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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第三章 ロッキンガム大祭
59/185

053 対戦表

*** ハル ***


 ララの店のあるレイドレを出発して、ダンジョンを素通りするように王国を目指すこと約 3 週間。かなり飛ばし気味だったけれど、ロッキンガム王国には特に問題なく到着した。

 初めて訪れるロッキンガム王国、その首都は連邦の国々に比べて街中が整っていて、道や建築物、区画の作られ方に統一感がある。

 国としての規模がロッキンガム王国くらい大きい神国の首都が継ぎ足しを繰り返したような街だったのに対して、経緯はどうあれ王国の首都は初めから全体を見越して計画的に作られた印象を受ける。


 街のほぼ中央に堀に囲まれた王宮があり、大会の会場はそこから半日ほど歩いた街の外れにあった。街というか都というか、ともかくその端の方だ。

 王宮から会場へと続く道はおそらく普段そんなことはないのだろう盛況具合で、臨時のものらしき露店がたくさん並んでいる。王国の住民だけでなく冒険者風、旅行者風の人々がそこここでたむろしたり、あるいは店先で立ち飲みに興じていたりする。

 それに混じって軍用らしき統一された服を着た人が少なからず見受けられ、おそらくは大会の警備にあたる王国の軍なのだろうと予想された。


「それにしても残念だったね」

「そうね、私は結構興味あったのよ」

 ディモンとペイネが話しているのは戦術大会のことだ。

「戦術大会・・・無名の冒険者が優勝したってことになると、今後引っ張りだこになって大変そうだね」

「噂だと "街付き" のパーティだったみたいだし、尚更よね」

 街付きというのは、ギルドのある国や市町から離れることがほとんどなく、街中の依頼を主にこなしているという意味だ。他にも定置の、とか、ダンジョン外の、とか色々呼び方はある。

「ウェッジさんも、それにエンダのパーティメンバーも出場していたなんて、惜しいことをしたと思うよ」

「えぇ、同意するわ」


 第一回ロッキンガム大祭と名付けられたこの大会の主軸は二つで、事前に案内のあった武術大会と戦術大会だ。

 戦術大会が 1 週間かけて行われ、その決勝戦の 1 週間後から、武術大会をまた 1 週間かけて行うように予定が組まれていた。

 各大会の予選はそれぞれの本戦前 2 ヶ月ほどの期間で設けられているため、会期は大体 3 ヶ月ほどでかなり長い。

 私たちは戦術大会の後の 1 週間、その 4 日目に王国に到着した。


 ロッキンガム王国では戦術大会の予行演習を兼ね、国内に限定して戦術大会が開催され、その優勝者がロッキンガム大祭の本戦に出場したようだ。

 大祭の戦術大会の予選は、王国内で事前に行われた大会の 5 位から 8 位のうちの一人に勝ち、更に 2 位から 4 位のうち一人にも勝つことを、本戦出場の条件として行われた。

 事前の大会の上位 4 人の対局記録は公開されていて、その情報だけでかなりの人数が参加を諦めたと言われている。

 本戦直前で対局に必要な開催者側の人数が確保できない可能性もあったが、おかげでひとまず第一回はうまく参加者が絞られ、そして滞りなく本戦に漕ぎ着けられた・・・とのこと。道端で誰かが話していた。


 本戦の結果をメモした紙をみんなで見返す。


勝ち vs 負け


一回戦

クイナ=ウェッジ vs ナユタ

フェンディ=フレディ vs ダレクス=ゴヤール

ナック=トゥルーマン (シード)

ガグ=マルシ vs キーン=ハイク


二回戦

フェンディ=フレディ vs クイナ=ウェッジ

ナック=トゥルーマン vs ガグ=マルシ


決勝戦

フェンディ=フレディ vs ナック=トゥルーマン


 優勝したフェンディ=フレディというのがさっき話題にしていた街付きパーティの冒険者で、連邦の西方にあるバスタで活動しているんだとか。

 準優勝のトゥルーマンは王国で事前に行われた大会の優勝者で、このため一回戦はシードだった。王国の猛者を倒してきた実力が遺憾なく発揮された形だろう。

 同立 3 位の 2 人は聞き覚えがある。

「ウェッジさん、さすが研究者というところなのかな?」

 ディモンの感想はいつも結構普通で、なんだか親近感が湧く。前世的な意味で。

「そうかもね。クレアと意気投合できるくらいだもの」

 ペイネさん、サラッと聞き逃せない発言を挟むのやめてもらえません?


「ガグ=マルシっていうと、神国で出会った商隊長さんだよね?」

「えぇ。私の魔術大学時代の友人のお父さんよ」

 私が聞くとペイネが答えた。

「へぇ。じゃぁ、その友人も来てるのかな?」

「そうかもね。久しぶりだから、会えるのなら会いたいわ」

 マルシさんは神国の時に感じた印象からすると、多分商売目的にこの大祭には来たのだろう。予想ではあるけれど、"片手間" の戦績でこれかと思うと驚きだ。

 今度会ったらもっと懇意にしてもらおう。彼の拠点がトーキーオであることと、商隊での移動がちょくちょくあることを思うと、難しいかもしれないけど。


 その他の本戦参加者は、ナユタが再来のメンバー、ダレクス=ゴヤールがポーラ大陸の大都市から来た羊系獣人の冒険者、キーン=ハイクも大都市からでハイエルフの冒険者なのだそうだ。

 参加者が 7 人と知って少なすぎると思ったけれど、人の会話を立ち聞きするに予選が厳しすぎたらしい。

 結局、本戦も予定された 1 週間ではなく 4 日で終わったそうだ。


 私は気になったことを聞いてみる。

「ハイエルフってエルフとどう違うんだろ」

「人とデミゴッドみたいな違いなんじゃないかしら?それか、単に異種族の混じりの過多とか」

 デミゴッドというのは物語にたまに出てくる人と神の中間的存在のことで、世界のどこかには存在するらしい。

「僕たちもエルフには馴染みがあるけど、ハイエルフとなると殆ど聞かないよね」

「そうね・・・もしかしたら自称してるだけであんまり違いがないのかも?」

「それ、本人に聞かれたら怒られそうだね」

 すると、普段喋らないフレアが口を挟んだ。

「ハイエルフは、エルフの中でも特に風の精霊に愛された人々を指すようです」

「・・・へぇ?そうなんだ」

 確かにエルフというと風魔法のイメージがある。少なくとも私の中では。


「ところでフレアって、どこからそういう情報を仕入れてるの?」

 ディモンが聞く。それは私も思っていた。

「断片的な知識が私の中に蓄積されているようです」

「うん?僕にはちょっと意味が分からないんだけど」

 私にも分からない。

「私を構成する精霊素が宿す記録の中でも、密度が高いものが記憶となって呼び起こされている・・・そういう感覚でしょうか」

 このグラスに注がれた水はかつて偉人の飲んだワインにも含まれていた、みたいな感じだろうか。違うか。

 もうちょっと詳しく知りたいけれど、本人も曖昧にしか分からないらしいのでまた今度にしよう。



 王国初日、私たちは既に終わっていた戦術大会のことや王国のことをあれこれと話しながら、宿を決め、通り沿いのお祭り気分を楽しんだ。

 そして武術大会本戦の 2 日前にあたる翌日、私たちはその予選会場に向かった。




*** アリア=ソロジー ***


 アルド様とロッキンガム王国に着いて 1 週間。戦術大会が終わってもまだお姉ちゃんの姿は見つけていない。

 王都は、賢者の町でずっと生きてきた私には広すぎて、それから人の多さに目眩がしそうになってくる。


 王国までの道のりはアルド様に守って貰うばかりでなく、日頃の成果を少し試してみた。

 私は町では非戦闘員なので、アルド様にもそのつもりで今後も接して欲しいと前置きした上で、いわゆるバフの魔素操作をアルド様に、自分には身体強化を施して移動した。

 アルド様は "インドールの風" ではもっと質のいいバフを受けていただろうけれど、私の拙い魔法に特に何も言わないでくれた。私としては練習の場を作ってくれたのでとても有り難い。

 途中はぐれの狼系の魔物が群れて襲って来た時、アルド様がいい感じに怪我をしたので私はすかさず回復魔法を施した。怪我は問題なく治ったけれど、アルド様はありがとう、と言っただけで魔法の質については触れなかった。

 もしかして自分で治せるのをわざわざ私が邪魔をしてしまったのかもしれない。そう考え、もっと魔素制御の練習が必要だと思った。


 もう明後日には武術大会の本戦が始まるという日、ようやく私はお姉ちゃんを見つけた。

 お姉ちゃんを、というよりはボウェルさんを見つけて、必然的に一緒にお姉ちゃんが見つかった。

 普通に歩いているだけであの神々しさを出せるボウェルさんを見逃すなんて、特殊な嗜好に蝕まれている人以外には不可能だと思う。


「お姉ちゃん!」

 一緒に行動していたアルド様を離れてお姉ちゃんに駆け寄ってそのまま飛びつくと、お姉ちゃんはしっかり受け止めてくれた。さすが、分かってる。

「アリア?!大きくなったね」

「そうでしょ!もうちょっとで背も抜かせるかも」

「それはまだ早いかなぁ」

 かなり久しぶりだから人違いの可能性が無いとも言えなかったけれど、さすがに間違いじゃなかった。

「ソロジー、妹さん?」

「そうだよ。妹のアリア。アリアにもみんなを紹介するね」


 追いついたアルド様と私に、お姉ちゃんは一人ずつデイブレイクのメンバーを紹介してくれた。

 言わずもがな、絶世の美人、ボウェルさん。

 美男で剣士のディモンさん。

 全身鎧はフレアさん。意外にも女性らしい。

 今はこの 4 人でパーティとして活動しているんだとか。

「・・・ねぇ、フレアさん何か変じゃない?」

 私は小声でお姉ちゃんに聞く。お姉ちゃんも小声で返す。

「あ、分かった?ちゃんと魔素制御の練習してくれてたんだね。エライエライ」

 そう言って頭を撫でてくれる。

「フレアのことは秘密ね」

 秘密らしい。


 それからアルド様を向いて言った。アルド様はいつの間にかさっきまで着けていなかったメガネをかけている。

「アルド様、覚えてらっしゃらないかもしれないですが、賢者の町出身のクレアです。あの、フレアのことは内密にお願いします」

「いやいや、覚えておるよ。相変わらず綺麗な魔力じゃな。フレアさん?のことも黙っておこう」

「ありがとうごさいます」

 やっぱりアルド様も、当然フレアさんの違和感に気付いていたんだ。ちょっと得意げにお姉ちゃんに耳打ちしたのが恥ずかしい。


「ところで、皆は武術大会に出るのかの?」

「えぇ、ディモンとペイネが」

「「え?」」

 ディモンさんとボウェルさんが、私と同時にお姉ちゃんを見て声を上げる。

「え?」

 お姉ちゃんは、なんで?という顔で私を見る。


「ねぇソロジー。いつもは目立たないようにしてるの、わかってるよ。でもそろそろそれも終わり・・・その良いきっかけじゃないか?」

「クレアが出なくて誰が出るっていうのよ。それに優勝賞金もきっちり貰わないと」

 ボウェルさんは結構現金な性格なのかな。

 お姉ちゃんは私に言っていたことを自分でも実践していたらしい。あんまり目立たないように、という言いつけを。


「デイブレイクのリーダーはクレア=ソロジーだと、情報収集に余念のない者なら知っとるよ。まさかお前さん、自分たちは周りから興味を持たれていないとでも思っとったか?」

「いえ、そういうわけでは・・・」

「少なからず図星かの。それか、そういう願望なのか・・・もったいないとワシは思うがの」

「そうだよお姉ちゃん!私がやってることが正しいって、お姉ちゃんが指導者としてお手本をみせてくれないと!」

「あらアリアちゃん、良いこと言うわね。ソロジー、私もお手本を見せて欲しいわ」

「・・・ペイネはいっつも見てるじゃん」


 その後お姉ちゃんはひとしきりゴネていたけれど、結局みんなの後押しもあって参加すると宣言した。言質はきっちり取っておかないと。

 それから、ディモンさんも参加するとのこと。ペイネさんはサポートに回るらしい。

 私は予選と本戦の会場になっている闘技場付近でお姉ちゃんを待ち構えつつぶらぶらしていたので、お姉ちゃんの気が変わらないうちにと、お姉ちゃんたちを連れてそのまま闘技場に入っていった。

 予選のやり方はとても簡単で、闘技場が勝手に闘技場に相応しいかどうか判定してくれるらしい。

 ディモンさんも、それからお姉ちゃんも、無事本戦への参加が許された。


 それから私たちは私が泊まっている宿の近くで夕食を食べた。

 町を出てからこれまでのこと、聞きたいことはたくさんあるけれど、お姉ちゃんと一緒に過ごせていることが嬉しくて、みんなが話すのを聞いているだけで楽しかった。



 本戦前日はデイブレイクが対戦中のサポートの仕方を打ち合わせているのを聞いたり、お姉ちゃんに魔素制御の成果を宿の部屋で見てもらったりして過ごした。

「・・・え、アリアちゃんそれ普通にできるの?」

「ちょっともう一回やって」

「あー、えー、え?うーん・・・」

 私たちのやりとりを見つつ口を挟んでいたディモンさんも、お姉ちゃんの魔素制御講座の弟子らしい。

 さすがに弟子暦が長いおかげか、デイブレイクのメンバーであるディモンさんに魔素制御を褒められてとても嬉しかった。ちょっと自信を持ってもいいかな?



 そして本戦当日。

 闘技場への道は長蛇で、参加者とその関係者として、私たちは予め聞いていたルートから闘技場に入る。

 闘技場の入り口には勝ち抜き方式の対戦表が掲示され、同じ内容のビラが配られている。ビラには本戦出場者 16 名と、選手の簡単な説明が書いてある。対戦は上から名前を書かれた順に隣り合った者同士で行って、それを決勝まで繰り返すらしい。

 私たちも内容を確認する。



ダン=レレイ (ドワーフ系、神国騎士団副長)

ヒジュー=ショーク (人、ロッキンガム探索隊隊長)


シルビウ=レットゥ (龍人、ドラゴンロア)

ギー=グレイモア (エルフ系、再来)


クレア=ソロジー (人、デイブレイク)

ゴス (ヤギ系獣人、ダブルホーン)


エルモア=ググリエル (エルフ、元インドールの風)

リーデンローザ=ディモン (ドワーフ系、デイブレイク)


デンス=トレス (人、大都市出身)

キーン=ハイク (ハイエルフ、久遠の光)


バッデン=オーラン (龍人、海の国出身)

ガーウィン=ハック (ドワーフ系、大地の祈り)


メイガネ=マールン (人、ライナ出身)

ファーラ (ヤギ系獣人、ダブルホーン)


オヴァリ=エンダ (人、再来)

ドラゴニア=グーン (龍人、ドラゴンロア)



 種族は自己申告で、その他にはパーティ名か出身地が書かれている。

 ギルドで受付をしている私は、他の地域のパーティのことを聞く機会が町の中でも一番多いと言える。そんな私から見て、賢者の町にまで伝わっている名前が多いと思う。

 ・・・一覧を見ていて気付いた。ディモンんさんドワーフ系なんだ。

「血がそんなに濃くないからね。見えないでしょ」

 本人に聞いてみるとそう答えを返された。

 正直なところ、ディモンさんがドワーフ系ということよりも、ボウェルさんが混じりっ気ない “人” だということの方が信じられないけれど。



 薄い雲が所々にかかるだけの綺麗な晴れの下、定刻を告げる鐘が響き渡り、ロッキンガム国王の挨拶で武術大会が始まった。

 今日は 2 試合が行われる予定になっている。

 私は一覧を見てから開会が宣言されるまでの間に、一走りして優勝予想のクジと食べ物を買いつけて準備万端だ。

 アルド様は隣で、いつもは掛けないメガネを掛けて寛いでいる。

 大会が始まる前はそこまで興味があるように見えなかったけれど、一覧にググリエル様の名前を見つけてからとても機嫌がいい。きっと仲間の活躍が楽しみなんだと思う。

 今日対戦のないお姉ちゃんたちは、反対隣で全然関係ないことを話している。・・・今はグランドドラゴンとかフレアドラゴンのことは考えなくていいんじゃない?それとも龍人の選手の対策を考えているのかな。


 会場の空気と、それからお姉ちゃんといられることと。

 いろんなことが合わさって、とても気分が高まっている。

 ・・・うん。私、とっても楽しみ!

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