057 遠隔回復
第三章最終話です。
*** ハル ***
後夜祭に相当する大祭の残り時間では、大会上位者の表彰と、賞金の授与が行われた。本戦出場者が 7 人だけだった戦術大会だけでなく、16 人が出場した武術大会の方でも全員に賞金がもたらされた。
武術大会で優勝したトレスは試合後姿を眩ませたままだったため、その賞金は次回の優勝者に持ち越しにするらしい。
準優勝した私は、死ぬまでなら不自由なく暮らせるくらいの額を受け取った。
初戦敗退のディモンは 1 ヶ月分くらい。
大会後は出場者からあれこれと声をかけられ、特にドラゴンロアの二人からは大都市を訪れた時はぜひ声をかけてくれるようにとしつこく念を押された。
他には、ハイエルフのキーン=ハイアがペイネに完全に心を奪われた様子でふらふらと寄ってきたり、神国騎士副長のダン=レレイからはぜひ神国で戦闘指南をと誘われたりした。
ハイエルフというとエルフの中でも飛び抜けて美男美女揃いというイメージがあるけれど、戦術も武術もこなせるエリートと思しきハイアは人族狙いでいいんだろうか?そりゃあ、ペイネは私の一押しだけど。
個人的にはトレスと何かを話していたファーラと話してみたかったが、ファーラとゴスは表彰式後早々に王国を発ったようだった。
武術大会出場者との交流で意義深かったのは、やはりエンダたち再来と交流したことだろう。
特に、ナユタとレイネの二人が違う世界から転移して来たのだと知れたことは大きい。しかもエンダと気さくに話している私たちの様子に警戒心が緩んだのか、スキルとか技とか、そういう類の能力がこの世界の理のものとは少し違うらしいとまで教えてくれた。
具体的には聞けなかったけれど、本人たちもイマイチ把握していないのかもしれない。
彼らからの質問には当たり障りない範囲で答えた。
レイネにフレアのことを探られた時に精霊のことをついうっかり言いそうになったけれど、向こうが知らないなら教えることもないと思い留まり、ゴーレム操作の魔法ということにした。
レイネは何か勘付いていそうだったけれど、直接指摘されなかったのでとりあえず問題ないだろう。
他にはダンジョンの城下町やその後のことを聞かれ、こちらはそこそこ詳しく伝えた。
あと、ナユタさんのいた世界にも刀があってナユタさんが刀使いということで、刀術やララの店のことも話した。
武術大会参加者との交流以外では、一番の収穫はなんと言ってもマルシ商会長と出会えたことだ。デイブレイクの実力を見込んで、今後各国の支店で売買を優遇してくれるとのことだった。
大商会の利点は大きい取引を安定して行えることにある。
これまでは殆どの戦利品をララの店で買い取ってもらったり加工してもらっていたけれど、ララの店は大きいわけではない。これから先装備が充実して、単に素材を売るだけとなると、確実な販路を持っている商会に頼れるのは有難い。
ただその代わりに、デイブレイクを支援していることの広報許可を条件として提示された。
何か不都合があるかパーティで相談したけれど、問題はなさそうに思う。
一点、デイブレイクが商会を支援する立場なわけではないということを確認し、条件を承諾した。
「あぁお父さん!素晴らしいですわね!」
「そうだなオレグア!私も妙に嬉しいよ」
そう言ってマルシ商会長と満面の笑みでやり取りしているのは、トーキーオの魔術大学でペイネと親しかったというオレグア=マルシだ。
その喜びようが正直なところ、常軌を逸する一歩手前でフラフラしているように見えて私は少し引いていた。
・・・これはあれだ。前世でいうところの、ライトノベルでたまにある、主人公とは別のハイレベルイケメンをモブの取り巻きたちが囲っている様相だ。違うか。
ともかく、マルシ商会とは今後よろしくと云うことになった。
大会が終わると、アリアはまたアルド校長と賢者の町に戻ることになる。
アリアと再会してからは、だいたいアリアも一緒に行動していた。
アリアは私の教えを律儀に守っていたらしく、単純な魔素制御だけならペイネといい勝負くらいの精巧さを習得していた。
「アリアも冒険者になるの?」
食事中に聞いてみたところ、まだ迷い中らしい。
「受付も結構楽しいんだよね。でもそうだね、そのうち・・・お姉ちゃんと一緒に行こうかなー、なんて」
「それは危ないかも」
「そう?」
言ってみて、そうでもないか、と思う。私が守ればいいわけだし。
「アリアちゃんのタイプは?」
横で話を聞いていたペイネが聞く。
「タイプ?」
「前衛とか、斥候とか・・・」
「アリアは学校を出た後は賢者の園に行ってるわけじゃないから、知らないかも」
「あ、そっか。そういう話だったね」
園で習うようなことを簡単に説明するペイネ。
アリアはふんふんと相槌を打って聞いている。
魔素操作技術の向上がもたらす恩恵は大きいけれど、逆に魔素操作を続けてきた "だけ" となると、どの適正にも該当しにくいという弊害がある。
アリアが自分でどう思うかはともかく、多分オールラウンダーが一番近いんじゃないかな?と考えていたけれど、アリアの答えは違った。
「私は後衛かな」
「え?そうなの?私はてっきりクレアと同系統かと思ったんだけど」
ペイネがそう言いつつ私とアリアを交互に見る。
私も同じようなことを思っていた。私ほどアウトドアではないかな、とも思ったけれど。
「後衛の風魔法ってこと?」
食事をしつつアルド校長と話していたディモンも加わる。
「なんじゃアリア。お姉さんにも知らせておらんのか」
アルド校長は何か知っているらしい。
「んー、ここじゃあ、ちょっと」
アリアはそう言うと、後でね、と種明かしを勿体ぶった。
食事後、私とペイネが借り、その後アリアも合流した宿の一室に集まると、アリアはソレを見せてくれた。動かないとは言えフレアも居るので狭い。
「じゃあ見せるけど、手出ししないでね?大丈夫だから」
私にというよりは、ペイネとディモンに言ったようだ。
そして魔素操作で風を起こすと、ズッ、ともビシュッ、ともつかない音を伴って自分の左大腿を切断した。
・・・え、何やってんの?
「動かないで!」
アリアはペイネを制止し、落ちた足を両手で支えて再び魔素を操る。
すると、ものの数秒のうちに足を元通りに修復してみせた。
「・・・ヤバくない?」
ディモンが珍しく荒っぽい言葉遣いで感想を漏らす。
「これは、ヤバいですね」
ペイネもそれに釣られる。
「ほっほ。何度みてもヤバいのう」
ふむ。とりあえず分かった。分からないことを聞いておこう。
「それ、自分以外にもできる?」
「虫とかウサギは余裕で、何回か狼にも試したけど問題なかったよ」
え、狼倒せるんだ。いや、それくらいはこれだけの技術があれば何の問題も無いだろうけど。
「人には?」
「さすがにやってない」
どっちの意味での "やってない" だろう?一瞬脳内で、殺ってない、と変換された。
「まだ実は秘密なんだ」
よかった。修復自体を、ということだった。つまりはやってないしその前段階もやってない。
「ねぇソロジー」
「何かな」
ディモンがこっちを向く。
「ねぇ、クレア」
「うん、何かな。分かるけど」
ペイネも。
もちろん言いたいことは分かる。アリアに後衛をしてもらうのが良いんじゃない?と云うことだ。
はっきり言って適材すぎてびっくりするほどだけど、本人はまだ将来を決めかねている身。姉としてはあまり無理強いする気はない。
ペイネとディモンの物言いで察したのか、アリアが聞いてくる。
「もしかして私もついて行けそう?」
「むしろ即戦力だと僕は思うね」
「正直これほどの回復技術は、中々見るものではないからのぅ」
ディモンはともかく、アルド校長は止める側だと思ったんだけど。だってアリアは、つい最近学校を出たばかりだから。
「アリアは、私がついて来てもいいって言ったら一緒に冒険者になりたい?」
目を瞑って腕組みをして、考えること十数秒。
パチっと目を開いたアリアは私を向いて答えた。
「うん。私、冒険者になる」
・・・結論から言えば、私はアリアの同行を断った。
ひとまず今の段階では。
みんなが言うようにアリアの回復の魔素操作技術には驚かされたし、それは攻撃や防御、身体強化での魔素制御にも通じるところがあるから、今すぐにでもダンジョン探索にだって行けるだろう。
だけどそれだけでは足りないこともある。
私はいくつかの条件をつけて、それが達成できたら一緒に行こうと告げた。
条件の一つ目は "賢者の園" 出身者のようにギルドでパーティを斡旋してもらって、基本的な探索技術を覚えること。
二つ目は離れた位置にいる対象にも治癒、回復とバフを施せるようになること。
一つ目の方は今この場にアルド校長がいるので都合がいい。アルド校長が口添えをしてくれたなら、ギルド長へも話が通りやすいだろう。アリアの秘密は公然のものになるけれど、冒険者になるなら遅いか早いかだ。
探索技術は多分数ヶ月か遅くても 1 年ほどで身につくと思うけれど、遠隔回復はどうだろう。結構難しいと思う。風魔法を模した魔素制御と違って、回復は物質自体の関与が大きい。それはつまり距離がそのまま成功の障壁になるということ。
アリアが見せた回復、治癒の魔素制御は確かに凄かったけれど、それは本人の年齢を考慮すれば、という前提ありきだ。なんなら私もアリア以上のことができるし、ペイネも治癒方向で訓練すれば遠からずアリアと同じくらいできるようになる。
その場合、遠隔で効果をもたらせないなら実用性は低くなる。なぜなら戦闘の最中に治療を期待できない上に、アリアを守りながら戦わないといけなくなるから。プラスどころかマイナスになりかねない。
「お父さんとお母さんにも、このことは話してね。アルド校長先生もいるし」
そう言ってアルド校長を見ると、やれやれと言いたげな、それでいて上機嫌に了承の返答をもらった。
「うん、わかった!ボウェルさん、ディモンさん、それにフレアさんも、そんなにかからないと思いますから、待っててくださいね」
ペイネもディモンも、それからフレアもアリアの言葉に期待を込めた返事をした。
***
王国から東へと続く街道を行く一団。その筆頭であるヤギ獣人のファーラは大会を振り返る。
(まさかこんなところでかのお方にお会いできるとは。こちらも退屈なだけではありませんね。それにしても今回の大会には、そのことを除いても参加した甲斐があるというものです。何より・・・)
「ゴス。あなたはこの大会をどう振り返りますか?」
「ん?あぁ、俺は初回で負けたからイマイチ・・・」
「あぁ、そうでしたね。決勝に進んだクレア=ソロジーに負けたのでしたね。まぁそれはいいんです。各試合は観ていたでしょう。その感想を聞いているのです」
「思ったほど大したことないなって、そう思ったね」
「それはなぜですか?」
「そりゃあ、俺はともかく、噂になってた再来ですらあんたに負けたじゃないか」
「それだけですか」
「まぁそうだな。そんなもんだ」
(ゴスは戦闘員ですから仕方ないかもしれませんが、もう少し視野を広げて欲しいものです。それに、戦闘員という立場なら尚更、自身の負けを正しく批評してもらいたいところなのですが)
ファーラが望む回答は得られなかったようだが、特にファーラは気にした様子もない。
今回はダブルホーンの中から、幹部級のメンバーはファーラとゴスだけが大会に参加し、他のメンバーにはグロームを任せて来ている。
参謀のグラインあたりが居れば違った答えも聞けたことだろう。
(いずれにしても、今後の方針はもう少し早めても良さそうですね)
ファーラはグロームの発展とその先にある目的を思い、一人静かに笑うのだった。




