080 序列戦強化プログラム
*** 序列戦の魔物 ランガー ***
デイブレイクとか云うパーティがエテ様、グッグ様と共に俺らを管理する立場になってしまった。
デイブレイクというかリーダーのソロジーが、だが。
何百年も生きてる俺らに人間の若造が何を、とは別に思わん。俺らは負けた身だからな。
むしろずっと停滞していた現状を打開してくれるってんなら、有難い限りだ。
俺らはダンジョンの他の魔物とは違って自我がかなりはっきりしている。
だからこそ暗闇の城の "裏面" に配置されてると言えるが、逆に言えば行く当てがなかったり、別にどこにも行きたくなかったり、はたまた何もしたいことが無いだけだったりする。
そんな俺らを繋いでいるのはひとえにグッグ様の親しみやすさと、この環境の良さのおかげだ。グッグ様は上位精霊にしてはやけにダンジョンにこだわって、下の身分の俺らにも良くしてくださる。
精霊は孤独に漂っているやつも多い中、ここは話し相手も試合の相手もいる。
気まぐれに始めた序列戦だが、これが案外俺らには丁度よかった。
適度にやることがあって、グッグ様たちを守るという一応の目的もあって。
まさか一発目の挑戦者で破られるとは思っていなかったが、さすがに怠慢だったんだろう。何せここ百年ほど、まともに試合をした覚えはない。
とにかく俺らは負けた。
そしてソロジーが指導に入った。
お手並み拝見といこうじゃないか。
・・・などと悠長に構えていた時代が俺にもありました。
あやつは完全に鬼です本当にどうもありがとうございます。
「・・・あ、いや、指導していただいて有難いですと言っただけだ」
「そう?みんな思いのほか頑張ってくれるから、やりがいがあるなー」
なんて言っている。
そろそろ脱落したいんだがダメか?
むしろ俺以外が必死に喰らい付いてるのが驚きだ。
ソロジーの指導は基本的には個人訓練だった。
ただ最初は同じ内容から始まった。
「確認なんだけど、皆さんは精霊ってことでよろしい?」
エテ様の指示でゲーティに集められ、ソロジーの指導を受けることになった初日。ソロジーは俺たちのことを把握することから始めた。
「あぁ、全員な。まぁゴーレムが要らないのはアンキスロライトだけだが。それから、別に呼び方に気を使わなくていいぜ。お前が上官ってことなんだろ」
「そう?じゃあ気兼ねなく」
それぞれの属性は?
今のゴーレムは自分に合ってる?
相性のいい相手、悪い相手。
精霊素はどれくらい見えているか。
魔素はどれくらい見えているか。
どれくらい魔素を細かく扱えるか。
ダンジョンをどう思っているか。
好きなことは何か。
どうでもよさそうなことも交えつつ、その日は俺らが色々と聞かれただけで終わった。
そして翌日。
「はい皆さん注目〜」
全員が舞台に集まると、ソロジーはプログラムを説明した。
その一。
魔法はひとまず置いといて、魔素を動かす練習をしましょう。
但し、これは全ての前提となるので続けること。
その二。
自分にあったゴーレムを探しましょう。
いくつか用意したもので試して、最適と思える形を模索すること。
それから、ゴーレムそれ自体の強度を上げる方法を考えること。
その三。
連携での戦闘ができるようになりましょう。
そのために舞台が許す限り、つまり毎日 2 回ずつパーティ戦を行うこと。パーティ編成は別途伝える。
その四。
精霊体を目指しましょう。アンキスロライト以外。
精霊素の取り込みの限界を伸ばす方法をとりあえず探しましょう。
・・・ふむ。その一からして謎だ。そもそも俺ら精霊は魔素を導く立場。そんなこと悩まずともできる。
ゴーレムの大きさがどうだと言うんだ?それに精霊体を目指すならいらないじゃねぇか?
パーティ戦はまぁいいかもな。気晴らしになって。
そんなことを考えたのが数日前。
その時の気楽な俺を殴り飛ばして、ソロジーに異議を唱えさせたい。全部一気には無理だ、と。
まず魔素の操作、ソロジーのいう "魔素制御" からして難易度が高かった。
そもそも俺らが使う属性魔法とは何か。
それは俺らを構成する精霊素が俺らの意志で同族を呼び寄せ、そして思う形に作りあげ発現させたものだ。今まで漠然と使ってきた魔法だが、いざソロジーの求めるレベルで魔法の成り立ちを理解しようとすると、いちいち細部が気になる上にその細部が思うようにいかないことに気付く。
ソロジーはこれを人間の感覚で言えば「起きて寝るまで延々自分の呼吸の仕方を意識し続けるよりも苦痛」と例えた。
あるいは「一日中歩き回って、その間自分の手足と腰とお腹と胸と首と頭がどういうバランスで動いているか意識し続けるようなもの」とも。
なぜか隣で同じようにプログラムを聞いていたディモンとボウェルは、
「あぁ、なるほどね」
「わからなくもないわね」
と言っていた。
人間の感覚は別として、これがともかく辛い。
もどかしさと不甲斐なさと果てしなさが、全て自分の中に解決されるはずと分かっていることも辛い。
何せ俺らの下位に相当していただろうデイブレイクの精霊、フレア=ロージーは既にこなしているからだ。そして今や俺らと遜色ないほどの意識体になっている。
ロージーはクレアの魔素制御をその身に受け続けた恩恵があると言っていたが、たどり着くべきところを思えば過程は関係ない。
それから、精霊素に誘導させるんじゃなくて魔素そのものを動かした上で精霊素を導くやり方も難しい。
システムにエネルギーを取り込むだけでいいのに、なんで一々エネルギーそのものを動かしてシステムを起動してさらにエネルギーを取り込まなきゃならんのだ。
その一だけでもこんな具合なのに、これが前提だという。
その一と並行してその二、その三を強制される上、前提を怠ると熱線が飛んでくる。
ヤベーヨ。
「最初だけだから。ちょっとだけ、ね。きっかけとやり方を覚えてもらわないと、私も張り付いてらんないし」
とのこと。
仕方ない、俺とて序列一位!やってやろうじゃねーか!
あ、でも、舞台の周りに寝床を並べさせて寝る時まで監視するのはマジでやめてくんねーかな・・・。
*** ゼンナ=グッグ ***
「グッグさんのゴーレム、本当に綺麗だね。よく見せてくれない?」
デイブレイクのソロジーに声をかけられたのは、彼女が管理者になるとエテっちに話していた夕方だった。
「ふんっ、当然じゃない!」
これはゼンナの最高傑作よ!まぁ今は仮だけど。
「好きなだけ見るといいわ」
この滑らかな可動性!柔らかな表情を作り出す質感!
流石に土の精霊じゃないと、ここまでのものは生み出せないし動かせないでしょうね。
ふーん、とか、ふむふむ、とか言いながらゼンナの体を触るソロジー。
って、あんたもうちょっと遠慮しなさいよね!何突然股間に手を伸ばしてんのよ!
バシっと手をはたいても、特に気にすることなく他のところを見ていく。
なんなのよ・・・。
「グッグさん、ダンジョンのゴーレムのうちどれくらいがグッグさんのものなんですか?」
「そりゃ、後半は殆ど全部よ。まぁ独立させてるし、エテっちの支配圏のもあるけどね」
「その時ってどうやってゴーレムの形は決めてるんです?」
「そりゃ、ゼンナのこのボディを複製するのが一番だけど、どうもそれじゃみんな使い勝手が悪いみたいで、汎用性の高い型をエテっちと設定したのよね」
「汎用性ですか」
「えぇ。だってシャドウガーデンが使ったりするのに、一々形が違ったら面倒が多いでしょ?武器のことだってあるし」
「でも暗闇の城のものはもう少し大きかったりしましたけど」
「基本の型が何個かあるのよ」
「そうなんですね」
最初こそ結構苦労したけれど、一回スタンダードが決まっちゃうとそれでいいやって思って、あとは使う側に任せっきりにしてたのよね。それで困ったこともないし。
何かしら?ロージー用に新しい体をくれとか、そういうお願いの布石かしら。
「いくつか作ってみて欲しいんですが、お願いしても?」
「えぇ、お安い御用よ。ロージーの分でしょ?」
「それもあるんですが・・・」
ソロジーが言うには、請負った序列戦の指導に必要らしい。
まぁゼンナもダンジョンのためと言われては断る理由もない。それに暇だし。
・・・安請け合いした手前断りにくいけれど、その後毎日のように 10 体以上もゴーレムを作らされる羽目になるなんて思わなかった。
みんな何故か目がマジになってて、注文に文句をつけるのもなんだか躊躇われるし。
そしてそんな日々が、ソロジーがダンジョンを一度離れてからもしばらくの間続いていた。
*** ブロック=ハコバス ***
デイブレイクとはしばらくぶりだった。
いつものように軽快な、それでいて今回はいつもより顔つきに自信が生まれているような気がした。
まぁソロジー嬢はいつも通りで、ディモンとボウェル嬢が、ということだが。
「いらっしゃい。なんか良い事でもあったか?」
こういうことは先んじて聞いてしまうのがいい。
ボウェル嬢はにっこりと笑った。
「えぇ。とても」
「なんだ、秘密なのかい」
「いずれお話ししますわ」
ならその時を楽しみにしよう。
ダンジョンの最深部を往くパーティってのは、難儀な役回りだと思う。
インドールの風がかつてその立場だった時、深部に自律するゴーレムやドラゴンがいたなんて話は半信半疑で捉えられた。俺が随分若い頃だ。
誰も見たことがないものを、はいそうですかと鵜呑みにできるほど人は素直じゃない。
深部ほど不可思議な事象が起こるようだ。
最近でもそういう噂があった。
アンデッドアーミー然り、ナイトゴーレムとかいうゴーレム然り。
おそらくデイブレイクはそれ以上の不可思議と遭遇したんだろう。体感した本人たちしか信じられないような、言いふらすことを躊躇われるような。
時代が進んでダンジョンの平均的な探索深度が深くなれば、それらもいずれ事実として明るみになる。それを待つことにしたのかもしれん。
「装備品はいつものように仕上げてあるぞ。試してみてくれ。あと、武器も預かろう」
「よろしくお願いします」
そしてカウンターに置かれた剣と刀に俺は違和感を覚えた。
剣はまだいい。手入れに慣れたのか?という程度のもんだ。
しかし刀は違う。これはどう見ても・・・。
「わしらの作品じゃねえな?」
ソロジーが肯定する。
思った通り、刀は折れた物の代わりに深部で得た品を使っていたようだ。
しかしこの刀、悔しいがわしらのよりも出来が良いんじゃないか?それに剣の方もなんと言うか怪しい。
「もしかして深部に腕のいい鍛冶師でもいたのか?」
・・・冗談半分のつもりだったが、ディモンの目が泳いでいるように見える。
「ふむ・・・」
まぁ深くは聞くまい。
しかしわしは直後、ダンジョンに鍛冶師がいるかもしれないという予想よりも遥かに驚くことになった。
それは気になってチラチラ見ていたソロジーの腰の見慣れない鞘から、ソロジーが抜いた一振りの剣のせいだ。
「やっぱり気になりましたよね」
そう言ってソロジーがカウンターに置いたのは、異様な煌めきを放つ片手剣だった。
「オ・・・」
オリハルコン・・・か?いやまさか。それに書物で見るものほどの青さと透明さがない。むしろヒヒイロカネに近い。
しばし考えていると、答えをソロジーが告げた。
「フラクタルという名の剣です。譲り受けた人からそう聞いています。えっと、ヒヒイロカネとオリハルコンの合金だとか」
やはりそうか、その質感だったか。
いやそれにしても・・・
「まさか生きている間にオリハルコンの武器を拝めるとはな・・・」
オリハルコンといえば全ての鍛治師の憧れだ。
書物にも伝説的な記述がなされているくらいで、扱い方すらはっきり伝わっていない。
ヒヒイロカネならまだしも、格が違う。
合金とは言え本物の重みは別格に感じる。
「・・・いいものを見せて貰った。だが目の毒だな。こう、良すぎるモノってのは」
「この鞘をお願いしたいんですが」
「おう、任せろ。最高のものを作ってやるよ」
そしてわしはその剣、フラクタルを預かった。
・・・この艶かしい光、吸い込まれそうな深み、刃の鋭さ、適度な重み。
ヒヒイロカネの割合がもちろん高いんだろうが、それにしたってこいつは素晴らしい。
デイブレイクが帰って店を閉めた後、ガナックにオリハルコンを経験させるのも差し置いてわしはその剣をずっと眺めていた。
わしも別に先が短いわけではない。
しかし、いずれはこれを超える作品を・・・そういう気概を、また新たにできた。
酒の旨い、いい夜だった。




