここまでは大体序列通りに思える。
そして序列 5 位。ディモンが躓いたのがここ、シャドウガーデンの真祖とも言える彼ログラムである。
正直なところ私にとって予想外だったことに、ログラムは 1 年にも満たないこの期間で精霊体への昇格を果たしていた。マジで天才なんじゃなかろうか。
そしてその天才がついにキャスカに一撃を入れる。
「これ、いつまでやらないといけないの?」
「ゲーティから聞いているだろう。序列戦を勝ち抜くまでだ。・・・我の後にも 4 人控えている」
「すごく落ち着く部屋を貰ってるのはありがたいんだけど、なんというかコレジャナイ感というか・・・」
「何を言っているんだ?」
「まぁいいわ。いくわよ」
「来るがいい」
鏡越しなので残念ながら、何か話していたようだが聞こえない。まぁそんなに大したことではないと思うからいいけど。
キャスカは剣を構え、ログラムも剣を構える。
二人はにじり寄り、そして幾筋もの太刀筋を交差させながら舞台を縦横に駆けていく。
・・・そう、ログラムは多数のナイトゴーレムを操るこれまでのスタイルをやめ、グッグのように一体のゴーレムに憑依するやり方に方針転換していた。
これまで数体、時には十体以上のゴーレムを操っていたことを思えば、たった一体のゴーレムを操ることで得られる開放感は計り知れない。そしてその操作性能も。
ログラムが言うには、一体に集中することで自分という精霊のあり方が分かり、精霊体として固定することができるようになったのだとか。フレアがふんふんと食い入るように聞いていたのがなんとなく面白かった。
序列戦の闇魔法使いはログラムとランガーの二人だけだ。そしてキャスカも闇魔法使い。
試合がどう転ぶのか、私は試合の前から楽しみにしていた。
試合が長期戦の気配を見せ始めたので、私は思いつきでアテレコを始めてみる。厳密にはアテレコに分類されないかもしれないけれど。
・・・なんというか、ずっと観ているだけだとどうにももどかしかったから、と自己分析してみたり。
「ふむふむ、なるほど。闇の精霊を纏うか・・・」
突然低い声で何か言い出したけど大丈夫かコイツ、と言いたげな顔でグッグがこっちを見る。
「あんた何言ってんの?大丈夫?」
実際言ってきた。
「面白いかなと・・・」
意外にもグッグは私の答えを許し、「続けなさいよ」と言ってくれた。
ちなみにグッグもずっと一緒に 10 位戦から見ているが、魔王はいたりいなかったりする。今はいない。
アテレコ再開。
「・・・あんたも中々やるわね、私の暗黒憑依に対抗するなんて」
「ふん。確かに面白い。しかし教えてやろう、紛い物などではない、真の精霊の力というものを!」
「せいぜい言ってなさい!」
「エンドレスソード!」
「ダークネス!」
「ねぇ何それ」
「技名だよ」
「ふーん、良いわね」
良いんだ。
ペイネとディモンは試合に集中しているのか、何も言ってこない。
「ぐっ!恐ろしい密度の闇の刃・・・それに奇襲まで・・・私じゃなきゃ見逃しちゃうわね!」
「お前こそ素晴らしい闇だ。称賛に値する」
「じゃあもっといくよ・・・喰らいなさい、ダークハント!」
「なんの!我こそ闇!闇に屈することなどない!」
いい感じに白熱してきたね!
小声でペイネが「ログラムはそんなに熱血じゃないけど、面白いからいっか」と言ったり、ディモンがそれに対して「多分あのキャスカって人もそんなタイプじゃないと思うな」と言っているのが聞こえる。それは私もなんとなくそう思う。
でも私の思うアテレコってそういうものじゃないから気にしない。
「うっ、まさか私のダークハントにカウンターを合わせるなんてね・・・」
「お前こそ、我のゴーレムを抉るとは・・・」
「でも決めさせてもらうよ!」
「来るがいい!」
「「ハァァッ!」」
「二人はここ一番の集中力を発揮し、握り締めた剣に全ての闇を詰め込み一気に距離を詰めた。そして闇の精霊素が二人の剣の狭間でぶつかり弾け散った後、土煙の中では勝者だけが立っているのだった」
「それは何なわけ?」
「ナレーションだよ」
「へぇ、良いじゃない」
良いんだ。何でもアリだな。
大体状況に近いセリフで通せたと思う。
そして土煙が晴れ、舞台に立っていたのはキャスカだった。
4 位以上の試合はまだ見ていないけれど、多分ログラムは上位 3 人に食い込めるなと私は思った。
*** シルビウ=レットゥ ***
ライナの迷宮の話が大都市のギルドに伝わって、真っ先に職員から声がかかったのは私たちドラゴンロアだったようだ。
兎獣人のフェイムと、私を含めた 3 人の龍人からなるパーティである。
私たちの強みは殲滅力にあると自負している。
龍人としての恵まれた能力を 3 人ともが自覚し、そしてお互いをライバルに切磋琢磨する日々。魔物や盗賊がどれだけ群れようと、並大抵では私達の敵ではない。
しかし世界は広く、先日ロッキンガム王国で私とグーンが参加した武術大会では上には上がいると思い知ることになった。おかげで私たちのやる気も高まったわけだが。
ドミニク大陸はポロアスト大陸ほど広いわけではなく、さらに東側には未開の極寒地帯が広がっているとは言え、ギルドの数を思えば相対的に冒険者一人一人の負担は大きい。
しかしドミニク大陸で人口割合の高い獣人種の多様性のおかげで、概ね人員は賄えていると言えるだろう。
ドミニク大陸のギルドはポロアストのそれと少し性格が違い、冒険者の窓口というよりも、冒険者を積極的にまとめて適所へと割り振る立場と捉えることができるかもしれない。
迷宮の話は私たちにとって非常に興味深く、打診された翌日には海を渡った。
ライナでまずギルドに向かうと、依頼内容を詳しく説明される。
「迷宮には現在把握されている一つ以外にも入口があると考えられています。魔物が溢れ出す可能性を考慮すれば、それらをまずは見つけなければいけません」
「ですからその予防策として今は、迷宮内へと積極的に調査のため潜るパーティと、有事に備えて遺跡付近を警備するパーティに分かれてもらっています」
「報酬はライナから依頼を受けた形で、当面の間ギルド持ちになりますが、最低限はどちらにせよ保証されます」
受付の職員はそう話した。
「俺らも潜りたいよなぁ?」
ラーグが言う。
「しかし今は警備側に人手が欲しいと言っていた」
私は答える。
「せっかく来たんだからって、レットゥは思わないのか?」
グーンもラーグに賛成か。
「フェイムはどう思う?」
「うーん」
フェイムは私たちを見上げつつ考える。
「あのさ、迷宮って、その名の通り迷宮なわけだよね」
「そうだな、迷路のような構造らしいと先遣隊が報告していると、先ほども説明されたな。そもそもアポロア記にあるダンジョンのことを指すのならば、内情は概ね知れているようなものだろう」
「うん、私もアポロア記のこと思い出してて。私が小さいながら冒険者やってるのも、それがきっかけだしね」
つまり、何だと言うんだ?
「でさ、多分私たちは当分の間警備してた方がいいんじゃないかな?」
「フェイムは反対なのか?」
ラーグが不満を口にする。
「いや、多分なんだけど・・・みんな体が大きすぎて迷宮の浅いところは移動だけで一杯一杯になるよ?」
・・・!
なんと、確かに言われてみれば・・・。
私だけでなく、グーンもラーグも口を開けて固まっている。
「それにさ、今調査されてるところを追うよりも、手付かずの入口があるならそれを待った方が楽しそうじゃない?中の広さも違うかもしれないし」
笑って話すフェイムの意見に私たちは納得し、受付の職員にはひとまず警護に回ることを伝えた。
職員は意外だったらしく若干戸惑いの反応をされたが、かなり有難がっていたので悪い気はしない。
ライナの遺跡はそう広くない。
我らの他に 2 パーティもあれば、昼夜を問わず警備体制を維持することもできるだろ。
もちろん、いざのときには先陣を切って戦う構えである。
*** アリア=ソロジー ***
お姉ちゃんからの課題の一つ、冒険者としての最低限の身のこなしについては、パーティリーダーのカイシオさんから合格をもらえた。
「クレアもそうだったが、まさかアリアまで早々に身に付けてしまうとはな」
「伊達に受付で冒険者の皆さんの雑談相手をしてたわけじゃありませんからね」
「おっと、耳が痛いな」
「いえ、参考になることも多いので、結構面白いんですよ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
問題のもう一つ、遠隔での回復魔法について。
実はこれも解決してしまっている。
「それにしてもアリアの魔法の伸びは凄いわね。やっぱりセィネにコツを聞いたおかげなのかしら?」
ローヴェさんが言うように、私は魔法のコツを本職に聞いていた。
身重のセィネさんを訪れると、「今は落ち着いてるし、暇だったのよねー」と快く家にあげてもらって、魔法を実演してもらったのだ。
魔素の流れを追って、その効果を見て。
暇さえあればと、私はしばらくの間セィネさんの家を訪れ、そして自分でセィネさんが見せてくれた魔法の魔素の流れの再現と調整を続けた。
二ヶ月程調整すると、私も遠隔での回復魔法がまともに使えるようになった。それからバフの魔法も。
魔素制御という範疇からは離れて、いわゆる “普通の魔法” を拡張したような形になるのかな?
お姉ちゃんは魔素制御に拘っているんだろうけれど、実際的なことを想定するなら自分の得意なことをきちんと伸ばすのは良いことだと私は考えている。
私にとってはその得意なことが回復魔法で、セィネさんの魔法を真似しただけとは思えないくらい良く馴染んでいる。バフはある意味ついでだけど、これも特に問題はなさそう。
じゃあすぐにデイブレイクに加入を!といきたいところだけど、きっとお姉ちゃん達はお姉ちゃん達でどんどん先に進んでいるんだろう。
それにここのところ、当分デイブレイクの噂が流れてきていない。どこかで倒れているとか、そういう可能性が絶対無いとは言わないけれど、多分それ以外の理由だと思う。私には何となく分かる。
どうせ会えないなら、せっかくだしもっと力をつけてみんなと合流したい。
そう思って今は回復魔法の練習の傍ら攻撃手段の模索を始めている。
イメージは弓使い。
後衛になるなら、私はそれらしく遠距離での攻撃手段を身につけないといけない。
でも私はお姉ちゃんと違ってあんまり武器の類は扱ってこなかったので、魔法で代用することになる。
前衛の邪魔にならないようにするには、ピンポイントかつ速い攻撃が必要だと思う。中規模から大規模な魔法は中衛に任せれば良い。私はその隙間を埋めていく役だ。
大会で見たお姉ちゃんとエンダさんのイレイザーカノンを最初は想定したけれど、あれは相当火魔法の心得がないと難しそう。
そこで最終的に考えついたのが弓使いということになる。
うーん、何か良い案がないかな?回復魔法を転用できれば一番手っ取り早いんだけど・・・。




