071 成長過程
*** ナユタ ***
今回のダクスパーナへの遠征は俺にとって大きな意味があった。
具体的には武器についての問題が少し解決された。
ダクスパーナでの依頼を受けてから実際にダクスパーナに入るまでには時間があったため、パーティは一度レイドレという国を訪れた。
レイドレは職人の国として知られているらしく、ダンジョンでの収穫品はここで加工を任せられる店を探すのがいいかもしれないとグレイモアやエンダが前々から提案していた。
これまでは南ベースにいる商隊に殆ど売却していたが、自分たちの装備に転用できる物もちらほら出てきたためだ。
実のところ、俺はレイドレを訪れる日を密かに心待ちにしていた。
というのも、ロッキンガム大祭でデイブレイクのソロジーが刀を使っているのを見て、そしてソロジーからレイドレにあるララの店で誂えてもらったと聞いていたから。
「いらっしゃい」
ドワーフの店主がカウンターの奥で作業しつつ挨拶を寄越す。
ふっと俺たちを見て、そして作業に戻るそぶりを見せたのも束の間、今度は驚いたような顔で俺たちを向き直ってカウンターから出てきた。
「あぁ、悪い。驚かせたか」
店主の顔は厳ついが、別に驚くようなことはなかった。
「わしは店主でブロック=ハコバスというんだが、お前さんのそれは刀じゃないか?」
どうやら俺の刀に反応したらしく、そして俺はソロジーから話を聞いておいてよかったと思った。
「確かにこれは刀だ。デイブレイクのソロジーから店の事を聞いて訪れたんだが」
店主はデイブレイクの名を聞くと表情が和らいだ。
「ソロジー嬢の!そいつはまた、ありがたいことだ。ところでその刀は誰の作なんだ?」
その点が気になるのは当然か。
最近は俺が異世界からの者という噂がどこからか流れているらしいし、あまり気にすることもないだろうと思いつつ答える。
「この世界のものではない。俺が元いた世界の名工の品だな」
へぇ、と感嘆を漏らしつつ、店主は抜け目なく仕事の話に移る。
「で、その刀の手入れか、はたまた新しいものを御所望で?」
「手入れを頼みたいところだが・・・先に一本貰いたい」
いくらドワーフと言っても、刀に関しては俺の方がよく知っている可能性もある。作品から実力を探っておきたい。
「わかった」
そう言ってカウンターの奥へ隠れて数分、店主は鞘に収まった一振りを持ってきた。
「先に断っておくが、わしらも刀については素人だ。ただ武器としての性能は保証する。そういう風に打っているからな」
刀の刀身は美しい波紋を描いている。
「だからこれも試作の一つということになる。もっとも、ソロジーにも試作しか渡せてないってことなんだが」
ワハハッと笑う店主は楽しそうだ。
「ところで初めてみる顔に思うんだが、お前さんたちも二つ名持ちか?」
刀と俺から視線をはずしパーティを見回す店主。
「えぇ、再来と呼ばれています」
エンダが答えた。
「・・・!再来!あの再来か!さすが嬢ちゃんたちというか何というか」
店主はその後嬉しそうに彼視点でデイブレイクの事を話し、そして店内の商品についてざっと説明した。
エンダはデイブレイクの話に関連して出てきた、飾られているドラゴンの角をしげしげと見ていた。
「気が向いたら懇意に頼む」
そう言う店主の態度には嫌味がなく、俺は刀を試すのが楽しみになっていた。
そして訪れたダンジョン深層。
俺たちは城下町を越えた先、暗闇の城というらしい城までの道のりを慎重に進み、そしてついに城の探索を開始した。
城まではこれまでに出てきた魔物の上位種と思われる個体が多く、何度かは苦戦を強いられた。
そして城の中では遭遇するゴーレムやデーモンたちの魔法の強力さ、武芸の熟達具合に、ペースを一気に落とすことになった。
「なんだろ。今までと大きく違わないように見えるのに」
魔物の初動を抑えるグレイモアが違和感を口にする。
「魔物の魔法が僕たちと同じようなレベルにあるってことでしょうか」
「そうなのかもな。ちょっと認めたくないが」
魔物の操る魔法は規模こそ変わらないかその個体の大きさ相応にも関わらず、こちらの魔法とぶつかった際に一筋縄で押しきれなくなっていた。
密度や精密さの問題だろう。
俺やレイネのスキル由来の魔法にも同じようなことが当てはまっているが、これは俺たちの魔法のスキルレベルの関係だと思われる。
こちらの世界ではあらゆるパラメータの視覚化ができなくなっているためはっきり分からないが、前の世界での事を思うと俺とレイネが操っているスキル・・・魔法は弱体化している。逆にレベル上限にまだまだ余裕があるだろうと思えるくらいに。
スキルレベルは魔法を一定回数使うとかスキルの理解を深めるだとかで上がるが、それがこちらでも適応されるのかは分からない。
エンダたちの魔法がどのように強化されるのかも同じように不明だが、使えば使うほど強くなるパターンのように思える。その原理はともかく。
確かなのは、俺たちはこの城を攻略するために自身の力を高めないといけないという事だ。もちろん連携をもっと密にすることも必要だろう。
異世界で身に付けていたモノで足りていた俺とレイネも、天性の才能に委ねていたエンダとグレイモアも、ようやく壁にぶつかっているところなのかもしれない。
ちなみにポットだけはあまり変わりなく動けている。補助的な役割のためと言えばそうなのかもしれないが、これはポットの回復が俺たちが受けうる損傷の上限以上を許容できているためであり、ポットの地力の高さが知れる。
レイネが言うにはゴーレムには精霊が宿っているようだが、俺たちには見えない。
それに、レイネもその精霊と意志疎通を図れるわけではないようなので、結局のところ攻略の助けにはならない。
ゴーレムはこれまでも荒野や城下町で出現していたが、その時ははっきりとは精霊が宿っている様子は見て取れなかったと言うので、精霊が城下町と城の魔物の強さの差の要因なのかもしれない。
"ララの店" の店主が言うには、デイブレイクは更に先を行っているという。
エンダと同世代のそいつらにできて俺たちにできない道理は無いはずだ。
デイブレイクの強さの秘密に迫れるか否かが俺たちの、特にこの世界の人間であるエンダとグレイモア、ポットのレベルアップの鍵になるように俺は思っている。
まぁ、それは自力で辿り着くしかないんだろうが。
自分自身との戦いの様相を呈し始めたダンジョン攻略。大体の冒険者にどこかの段階で訪れるだろう自問自答の時間。
・・・俺たちは暗闇の城を少しずつ登って行く。
***
グース=ルダという異端を受け入れ、そしてその才を知った女神派の研究者たちは、ルダ本人が語らないまでも魔素それ自体が秘める可能性に気付き始めていた。
明らかに身体強化と思しき身体能力。しかしそれとは別にルダの体が受け入れた闇魔法。
あの身体強化は “そういう魔法” ではないのではないか?なぜならルダのそれは、身体能力強化という枠に収まらず、回復さえ備えているのだから。
ではその根元は?
そういった類のアイテムを、平民の孤児の彼が持っているはずもないだろう。
ならば再来のような先天的な加護だろうか?可能性はあるが、開花が遅い。
では彼が人外という線は?人族に身をやつす意味が見出せない。それもわざわざ、どこに流れるともしれない孤児に。
ルダは生い立ちを頑なに語らないため、彼の指導者たちは想像するしかない。
しかし分かることもある。
模擬戦で相手が魔法を発動する前に、ルダは既にその出所を見て備えている。
魔法を使わない訓練でも、武器の扱いには慣れていないはずなのに相手に一歩先んじてその挙動を抑える。
もしや魔素の流れがみえている?
論理的に考えて、魔素が見えることは可能性としてありうる。
アポロア記で魔法の軌跡が視覚的な現象として表現されているのはその一例であり、逆に、見る目があれば見えるとも考えられてはいるのだ。ごく低い可能性として、だが。
しかしそれが分かったところでどうにかできるものでもないということには、女神派はまだ気付けないでいた。
既に体に定着してしまった魔素の道筋は、例え意識していてもそれ以外の魔素の動きを乱し、そもそも見えないのでそれも分からない。
魔法という近道をわざわざ無視し魔素に触れ続けてきた者。あるいは、天性の柔軟性で魔素の動態を手中に収めた者だけが、魔素制御という力を手に入れられるのだ。
言わずもがな、前者がクレアやルダ、後者がディモンである。ペイネは前者寄りだろう。
しかし女神派も試行錯誤の果てに、いずれは前者の手法に取り掛かることになるだろう。
何せ彼らは彼らの教えを受け入れる無垢な皿を、少しずつではあるが集め続けているのだから。
*** フェイト=キャスカ ***
城の悪魔のような魔物を知って退却し、二人の魔王に現状を報告した後、私たちはダンジョンに戻ってきた。
二人への報告は私を監視している誰かがいるだろうからその人たちがやっている分で足りるとも思うけれど、私自身が行くことに意味があるのだとメンバーに言われたので両方行った。
ガルネリア領は初めて訪れた。荒涼として曇りがちなカンナバーラ領とは違って牧歌的な印象だった。
城のある街は私のイメージするファンタジー世界の雰囲気そのものだったので、妙にテンションが上がってしまった。違うのはこれが魔族の街という事くらい。
召喚された闘技場で見た厳つい悪魔族の男が魔王ドッド=12=ガルネリアだったらしい。
「久しぶりだな」
「以前闘技場でお会いしましたね。えっと、私がフェイト=キャスカです。よろしくお願いします」
「あぁ、聞いている。俺がガルネリアだ。・・・率直に言って、二人ほど監視につけてるわけだが、不都合はないか?」
「よくしてもらってます」
「そうか」
通された部屋での謁見は少し緊張したけれど、状況を報告し話を聞いていると、魔王からは悩める管理職的な雰囲気が感じられて、案外情に深いタイプかもしれないと思った。
エフたちに聞いた分では実際事務仕事が多いらしいし。
ガルネリア王のところを出てからは最短でカンナバーラ領に向かう。
カンナバーラ王は相変わらずの丁寧な人柄で、門に飛来したゴーレムの話に特に興味を持っていた。
私の帰還のための魔法はまだ目処が立っていないそうだ。
なんだかんだで再びダンジョンに戻るまで 2 ヶ月くらいかかったけれど、ダンジョン内に比べれば外は移動の疲れも少なく、私は小旅行気分だった。
城下町までは一気に駆け抜ける。
アンデッドが少し残っているものの、城下町の魔物はほとんどがゴーレムにとって変わられた。
個体としては断然ゴーレムが強いけれど、集団としてはアンデッドに軍配が上がっていたかな、という感じ。
ダンジョンに再び挑むに当たって、私たちはあらかじめ今回の探索はスキルアップを目的とすることに決めていた。
主戦場というか狩場というか、ともかく拠点を城下町のあるエリアと城までの上位魔物地帯に定め、そこでひたすら戦闘の経験値を積んでいく算段だ。
私は新しい魔法を作ることを、4 人は戦闘の熟練を目指す。
正直なところみんなの進捗が芳しくない場合は私一人でも・・・あるいは別のパーティを考えないといけないかなと思っている。
私が煮詰まるまでにどうなるか、というところかな?
一人で遊ぶことの多かった私。ゲームによくあるレベルアップするだけの期間はそんなに苦じゃなかった。ここが例え現実だとしても、私にとってはまだゲーム気分が混じっている。
私の得意な魔法は得意な順に雷、火、水、闇。
とりあえず複合から始めて、新規属性開拓とそれぞれの上級魔法の習得を目指そうかな。
できればなんちゃってで持っている刀もマスターしたいけれど、武芸は私には難しいみたいで、いわゆるパワー馬鹿的な体の使い方になってしまう。
・・・うん。ひとまずは魔法に専念しよう。
刀も剣に変えようかな。それならライノットに教えてもらえるし。
さて。またあの城に踏み込めるのはいつになるだろう。




