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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第三章 ロッキンガム大祭
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051 第一回ロッキンガム大祭

*** ロッキンガム王国第三皇子 デレス=ロッキンガム ***


 私の兄、第一皇子のデイスが暗殺されてから半年ほどが経過した。

 諸々の調べでガイナ教に連なる女神派という組織が主犯の可能性が高いと、父である国王は結論付けているようだが、その本拠地と思しきライナと王国の地理的関係やガイナ教の存在もあり、打って出る選択肢は感情は別として無理矢理封印されている。

 私たちに対しても、下手に動かないようにと何度か釘を刺された。


 兄の死を悼む日々から、国民や私たち王族も少しずつ日常へと回帰しつつある。

 先日まで赴いていたダンジョン探索では探索隊の士気はいつも以上に高かったと思う。私も含めて。

 父が兄の死をどう考えているかは正直なところ分からない。ただ、最近は悲壮感が減ったように感じられる。

 おそらく父以上に兄の死に心を痛めただろう母が、父を、私たち家族を励まそうと気丈に振る舞ってくれたためだろう。父はそんな母の姿に支えられたのだ。

 普段おっとりしている母の強さを私は初めて知った気がした。



 私とて皇子としての教育を一通り受けているところだが、兄ほど優秀にはなれそうにない。特に治世に関することは、実務経験が無いという以上に、先見性などのある意味で才能の必要な側面があるからだ。

 ロッキンガム王国は王制、貴族制をとっているが、これまでの歴史で王家の本筋以外から王を出したことはない。

 それは歴代の国王が子の教育を重視し、その上で子らに才能が少なからず有ったからだろう。

 今代ではそれが父であり兄デイスだったはずだ。


 貴族たちは基本的に領地経営で忙しく、そして国王の目が厳しいため、不正や過剰な華美に傾倒する者も殆どいない。

 それはこの国の王族が、歴史が成してきた偉業の一つだと私は考えている。

 連邦の国々の中には議員制や貴族制など複数の形態の統治体系がみられるが、特に王を中心とする貴族制を敷く国には、腐敗とそれに伴う民の困窮が生じやすいという。


 もちろん貴族との関わりはあり、兄のデイスとキャスだけでなく私にも、将来の伴侶となる女性を貴族の中から見繕うべく社交の場はそれなりに設けられていた。

 そしてそういった場で貴族たちは王家への、というよりはむしろ国全体への忠誠を示すため、王族との縁談を求める。

 血族が王家に加わることで金銭的にいい思いができるからではない。歴代の王が民を思う統治を体現してきたことは、貴族たちも心底理解しているだろう。・・・王家に連なるとなれば、子の能力の高さ、ひいては自身の能力の高さや教育の成果を評価されることになるからだ。

 少なくともロッキンガム王国においては、ある意味で実力主義がはっきりと根付いていて、その最たるものが王族との縁談なのだ。


 私たちは私たちの縁談にまつわる背景をなぜか教育の一環として学び、そういうものかととりあえず頭の片隅に置いている。

 しかし実際のところ、必ずしも貴族から推挙される相手と婚姻する必要があるわけではない。

 学びの場を街の学校や研究施設に求めた際に、武芸を修めに出た先で、休暇の遠出の道中に、あるいは城内で。そういったところで出会う相手が王家にふさわしいと思えば、それを是とすることもできる。

 むしろ相手を見極めるために必要な視点を王家の歴史や縁談に関わる教育で教えられた様にすら思う。


 ・・・デイス兄にも想う人があったのだろうか。

 兄が選ぶ相手、兄の子。

 父の治世、兄の治世。

 そういうものを私は守っていきたかったのだと、最近つくづく思う。



 とは言え、時の流れを無為にしてばかりではいられない。

 兄で第二皇子のキャス、姉で第一皇女のアフターヌ、そして私デレス。3 人とも兄の死を受けて少しずつだが動き出している。

 キャス兄は父に話をつけ、外務や事務の仕事を各部署に赴く形で学び始めている。

 アフターヌ姉は軍務や貴族たちの領地への視察を予定しているという。

 おそらく二人とも、それぞれの長所を伸ばす形で国政への足掛かりを持とうとしているのだろう。分かるところから手をつけて次第に範囲を広げていくやり方は、私たちの受けた教育的には理に適っている。

 手当たり次第でも良いかもしれないが、それができるのは真に能力のある場合か時間が有り余っている場合だ。


 私は先日のように、まずは自身の武芸を高めようと考えている。ショーク隊長は事情を勘案してだろうか、私に一流のお墨付きをくれたが、ある意味守られる立場で探索していたこれまでの経験ではまだ足りないと思っている。

 守る。打って出る。観察する。休む。

 それぞれの適切なタイミングを自身で割り振れるようになって初めて、私は私を一人前と認めることができるだろう。


 私はデイス兄が継ぐであろう王国を守りたかったのだと、兄が死んだことで気づいた。

 その兄が死んだ。

 どうするべきか、まだ答えは出ない。しかし尊敬する兄を失ったからといって伏せるようでは、兄を尊敬した意味がない。

 兄に憧れるだけだった自分すら認めさせるような、そんな自信を身につけようと思う。

 そのためには、私が国王を継ぐことも視野に入れて研鑽を積まなければならないだろう。



 そんなことを考えつつ過ごしていたある日。

 珍しく父が食事の場で業務のことを話した。業務というか催しの一つについてだった。

「今度、武術大会と戦術大会を開こうと思っている。デイスと協議していたことなのだが、あんまりにも先延ばしにしては機会を逃すかもしれんからな」

 アフターヌ姉が質問する。

「大会ですか?それは何故に」

「言ってみれば単なる祭だが、理由をつけるとすれば我が国の "個の力" を誇示するため、といったところか?」

 父はそう答えた。


 多分、本当に単なる祭なんだろう。

 連邦で急激に力をつけている国は 2 つほどあるが、それがダンジョンのある大陸中央を超えて王国を喫緊に脅かすとは思えないし、そのダンジョンも活性化はひとまず落ち着いている。

 国内の貴族たちへの牽制の意味はあるかもしれないが、わざわざ牽制が必要なほど不穏な動きを、少なくとも自分は把握していない。


「個の力は侮れん。そして、そういった力は意外にも市中に埋もれているものだ」

「軍に組み込む、ということでしょうか」

 キャス兄が問う。

「それも選択肢にはあるが、しかしそれ以上に知見を広めるためというのが本音だ」

「私たちのですか?」

「もちろんお前たちもだが、軍の者にも、国の若い者たちにも武芸の真髄に触れる機会となればと思っている」


 父は説明を続ける。

「王国は今、かなり高度に安定していると言って差し支えないだろう。しかし有事とはいつ生じるか分からんものだ。その "いつか" に対応するには、目的や目標、憧れが緊張感を高めるために必要なのだ」

 ・・・そういうものなのだろうか?私はダンジョン探索をしているから実感しにくいが、もしかしたら軍の力は父の言うような緩みで落ちているのかもしれない。

 たまにショーク隊長が軍を憂う言葉を口にするのも無関係ではないのだろう。

「自らを律するには筋の通った心持ちが必要だ。とはいえ何事も往々にして、義務に始まろうと贖罪や罰に始まろうと、結局時間が経てば同じところに落ち着くものである」

 同じところ。

 それはすなわち惰性であり、惰性を排除するのが憧憬である。父はそう言う。


「デイス兄様の弔いも兼ねているのでしょうか」

 私も問いかける。

「・・・」

 父は数秒ほど黙っていた。

「・・・そうだな。そうかもしれん。お前たちには話していなかったかもしれんが、これはデイスが考え楽しみにしていた催しだ。デイスはあれで、祭や演芸が好きだった」

「そうですか」

 私はデイス兄のそういった姿は知らなかったが、思い返せば祭事ではいつも以上に張り切り、そして身に付けるものや芸術の類への造詣も深かったような気がしないでもない。

 いや、気のせいではないだろう。確かに記憶を辿ってみれば、あれは誰が描いた絵であれを歌うのは誰で・・・と、私がもっと小さい時にはそういうことばかり教えてもらっていた。



 ともかく、こうしてロッキンガム王国主催の武術大会と戦術大会の開催が予定され、このことは主にギルド経由で各地に、また連邦の国々や神国へは使節を送り宣伝された。

 もちろん、私も参加する所存である。




*** オヴァリ=エンダ ***


 王国を後にして神国へ向かっていた僕たちは、再び王国に戻ることになった。

 神国への道すがら立ち寄った小国のギルドで武術大会の話を聞き、それに参加することにしたからだ。

「ナユタさんはどうするんです?」

 大会には僕とグレイモアさんは出るつもりがある。ノトは出ないけれど、パーティの場合は補助魔法を試合開始前に施すことができるらしいので、間接的に参加することになる。

「そうだな、俺は戦術大会とやらに興味がある」

「ナユタさん、アルファスボードを知ってるんですか?」

「いや、さっき初めて知った」

「そうだと思いました」


 アルファスボードはこの戦術大会で用いられることになったボードゲームで、盤上の駒を動かして勝敗を決める遊戯の一種だ。

 ナユタさんが元いた世界に全く同じものがあるとは思い難かったけれど、やっぱり無かったらしい。

「とはいえ俺の世界にも似たものがあった。俺はスキルを人目に晒しすぎるのは好かんが、これならいいだろう」

 そう言って、大会のことを聞いた国でボードを買い、道中の休みごとに僕やグレイモアさんを相手に練習を始めた。

 王国主催となると、アルファスボードが人族共通の遊戯と王国は認識しているんだろう。そのことに僕は驚いたけれど、この簡便さと奥深さがそれだけの魅力を持っているという事実の裏返しなのだと思う。


 試しに僕、ノト、グレイモアさんで対戦してみたところ、グレイモアさんが明らかに強かった。僕もノトも手も足も出ない。

「グレイモア、強すぎない?」

 グレイモアさんが誰かと対戦するたびにノトが言う。僕も同感だ。

「そう?二人に褒められると嬉しいね。俺もこっちで出ようかな?」

 そんなことを言っている。

 ちなみに武術大会には予備審査が、戦術大会には予選があるらしい。

 戦術大会はある意味遊戯なので、戦術大会への参加を目的にわざわざ王国へ赴く人は少ないと考えられているんだろうか?審査でなく予選となると、時間がかかりそうだけど。

 行ってみれば分かるか。


「最近ダンジョンも離れてるし、手応えがなかったからちょうどいいよ」

「す、すみません・・・」

「あぁいや、エンダを責めてるわけじゃない」

 グレイモアさんの言葉につい申し訳ない気持ちになる。この放浪は僕のわがままにみんなが付き合ってくれているものだから。

「ダンジョンを離れると平和なもんだなって、そう思っただけだ」

「そうか?結構手強い相手とも遭遇していると思うが」

 ノトが言うように、ダンジョンなら幻惑の森後半や荒野前半で出てくるくらいの強さの魔物や野生動物と何度か遭遇した。中にはそれらが群れを成して襲ってきたこともあった。

 けれど、そのどれも大して苦戦することなく倒せている。

 それだけ僕らが強くなり、そして連携も上手くなった証拠なんだろうけど、物足りない気持ちも分かる。


「私はいろんな種族も集まるらしいことに惹かれますね」

 大会に対するレイネさんの言葉にナユタさんが頷く。

 それは僕も同じ気持ちだ。

 各国に使者を送る大会となれば、集まる種族も武芸も多岐に渡るだろう。

 馴染みのない巨人や珍しいタイプの獣人、もしかしたらハイエルフや生粋のドワーフもいるかもしれない。

「ともかく楽しみですね」


 僕たちは大会が始まる少し前に王国に着くくらいのペースで、途中の国のギルドで依頼をこなしつつ来た道を戻って行った。




***


 賢者の町のギルドにもロッキンガム王国主催の大会の話が届いた。

 そしてギルドマスターのエンダリテは、その件でとある悩みを抱えることとなった。


「エンダリテさん、私も是非行かせてください」

 そう言うのは受付が板についてきたアリアだ。

「きっとクレアが出場すると思うんです」

 クレアはアリアの姉で、最近一気に知名度が上がったパーティ "デイブレイク" に所属している。


 アリアはギルドに着任して日が浅いとは思えないほどの馴染みっぷりで、彼女が離れると冒険者も仕事も捌くのに倍は時間がかかりそうに思えるほどだった。

 もっとも、それはアリアが居なかった頃に戻るだけなのだが。

「そうしてやりたいのは山々だが、その間の受付やら・・・そもそも旅路は護衛も無しで行くのか?」

「受付は私もまだまだ新米ですから大丈夫だと思います。それにアルド様に話を持っていったら御一緒してくださるそうなんですよ」

 相変わらず手回しにソツがない・・・エンダリテはそう思いつつ、町を代表する強者の一人アルドの名前を出されては仕方がないと、アリアの休暇を許可したのだった。



 今回の大会についてギルドとしては色々と危惧すべき点があるが、大会期間中の各国の治安の悪化、ダンジョンの空洞化がまず懸念された。

 しかし流石にその辺りは王国も対応を考えており、案内には大会を含む一定期間、ギルドにおけるすべての報酬を王国の負担で増額すると付記されている。

 大会は本戦出場者に賞金が出るが、かなり大きい増額となった依頼報酬とどちらをとるかは冒険者によってまちまちだろう。

 簡単に考えるなら上位の者ほど賞金狙いに、下位の者なら依頼報酬に別れそうだが、中堅以上の微妙な立ち位置の者や観戦目的の者、さらにはそもそもギルド運営に携わるため動けない者など、人それぞれに事情がある。実際にどういった人物が大会に参加し、あるいは参加しないかは不透明と言わざるを得ない。


 案内を受け取った多くの者はロッキンガム王国が主宰するこの大会に興味を寄せつつも、しばらくの間は噂話をするだけだった。

 しかし参加の意を表明する二つ名付きのパーティが増えるにつれ、次第に大会へ赴くムードが高まっていった。


 国王をはじめ大会を主宰する側としては観戦や観光を含めたすべての参加者の規模が分かりにくいという問題はあるものの、情報操作の捗り具合を勘案して宿泊地や警備の規模を流動的に増やしていった。

 王国では、最終的に開催規模は神国のガイナ祭と同程度と見積もられ、ガイナ祭ごとに派遣されていた調査隊が運営に加わり細部を決めていったのだった。



「そういえば大会の名前を決めていませんでしたね」

 食事時、第二皇子キャスが父で国王のファラス=ロッキンガムに話しかける。

「おぉ、そうだったな。何か良い案はないか?」

 国王の問いかけに第三皇子デレスがすぐに反応する。

「"第一回ロッキンガム大祭" はどうでしょうか」

 淀みなく答えたことから察するにずっと考えていたものらしいが、特に捻りはない。


 大会を立案した亡きデイスの名が挙がることもなく、追加の案が無いままだったため、国王はそのままデレスの案を採用した。

「今後も予定されるであろうと察せられてよいな。では此度の武術大会、戦術大会の名称は、第一回ロッキンガム大祭としよう」

 食卓につく王家の面々はそれなりに満足そうに頷き合った。

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