045 混成パーティ
魔王は 1 から 12 の数字を名前に持ち、それぞれの数字には象徴たる意味(と追従する隠れた意味)が付随しています。
1: 破壊(衝動)
2: 創造(忍耐)
3: 調和(抑制)
4: 混沌(自由)
5: 愛(束縛)
6: 憎悪(自立)
7: 光(盲目)
8: 闇(闇)
9: 知識(飢餓)
10: 無欲(傲慢)
11: 終焉(再生)
12: 再生(終焉)
*** リーデンローザ=ディモン ***
治療院でボウェルが助けたダライアさんからの情報を元に、僕たちは翌日改めて遺跡に向かった。
ダライアさんからの、と言っても、直接本人から聞いた訳ではなくてソロジーが盗み見た情報だ。
僕はまさにその瞬間は見ていないけれど、ボウェルから聞いたところによると、ネフが陰から前足の一部を出して闇魔法を使ったらしい。
いつの間にそんなことができるようになっていたんだろうと思ったけれど、そもそもソロジーは僕らに見せていないだけで、僕らが知っている以上にできることがある気がする。
ともかく僕らはもう一度遺跡を訪れた。
遺跡の一部にさらに奥へと繋がる隠し扉があって、その先にダンジョンの亜種のような空間が広がっているのだとか。
ソロジーによると、というかネフによるとそこでダライアさんはヤギ頭の人物と遭遇し、パーティを失いつつもヤギ頭を倒してなんとか帰還したようだ。
ヤギ頭と云うと神話に出てくる悪魔を思い出す。確か地位の低い悪魔か、あるいは悪魔の眷属的な立場だった気がする。
「使い魔のように描かれていることが多かったかしら?」
ボウェルが教えてくれた。
「つまり、その上の存在がいるってことだよね」
・・・なんでそんなに嬉しそうなんだろう。ボウェルも、それからソロジーも。
隠し扉への道筋はソロジーがあっさり発見した。
「夜にこの遺跡のこと思い出してたんだけど、物の配置的に視覚のトリックみたいな構造がありそうだと思って」
とかなんとか。ともかく、ソロジーに付いて遺跡をうろうろすること小一時間でその扉の前に着いたのだった。
「・・・ねぇ、流石に早すぎない?」
扉には病み上がりのダライアさんがいた。休んでいてくださいよ、と言いたくなる。
「あら、昨日の」
ソロジーはダライアさんとは別方向を向いてそんなことを言う。するとその方向から、スルッと女性が現れた。
「聞いていた通りね」
「でしょ。正直レベルが違うと、昨日悟ったわ」
ダライアさんが話している女性は、ともすれば不意に姿を見失ってしまいそうな気配の薄さだった。多分幻影魔法を使っているんだろう。僕の場合霧が前提になるから、何となく負けた気分になる。
「扉を超えるの?」
「そのつもりだけど、あなた次第かな」
「と言うと?」
珍しくソロジーが前に立って受け答えする。
「町と国と・・・ともかく周りの人たちが安全でいられると明言できるなら、行かない」
ソロジーは簡潔に伝えた。
状況が切迫しているならダライアさんたちを無視して扉を越えるし、ダライアさんが現状の安全を保証するなら、僕たちを敵に回す覚悟込みで "その脅威" を監視してね、ということだ。
ダライアさんと女性は何やらヒソヒソと話していたけれど、それを遮ってソロジーは告げた。
「今日は帰ろうか。明後日また朝に来よう」
彼女たちにはっきり聞こえるように言うと、僕たちを促してパーティは扉を後にした。
宿に戻るとボウェルがまず口を開いた。
「ねぇディモン、あの幻影の人には気付けた?」
「いや。なんなら、姿を見せてからもすぐ見失いそうだった。自信を無くすよ」
「じゃあ、あの扉のことは?」
「うん?扉がどうかした?」
ボウェルはたまに見せる教師のような顔になる。
「あの扉も幻影で隠されてたの。それを、多分クレアが視認できる範囲で解除したから見えてたのよ」
「え?そうなの?」
全然分からなかった。普通に見えていたから。
「構造的な盲点だけじゃ、ふと抜けてくる人もいるだろうからね。それと魔法の二つで、隠蔽の重ね掛けってことなんじゃない?」
事もなげにソロジーが教えてくれる。そうなのかなぁ。
「ところで、なんで明後日なの?」
宿の一階の食事処で料理を待ちながら僕は尋ねる。
「一日あれば伝令の時間込みで話はまとまるでしょ。まとまらないならそれはそれで、女神派とかいう組織がまとまってないってことだから、むしろ気にせず進めるかな、と」
「じゃあ、明日はその準備ってことか」
「いや、明日はあんまり動かないでおこう。ばらけている時に暗殺だとか、実力行使に出られて動けなくなっても困るし」
ボウェルが露骨に嫌そうな顔をする。
「そういう危険性があると予想してたのなら、予め断っておいてよね」
「ごめん、タイミングを優先してつい先走った。気をつけます」
「でも、それはさすがに無いんじゃないかな。自分たちのことを棚に上げるようだけど、実力者がそれなりにでもいるなら、今回のダライアさんの件も身内で解決できたんじゃない?」
「確かにディモンの言う通りかもね。まぁ可能性の話だから」
この頃思うのは、パーティに一番必要なのは優秀な回復役だということ。
回復にバフを兼ねていれば尚良し、更に複数ともなれば、素晴らしい。
どこへどんな依頼を受けに行くとしても、結局一番に考えるべきは自分たちの安全確保であり、そしてその上で依頼を受けるかどうか、受けた依頼を完遂するかどうかが検討される。
防御や回復の備えが多いほどより危険な道も選択肢に加えることができるし、旅程が長くなることの許容にも繋がる。
怪我をするごとにわざわざ最寄りの町へ戻るのはどう考えても手間だ。
逆に言えば規模の大きい組織、あるいは実力のあるパーティほどバフや回復を重視していると思う。多分。
迷宮のことはまだ何も知らないけれど、ダンジョンに似たものなら女神派がこの点を軽んじているとは考えにくい。
となると、女神派には僕たちが知る上位パーティ以上の人材が集まっているわけではないのだと思う。
翻って、僕たちのパーティは自画自賛になるが本当に恵まれている。何しろボウェルもソロジーも回復とバフ両方に長けている上、メインの役割は別にある。
いや、恵まれているのは僕か。
正直に言って僕は足手纏いにならないようにと、日々彼女たちに対してどこか緊張している節があると実感する瞬間がたまにある。
アンデッドとの経験を経てボウェルは他者に干渉する系統の魔法のコツを掴んだようだし、ソロジーは・・・よく分からないけど何やら色々やっている。
今後もいつの間にか謎技術を習得して事もなげに披露するんだろう。
翌日、特に襲撃はなく、そしてさらに翌日の朝、ダライアさんは予想に反して「今は大丈夫」と門の前で答えた。
口約束とはいえこちらから喧嘩を売るつもりはないし、事前の約束通りに彼女の言葉を素直に受け取って、僕らはその足でライナの町を発った。
*** ドッド=12=ガルネリア ***
探索隊からの報告ではカンナバーラ殿が召喚した異世界人キャスカの動向は断片的にしか分からないが、どうやら軍には直接組み込まれず動いているらしい。
しかし断片的な情報とはいえ、彼女の活躍には目覚ましいものがある。
何しろアンデッドたちの頭を討ち取ったというのだ。
アンデッド侵攻問題の解決のため軍を編成したわけだが、この情報が確からしいことの裏付けが取れたことで軍も不要となった。
キャスカは彼女のために編成された小隊での行動に慣れるまで、ダンジョン表層で活動しているところをちらほら見かけられていた。
闘技場の一件で知っていたことではあるが、草原のボス級魔物であるレッドサーペントやスリーピングシープは苦にならず、幻惑の森のホワイトタイガーすら単騎で圧倒する実力を見せたらしい。
驚くべきは技の多彩さで、火や水魔法の他に闇魔法に分類されそうな詳細不明の魔法を使うだけでなく、人族の英雄が好んだ雷魔法も得意だと聞く。魔法だけでなく、闘技場で見せた身体能力の高さもある。
装備した剣の扱いこそ未熟らしいが、話を聞くにいざ敵に回った場合、リフェン領では俺と配下数人しか個人では太刀打ちできなさそうである。
アンデッド問題が解決された少し後、カンナバーラ殿から経緯等情報共有の場を設けたいとの申し出があった。
願ってもないことだが、正直そこは秘匿してもいいんじゃないかと、一国の主として大丈夫なのかと思わないでもない。カンナバーラ殿は少し変わっているところもあるし、基本的な国に対する考え方が違うのだろうが。
指定されたのはダンジョンの入口付近で、俺たちは先日ゴッデス闘技場へ向かったパーティで赴いた。
先に着いていたカンナバーラ殿は機嫌の良さそうな表情で俺たちを迎えた。
「お久しぶりです、カンナバーラ殿」
「えぇ。早速ですが、今回の件はキャスカたちの小隊に話してもらう、と云うことでよろしいですか?」
「お願いします」
答えると、小隊から二本角の生えた男が前に出た。
「隊長のラーデンです。以後お見知り置きを」
おそらく種族は鬼なのだろう。ラーデンが続ける。
「今回のアンデッドの件ですが、結論から申し上げると "ザ・デス" が生まれていたようです。我々の隊はそのザ・デスの討伐に至った次第です」
「詳しく聞いても?」
「えぇ。徒党を組んでいたアンデッドたちは荒野の石壁を超えた先、城下町のような層を拠点にしていて、その一画にザ・デスの城がありました。城と言ってもダンジョン外で言うところの物見櫓の規模を、少し大きくした程度のものです」
さらに話が続いたが、基本的にはどういった種類のアンデッドがどういう組み合わせでいたとか、町の構造がどうだとかの内容が多かった。
肝心のザ・デスについては、魔物の中での関係性やその魔物を倒したことでアンデッドアーミーの統率が失われたため、そうだろうと推測しているに過ぎないとのこと。
「しかし、アンデッドを束ねる者それ即ちザ・デスに他なりません。実際部下らしきアンデッドが彼をザ・デスと呼んでいましたし」
「アンデッドが人語を介したのか」
「えぇ。ドラゴンにも意思疎通可能な個体がいると伝え聞きますし、人型なら尚更と思った次第です。もちろん初めは驚きましたけれど、10 体ほどは言葉を発していましたね」
さらっと聞き流していい内容なのか?確かに俺も昔、老いたドラゴンと話したことがあるが、それ以来魔物と意思疎通など図れた試しがない。
カンナバーラ殿はあらかじめ聞いていたからだろうが、この点について特に言及しない。
話が途切れたところで聞きたいことが幾つかある。
「小隊でとのことだが、実際には膨大な数のアンデッドと対峙しただろう。アンデッドだけでなく元々ダンジョンにいる魔物や、それこそ石壁前のゴーレムも攻略が必要なはずだ。それを一小隊で成したと?」
ふとカンナバーラ殿の表情が険しくなった気がした。気のせいか?
「あ、いや、国防にも関係するだろう。深くは詮索しないが・・・」
「そうですね。むしろ道中は、元々ダンジョンにいる魔物との戦闘の方が気を遣いました。大型の魔物相手となると必然的に戦闘の余波に気付かれてアンデッドが際限なく集まる可能性がありますから。・・・実際、3 度そういうことがありましたし」
「しかしそれでも対処できたのだな。さすがカンナバーラ殿の部隊と言うべきか。それともキャスカ殿の力だろうか?」
そこで初めてキャスカが反応した。
「私はまぁ、それなりかな。気をつけるべきこととか旅のやり方はからっきしだし」
「いやいや、そんなことを言われると私たちの立場がないですよ。キャスカさんは本当に優れた戦士です。カンナバーラ様が召喚術を研究された成果と思うと、このタイミングも相まって感慨深いものです」
ラーデンも召喚術の研究に携わったのだろうか、それらしいことを言う。
一方で召喚されたキャスカはなんとも言い難い表情になっているが、別に否定的な心持ちでいる訳でもないようだ。彼女が召喚される前の世界でどんな人生を歩んでいたのか、気になるところである。
「アンデッドに由来する此度の危機は去ったということだが、今後キャスカ殿はどうされるのだ?」
俺の問いにカンナバーラ殿が答える。
「今はまだ元の世界への転移陣は研究の段階です。それも込みで、好きにして良いと伝えています」
「・・・せっかくだしダンジョンを攻略したいと思ってるけど、パーティ次第かな」
そう言ってキャスカが小隊のメンバーを見回し、カンナバーラ殿が更に答える。
「確かに目下の目的は果たされたわけですから、この小隊やガルネリア殿のところの軍も一応用済みと言えるかもしれませんねぇ」
「カンナバーラ様が許可されれば、私はキャスカに同行したい所存です」
ラーデンがカンナバーラ殿に伝える。
「うーむ」
「パーティの最低限の人数でいいんだけど」
キャスカが後押しする。
「俺の方でも人を出しましょうか?キャスカ殿は異世界の民。こちらの世界が協力してことに当たってもおかしくはないでしょう」
カンナバーラ殿をラーデンがチラッと見て、カンナバーラ殿が頷く。
「いいでしょう。そろそろ本気でダンジョンの下層を見ないと、とも思っていましたから。では人員についてはラーデンとガルネリア殿に任せます。ラーデン、こちらからはお前とライノットでどうだ?」
「異論ありません」
その後こちらからも二人派遣し、キャスカのパーティは新たに 5 人でダンジョン攻略に挑むこととなった。
一応派遣した二人には今後ダンジョン以外に行くことがあれば好きにしていいと伝え、キャスカ専属としたが、それを含めて人選したので本人たちもこの冒険に乗り気のようだった。
俺としてはキャスカがリフェン領の敵勢力になりさえしなければいいか、という程度の保険の要素が大きい。
ともかく、こうして異世界人を中心としたパーティが新たに結成された。
お読み頂きありがとうございます。
やっぱりトレンド的にざまぁ成分がないとダメなんでしょうか。
正直、ざまぁされる側の人たちって理解不能なくらい頭が足りてない前提でないと話が成り立たないことがほとんどなのはわかるのですが、足りな過ぎて読んでてつらい(ざまぁの前段階の嫌味パートに主人公側が晒されていることではなく、ざまぁされる側の人たちが考えの足りない様をひたすら晒し続けている状態をみることに、大人が誰かに怒られている様子を傍で見ている時のような気恥ずかしさ、むず痒さ、無性な苛立ちを感じる)ことが多いです。皆さんはそういう感覚はないのでしょうか。
まぁ、言うだけならなんとでも言えますし、私がその辺をうまく解消した上で書けるのかと言われたら技術不足ですと素直に言わざるを得ないのですが・・・。はい。




