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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第三章 ロッキンガム大祭
52/185

046 魔道具開発者

*** ハル ***


 ライナから、あまり道らしくない道を進んでアンナー山を目指した。

 ダンジョンの東にあるアンナー山は大陸南西に連なる山脈の一つ、ガガ峰に次いで高く、ダンジョンから溢れた魔物の行動範囲を区切っている。

 アンナー山の西側中腹にアバレティナンがあり、そこに魔道具開発者クイナ=ウェッジが居る。


 アンナー山は一昔前まではレアメタル鉱山として栄えていたらしく、連邦北東あたりの国々はそういった背景の中で確立してきたようだ。しかし資源が枯渇し、ダンジョンでの採取に取って代わられたため緩やかに衰退しつつあるとのこと。


 ただ当時の名残でかなり大きな坑道が数本走っていて、そのうちの 1 本は山の東から中央付近へ抜けられる。今回は山中を行くのではなく、その坑道を選んだ。

 麓から程近い村では最近ゴブリンが少なからず住みついて近寄れないと聞いたけれど、確かにそこそこ強いゴブリンがいたものの特に進行の妨げにはならなかった。

 ゴブリンの中には一際体の大きなものや魔法を使うものが少なからず混じっていて、しかもアンデッドアーミーのように比較的統率された動きを見せた。もしかしたら倒した中にいわゆるゴブリンキングが居たのかもしれない。

 しかし人目が無いのを良いことにネフを顕現させ暴れさせてみたところ、ゴブリンはドラゴンであるネフの機動力、防御力、攻撃力に手も足も出なかった。


 これまでずっと影に潜らせて、しかも魔素操作だの私との意思疎通の開発だのとやらせてばかりで鬱屈としていたんだろうか?びっくりするほど元気に飛びまわってゴブリンを蹴散らしていた。

 私とペイネ、ディモンは殆ど幻影に紛れて遠目に観戦していただけだ。

 たまにはこういうのも悪くないなぁ、なんて。

 ただ、魔素操作による身体制御も魔法の精度もまだまだ改善の余地ばかりだと伝えるとシュンとしてしまった。せっかく良い気分だったところに水を差して申し訳なく思うけれど、本当のことなので仕方ない。

 付け加えるなら、攻撃が体の大きさに比例して大雑把になるためか、倒したゴブリンの死体が床を広く汚すことになってそれもよろしくないと思った。

 道として使う人がいるなら、その辺も含めて綺麗に整えておかないと逆に虫や別の生き物がたむろしかねない。



 坑道を抜けた先はさすがに山の中腹だけあって気温が低かった。寒いほどではない。


 アバレティナンは坑道から続いていた道を進むと 2 日のところにあった。

 まずは宿を決めギルドに向かうと、丁度一つのパーティがギルドの受付で談笑しているところだった。

 手早く済ませたいのでパーティには悪いが割って入って受付の男性に声をかける。ディモンが。

「すみません、この辺の最近の様子や依頼を聞きたいんですが」

 もちろん事前に掲示板も見たけれど、とりあえず話を聞くのは鉄則だ。

「あぁ、それなら一番大きい仕事があります。でも、彼らが行くので他の方には直接関わりは無いかもしれませんね」

 受付の男性は今まで談笑していた 4 人組を示す。

「そうですか」

「彼ら、"夢幻" なんですよ。ご存知でしょう?」

 なんと。確かに夢幻はアバレティナンが本拠地と聞いていたけれど、そのアバレティナンで遭遇するとは。



「こんにちは、皆さんの噂はかねがね」

「えぇ、こんにちは」

 返事をしたのは背の低い女性だった。顔立ちからしてハーフフットだろうか。

「アバレティナンは初めて?」

「そうです、全員初めてです」

「どこから来たのかしら」

「えーっと、基本的には連邦やダンジョンをうろついてるんですが、今は色々あって神国へ行ってライナに寄った後ですね」

「そうなんだ。今の時期はグレートベアが繁殖期だから、山は大変だったんじゃない?」

「そうなんですか。坑道を抜けたので知りませんでした」


 おそらく聞いている特徴から、彼女がリーダーのカルサノさんだろう。

 カルサノさんはディモンの答えに疑問符を浮かべた。

「えっと、坑道っていうと、アンナー山の東から通じてるやつ?」

「えぇ」

 むむっという表情でカルサノさんがメンバーを振り返る。メンバーもむむっという顔になっている。

「あの、もしかしてゴブリンがたくさんいませんでしたか?」

 受付の男性がおずおずと聞いてきたのでさすがにピンときた。ディモンもペイネも察したようだった。

「もしかして、夢幻の皆さんが行く予定だったのって、そのゴブリンの討伐ですか」

「えぇ、そうなるわね」

「すみません、あらかた片付けて来てしまったようです」

「・・・そうみたいね」



 終わったものは仕方ない。夢幻は暫し相談し、大きな依頼もなくなったのでダンジョンへ向かうことにしたようだった。

「ところであなたたち、名前は?さすがに無名ってことはないでしょう。あ、私はダンダンデリア=ヨークラメ。リーダーがカルサノで、これはダイナダ、こっちはロウ」

 ヨークラメさんに自己紹介される。

「僕はリーデンローザ=ディモンです。この二人はボウェルとソロジー。鎧はロージー」


「・・・え?あの?!」

 奥から受付に出てきた別の男性が驚いて声を上げた。

「じゃぁ皆さんがデイブレイクなんですか?」

「えぇ、そう呼ばれています」


「デイブレイク!ねぇ、それを先に言いなさいよ!」

 カルサノさんが急に嬉しそうに体を前のめりにした。

「お前たち、あのアンデッドの軍勢を攻略したんだろ?どうやったのか教えてくれよ」

 ダイナダと呼ばれた男も会話に加わる。

「えっと、どうと言われても、普通に?」

「「いやいやいや」」

 夢幻が口を揃えてディモンの答えに異を唱える。

「そんな普通があってたまるか。俺様たちが門前払いされたようなもんだったんだ。そんな普通があってたまるか」

 大切なことだったんだろうか。俺様口調のロウさんがわざわざ 2 回言った。


 夢幻の勢いにたじろぎながらアンデッドへの対処を幾つか教えていると、いつの間にか話が逸れて模擬戦をしないかということになった。

 私とペイネは聞いていただけなので、ディモンにお任せしよう。そう思っていると、ロウさんがフレアも指名してきた。

「なぁ、あんたも男なら一戦交えようぜ!こんな機会滅多に無いじゃないか!」

 私は思わずペイネと顔を見合わせる。

 仕方ない、受けることにしよう。むしろ喜んで受けることにしよう。フレアの操作技術がどれだけ高まったか知る絶好の機会だ。

「ロージーは喉の調子が悪くて今しゃべれないんです」

 そう言って誤魔化しつつ町の広場に後で集まることを約束した。


 アバレティナンは国というより小さい町の規模だが、拠点にする冒険者は少なくない。それは山特有の生き物やダンジョンからの近さのためだ。

 夢幻は流石に本拠地だけあってアバレティナンでは人気のようで、滞在時には冒険者がたまに模擬戦を挑むらしい。良い見世物だと、ギャラリーもまぁまぁ付くのだとか。

 私たちが荷ほどきや食事を済ませて広場に行くと、冒険者や住民がそれなりに集まっていた。

 もしかしたら私たちの名前売れてきた影響もあるかもしれない。


「じゃあ、よろしく頼む。ルールはなんでもありの寸止めってことでいいか?大雑把だが」

 ダイナダさんが前に出て説明する。

「えぇ、いいですよ。僕と、それからロージーが順番ってことでいいでしょうか」

「あぁ。なんならお嬢さん方もやってくか?」

「ディモン次第ですね」

 ペイネはにっこりと微笑んで答えた。ギャラリーからため息が漏れるのが聞こえる。多分何人かは模擬戦そっちのけでペイネばかり見ることになるんじゃないかな。



 ・・・ダイナダさんとディモンの勝負は何と表現したらいいのか、多分ギャラリーには見難かったと思う。

 なぜなら二人とも幻影魔法を駆使して戦う魔法剣士で、その上動きが洗練されているせいで一つ一つの動作が流れるように速かったから。

 結局はディモンが幻影の掛け合いで上回った形で背後を取り決着したけれど、ダイナダさんの光魔法は汎用性が高そうで、良いモノを見たと思った。


 次のロウさんとフレアの戦いは割と一方的だった。

 これはある意味仕方ないことだけれど、霧の幻影魔法使いロウさんがフレアの正体に気付けない限り勝ち目はない。なぜならフレアは幻影に惑うことなんてないし、私は私で幻影の類には魔素制御で鍛えたこの目のおかげでかなり強い。それに私は盤面を俯瞰して戦っているわけだから、フェイントも見破りやすい。

 そして嬉しいことに、私のフレアの操作技術は高いレベルで洗練されていたことが証明された。関節等の動きを比較的度外視して動かしているため正直おかしい挙動もあるけれど、そういう体質の人だと思えなくもない。

 ともかくフレアに対して空想上の理想的な動きを魔素で再現すると、ロウさんの動きを制することができた。


「さすがに強すぎでしょ」

 カルサノさんが感想を漏らす。

「想像以上ね」

 ヨークラメさんが答える。

 いやぁ、それほどでも。

「噂には聞いていたが・・・パーティを 3 人で始めてここまでが早すぎると思ったが、今の実力を知ってしまったら肯く他ねぇな」

「俺様たちもまだまだってことか」

 ダイナダさん、ロウさんの言葉には実感が滲むようだ。


「ありがとうございました。いい機会に恵まれました」

 ディモンが代表して答える。

「さすがリーダーってわけね。またどこかで会ったらよろしくね」

 カルサノさんが握手を求めて手を伸ばす。

「あ、いえ」

「何?」

「うちのリーダーは僕じゃなくてソロジーです」

「え?違うの?」

 さすがに私も答える。今日はディモンに任せすぎた。

「えぇ、一応そう云うことになってます」

「ソロジーもペイネも、僕より強いですからね・・・」

 あ、珍しく余計な事を。ロウさんとダイナダさんの目の色が変わるじゃないか・・・。


 模擬戦を今度は私に申し込まれたけれど、それは断って本来の目的の話をする。

「ウェッジという魔道具開発者を訪れたいんだけれど、場所を教えてもらっても?それと、伺って邪険にされませんかね」

「あぁ、それなら私が案内するわ。何しろ私の親だからね」

 カルサノさんの答えに私は思わずペイネとボウェルを振り返る。

 なんと、カルサノさんの親だったとは。苗字が違うけれど育ての親だったりするんだろうか。



 私たちはそのままカルサノさんに連れられて一軒の家を訪ねた。

「いらっしゃい。」

 ウェッジさんはハーフフットの女性で、カルサノさんの親というには若い気がした。

「何か魔道具をお探し?」

「いえ、単に魔道具とか、アイテムとか・・・そういう機構に興味があって」

「あらー、珍しいわね。最近は減ってたんだけど、この間のグレイモア君以来かな?」

 グレイモア・・・どこかで聞いたことがあるような無いような。

「再来の?」

「今はそうみたいね」

 すかさずペイネが答え、ウェッジさんが正解と告げる。


 ペイネとディモンはあまり興味がないらしく、小一時間私はウェッジさんと魔道具、アイテム、魔素、セーン文字などのことを話した。

 いや、小一時間というのは体感で、実際には数時間話していた。いつの間にか夜もふけたなと思ったけれど、そう言えば途中でカルサノさんが夕食を振る舞ってくれたんだった。

 正直ウェッジさんの意見が面白くて蔑ろにしてしまった。申し訳ない。


 ウェッジさんの話で一番興味深かったのは、アイテム製作は相応の魔法が身に宿っていないとできない、という説だった。

 詳しくは教えてもらえなかったけれど大雑把に理解したところによると、ウェッジさんは既存のマジックアイテムの魔素の流れを別の物で再現して、その組み合わせで新しいアイテムを作っているらしい。

 必然的にウェッジさんは、アイテム蒐集家ということにもなる。なんでもカルサノさんはウェッジさんの影響を多分に受けた上で冒険者になったのだとか。


「じゃ、もしかして、ウェッジさんは魔素の流れがかなりはっきり見えるんじゃないですか?」

「お、鋭いね。まぁそうなんだよねー」

 試しに私は今ディモンができる限界くらいの細かさで魔素を操作してみる。

「へぇ、噂になるだけあるね。こんなに細かく魔素が動くトコはなかなか見ないよ」

 更にペイネレベル。

「ん?もしかしてそれも操作?正直もうほとんど、なんとなく、レベルだね」

 私の限界レベル・・・これは流石に見破られなかった。


「組み合わせってことは法則があるんですか?」

「どうなんだろ。私なりに色々試行錯誤してきたけど、出来上がったものは大体偶然に、なんだよ」

 偶然の産物に役割を見出せるタイプの才能も持ち合わせているらしい。

「なら、セーン文字の役割も・・・」

「そうだね。そう考えるとトーキーオの連中は凄いよ。少ないながらも着実に成果を出してるんだから」


 逆に、私の話題でウェッジさんが特に興味を持ったらしかったのはゴーストの下半身だった。

「え、これほんとに魔物?なんで固定されてるの?腐らないのはゴーストだとしても魂の存在が立証されかねないんじゃ・・・いやそれは飛躍か・・・」

 実物を見せると数分ぶつぶつ呟いて、それからふと我に返った。

「あぁすまない。自分では冒険なんてしないもんだから、どうにも気分が高まって」

 分かる気がする。


「ところでこれは精霊が関与しているのか?」

「え?」

 意外なところで精霊の話題が出た。魔法と何か関係あるんだろうか?

 ウェッジさんはここまでの会話でかなり気を良くしてくれたみたいで、話を更に続けてくれる。

「一昔前たまたま精霊の存在を確認できるアイテムが出来たんだ。確か、"異界を覗く" とかいうアイテムを扱っていた時だったと思う」

 異界を覗く?何それ私も欲しい。

「その時に一回使ったキリで壊れたアイテムで、精霊らしき存在を捉えたと思ったんだ」

「それで、その精霊は?」

「アイテムの魔法を固定したところや、魔素に動きがあるところに集まってた。数分だけの体験だったけど、今でも忘れられないね。ちなみに元になった “異界を覗く” それ自体は、魔素が流れるだけで機能してなかった」


 つまり・・・どういうことだ?

 魔素の流れを汲んで実際に魔法を起こしているのは精霊だと、そういうことか?

 情報が少ないためどうにも判断しかねるけれど、これは今後精霊との接触を試みる上で重要な要素に思える。

「君はかなり素質があるね。どう?私と魔道具開発に勤しむってのは」

「お母さん・・・ソロジーさんはデイブレイクのリーダーなのよ?それは無理よ」

 ウェッジさんに魔道具開発へのお誘いを受けたけれど、カルサノさんが言うように、冒険者稼業をやめる気はない。とても魅力的な提案なのは否定しないけど。


 その後私たちは宿に戻り、主に私がウェッジさんとの交流で得た情報を披露した。

 二人は興味があるんだか無いんだか、ともかく嬉しそうな顔で私の話を聞いてくれた。

 翌日は少しだけウェッジさんの店に寄って幾つかの商品を購入し、そしてダンジョンへと向かうことになった。目的はカルサノさんの仲介もあってあっさり達成できたので、長居する用は無かったから。


 目指すは久しぶりのダンジョン。

 今度は城下町の次へ進もう。

 いろんな種族が出てくると絵面的に楽しいですよね。

 まぁ絵は無いんですが。

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