049 デモンゴーレム
*** ゼンナ=グッグ ***
ついに暗闇の城まで冒険者たちがやってきた。魔族側と人族側の両方で。
ダンジョンが誕生してからこれまでかなりの時間が経ったから、とっても感慨深い。
ゼンナのゴーレムも随所で活躍してきたけれど、城の中は本領発揮って感じだから冒険者の動向から目が離せない。
ただ、魔族領側の冒険者たちは城の入口でデーモンに遭遇した後、帰還してしまった。
一方で人族領側の冒険者たちはデーモンに躓かず、先へと進んでいる。
「彼らの実力は本物ですよ」
そう教えてくれたのはファイズの一人、フォス。
「フォスっちは会ったことあるんだ?」
「えぇ、霧の里の見回りの際に。ゼンナ様が以前気にされていた、ナイトゴーレムが一体行方不明になった件も彼らが原因です」
それは気付いてる。彼らの中の、大柄でフルアーマーの人物がまさにそのゴーレムだから。
「強引に奪われたのかと思ってたけど・・・案外楽しそうだね」
「そうかも知れませんね」
荒野前半までのゴーレムと違って、ナイトゴーレム以後のゴーレムには精霊を宿している。
そもそも精霊の要素はどこにでもあって、魔素に意図を持たせたり魔素の意図を汲んだりすることができる、そんな存在。
だけど精霊の程度はまちまちで、自我と力次第ではゼンナのように体も持てるし、それほどじゃなくても器があればちょっと喋れたりする。
小さいのは砂粒以下の大きさしかなくて、こういう精霊未満の存在は特に呼称もないけど場合によっては "精霊素" とか呼ばれたりする。
精霊素は大体、強い意志や方向性を持った力に流されやすい。それだけじゃなくて、逆に力を増幅させたりもする。
ゼンナレベルの精霊は世界中探しても中々いないけど、ファイズのように器を与えればかなり高次の働きができる精霊なら、それなりにはいる。
行方不明になっていたナイトゴーレムに宿していたのは、意志はそこそこあって喋りがいまいちな下位精霊だけど、彼らの元で楽しそうにしているようだ。
「ゼンナ様、遠からず、彼らも見えるようになるかもしれませんよ」
「そうねー。フォスっちもそう思う?」
「そんな予感がします。ですから」
「わかってる。そろそろやめとく」
そろそろ・・・彼らを覗き見るのはやめとかないと。そうでないとゼンナのことを気付かれてしまうかもしれない。
精霊は普通の人族には見えない。普通の魔族にも見えないし、動物にも魔物にも見えない。
天使や悪魔だと、魔素を直接見ることのできる人族や魔族くらいの割合か、それより少し多いくらいの割合で精霊が見える。
精霊を見ることができるのは精霊に祝福され、しかもそのきっかけを得た人物だけで、逆に言えばほとんどの場合、精霊を見ることのできる人物は精霊にとって信頼がおける。例外もあるけど。
それにゼンナレベルで顕現してしまえば誰でも見れるけど。
きっかけにも色々あって、彼らの場合は彼らが連れているゴーレムがアプローチしているから、そこからになると思う。
よっぽど気に入ったらしい。
ゼンナは自分の一部を分離してあまり遠くない範囲まで情報を回収させに飛ばしている。それが見つかったり、もし捕まるようなことがあれば、小さいとは言ってもゼンナの分身だから色々とまずい。
城下町の後半からは直接自分で様子を見ていたけれど、それももう終わりということかな?
フォスにも注意されちゃったし。
「魔族領の方は、案外あっさり引いたね」
「むしろここまでが順調すぎたのでしょう。異世界人が引っ張ってきたおかげでしょうか」
「アマヤを思い出すね」
「えぇ。懐かしい限りです」
それにしても、人族領のパーティの強さには目を見張るものがある。
アマヤの考えに近い体系で魔法を操っているのが強さの要因なんだと思うけど、熟練具合がアマヤ以後人族で見た中では群を抜いている。
アマヤが「捉え方と正しい訓練次第」と言っていた、その正解をみている感じかな?
もちろんアマヤは異世界の魔法体系の中を生きていたから、この世界では実際には少し意味合いが違うんだろうけど。
アマヤが気に入っていた、そしてゼンナが初めは恐れていたデーモンたちも、一体一体彼らの手にかかって倒されていく。
デーモンはその巨躯、俊敏性、魔法の多彩さ、知能の高さから、城を守るにふさわしい存在だ。
一度ザ・デスが魔族領側の城にたまたま発生した時も、数体のデーモンによって倒されていた。
そのデーモンが今まさに確実に倒されていく様子は、彼ら側に立てば爽快に思えそうだけど、こちら側からするとヒヤヒヤする。あれが城を突破してくるのか、と。
間にゴーレムとの戦闘を挟みつつ、その歩みは着実に王の間へと伸びている。
トラップなんかの地形的障壁を設けていないから、一定以上の実力があればそれも必然かもしれない。
その一定以上、の要求水準が高いはずなんだけど。
城は外から見える巨大な円錐状の構造がまずあって、実際には地下方向にも逆円錐の形で構築されている。
最上層にいわゆる表ボスが、最下層に裏ボスが構えていて、数日かけて彼らは表ボスの所にたどり着いた。
王の間だ。
王の間の扉が開かれ、玉座に座る表ボス扱いのレイラーンが彼らを迎える。
「・・・よく来た。歓迎しよう」
ぽんぽんと肩を叩かれた。
「ゼンナ様」
「あ、はい。ごめんごめんここまでにするから」
ゼンナがまだ覗き見を続けていることに気付いたファイズの一人、セカンに注意された。
「ゼンナ様を思ってのことですからね?」
「うん、わかってる」
でもここは見とかないと。
レイラーンは城の表層の終わり、王の間を陣取るにふさわしい魔物で、つまりはデモンゴーレムだ。
アマヤはその出来栄えを殊更に気に入っていた。
レイラーンは城のデーモンと一見同じような外観をしているけれど、実際にはゴーレムがデーモンの形をとっていて、つまり精霊を宿している。
その精霊の名前がセイラーンで、闇と光を司っている。
「中々に面白い催しだな」
「エテっちも来たんだ」
「吾輩も観戦させてもらおう」
隣に座った魔王エテはダンジョンの鏡と呼ばれるアイテムを覗いている。
鏡があるならと、ゼンナも分身は回収してそれに映される光景に視点を移した。
*** ハル ***
城の攻略は案外順調だった。
ゴーレムは門のところに飛んできたやつより少し弱いくらいで、見るからにデーモンという感じの魔物も、群れることがないので時間さえかければパターン G で倒せた。
パターン G はディモンが幻影、私がフレアと風操作で盾兼拘束、ペイネが背後から攻撃という、パーティでも特に慣れている陣形だ。
一体一体のデーモンは強い。しかし知能がゴーレムたちに比べれば劣るため、どうしても動きが能力ゴリ押しに感じられる。
そういう意味で、不意打ちを警戒しさえすればきっちり削っていける。
ネフはまだパターンに組み込める段階にないので影に待機させているけれど、デーモンと戦いたそうな様子だった。
城を上層へと登っていく。
さすがに暗闇の城というだけあって、ダンジョンを淡く照らしていた植物や小さい生き物たちは全くいない。
このため一日の時間感覚がよく分からなくなって、とりあえず私たちは腹時計に従って進んだ。
そして体内時計の感覚で 5 日たった頃、明らかに意匠の異なる扉にたどり着いた。
5 日というと城の中を歩き回るには長すぎると思うけれど、ダンジョン一層分と思えば短いのかもしれない。
扉を開き中へ踏み入る。
幻影で身を隠しているけれど、扉を開けば分かるのだからあまり意味は無いのかもしれない。
「よく来た。歓迎しよう」
玉座らしきところに悠然と構えるデーモンがよく響く声で言った。よく響いたのは声ではなく部屋の構造のためかもしれないとも思ったが、それはどうでもいいか。
いきなり仕掛けてくる様子はないので、これまでのデーモンが使った攻撃の最長射程距離外まで近付く。
・・・近付いて分かったことは、魔素の様子を見るにあれはデーモンではない。
ゴーレムがデーモンの形をしているだけだ。
「さて。ここまで来れたことは称賛に値するが、私はそう簡単に倒されるわけにいかん」
彼は座ったまま話す。
ディモンが答える。
「お前がこの城の、ダンジョンの主なのか?」
「フッ。そんなはずはあるまい。私とて相応の力を持つが、ただそれだけのこと」
「それはデーモンとして、ということか」
あ、ディモンは気付いてなかった。
「ディモン、彼、ゴーレムだよ」
「え、そうなの?」
「左様。私はデモンゴーレムのレイラーン。暗闇の城の王である」
そう言うと、レイラーンはゆっくりと立ち上がった。右手には巨大な斧が握られている。
「この城の先があるのか?」
「私を倒せば自ずと分かる。そう云うことになっている」
どうにも説明くさいな・・・私も聞いてみよう。
「このダンジョンは誰が作ったの?何のために?」
「それも、踏破の暁には知れよう」
喋ってくれる気は無いらしい。こんな時ネフの魔法で記憶を覗くことができたら最善なんだけど、ネフの魔法は今のところ人にしか成功していない。
「じゃぁ、遠慮なく倒させてもらおっか」
二人に合図を送り、パターン G から入る。
幻影は掛け直し、私がフレアと共に一気に前に出る。
・・・突如、光魔法をレイラーンが放ち、目が眩んだ。
私が怯んだところへレイラーンが大上段から斧を振りかぶるが、まだ距離があったこともあって、視界の回復が間に合う。
見ればフレアが今まさに袈裟斬りにされようとしていて、加速させこれを避けさせ、私との間にレイラーンを挟む形になる。
しかし光が収まり目が慣れる前にレイラーンは姿を消した。
再び光を失った部屋の中で、闇に溶けたらしい。
実体こそ見えないものの、ここまで来れる冒険者相手に "それ" は悪手なのでは?と思う。
ナイトゴーレム戦はこの布石だったのだろうか?・・・つまり、魔素の動きが追えれば対処できる。
フレアときっちり挟み込む形を保ったまま、距離を詰め風魔法を纏わせた太刀筋をいくつも浴びせる。
私の攻撃で姿を表したレイラーンは、体のあちこちが欠損していた。
闇に紛れた状態だと体の結合性も相応に弱まっているのか、風魔法で掻き消すことができそうだ。
一度攻撃を喰らったから、レイラーンも同じ手は使わないかもしれないけれど。
「さすがだな。ならばこれはどうか」
そう言うと、レイラーンは体を一度崩し、そして再び構築されたのは一回り小さい 2 体のデモンゴーレムだった。
「どういうこと?!」
ペイネが声を上げる。その気持ち、私にも分かる。
・・・ゴーレムにはこれまで、核のあるものとないものが存在した。前者は核を壊せば、後者は形を失わせれば機能を停止していた。
核のある方はともかく、核の無いゴーレムも何かしらの存在あるいは術式が一体一体を制御していたと考えていたのに、それだと 2 体に分離したレイラーンが理屈に合わない。
斧も複製され、2 体のデモンゴーレムがフレアと私に向き合う。これは完全に制御が分割されている・・・そう思える動きだ。私もさすがに、現状ではこのレベルの相手を別視点から 2 体相手取ることはできない。
「パターン B !」
手短に告げ、私はフレアと合流する形になる。パターン B はザ・デスとの戦闘の時のように、私がフレアと、ペイネがディモンと組んで立ち回る。
私側はネフを含めても結局私一人という感が否めなくないけれど、フレアを火器件盾的に扱うことで操作を簡略化でき、連携に思考を割かなくていいというメリットがある。
先ほどよりも速度を増したデモンゴーレムをどう倒すか体で考えつつ、頭の片隅では別の事が気になっている。
このゴーレムに宿る意志はどこに由来していて、レイラーンとはつまり何者なのか?
このことはどうしても今解決しておかないと、重要な何かしらが後回しになる気がした。
「中々どうして、私についてこれるとは」
デモンゴーレムの動きには先ほどまでと大きな変化はない。強いて言えばこっち側のゴーレムは相変わらず余裕な感じで喋っているが、ペイネたちの方のゴーレムは言葉を発していない。
「分裂はあなたの性質なの?」
「そうとも言える。そうでないとも言える」
「あっちは喋ってないみたいだけど」
「私のことがそんなに気になるか」
「そりゃあね」
言葉を交わしつつ、斧を主体とする攻撃を刀で流して応戦する。大体動きの幅も分かったから勝負を決めることはできそうだけれど、引き出せる情報を引き出したい気持ちがある。
剣戟の合間で混ぜられる光魔法での目眩しは厄介だが、やはり先ほど見破った闇魔法は使ってこない。
そう思っていると、ディモンの呻きが聞こえ、同時に私は疑念に答えを見出した。
「うぅぅっ・・・!」
見ればディモンは左の下腿を斧で切断され、おそらくその瞬間をペイネが見逃さなかったのだろう、デモンゴーレムは体の半分をペイネの風魔法を纏った短剣の攻撃により失っていた。
ペイネはすぐさまディモンを連れてデモンゴーレムから距離をとり、治癒を施し始める。
「ごめんね」
私は目の前のゴーレムに一声かけ、フレアで足止めして風魔法で拘束し、そしてフレアの離脱に合わせてネフを解放し火炎を放たせた。
いつか以来の炎熱の檻はデモンゴーレムにも効果を発揮し、檻の中で彼はその形を失っていく。
それを見届けきらないうちに私はディモンのところまで駆け、ペイネの攻撃から回復しつつあるもう一体をネフに任せてペイネの回復をサポートする。
斧の切れ味が良かったせいか、思ったよりも早く足はくっつき、後には顔色を悪くしたディモンが残った。失った血液の量からすればせめて輸液を、と思う場面だけれど、生憎そんなものはない。
足がくっついたことだけで奇跡みたいなもの。魔法様々だ。これまでも他の人で同じような場面は何度か見たことがあったけれど、仲間の危機で改めてそれを実感する。
残りの回復はペイネに任せる。私には確認しないといけないことがある。
ネフが相手をしていた、手負いのゴーレムに声をかける。
「レイラーンは倒した。あなたは誰なの」
じっと動かずこちらを伺っていたデモンゴーレムだったが、暫くの沈黙の後、ポツリと答えた。
「ラダム」
その一言は、私の考えた答えを肯定するものだった。




