073 品評会
*** ハル ***
地上への道すがら私たちは初めて暗闇の城で冒険者と出会った。
再来の 5 人だ。
遭遇した時、ちょうど彼らはデモンゴーレムと戦闘中だった。
グレイモアさんが大盾でゴーレムの大剣を受け、力を真っ向から突き返しノックバックさせる。そこへエンダが土魔法を中心に打撃系の中規模魔法を放ち、ゴーレムの立て直しを拒むようにナユタさんが刀で攻撃しつつ動きを誘導する。
結構地味な戦いだなと思ったけれど、大技で決めに行くとパーティの配置が崩れやすかったり不意に新たな敵が出てきた時対応しにくいので、むしろ堅実と評価する方が正しいのだろう。
3 人の攻撃は流れるようで、ゴーレムが放った迎撃の水魔法もグレイモアさんが上手く受け流し、私たちが遠巻きに観戦し始めて数分で戦闘は終わった。
「みんな久しぶり!」
戦闘途中から私たちには気付いていたようで、ゴーレムが動かなくなるとエンダが声を上げた。
まぁ、暗い中灯りをつけているから気付いて当然なんだけど。
「久しぶり、エンダ。調子はどう?」
ディモンがすぐに答える。
「調子はいいと思うよ。パーティがうまく回ってるんだ」
エンダはメンバーを見つつ言う。
つい先ほどまで見ていた戦闘での立ち回りは、エンダが言うように綺麗に型にはまっていた。
「みんなは?」
「僕たちもまずまずだよ。手持ちが増えたから一回街へ戻ろうとしてたんだ」
「そうなんだ・・・確かに多いね」
エンダはフレアが引いているソリを見て目を見開いた。
毎回即席で作るこのソリだか荷車だかよく分からない物も、回を重ねるごとに質と使い勝手が良くなっている。気がする。
とりあえず二人の会話を見守っていると、不意にグレイモアさんが割って入った。
「ちょっといいかな」
なんだろう。ちょっと真剣な表情。
「デイブレイクの強さの秘密を知りたいってつい最近話してたんだが、実際のところ何でそんなに先に進めてるんだ?」
おお、直球。
こういう話は大体私が答えることになる。案の定ディモンが私を振り返った。
この前夢幻のカルサノさんに話したように、精霊の話をするのが都合がいい。魔素制御を今から始めるよりも確実で、それにレイネさんがいい役割を担ってくれると思うから。
レイネさんは私が小さく動かしている魔素・・・ではなく、それに集まっている精霊を追うように視線を動かしている。どのレベルでかはともかく、見えてはいるんだろう。
異世界にも精霊がいたのか、この世界の精霊との違いはどうか、そういうことが気になるが、なんとなく聞くのも憚られる。特殊な事情にはあまり首を突っ込まれたくないだろうし。
・・・いや、ここはグレイモアさんを見習って、分からないことは聞いてみることにするか。
「一つ聞いておきたいことがあるんですけれど、いいですか?」
「あぁ、何かな」
「レイネさんって精霊が見えているんですか?」
「え?あぁ、そうだったんじゃないか?」
グレイモアさんが振り返る。
レイネさんは頷いた。
パーティメンバーにはそのことを話していたようだ。
「えぇ。はっきりとは見えませんが、もやのように動くそれを認識しています」
ふむ。もや、ね。
「ただ精霊と言うには形もないですから、精霊の欠片のようなものなのでしょうね。精霊それ自体には会ったことがありません」
属性のことまでは分からないけれど精霊素は見える。そういう段階だろう。
「前の世界のことを聞いても?」
レイネさんは私の追加の質問には答えてくれるつもりはないらしく、「いずれ機会があれば」と断られてしまった。
私はカルサノさんに話したのと同じことを再来の 5 人にも伝えた。
全属性に適性があるエンダはもちろん、グレイモアさんもポットさんも集まっている精霊が今の戦闘スタイルと同系統なので、意識すればもっと伸びると思う。
ナユタさんとレイネさんの周りの精霊素はちょっと挙動に違和感があるので何とも言えない。やっぱり元の世界とはシステムが違うってことかな。
原子に始まる物質の構成は同じものだと思うんだけど・・・。
そういえば私の元の世界にも実は魔素や精霊素があるんだろうか?今更気になってきた。
宇宙の未解明部分、ダークマターと呼ばれていたものとか、ゆらぎの狭間にあるとか?
知らんけど。
エンダも他の 4 人も、精霊素についての私の解釈を興味深そうに聞いていた。
なんとなく騙しているようで後ろめたさがある。でも嘘も言っていない。
・・・実際のところどうなんだろう。魔素制御についてはもっと広めた方がいいんだろうか?
分からない。
分からないことは保留だ。
ただ、どうして保留を選択したのかは自分で分かっている。
今の世界の力関係は、魔素が見えないレベルで行使される魔法を基準に語られている。
魔族側がどうなっているかは不明だが、少なくとも人族領はそれでうまく均衡が取れて平和が続いているのだ。
その均衡を壊してしまう可能性が懸念されるから、私は魔素制御のことを伏せている。ひとまず今のうちは。
例え大局的にみて広めた方がより平和な未来があるのかもしれないとしても、そこに至るまでに大きな混乱が生じるだろうから。
・・・台頭する魔素制御を駆使する冒険者たち。
ダンジョンの崩壊。
魔族領への侵攻。
新世代による旧体制への反逆。
国の改変。
情報格差による国力差。
人族の不和・・・。
言葉の羅列に過ぎないこういった予想が、現実に起きる気がして私は恐ろしい。
単に既得権益を守りたいとかそういう利己的な気持ちが無いとは言わないけれど、ペイネとディモンともこのことについては何回か話し合った。
その上で現状は自分たちまでで留めておくことを決めたから、これはデイブレイクの総意でもある。
「属性魔法が属性魔法たる所以、か」
グレイモアさんが概ね得心したという表情で呟く。
「えぇ」
「じゃあ、身体強化はどうなってんだ?」
「身体強化は人によって伴っている属性が違うみたいです。バフは光系が多いと思いますが」
「ふぅん」
その後は暗闇の城の頂上にいるボス、レイラーンのことなどを話して私たちは別れた。
もっとも、ボス的な存在がいるよと伝えただけで、彼の秘密については話していない。
なんとなくレイラーンに悪い気がしたから。
***
コーン、コーン、と小気味良く金属を打ち付ける音が、視界の悪い白い世界にこだましている。
「おう、どうだい?」
「おう、おはよう!相変わらずさ!」
そんな会話がそこここで交わされる。
今は朝のようだ。
「今日は品評会だな!」
「とっておきを持ってきたぜ!」
「おうとも!俺も負けねーぞ!」
男たちは仕事場への道すがら、品評会なる催しへの意気込みを語り合う。
「それにしても、お偉方は最近急に品定めが厳しくなってないか?」
「あぁ、それは思った。まぁ、ちょっとやそっと厳しくなろうが、ウチには関係ないがな!」
「何ぃ?!そりゃ俺んとこもそうだぜ!」
「「はっはっはっは!」」
息のあった笑い声。住民たちはみな、快活に笑い合う。
彼らが互いに気心の知れた存在であると、疑う者はいないだろう。
相変わらず視界の悪い午後、石造りが基本の街並みにぽっかりとあいた広場には人だかりができていた。
「ではこれより定期品評会を始める!」
一段高いところから司会者らしき見目の良い女性が呼びかける。
集まった面々は布に巻いたり箱に入れた品を手に、自分の番を心待ちにしている。
「1459 ポイント!」
「2006 ポイント!」
「1780 ポイント!」
これは武器の品評会だったようだ。
次々に檀上へと登る武器。
司会の女性がそれらを手に持ち、壇上に置かれた等身大の真っ白な人形を攻撃すると、人形が甲高い声でポイントを告げていく。
人形が奇声にも似た声を放つ不可思議な光景を気にする者は一人もおらず、集まった人々は叫ばれるポイントに興奮しているようだ。
「4004 ポイント!」
ウォォォ!
今日一番のポイントが叫ばれ、参加者や観覧者たちの熱気が一層立ち込める。
結局 4004 ポイントが最高のまま、品評会は終わった。
「片手剣もグラヴィスんとこかぁ」
「こないだも斧で一等だったからな。さすがだぜ」
「あぁ、だが次回は負けんぞ!」
「俺だって!」
どうやら今回の品評会は片手剣のみが対象だったらしく、確かに壇上に登ったのは全て片手剣だった。
品評会が終わり参加者たちは元いた仕事場へと戻っていく。
人が居なくなると広場に留まっていた熱気も、視界を遮る深い白にやがて溶けていった。
*** ガナック=ハコバス ***
この前デイブレイクが店に来た時、俺はお使いで店にいなかった。
今日は父ちゃんが役所に出かけていていない。
「こんにちは」
そう言ってディモンさんが店の扉を開け、それからボウェルさんとソロジーさん、ロージーさんが入ってきた。
「デイブレイクの!久しぶりだね。前は俺、出かけてたから」
「うん、確かにいなかったね。ブロックさんは?」
「今日は父ちゃんは出かけてる。帰らないと思うよ」
「そっか。じゃあ代わりにお願いしておくよ」
「任された!」
カウンターに次々と置かれていく、商会では売らずに加工用に持ってきたという戦利品は、店でも滅多に扱わない高級素材ばかりだ。
「こ、これってもしかしてアダマンタイト原石?」
「多分ね。ブロックさんに確認してもらうのが確実だけど」
「おお、こんな結晶なんだ・・・」
資料では知ってたけど、本物をみるのはやっぱり違う。
それにこのドラゴンの皮も角も、流通してるものとは比べものにならないくらい綺麗だ。
一通りの品と加工についての注文を預かる。
「そういえばこの前、刀使いの人が来たよ。それも超大物パーティ」
「あぁ、ナユタさんでしょ。この店のこと、ソロジーが教えていたから」
なんだ、知ってたのか。
そういえばそんなことを言ってた気もする。
「刀を打つ時のコツなんかも詳しく教えてくれたんだけど、もしかしてあの人も刀鍛冶なんだろうか?」
「どうかな。そういうことは聞いてないけれど。また来た時に聞いてみたらどう?」
「そうだな」
デイブレイクはみんな俺と歳が殆ど同じだし、気取ったところも無いからとても話しやすい。ボウェルさんには緊張してしまうけど。
冒険者によっては、武器を使ってやってる、みたいな態度の人もいるから気を遣うことが少なくない。
丁度父ちゃんも他のお客もいないし、俺は今まで聞きたかったダンジョンの事を聞いてみた。
ディモンさんが話し相手になってくれる。
「ダンジョンってのは俺みたいな素人が行ったらすぐに死にそうなとこなのか?」
「うーん、パーティに入ってればそうでもないかも。国を移動する時に護衛を頼んだりするでしょう?それがダンジョンになるような」
「へぇ。実はさ、俺、直接魔物の素材採取に立ち会ってみたいんだよ。だって俺ら鍛治やってる人間が見たほうが、その魔物のどこがどう使えるか分かると思うんだ」
実際、その魔物の爪を持ってくるくらいなら革を、とか、革じゃなくて牙を、と思うようなことがあるから。
どこかにはダンジョン探索をこなしつつ鍛治もやってるような冒険者もいるんだろうか。俺には無理だけど。
「ボウェルはどう思う?」
「そうね、理に適ってると思うわ」
おぉ、ボウェルさんが同意してくれている!
「でも非戦闘員一人を護衛しつつひと月以上ダンジョンに潜ることの費用を考えると、結局のところマイナスな気もするわね」
早計だった。
あぁ、自分でも一気に気落ちしていくのがわかる。
「そ、そうだよな・・・」
と思ったらソロジーさんがフォローしてくれた。
「それでいい装備ができるって言うなら、金銭的に余裕があるならいいんじゃない?冒険者側も、それから鍛治師側も」
うんうん、そうだよね。うちにお金があればね・・・。
ダメだ。流石に最深部を行くようなパーティに護衛を月単位で依頼できるほどの余裕がうちにあるとは思えない。
「うん、お金が溜まったら考えるよ・・・」
俺にはそう言うのが精一杯だった。
一パーティに一鍛治師!みたいな時代が来てくれたら最高なんだけど。
そういう風潮でもないと、今のままなら少なからず戦えないと探索それ自体が滞るっていう本末転倒なことになるんだろう。
無理そうだ。
その後は預かった素材の元になった魔物がどういう魔法を使ったとか、どういうところにいたとか、純粋に彼らの冒険話を楽しませてもらった。
もちろんその中で俺たちの作った武器や防具がどうだとか、しっかり感想を交えてもらいつつ。
俺の戦場はここで、そして俺の敵は父ちゃんの言葉を借りれば “理想と現実の交錯点への道のり” だ。
俺はこの言葉が好きだし、だからこそ鍛治師に誇りを持っている。
理想はいつも俺の中にある。
現状を理想にまで連れていくための、全ての障害も俺の中にある。
冒険者たちは何を理想に掲げているんだろう?
俺との雑談を終えたデイブレイクは、来た時と同じように気軽な足取りで店を後にした。




