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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第四章 序列戦
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059 相応の人生

*** ペイネ=ボウェル ***


 まさかの個人戦。

 ダンジョン攻略をしていたつもりが、先日のロッキンガム大祭の再現の様な状況になっていた。

 兎にも角にも戦ってみないことには始まらないので、小手調べと最初に手をあげたクレアが初戦に挑んだ。

 ゲーティの話では舞台上の戦闘で死ぬことはないらしいけれど、クレアはそれを言葉通りに受け取ったのか、軽い足取りだった。クレアなりに信じる、信じないの基準があるんだと思う。


 序列 10 位。

 ゴッソールと名乗ったデモンゴーレムは炎を纏った両手剣を携え、影魔法による絡め手の気配を見せつつもクレアに敗北した。

「おいおいゲーティよぉ、面白くなってきたじゃねーか!」

 トーキーオのナンパな学生を彷彿とさせる見た目のまま、快活に笑って闘技場を後にした。


 ゲーティを初めて見た時にも思ったけれど、これまで見てきた暗闇の城のデモンゴーレムとは明らかに精巧さが違う。

 それに、ラダムとレイラーンの様に明確に意思を表出している。

 いよいよダンジョンも大詰め・・・そう感じさせるものがある。


 クレアはそのまま序列 9 位にも挑戦した。

 序列 9 位のフッソは刺々しい氷魔法の乱立にレイピアの刺突術を併せた、華麗な攻めを見せた。

 けれどクレアは一通りの技を受け切った後、一瞬で下した。

「ふん、俺もまだまだだな。そこの二人も挑戦者か?楽しみにしている」

 フッソはそう言い残してホールを出て行った。

 序列戦で負けると何か一言言わないといけない決まりなのかしら?

 雰囲気は出るけれど。


「じゃ、今日はどっちが挑む?」

 戦闘が終了したら負傷は無かったことになるというのは本当のようで、全く戦闘の余韻を感じさせないクレアが言う。もっとも、ゴッソールとフッソの攻撃は全くクレアに届いていなかったわけだけれど。

「私はディモンが先がいいと思うな」

 クレアがそう言ってディモンを促したので、今日は私は観戦だけになった。



「ハッハーッ!今度は負けねーぜ!」

 威勢よく再び闘技場に上がったゴッソールは、その勢いを剣戟に乗せてディモンを攻める。

 しかし展開された霧の幻影にうまく撹乱され、そして幻影の分身を切らされたところをディモン本体に打ち付けられた。

「俺の影魔法が通じんか・・・流石だな!」

 ・・・なんだろう。ゴッソールが人間だったら、案外いい友達になれそうな気がする。


 次の序列 9 位戦では、ディモンの霧はフッソの魔法に凍らされた空気に霧散して、ディモンは霧無しの幻影魔法で応じることになった。

「へぇ。霧がないと、印象が少し違うね」

 クレアが言う。

 デイブレイク加入以前、ディモンが幻影魔法と称して使っていたのは濃霧での視界の撹乱だったので、真の意味での幻影ではなかった。けれど魔素操作の練習の甲斐あって、その霧に二重の意味で視界撹乱効果を持たせることができるようになっていた。

 それが今、初めて魔素単体で表現されている。

 その幻影は熱で景色が揺らめくようにディモンの位置を不確実にさせ、そして実際にフッソの攻撃の 1/3 ほどが空を切っていた。


「あれ、多分空間魔法が混じってるね」

「そうなの?・・・ん、あぁ、そうかもね」

 クレアに言われて気付く。よく見れば、実際の魔素の淀みとはズレて幻影が形作られている。

「そうじゃなかったら、私が再現できるはず」

 あ、そういう意味だったの。

 一応確認のため私も見たままを伝えると、「・・・え?あ、ほんとだね」とクレアは言った。

 

 私より遥かに魔素を追えるクレアが "魔素と幻影のズレ" に気付かなかったのは意外だった。

 魔素が見えすぎるせいで、私が見えていない魔素の動き込みの漠然とした領域までも効果範囲と考えたからかもしれない。

 逆に “ディモンができて私ができないなら魔素操作じゃない” という傲慢にも取れるけれど、クレアにそれだけの実力があることは確かなので嫌味に思えない。


 幻影を着実に発展させてきたディモンの技術がフッソの魔法剣技を上回り、ディモンも序列 9 位になった。

 明日は私が挑むことになる。



 その日は与えられた部屋に荷物を広げ、ディモンの幻影のことやダンジョンのことを話した。

「ラダムとレイラーンが精霊の依代だったってことは、ここのデモンゴーレムも全員そうってことだよね?」

 ディモンは何だか嬉しそう。二戦とも勝てたおかげかしら。

「そうだろうね。こんなに精霊っていたんだって思うけど、それ以上に、彼らを使役する立場の精霊がこのダンジョンの運営に関わってる可能性があると考えられることが私には重要かな」

「もしかして精霊王とか?」

「うん?ペイネ、そんなのアポロア記にも出てこなかったと思うけど、いるの?」

「魔術大学では、精霊全てを束ねる存在がいるかもしれないって、研究してる人たちがいたわ」

「へぇ、面白いね」

「もっとも、私はそういう研究会があるって知ってるだけで、それ以上のことは知らないんだけれど」


 部屋は人族領のどこにでもありそうな間取りで、リビングダイニング、小部屋 3 つ、キッチン、トイレとシャワールームがあった。

 さすがに素材がないから料理はできないけれど、シャワーで思う存分水を浴びて、それからダイニングでだらだらと話した。

 こんな奥地で思いがけずゆったり過ごせて、なんだか夢心地。

 それだけに、益々ダンジョンの成り立ちやダンジョンを生み出した人物に興味が湧く。


「明日はペイネと、それから私かな?ディモン、先に挑む?」

「クレア、僕からでもいい?毎回クレアが先だと、答えを教えてもらって問題を解くみたいでちょっと気が引けるから」

「そう?わかった」


 入口を一応フレアに見張ってもらって、私たちは久しぶりに一人ずつ別れて眠りについた。




***




 ダブルホーン代表のファーラがグロームに帰還し、ロッキンガム大祭で得た情報を元に今後の方針を幹部に伝えると、ダブルホーンは活動範囲を広げることとなった。

 ダブルホーンの各メンバーの日頃の活動成果のおかげで治安は向上しており、グロームだけでなく併合した旧ラナ国を含めても、対外的に動けるメンバーの数がちょうど増えてきていたことも一因である。


 連邦東部最大の国 "ダクスパーナ" は、グロームおよび旧ラナ国の南に位置し、国土の多くは草原地帯からなる。

 国の領土としては大きいが、実際には遊牧的生活が残っている地域を豪族が一纏めにしたような成り立ちのため、街らしい街は国の首都を含め数カ所で、あとは小民族の末裔が点在している。


 広大な土地。そう表現すれば魅力的だが、水源に乏しく、魔物や害獣といった資源になりうる生物も少ないことから、端的に言って開発しづらいため他国も手を出す事はなかった。

 加えて首都にいる豪族をはじめ、点在する小民族がいずれも優れた魔法使いとして知られることも、他国を寄せ付けないでいる理由だ。


 社会構造が次第に複雑化し、多様な人種が交流し始めて久しい周りの国々では、自然の恩恵そのものともいえる精霊との親和性が薄れつつある。

 しかしそれとは対照的に、閉鎖的な環境の中で古いしきたりを尊重し続けてきたダクスパーナ民族のもとには、居場所を失った下位精霊が少しずつ集まり、結果的に彼らの魔法の能力を高めることに繋がっていた。


 ダクスパーナの民といえど精霊を視認できる人材はほとんど生まれないため、この構図が周知される事はないが、ただ事実として、ダクスパーナは内外から“優れた遊撃魔法部隊”と認識されている。

 そしてそのことをダクスパーナの民は誇りに思い、そういった民族を統括する共同体としての国家への帰属意識も、建国以後着実に高まっていた。



 ダブルホーンの次の目標は、そんなダクスパーナにある。

 ファーラとしては目的の地を手に入れるため、盤石な背景を作り上げてからダクスパーナを陥とすつもりだったが、武術大会を経て考えを変えていた。

 確実性と早さの天秤を後者に傾けることにしたのだ。

 その理由は二つ。

 一つは、武術大会を制したデンス=トレスとの会話に感化されたこと。

 もう一つは、武術大会のレベルから、自組織が持つ戦闘能力の評価を相対的に上方修正したこと。


 目的の地さえ抑えてしまえば、ファーラは国自体には興味がない。

 それはラナ国も同様で、むしろわざわざ国営に注意を払っているのは単なる趣味、気分と言える。その程度の感覚だった。

 しかし都合の悪いことに、ダクスパーナにある目的地 4 箇所のうち 3 箇所が街と被っている。しかもそのうちの一つは首都だ。

 故に、ラナ国の時同様、国を手に入れる方が結局のところ早い。


「それにしても、お誂え向きなタイミングです」

 ファーラが参謀のグラインに言う。

「えぇ、本当に。もっとも、より確実を求めるならば、ラナ国の時の再現がよろしいかと進言致しますが」

 ファーラは少しだけ口角を上げ笑う。

「そうですね。国を盗るには民を味方につけるのがスタンダードでしょうからね。ただやはり、国土が広いだけあって再現は難しい。かと言ってグロームへの入植時のやり方も、その広さのために現実的ではない」

「超長期的計画としてこれまで進めていた理由ですね・・・。ロッキンガムの大会、私も行っておけばよかった・・・」


「ともかく、目標とする族長会議まではあと 1 年ほど猶予があります。やれる事はやっておきましょう」

「承知しております」


 族長会議はその名の通り、ダクスパーナの各民族の代表たちが一堂に会する議論の場だ。

 基本的には会議のため事前に提出された民族ごとの収支ないし問題点について議論し、国からの支援の分配を決める。

 ファーラはこの族長会議を攻め、国を手に入れるつもりである。

 障害が幾つかあるが、開催までの猶予期間で十分準備可能だろうとファーラは見積もっている。




*** 神代晴 ***




「ねぇハル。最近上の空のことが多いけれど、どうかした?」

 一香に呼び掛けられ、俺は食事に意識を戻す。

「あぁ、いや、そうかな?今の職場にまだ慣れてないせいかも」

「確かに異動してすぐは大変よね。でもそれ以前からの気もするわ」

「そうかな?」

「気のせいかもしれないけれど、そう見えるの」


 一香に指摘されるまでもなく、俺も自分の不調を感じている。

 いや、正確には不調とは違うと思う。ただなんとなく、自分という存在が頼りなく思えてしまう時間が増えたのだ。


 仕事が始まって自分の足りない部分がどんどん目についたり、一香と結婚して将来への不安が募っていったり、それから体が以前より元気じゃなくなったりと、思い当たる原因はいくつかある。

 ただ仕事はいずれ慣れるだろうし、一香との結婚生活は順調だ。体も、学生の時のように定期的に運動する機会がないのでこんなものなんだろうと思う。

 職業柄病気には聡いつもりだが、わざわざ病名がつくようなものではなさそうだ。そういうスペクトラムの範疇ではあるかもしれないが。


 じゃあ一体この “足りない感じ” は何に由来するんだろう。


 いつか夢に出てきたあの黒髪の少女にもう一度会いたい・・・。この不調のことを考えるとき、俺はいつもそう願っていることに気付く。

 今でも鮮明に思い出せるあの少女とのやり取りが、只の夢だったと思えないままでいるのだ。



 ・・・。


「・・・ん?え?」

 あの日、あの雨の帰り道。

 いつの間にか俺は、自分の姿を認識できない光に満ちた空間に浮いていた。

「こんにちは。ごめんなさい」

 声の方を向くと黒髪の少女がいた。

「え?」

「あなたはこれから、私の世界に転生することになります」

「・・・どういうこと?君は?これは夢なのか?」

 動揺しつつも、少女の言葉に答える俺。

「いいえ、夢ではありません」


 一拍置いて少女は続ける。

「あなたは本来、基本世界に於いて落雷のため死亡する予定でした。その運命から私があなたを抽出し、私の世界へ転生していただくことにしたのです」

 ・・・俺は俺が死ぬ予定だったという少女の説明に言葉が出ない。

 そして俺の生き死にを含めた全てが、神?らしき少女に操作されているのかもしれないという途方のなさに。


 基本世界。私の世界。少女は今そう言った。

 であれば他にも世界があり、その数だけ神がいるのだろうか?


「・・・君の言うことを確かめる術が無いけれど、助けてくれたようならお礼を。ありがとう」

 俺は切替えがわりと早い方だ。

 しかもこれは夢かもしれない。明晰夢かも。それならとりあえず少女の話を聞こう。

 現実なのだとしたら尚更、話を聞いておかないといけない。


「それで、俺は何のために転生させられるんだ?」

 俺は尋ねた。

「私の世界に生じる混沌。それを治めて頂きたいのです」

「君の力ではできないのかな」

「それでは意味がないのです」

 大きすぎる存在は小さな存在に精緻な干渉ができない、的な理由だろうか。


「何か、君から恩恵がもらえたりは?終わったら戻れるとか」

「あなたの記憶をそのまま持ち越すことが可能です。おそらくそれを活用するだけで、十分な見返りがあるでしょう」

 ・・・えっと、それだけ?それに後者に答えてくれていない。

 俺の落胆を察したのか、少女は慌てて付け加える。

「そ、それと、転生体は剣と魔法のファンタジーに耐えうる性能を持っています」

「剣と魔法のファンタジーなんだ」

「えぇ、王道です」

「そっか。じゃぁ、魔王とか勇者もいるんだろうね」

「そうです」

 ・・・え、俺が勇者じゃないの?そこ、詳しく聞きたいんだけど。


「基本世界からすれば人の文明の発達は遅れていますが、物質や物理法則は基本世界を踏襲しています。生物の形態は私の力で似せたものなので、ほんの少し差異はあるかもしれませんが」

 へぇ。

「俺がその混沌とやらを無視したら?」

 そう聞くと、少女は笑って言った。

「私が選んだんです。あなたなら大丈夫。あ、それから私の世界で死ぬときは、あなたはこちらの世界に戻ることになります。記憶を引き継いで・・・」


 その言葉を最後に俺の意識は途切れ、気が付いた時には、俺は自室のベッドで目を覚ましたところだった。


 ・・・。



 異世界転生。

 オンライン小説やマンガでよくあるその状況を自分に当てはめて夢想したことはある。

 しかし所詮は夢まぼろし。昨夜のことも。

 もし少女の言葉通りなら、少女の世界を生きて死んだ記憶を俺は持っているはずだから。


 俺はその夢を境になんとなく自分の存在に違和感を覚えつつも、相変わらず無難な日々を過ごしている。

 むしろ、一香と念願叶って結婚し、仕事も概ねうまくこなせている。

 側から見れば不自由ない幸せな人生だろう。

 ・・・結局のところ、俺がどう思うか次第なんだと思う。


「足るを知りなさい」

 いつか父親が俺を諫めた言葉を、ふと思い出した。

個人的に好きな回です。

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